努力を極めた最強はボッチだから転生して一から人生をやり直す
ふむ。褒美をやろう。
御伽噺などで出てくる、まさに天国のような場所だと書かれている至高の楽園。
俺と同じぐらいの大きさをした白い箱を開ければ、そこは食材の宝庫。
適当に食材を選び、皿に載せ、近くに置かれた箱に入れて蓋を閉めると、数秒後には湯気が立ち昇った料理が出来上がっている。
俺が皿に載せた食材が使われた、野菜を肉で巻いた料理だ。
調味料も置かれてはいるが、それらを使わなくとも味は絶品。どれもが美味い。
机に置かれたティーカップを傾けると、そこからは俺の欲しいと思った飲み物が出てくる。
まるで夢でも見てるかのようだ。
「ふむ。タクルスよ。食べながらで良い。この迷宮(ダンジョン)でのお前の戦いを見て、一つ分かった事を教えてやろう」
「ん?なんだ?」
唐突に何の話だ?
まあ、食べながらで良いんなら幾らでも訊くけどよ。
「お前の手の甲にある剣の紋様。それは、神の祝福とやらで間違いないか?」
「あ、ああ。当たり前だろ?」
それ以外に何があるって言うんだ?
イクスの手の甲には無いが、これぐらいは知ってて当たり前の常識だ。
いや、イクスに常識を求める事が間違いか?
「ふむ…。もしかすれば、その紋様……」
ブツブツと何かを呟き、俺の神の祝福を見つめている。
もしかして…有り得ないとは思うが、自分には無い物だから羨ましいのか?
いや、それはないな。
「ふむ。その紋様。やはり、初期段階だな」
「なんだそれ?」
「神の祝福と呼ばれている、その紋様。それは、”力の紋様”と言う。際限はなく、力を求めれば求める程に魔力を糧にして力を得る事が出来る物だ」
じゃあ、力を求めてたら強くなれるのか?
いや、そんな上手い話はねぇよな。
そもそも、神の祝福はスキルと魔法を使えるようにする為だけの紋様だ。そんな上手い話がある筈がねぇ。
「しかし、お前達は力の紋様の使い方を間違って理解している」
「なら、どうすりゃ良いんだ?」
でも、これ以上強くなれるってんなら、幾らでも試してやる。訊くだけで損はしねぇだろ。
「ふむ…。すまないが、それは分からない。作製者には効果のない物だったのでな」
なんだよ。意味ねぇじゃねぇかよ。
……待てよ。作製者って誰だ?
作製者は教会内で秘匿されている筈だ。
なぜイクスが知ってやがんだ?
「だが、これだけは言える。その紋様が進化すれば、より強大な力を得る事が出来る。そのように作られた」
まるで、この紋様を生み出すアーティファクトが作られる過程を知ってるかのような口振りだな。
「一度サリアに話を聴くと良い。彼奴は自力で進化させた。剣と杖の紋様だ。見れば分かる」
なぜ、そこまで詳しく知っているのか……深く聴くのはやめておくか。
それよりも、サリア…か。
学年一位。特待生。イクスの友であり、俺を負かした嬢ちゃんだな…。
入学者発表の日以来、一度も会っていないが…アイツは進化させていたのか。
だから、あれ程までに強かったのか?
「ちなみにだが、サリアは紋様の意味を理解していない可能性がある。そこだけは理解しておけ」
それ、意味ねぇだろ…。
ーーー
過去にオレが創った、この迷宮内に幾つもある休憩所の内の一つ。
際奥に存在する、迷宮ボスを倒す事でようやく辿り着ける場所にあるのが、心地の良い最高の場所として創り上げた、この休憩所である。
隠れ家として創っていた場所だが、使用回数は少ない。
そこでタクルスに思う存分に休憩を与えてやると、顔に張り付いていた疲労感は消えていた。
ハンモックで寝る際は、何度も落ちそうになって苦戦していたみたいだがな。
それでも、十分すぎる程に疲れを癒せたようだ。
「ふむ。では、約束通り褒美をやろう」
「褒美?何の話だ?」
む?忘れてしまったのか?
