歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第131歩目 はじめての告白!女神ニケ④


前回までのあらすじ

one for one!all for one!
アテナはアテナの為に!みんなはアテナの為に!

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□□□□ ~初デートへの不安~ □□□□

お邪魔虫達を無事駆除した俺は、ニケさんと念願の初デートを迎えることができた。

デートみたいなことは既に何回かしているが、本物のデートとなると訳が違う。
実は今、バクバクッと心臓が張り裂けそうなぐらいに緊張しまくっている。

(だ、大丈夫だろうか?俺はニケさんをきっちりとエスコートできるのだろうか?)

ラズリさんとの特訓の賜物なのか、年齢=彼女なしの童貞であるこの俺をしても、ニケさんから好意を持たれていることはなんとなくわかる。
なにもしていないのに、何故好意を持たれているのかは不明だが.....。

でも、だからこそ!だからこそ!!
このチャンスを絶対にものにしたいっ!

その想いが、その願いが、俺をますます緊張させる。
前日の夜、必死に考え抜いたデートプランを一瞬にして忘れさせるほどに.....。

(だ、大丈夫だろうか?俺はニケさんをきっちりとエスコートできるのだろうか?)

そのことで頭がいっぱいになっていたら、

「歩様?」
「ひゃい!?」

突然話し掛けられたことで、声が裏返ってしまった。
情けないし、恥ずかしい。

そして、同時にわかってしまったことがある。
好きな人を前にすると自然と混乱してしまうものなのだと.....。

(ラズリさんも俺とデート(仮)をした時は、こういう気分だったのかもしれない。
 それでも俺にそう感じさせなかったのは、度胸が据わっているのか、はたまた勇気を振り絞っていたのか.....。
 もしかしたら、ラズリさんはこれを見越してデート(仮)を.....?ありがとう、ラズリさん)

そう思うと、自然と肩の力が抜けていき少しずつ落ち着くことができた。
ラズリさんの優しさに、なんとなく心も温まる。.....恐らくラズリさんは、己の欲望に素直に従っただけだろうが。

とにもかくにも、ラズリさんとのデート(仮)は無駄ではなかったようだ。

さて、俺は少しずつ落ち着くことができたのだが、それでも余裕はなかったみたいで、ニケさんが非常に嫌そうな顔をしていることに、この時の俺は全く気付くことができなかった。
そして、こうした俺の配慮不足が、後にあんな大事件を引き起こすことになろうとは誰が予想できただろうか.....。

「.....歩様?」
「は、はい」
「「私だけ」を見て頂けませんか?」
「.....?も、もちろんです」

ニケさんの表情が暗い.....?

どうしてかわからないが、考えてみれば、ニケさんとのデートに集中できていなかった。
デートなのに、ずっと無言のまま歩いているだけでは面白くもないだろう。.....会話、会話!

「そ、その、初めてのデートなのですいません。緊張しちゃって.....」
「いえ、わかっておりますのでお気になさらず」
「そ、そうですか?」
「ええ」

どういうことだろう?

よくわからないが、とりあえずニケさんとのデートに集中しようと思う。
そして、落ち着きを取り戻したおかげであることに気付くことができた。

「歩くの早いですか?」
「いえ?そんなことはございませんが?」

ニケさんはそう言うが、気持ちに余裕がなかったせいか幾分早足になっていたようだ。
気を遣わせる訳にもいかないので、ニケさんに気付かれないようにソッと歩調を緩める。

その後はとりとめもない会話をしつつ、王都をぶらぶらと散策する。
デートにふさわしい会話ではないと思うのだが、どんな会話にもにっこりと微笑むニケさんの優しさにだいぶ救われた。

そう救われているのだが、

「ん~.....」
「どうされました?」
「い、いえ.....」

やはりおかしい。
先程から何度も感じている違和感。

それは.....。

ニケさんの歩調にたびたび合わせているにも関わらず、会話をするには何度も振り向かなければならないといけないことだ。

意識しているのか、はたまた無意識なのか.....。

端的に言うと、いくら歩調を合わせても、なぜかニケさんは俺の数歩後ろを歩こうとしている節がある。
そんなに俺の隣を歩くのは嫌なのだろうか。ちょっとショック。

ただ、ニケさんの様子から嫌悪感は全く見られない。
いや、むしろ自惚れなのかもしれないが、幸せそうにも見える。

では、なぜ?

