歩くだけでレベルアップ!~駄女神と一緒に異世界旅行~

なつきいろ

第116歩目 はじめての騒動!


前回までのあらすじ

不和と争いの女神エリス様からとんでもない加護を貰った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

□□□□ ~事件勃発~ □□□□

───ドドドドドドッ!
───ドドドドドドッ!
───ドドドドドドッ!

「...............!」
「...............!」
「...............!」

この世の多くの生物が寝静まり、世界を静寂が支配する漆黒の暗闇の中を猛然と駆け抜ける傍迷惑な影が3つある。
静寂が騒然となり、人々の寝息が怨嗟へと変わっていってもなお、傍迷惑な暴走は止まることはなかった。

後に、

『夜の大運動会事件』

と、称されるこの一連の問題行動はあることがきっかけで起こったものだった。


時は数時間前に巻き戻る。


□□□□ ~問題発生?~ □□□□

エリス様から『NTR』という心底どうでもいい加護をもらって数日が過ぎた。
俺には全くその気はないのだが、一応警戒だけは怠らないように日々を過ごしている。

過ごしているのだが.....

「.....(キッ!)ジロジロ見ないでください。気持ち悪い」
「・・・」

ゼオライトさんからは、それはもうゴミ虫でも見るかのような冷徹な眼差しをプレゼントされた。
加護である『NTR』なんてどこ吹く風の相変わらずの嫌われっぷりである。

(.....?よくわからないが、どうやらゼオライトさんには効かないみたいだな)

とりあえずホッと胸を撫で下ろす。
いざこざの種なんて真っ平ごめんだ。

・・・。

さて、『NTR』が何事もなく終わりそうなのはいいことなのだが、実は別の問題が起こっている。
それは、試練がいまだに用意されていないことだ。

アテナに問い質しても、

「ちゃんとつたえたよー(・ω・´*)」
「本当か?伝えた気でいるとか、伝言とかはなしだぞ?」
「ううんー。アルテミスお姉ちゃんにちゃんとつたえたよー」
「そうか。疑って悪かったな」

───ぽふっ。ぽんぽん

「にへへー(*´∀`*)えらいー?」
「偉い、偉い」

頭をぽんぽんされたアテナは、いつものように八重歯を覗かせながらにぱー☆と微笑んだ。かわいい。

(ちゃんとしてれば可愛い子なんだよな~。胸大きいし)

アテナがかわいいのは毎度のことなのでいいとして、どうして試練が用意されないのだろうか。
今まではお願いした翌日には必ず用意されていたというのに.....。アルテミス様に何かあったか?

とりあえず、今日もダンジョン内を確認してもらう。

「う~ん。どこを探しても、それらしきものはいないね。本当にここのダンジョンなのかい?」
「はい。アテナを信じるなら、トキオさんのダンジョンに用意してもらっているはずなんです」

今回の試練はトキオさんのダンジョン、つまりCランクダンジョンにお願いした。
別にFランクダンジョンに用意してもらってもよかったのだが、いろいろと理由がある。

それは.....

「それにしても、本当に助かります」
「いやいや。これもダンジョンマスターの権限だからね。別に大したことはしていないよ」
「それでも探し回らなくていいので助かります」
「友の頼みだ。別に気にしないでくれ。それに僕も神の試練とやらが気になるからね」

これはどこのダンジョンでもそうだったのだが、そもそも神の試練がどの階層にあるのかが全くわからなかった。
それを探すのも試練の内容の一つらしいが、俺が挑むまでに、俺よりも先に発見してしまった他の多くの冒険者が犠牲になっていたりもする。
冒険者という職業柄、覚悟の上だろうが、それでも俺のチキンハートは痛まずにはいられなかった。

しかし、トキオさんのダンジョンに用意してもらうことで、『管理部屋』のモニターから全階層を探すことが可能となる。

トキオさんはダンジョンマスターだ。
ダンジョンの隅々まで把握している。それは魔物も例外ではない。
つまり見たこともない魔物がいたら、それこそが神の試練の使者ということに他ならない訳だ。

「うん、やっぱりいないね。もし見つけたら連絡するよ」
「お願いします」

どうやら今日も発見されずに終わりそうだ。.....なにがあった?