「始めに言った筈だ。この迷宮を打破できれば、この奥の倉庫に置いてある物の中から一つ、好きな物をやる、と」
「あー、そんな事言われたっけか?」
ふむ。忘れているようだな。
話を無かった事にしても良いが、オレは約束は守る人間だ。
「言ったぞ。兎に角、付いてくると良い。案内しよう」
場所は、この休憩所の側だ。
厳密に言うならば、この階層の下である。
見方によれば、隣とも、上とも取れる曖昧な所だが、地下にあるので、下だ。
「ふむ。この扉だ」
案内したのは、この小島の端に設置された扉だ。
その奥に部屋など存在せず、一見すれば、開ければ上から流れ落ちる滝が良く見えるだけの、ただの飾りのようだ。
実際に扉を開けると、滝が流れ落ちるのが良く見える。
しかし、そうではない。
扉を潜った先。そこに広がったのは、一面に金銀財宝が敷き詰められた場所ーー倉庫だ。
俗に言う、宝物庫のような場所になるが、オレからすれば必要のない物を放り込んだだけの倉庫だ。
たまに数が減る事があるが、それは迷宮に吸収され、宝箱の中身として迷宮内にあるのだろう。
遅れてタクルスが扉を潜り抜けて来ると、眼前に広がる光景に目を白黒させた。
「ふむ。好きな物を選ぶと良い」
「あ、ああ…。なんて言うか…スゲェ…」
言葉も出ない。そんな様子だな。
「ホントに良いのか…?」
「ふむ。ここにある物ならば何でも良い。好きに選べ」
ここにあるのはオレが使えなかった魔道具や武器。文字通りの金銀財宝などだ。
タクルスには一つと限定はしたが、別に、そこに深い考えはない。何なら、10でも20でも持って行っても構わないのだ。
しかし、与え過ぎは何かと問題があるかと思い、一つと絞ったのだ。
「じゃあよ…この木剣を貰っても良いか?」
タクルスは腰に携えた木剣を手に取って言った。
「む?」
これは予想外だ。
何でもと言ったが、まさか、木剣を欲しがるとは思わなかった。
「ここにあるって言うんなら、この木剣も含まれるだろ?だったら、俺はこの木剣が欲しい」
「…ふむ」
なかなかどうして。
面白い事を言うのだな。
「ふむ。…ふむ」
随分と嬉しい事を言ってくれるな。
「ダメか?」
「ふむ…。一つ聞く。なぜだ?」
「そりゃ、強さを磨くために決まってるだろ。お前に教わった技を使い熟したいしな。それに…この木剣って、なんだか手にしっくりと来るんだよな」
ふむ。そんな理由で木剣が欲しいと?
ただ木を削って作っただけの物だぞ?
それを欲するのか?
「ククッ。クハハハハッ!」
タクルス。お前はやはり面白い奴だ。
「良いだろう!くれてやる!だが、そんな木剣だけでは物足りぬだろう。これもやる」
《イベントリ》から、新たな木剣を取り出してタクルスに投げ渡す。
純白色をした木剣だ。
刀身から淡く白い光が放たれているのが特徴的だ。
タクルスは木剣を壊す事が兎に角多かった。なので、それに耐え得る木剣を渡してやったのだ。
「なんだこれ?」
「”不屈の木剣”。お前に相応しい名だろう?」
「あ、ああ…?」
分からぬか。
だが、ここまでオレの指導に付いて来れたのだ。流石のオレでも途中で諦めるだろうと思っていたが、それでも諦める事なく、なんだかんだと言いながら従っていた。
その諦めの悪い精神。不屈と言っても過言ではないだろう。
「世界樹の枝を削って作った物だ。折れにくく、もし折れたとしても再生する。一時だが、オレが愛用していたぐらいだ。大事に使ってくれ」
「い、良いのか…?」
「ふむ。要らぬと言うのならば返してもらうが?」
「要る!ありがたく使わせて貰うぞ!」
ふむ。ならば、初めからそう言えば良いのだ。
若干、その木剣を渡すのが名残惜しく感じるではないか。
ーーー
タクルスとイクスを地の迷宮に送り出してから、二週間が経ったのである。
うむ。我の予想だと、そろそろ終わらせている頃合いであるだろう。
向こうの様子を覗いてないが為に、どう言った状況なのか把握していないが、おそらく、タクルスならばやり遂げている筈である。
そう我は信じているのである。
それはそうと、現在は日を跨いだ辺り。午前〇時を過ぎた辺りである。
我は寝る必要がない為、その時間帯を使用して永遠の歯車の調整、ならびに、整備を行っているのであるが…。
「やはり、一秒毎に3.26の誤差が出現するのである。なぜであるか…?これでは、幾ら調律しても埒が明かないのである」
どれだけ調律しようと、魔力生成率が安定しない。
永遠の歯車の稼働率を調整する為にモニターを幾つも出現させているのであるが、魔力放出率のグラフ値が揺れ続けているのである。
稼働率は良好。魔力生成率も良好。温度は若干低いが、外気温度との差異を視野に入れると問題はない。魔力濃度、魔力放出濃度共に調整通り。取り込む大気魔力も良好。
永遠の歯車本体に不備があるとは思えないのである。
長年放置されていたのが原因かと思い、歯車を全て検査させ、重要箇所は新たな物に入れ替えさせ、余分な物は破棄させた。にも関わらず、一向にグラフ値は安定しない。
「うむ…。これは、他に原因があると考えても良いのであるな」
そうとしか思えない。
しかし、永遠の歯車を狂わす事の出来る物など我が記憶には存在しない。
「やはり、報告するべきであるな」
いつからこの様な事が起きているかは定かではないが、つい最近なのは事は確かである。
おそらく、ここ数ヶ月の間だ。
そうでないと、不安定な状態で魔力を生成し続けた永遠の歯車は、我が出現すると同時に、消費魔力の過大によって魔力暴走を起こし、辺り一面を消し飛ばしているのである。
「うぅむ…。しかし、なぜであるか…」
我が知恵を振り絞っても導き出せない答えである。
何度も調整し直しても、どれだけ作り変えても、幾度も再起動をさせても、結果は全て同じ。
現在の永遠の歯車の状態をインプットして仮定シミュレーションを幾度となく行ったが、どうしてもこのような事態にはならなかった。
だが、実際になってしまっているのである。
このままでは、あと持って一年で永遠の歯車が暴走しかねない。
「このままでは…」
この学院どころか、空間に巨大な穴を空けかねない。最悪の場合、空間震によって世界を滅ぼしかねない事態である。
早急に解決しなければならないのである…。
コメント
ノベルバユーザー385074
続きがとても気になる!