どうにも気になって仕方がないので、勇気を振り絞って聞いてみる。

「あ、あの.....」
「はい、なんでしょう?」
「えっと.....。なんで俺の後ろを歩こうとするんですか?別に隣でもいいのですが.....」

その言葉を聞いたニケさんはとても驚いた顔をしている。
そして、ニケさんから返ってきた言葉は予想だにしないものだった。

「.....え?これが人間の作法ではないのですか?」
「さ、さほう!?」
「え、ええ.....。雑誌にそう書いてあったものですから」
「雑誌!?ニケさんもそういうものを読むんですか!?」

色々と驚かされた。

まず作法というものがよくわからない。なんの作法だと言うのだろうか。
そもそも、女神であるニケさんが俗物である人の雑誌を読むという事実にも驚愕を禁じ得ない。

「私も色々と初めてのことが多いものですから.....。
 ですから、歩様にご迷惑をかけないようにと日々勉強しております」
「なるほど。それが雑誌というわけですね」

一理ある.....のかな?

女神である以上、人との付き合い方を知らない可能性は大いにある。
それを知る為に、人が発刊している雑誌を参考にするという選択肢は理に叶っていると思う。

とは言え、できるお姉さんな雰囲気を持つニケさんのことだから、そういう類いのものも知り尽くしているのではないか、とどこか淡い期待を抱いていたのも事実だ。
仮にそうだったとしたら、俺が無理してデートをエスコートする必要もなくなるのだから.....。


(や、やっぱり俺がエスコートしないといけないんだよな.....。初めてだけど大丈夫かな?)


□□□□ ~気になる評価~ □□□□

ともあれ、現状のニケさんの行動は雑誌に記載されている作法からくるものらしい。
問題は、その『作法』がどういうものなのか、だ。

俺としては、ニケさんが嫌ではないのなら隣を歩いてほしいし、そもそも後ろに居られては話しづらい。

「雑誌には何と書かれていたんですか?」
「『女は男より三歩下がって歩くべし』ですね」
「はぁ.....?それに何の意味があるんですか?」
「なんでも、三歩くらい後ろからついていくほうが、端から見て男が立派に見えるそうです。
 それが結果として夫婦として得であり、女としての生活の知恵ということになるらしいです」

.....夫婦?

なにやら穏やかならぬ言葉が出てきたが、意外としっかりとした理由で驚いた。
要約すると、『男を立てる』ためにそうするらしい。

(つまり、ニケさんは俺を立てている?.....う、う~ん)

ニケさんのその気持ちは嬉しいのだが、周りの目が非常に気になる。

果たして周りはそういう目で見るだろうか。
俺が女性のことを気に掛けない自分勝手な男として見られないだろうか。

ただでさえ『竜殺し』だの、『土下座』などとあだ名されている俺だ。
これ以上、変なあだ名はご勘弁願いたい。

少し周りの反応を見てみる。

「おうっ!竜殺し様。この間はありがとなっ!またよろしく頼むよ。
 それにしても、今日連れているのはいつもと違う女なんだな?結局、どの女が本命なんだ?」

声を掛けてきたのは、気さくな感じのドワーフ男だ。
話ぶりから、恐らくは酒場で酒を奢った誰かの一人だと思われる。

俺が軽く挨拶をしようとしたら、

「歩様がいつもお世話になっております」

ニケさんがすかさず完璧な挨拶。
更には、女神であるとは到底思えないほどのバカ丁寧なお辞儀をしずしずとし出した。
その立ち居振舞い、まさにできる嫁の如し。

あまりのことに俺とドワーフ男はしばし呆然となってしまった。

「.....お、おう。奥さんだったか。こりゃあ、すまねぇ。
 それにしても、さすがは竜殺し様だ!えらいべっぴんな奥さんじゃねぇかよ!
 うちのかあちゃんと交換したいぐらいだ。ガッハッハッハ!」

───バシバシッ!