「アルテミス様に伝えにいった時、なにか変わったことでもなかったか?」
「うーんr(・ω・`;)べつにいつもどおりだったよー?狐ちゃんをもふもふしてたしー」
「そうか、アルテミス様ももふもふ好きなんだな。気持ちはすごくわかる」
「ねー!私もコンちゃんをぎゅーってするの好きだよー( ´∀` )」

狐ということはドールの先祖である九十九尾のことだろう。
俺もドールをぎゅ~ってしたいが、いきなりするとビックリさせてしまう。
だから、いつでも気軽にぎゅ~ができるアテナが羨ましい。

なんてことを思っていたら、ふと疑問が.....。

「.....あれ?アルテミス様は九十九尾と一緒にアテナの部屋に行っているのか?」
「あーΣ(・ω・*ノ)ノ」
「ど、どうした!?」
「そういえばねー、アルテミスお姉ちゃんは自分の部屋にいたよー?
 歩は私の部屋にいるって言ったよねー?むだあしになったでしょーヽ(`Д´#)ノ」

ぷんすか怒っているアテナはかわいいが、そういう重要なことは本当に早く言ってほしい。

だから.....

「むだあしになったでしょーヽ(`Д´#)ノじゃねえんだよ!
 情報の後出しはやめろっていつも言ってるだろ!このクソ駄女神!」
「ふえええええん(´;ω;`)歩だってまちがったのにー」

頬をつねったことで駄女神が喘いだ。いい加減にしろっ!


さて、アテナの情報から、アルテミス様は俺達の現状を知らない可能性が出てきた。
あの悪戯好きのアルテミス様が、アテナの部屋にいないというのもすごく気になる。

(アルテミス様になにかあったと考えるべきか?)


とりあえず、一日も早く試練の用意をお願いしたい。


□□□□ ~赤月~ □□□□

夜。

時は既に24時を回ろうとしている。
結局、今日も試練は用意されなかった。

俺はアルテミス様を信用こそしていないものの信頼はしている。
だから約束の反故は絶対にないと確信している。

(そもそもそんなことをすれば、自分で自分の首を絞めるようなものだ。絶対にないな)


用意されていないものは仕方がないので、今日も日課であるウォーキングに勤しもうと思う。

今日は空がとても澄んでいる。
頭上に広がる無数の星々が燦々とそれでも静かに瞬きあっている。
それはまるできらびやかなダンス会場にて、お互いの美しさを競いあっているような.....。まぁ、ダンス会場なんて行ったことはないけど。

しかし.....

そのきらびやかな世界で、誰よりも美しさを主張しているのは今宵限りの主役である『赤月』だ。
『赤月』とはなんぞや?と思われる方もいるだろうが、名前の通り『赤い月』である。

この世界パルテールでも、月は当たり前のように見える。
そして月の満ち欠けも当然の如くあるのだが、地球とは少し変わっている。

満月も、半月も、三日月もある。
だが、新月はない。あるのは『赤月』だ。
どういう理屈なのかはわからないが、新月の代わりに『赤月』がある。

そして満ち欠けの周期も地球とは少し違う。
地球、もとい日本ではおおよそ1ヶ月程度の周期となっているが、このパルテールでは4ヶ月周期となっている。

違うのはそれぐらいで、後は地球の月とほぼ同じだと思われる。

最初『赤月』を見たときは不気味な月だと思ったが、今ではすっかり慣れたものである。
むしろ闇夜に浮かぶ赤い色の色彩が、夜を、闇を厳かにしているように思えてならない。

もし、この場にニケさんがいたら.....

「月が綺麗ですね」

と、思わず囁いてしまうかもしれない。

そして、ニケさんからはぜひ、

「死んでもいいです」

と、照れた表情で返してもらいものだ。

それぐらい今宵の『赤月』はきれいでロマンチックだ。


そして、そんな『赤月』を愛でながらのウォーキングも乙なものだ。
いや、一人だからこそ『赤月』を愛でる余裕があるのかもしれない。

いま俺は一人で黙々とウォーキングに勤しんでいる。
普段はドールが必ず付いてくるのだが、今日に限ってはなぜか付いてはこなかった。

いつもなら、

「主が悪い虫に唆されぬよう、妾がしっかりと主を守るのじゃ!」

とかなんとか言って、意地でも付いてこようとするのに.....。

顔も赤く、どこかボーッと上の空、更には気だるそうにもしていたので、風邪かなにかを疑ったが、どうにもそうではないらしい。.....大丈夫かな?
とりあえず安静にするよう言い付けて、久しぶりの一人ウォーキングを『赤月』とともに楽しんでいた次第だ。