痛い。痛い。

俺よりもいち早く気をとり直したドワーフ男はそう言うと、俺の背中をめいいっぱい強く叩いて羨ましがってくる。
どこか殺気の籠った強さのように感じるのは気のせいだろうか。

・・・。

「あれ?竜殺し様ではないですか?この間はごちそうさまでした。またよろしくお願いします」

今度は女性の冒険者が声を掛けてきた。

恐らくだが、この女性にも酒を奢ったのだろう。
申し訳ないが、色々な人に酒を奢りすぎていて誰に奢ったのか全く覚えていない。

「歩様がいつもお世話になっております」

先程と同じように挨拶をするニケさん。
できる嫁の雰囲気は相変わらず漂っているが、どこか先程とは違う印象を受ける。

「.....え?竜殺し様の奥様ですか?」

ニケさんの様子に驚き慌て、若干怯える女性冒険者。

気持ちはよくわかる。
ニケさんの雰囲気がどことなく怖いからだ。

それにしても、みながみな、ニケさんを俺の奥さんだと思ってしまっている。
それぐらいニケさんのパフォーマンスは嫁がかっているということだ。

と、そこでニケさんが女性冒険者に物申す。

「一言申し上げます」
「はい」
「歩様と一緒にお酒を呑まれることには特に何も申し上げません。.....ですが」
「.....は、はい」

「.....」

おぉ。こえぇ.....。

ニケさんがにっこりと微笑んだ瞬間、この場の温度が一気に10℃近く落ちた気がした。

絶望的な恐怖にぶるぶると震える女性冒険者。
このまま女性冒険者を長居でもさせようものならきっと失禁させてしまうだろう。

「私の歩様を誘惑するのはやめてくださいね?.....殺しますよ?」
「ひゃう!?」
「こ、殺す!?」

ニケさんの歯に衣着せぬ言い方に仰天してしまった。
と同時に、ニケさんの様子を窺うにどうやら本気のようだ。

「返事を頂いてもよろしいですか?」
「はははははい!もうしません!絶対しません!しししししつれいします!」

なおも追及してくるニケさんに、逃げるようにして慌てて駆け去っていく女性冒険者。

多分、ちょっとちびってしまったに違いない。
女性冒険者の駆け去った後には、きれいな七色の見事な掛け橋が出来ていたとかなんとか.....。あ、憐れすぎる。

「よかったですね、歩様。これで誘惑される心配がなくなりました」
「HAHAHA。.....そ、そうですね。ありがとうございます」

確かに誘惑される心配はなくなったが、恐らく一緒に呑む機会もなくなってしまったに違いない。
下手したらこれが噂として広まり、俺の呑み仲間の一覧から女性全員がいなくなる可能性すらありえる。


(いや、別にいいんだけどさ?俺にはニケさんがいるし?.....でもむさ苦しいだけなのもなぁ)


□□□□ ~人生初~ □□□□

さて、随分横道に逸れてしまったが、俺の心配は杞憂に終わったらしい。
誰も俺のことなど気にもせず、みながみなニケさんに注目しきりだった。

だとしても、この問題はなんとかしたい。
今後も俺の後ろを歩かれたのではデート気分に浸れない。

だから俺は、

「ニケさん。やはり隣を歩いてほしいです。お願いします」
「歩様はお嫌なのですか?」

シンプルに頼むことにした。

普通である俺を立ててくれるニケさんには感謝だが、そういうのはドールだけで間に合っている。
過分なヨイショは身の破滅に繋がるし、なによりも落ち着かない。ほどほどでいい。中の下、下の上ぐらいが俺にはお似合いだ。

「嬉しいのですが.....、俺は立てられるような立派な男ではないですし、なによりも.....」

と言いかけたその時、

「そのようなことはありません!歩様は素晴らしいお方です!」
「.....」

ニケさんより落雷の如き素早い一言で完全に否定されてしまった。微妙に怒ってもいる。
どうやらニケさんの中の俺はとても素晴らしい人らしく、卑下することは俺自身でも許されないらしい。

どうしてこうなった!?