・・・。

ドールの容態が気になったので、ウォーキングを早めに切り上げてきた。

トキオさん宅、というか、マスター部屋の構造上、俺達が現在宿泊している客間までの間にバスルームが存在する。
防音も完璧という、まさにダンジョンポイントをふんだんに使った贅沢な造りとなっているので、好きな時に自由に使っていいと許可を貰っている。

だから日課を終えた後は、いつも汗をお湯で流してさっぱりしてから、気持ちよく就寝するのが最近のスタイルだ。

今日も今日とて汗をお湯で流していたら、

───ビクッ!

背後に人の気配が.....。

思わず緊張してしまった。
ダンジョン内なのだから、当然誰なのかは絞られる。

まずお化けはないだろう。
そんな魔物は使役していないらしいから。

アテナは一度寝るとなかなか起きないから多分違う。
ドールの線が濃厚 (俺を襲いに来た的な?)ではあるが、今日の気だるそうな様子を見るに、それも違うような気がする。

トキオさんが俺の裸を見に来ることはないだろうから、これも違う。
話があるなら客間に来るはずだ。わざわざバスルームに来る必要も意味もない。

となると.....

(ま、まさか.....(ごくッ)。ゼ、ゼオライトさんか?ここに来て加護の『NTR』が発動か!?)

こんなバスルーム内で襲われたら逃げ場がない。
しかも夫婦部屋に近いので、騒ぎを聞き付けてやってきたトキオさんに誤解されてしまう恐れもある。

(かくなる上は当身で隙を作るか.....)

対処法を決めた俺は意を決して振り返ると、そこにいたのは.....










『トキオさん』だった。

正直なところ、ホッとしたのは言うまでもない。
言うまでもないのだが、なぜ?との疑問が残る。

話があるなら客間で十分だ。仮にアテナ達に聞かれたくない話なら応接室でもいいはずだ。
それがわざわざバスルームにまで来て.....。余程緊急性の高い話ということなのだろうか?

「ビ、ビックリしましたよ。どうしたんですか?」
「す、すまないね」
「.....?」
「.....」

謝罪をするだけで何も言ってはこない。終いには俯いてしまった。
俯く前のトキオさんの表情はどこか申し訳なさ気で辛そうだった。

これは余程の話に違いないと思っていたら、

「..........欲しい」
「はい?すいません。よく聞き取れませんでした。もう一度お願いします」
「抱いて欲しいんだ」
「................はい?」

今、トキオさんはなんて言った?

俺も耳が遠くなったのだろうか。
抱いて欲しいとそう聞こえたような.....。

(どんな聞き間違いをしてんだよ、俺は。ちょっと加護に対して神経質になりすぎているのかも?
 トキオさんがそんなことを言うはずないしな。後でドールに耳掻きでもしてもらおう。そうしよう!)

と、軽く現実逃避をしていたら、

───ガシッ!

「ひっ!」

トキオさんに両腕をガッシリと捕まれてしまった。

そして、

「抱いて欲しいんだ!頼む!!」
「はああああああああああ!?」

懇願、哀願、嘆願にも近い勢いで切実にお願いをされてしまった。

(.....え?どういうこと!?
 俺の加護『NTR』が発動したのは『トキオさんからゼオライトさんをNTR』ではなくて、
 『ゼオライトさんからトキオさんをNTR』ってことなのか!?エリス様はBL神なのか!?)

しかし、事ここに至っては予断を許さない状況になった。
現実逃避なんてしている場合ではなかった。貞操の危機!

だから、

「すいません!」

───ドゴッ!

「ぐふっ!?」

一瞬の隙を付いてトキオさんの腕を払いのけ、同時に腹に一発をお見舞いした。
あまりの意外な展開に動揺していたせいか威力は弱めになってしまったが、これでも十分に隙を作ることは可能だろう。

よろめいたトキオさんの脇をすり抜け、近くにあった何かを掴んでその場を急ぎ脱出する。
きちんと着替えたかったが、そんな悠長なことをしていたら捕まってしまうので仕方がない。

(どうする!?どこに逃げる!?)