この方法では説得不可能と判断した俺は、

「嬉しいのですが.....、ニケさんとともに同じ目線でデートを楽しみたいんです」

小賢しい言い訳を添えてみることにしてみた。

説得をするのではない。あくまでお願いする形を取る。
好意を持たれていることから、これが一番有効だろう。

「同じ目線で.....。本当によろしいのですか?」
「よろしいもなにも、俺がそれを希望していますから」
「もちろん歩様が望まれるなら、私はなんでも従いますが.....」

従う.....。
なんかこう、俺とニケさんの間で大きな認識の齟齬が生じているように思えてならない。

女神であるニケさんに対しては不遜なのかもしれないが、俺はニケさんという一人の女性と対等に付き合っていきたいと思っている。
しかし、ニケさんの俺に対する接し方はどこかメイドのような.....そんな感じのものに重なって仕方がない。

「従わなくてもいいんです。ニケさんのしたいこと、やりたいことを俺に遠慮なく言ってください」
「とは申しましても.....。それで歩様の理想の女になれるでしょうか?」
「り、理想の女!?」
「はい。私は歩様の理想の女になりたいと思っています。歩様に求められる女でありたいと思っています。
 ですので、完璧な姿をお見せするためにも、ここは雑誌を参考にすべきと判断したのですが.....」

な、なるほど、そういうことか.....。
ようやく、俺とニケさんの間での認識の齟齬の原因がわかった気がする。

俺はニケさんと仲良くなって、恋人の関係になりたいと思っている。
一方、ニケさんは既に俺と恋人に、いや、もしかしたらそれ以上の関係になっているのかもしれない。

こんな状態では、二人の間に認識の齟齬が生じるのは当然だ。
そして何よりも、俺の為にしてくれているという事実が心に重くのし掛かる。

(さて、どうしたものか.....)

俺が困惑していると、

「.....ご迷惑でしたでしょうか?」
「!?」

ニケさんが悲しそうな顔で尋ねてきた。

迷惑だなんてことは一切ない。むしろすごく嬉しい。
ニケさんにそこまで想われているなんて夢のようだ。

俺だってニケさんとそういう関係になりたいとずっと思ってきたのだから.....。

だからこそっ!

この恋愛を大事に育てていきたいとも思っている。
そう、順を追って大切に。

・・・。

結局、悩んだあげくに出した答えは.....。

「順を追って、と申しますとどのようにですか?」

素直に俺が思っていることを打ち明けることにした。
妙に取り繕ったりしてこじれても大変だし、ここは素直にニケさんの俺に対する好意に甘えようと判断した。

「少しずつステップアップしていくのはどうでしょうか?」
「ステップアップ.....。具体的にはどのようにすればいいのでしょうか?」

不安そうに尋ねてくるニケさんを横目に、俺は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

───す~は~す~は~

(よしっ!いくかっ!!)

そして、意を決した俺はニケさんの手を握り、

「あ、歩様!?」
「.....」

ニケさんの瞳を俺で埋め尽くしたのち想いを綴った。

「ニケさん。あなたが好きです」
「!!!」

俺が告白してくるとは少しも予想していなかったのか、ニケさんの目が大きく開かれ驚いた顔をしている。
それでも、今この瞬間をカメラに残しておきたいぐらいにニケさんは美しかった。
投稿すれば、きっと大賞間違いなしだろう。.....いや、俺の中では既に大賞だ。

そして、ニケさんの驚いた表情も徐々に崩れていき、ついにはつぼみが花開くように次第に笑顔へと変化していく。
その瞳にはたくさんの雫を静かに添えて.....。

「嬉しいです.....。私も!私も歩様が好きです!!」
「ありがとうございます。こんな俺ですが付き合って頂けますか?」
「はい!喜んで!」

気持ちを綴られたニケさんは嬉しそうに、でもどこか恥ずかしそうに頬を赤く染め、少女のようなあどけない笑顔ではにかんだ。美しい。

できるお姉さんな雰囲気と少女のようなあどけない笑顔。
この二つのギャップが、ニケさんの魅力をより際立たせる。俺の心を掴んで離さない。

「これからよろしくお願いします」
「はい!歩様の彼女として恥ずかしくないよう精一杯尽くして参ります!!」


なにはともあれ、こうして俺に初めての彼女ができた。
そして、年齢=彼女なしの人生にようやくピリオドが打たれることとなった。

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次回、新年ver.特別編!

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なんとか年の暮れにふさわしい締めの1話が間に合いました。
次話は本編をお休みして特別編となります。

今年1年、本当にありがとうございました。
来年もよろしくお願い致します。

それではよいお年を!








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