バスルームを脱出したはいいものの、どこに逃げたらいいのか判断に迷う。

まず客間はNGだ。そもそもここはトキオさんのダンジョン。
トキオさんがその気になれば、立て籠ることなんて不可能に近い。

(となると、地上しかないか。.....仕方がない。一時的にだが、身を隠そう。
 トキオさんならアテナやドールに酷いことはしないだろうし、何よりもゼオライトさんがいるしな)

逃走場所を決めた俺は一目散に地上行きの転送陣を目指した。
これでトキオさんの魔の手から逃れることができる.....。

と、安心していたら、

───ザシュッ!

頬を優しく、それでも鋭く抉る鈍い痛み.....。

「.....え!?」

なにが起きたのかわからないが、それでも混乱している暇はなかった。

───ザシュッ!
───ザシュッ!
───ザシュッ!

怒濤の如く襲い来る疾風の刃、ならぬ爪。

この勢い、この並々ならぬ殺気.....。
どうやらこの暗殺者は本気で俺を殺す気でいるようだ。

その真夜中の暗殺者とは、

「.....(キッ!)よくも.....。よくも旦那様を!!」
「!!!」

咆哮とも取れる怒りを上げているゼオライトさんその人だ。

正直なところ、ゼオライトさんのあまりの形相に思わず息を飲んでしまった。
両眼が閉じられているからこその怒気。凄まじいものだ。ダンジョン内に居ては確実に殺される。


こうして混迷を極める中、俺の逃走中.....ではなく、逃走劇は幕を開けた。


そして、冒頭に戻る。


□□□□ ~大英雄の軌跡~ □□□□

───ドドドドドドッ!
───ドドドドドドッ!
───ドドドドドドッ!

静寂が世界を支配する真夜中に、俺は全裸の中、タオル一枚で息子を隠しながら逃走している。

「待ってくれ!誤解なんだ!君にとっても悪い話ではないはず!」
「旦那様待ってください♡それと.....そこのゴミクズ!待ちなさい!よくも私の、私だけの旦那様を!!」

そんな俺を、これまたパンツ一丁で追いかけてくるトキオさん。
更にはベビードールと言うのか、薄いランジェリーでトキオさんと俺を猛追してくるゼオライトさん。

二人の姿から「お前らさっきまでナニしてただろ!」と思わず叫びたくなるほどの凄い格好をしている。

だがしかし!
俺は追われているにも関わらず、

(トキオさんGJ!いいセンスですね!俺もそういうのは嫌いじゃないです!!)

ゼオライトさんが着ている『かわいらしくもいやらしいベビードール』に思わず喝采を送ってしまった。
どこで売っているのか、後で聞き出さなくては!


とにかく都市中をほぼ全裸の男二人と、ほぼ痴女といっても問題ない女が駆け巡っているのである。
当然、目撃者がいない訳でもなく.....。

しかも、

「待ってくれ!舞日君!痛くはない!痛くはないから!!」
「旦那様待って~♡あと.....そこの虫けら!待ちなさい!大人しく私に殺されなさい!!」

なんだか聞きようによっては、変に誤解を受けてしまいそうな事を大声でトキオさん達が叫んでいる。
ともすれば静寂な夜が騒然となる訳で.....。

───ざわざわ
───ざわざわ
───ざわざわ
───ざわざわ

「「「「「きゃああああああああああああああ!変態だわあああああああああああああ!」」」」」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!おおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」

酒場から騒動を聞きつけてきたやってきた女冒険者からは悲鳴の叫び声が。
酒場から騒動を聞きつけてきたやってきた男冒険者からは歓喜の雄叫びが。

騒ぎが騒ぎを呼び、また新たな騒ぎを生み出す.....。

結局、最終的には都市全体が大騒ぎとなってしまった。
これが後に『夜の大運動会事件』と呼ばれるようになり、大英雄であり、竜殺しである俺の新たな軌跡の第一歩として人々の記憶に刻まれることになった。


ちなみに翌日、オシーネさんがそれはもう素晴らしい能面で出迎えてくれたことは言うまでもないだろう.....。とほほ。


□□□□ ~習性~ □□□□

トキオさんとゼオライトさんを問答無用で黙らせた殴り倒した翌日、詳しい事情を聞くことにした。
ちなみに、ちょっと立ち入った話になりそうだから、アテナ達はナイトさんに預けてきた。

もし本当に『トキオさんをゼオライトさんからNTRしてしまった』ようなら、全力でお断り&謝る所存だ。

「すまない、誤解させてしまったようだ。僕も焦っていたから、ちゃんと伝えられなかったんだ」
「と、言いますと?」
「安心してくれ。僕も女性.....いや、妻が好きだ。そっちの趣味はないよ」
「旦那様.....♡」

とりあえず一安心。
バカップルが見つめあってイチャイチャしだしたので、引き離して話を続けてもらう。

「す、すまない」
「.....(キッ!)」

怖い、怖い。てか、早く話して!

「君は獣人の習性を知っているかい?」
「習性.....ですか?」

「そう、習性。これは全ての獣人に当てはまるんだ。もちろん個体差はあるけどね」
「全ての.....ってことはドールもですか?」

「もちろん。昨夜、ヘリオドール君にどこかおかしなところはなかったかな?」
「あぁ!そう言えば!顔が赤く上気して、どこか上の空、それに気だるそうでしたね」

風邪か?病気か?と心配していたのだが、昨夜はそれどころではなかった。
しかし今朝確認してみたところ、その症状がケロッと治っていたので不思議には思っていた。若さゆえの回復量ってすげー!と思ったものだ。

「やはりか。発情しているね」
「は、発情!?」

「何も驚くことはないよ。人間誰しも発情はするものだからね。
 ただ妻やヘリオドール君のような獣人の場合、その症状が色濃く出てしまうんだよ。特に『赤月』の日はね」
「そ、そうだったんですね。獣人にはそんな習性が.....」

『赤月』の日にそんなことになってしまうとは.....。

ということは、4ヶ月周期でドールやゼオライトさんには発情期が訪れることになる。
失礼な考えだが、『獣』人というだけあって、本能に従わざるを得ないなにかがあるのかもしれない。

「それじゃあ、昨夜の『抱いてくれ』ってのは.....」
「主語が抜けていて済まない。『妻を抱いてくれ』という意味だったんだ」

「それはそれでおかしいですよね?」
「そんなことはないさ。これは獣人を奴隷に持つものの責任でもある」

「責任.....?どういうことですか?」
「後でヘリオドール君に聞いてみるといい。発情を、本能を我慢させられる時の苦しみがどんなものなのかを」

トキオさんの様子から、これは笑って聞き流せるような問題ではないということだけはよくわかった。

獣人の奴隷を持つということは、命の保証、衣食住の保証だけではなく、そういう面も気にしてあげないといけないということなのだろう。
と言っても、この世界の人々、特に人間族がそこまで面倒を見ているとは到底思えないが.....。

「わかりました。後でドールとよく話し合ってみようと思います」
「君ならそう言うと思っていたよ。ぜひ、そうしてくれ」

とりあえず、獣人に習性というものがあるのはわかった。
だから昨夜のような騒動になったと.....。

それはいい。それはいいのだが.....

「でも、良かったんですか?俺がゼオライトさんを抱いてしまっても.....。
 と言っても、俺にはその気は全くありませんでしたが。
 トキオさんはゼオライトさんを愛しているんですよね?」

さっきから、そこだけがずっと引っ掛かっていた。
普通、他所の男に自分の嫁さんを抱かせるだろうか?しかも心から愛している女性を.....。

「妻は白狼、つまり狼だからなのか、赤月を見ると他の獣人よりも発情具合が凄いんだ。
 それこそ僕一人じゃ手に負えないぐらいにね。苦しむ妻を見るぐらいならいっそ.....という気持ちだったんだ」
「狼と月。これまたベターですね.....。でも普通に考えて、自分の奥さんを他人に抱かせます?」

「僕だって嫌さ。今までもそうだったからね」
「ではどうして?」

「それこそ他人なら絶対に許せないんだが、なぜかな?舞日君だけは許せてしまうんだよ」
「.....え?」

あれ?これってもしかして.....。

思い当たる節がある。
本当なら確認したくない。確認したくないのだが.....、確認せずにはいられないだろう。

「そ、それって.....、つい最近そう思うようになったとかじゃないですよね?」
「あぁ!言われてみれば、確かに最近な気がするよ。君を信頼している証なのかもね」

トキオさんは実に爽やかな笑顔でクサいことを恥ずかしげもなく言い放った。
本当なら『THE・男の友情』みたいな盛り上がるシーンなのだろうが.....。

俺は、

(違います!きっとそれ、加護『NTR』のせいだと思います!本当にごめんなさい!)

トキオさんに申し訳無さすぎて、全身嫌な汗を掻きまくっていた。


どうやら俺の加護『NTR』はトキオさんの体ではなく、心を寝取ってしまったようだ。

(エリス様.....。百歩譲って体だけの関係ならまだいいですが、心を寝取っちゃダメですよ.....。
 それ一番やっちゃいけないやつです.....。もう本当に最悪な神様だな.....。二度と会いたくない)


こうして俺の『NTR』騒動は幕を閉じた。


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『アテナ』 レベル:3 危険度:極小

種族:女神
年齢:ーーー
性別:♀

職業:女神
称号:智慧の女神

体力:50
魔力:50
筋力:50
耐久:50
敏捷:50

装備:殺戮の斧

女神ポイント:210540【↑18000】(10日分)

【一言】今日もアルバイトがんばったよー( ´∀` )
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アユムの所持金:3358252200ルクア【↑200000】(10日分)
冒険者のランク:SS(クリア回数:14回)

このお話の歩数:約280000歩(10日分)
ここまでの歩数:約43277200歩
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『アユム・マイニチ』 レベル:9302【↑30】

種族:人間
年齢:26
性別:♂

職業:凡人
称号:女神の付き人/竜殺しドラゴンスレイヤー
所有:ヘリオドール

体力:9312(+9302)【↑30】
魔力:9302(+9302)【↑30】
筋力:9307(+9302)【↑30】
耐久:9307(+9302)【↑30】
敏捷:9562(+9502)【↑30】

装備:旋風の剣(敏捷+200)

技能:言語理解/ステータス/詠唱省略

Lv.1:初級光魔法/初級闇魔法

Lv.2:浄化魔法

Lv.3:鑑定/剣術/体術/索敵/感知/隠密
   偽造/捜索/吸収/治癒魔法/共有
   初級火魔法/初級水魔法/初級風魔法
   初級土魔法/ 物理耐性/魔法耐性
   状態異常耐性

共有:アイテムボックスLv.3
   パーティー編成Lv.1
   ダンジョンマップLv.3
   検査Lv.3
   造形魔法Lv.3
   奴隷契約Lv.2

加護:ウォーキングLv.9302 8942/9302
   NTRLv.747      617/748
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後書き

次回、お祭り!

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今日のひとこま

~発情~

「ドール、発情って我慢すると辛いのか?」
「なんじゃ?いきなり」
「トキオさんから聞いたんだよ。獣人は発情が色濃く出るんだろ?」
「.....その通りだが、それを聞いて主はどうするのじゃ?」

「一応、俺はドールの主人な訳だし、何か手伝えることはないかなってさ」
「.....なにもないのじゃ」
「.....え?なにもないの?」
「何かをしたいと言うなら、妾を抱くのじゃ」

「それは.....すまん」
「だからなにもないと言うたのじゃ」
「そんな0か100みたいな選択肢しかないのか?他にできることとかないのか?」
「ないのじゃ」

「おふっ.....。た、例えば、寄り添ってあげるとかで気持ちを抑えられるとか.....」
「そういう中途半端なのが一番辛いのじゃ」
「ちゅ、中途半端!?」
「例えばの、極限まで腹が空いていたとするのじゃ。でもまだ我慢はできる。
 そんな時に、ほんの欠片でも食べ物を口にしてしまったらどうなると思うのじゃ?」

「そ、そうだな.....。多分我慢できなくなるんじゃないのか?」
「その通りなのじゃ。それと同じことと思えば良い。
 中途半端な食べ物はいらぬ。食べさせるなら満腹になるまで食べさせよ」
「・・・」
「妾を気遣うなら抱く、抱けぬなら知らぬ振りをするが良い。
 中途半端な優しさは優しさではないのじゃ。それは単なるお節介でしかない。
 時には突き放すことも優しさなのじゃ。主はお人好しすぎる。妾が暴走したら責任を取ってくれるのか?」

優しさって難しいなぁ.....。

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