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努力を極めた最強はボッチだから転生して一から人生をやり直す

九九 零

まほうとけん


兄に呼ばれて食堂へと行き、サリアも交えての昼食が始まった。

母ナタリアの手料理だ。
思いのほか美味しくてオレの胃袋は母の作る食事の虜になってしまっている。

「今日、お父さんは仕事で街の外に出掛けているから、私達で先に食べちゃいましょう」

珍しく父は仕事に出掛けているらしい。
姉はいつもの如くいないようだ。

と言うよりも、顔を合わせた記憶すらない。
一体、何をしているのやら…。

それにしても、兄よ。
さっきから、なんだか雰囲気が暗いぞ。

「サリアちゃんも遠慮せずに食べてね」

ふむ。いつもの事だが、サリアは兄マリアスの前だと緊張で固まってしまっているな。

「ふむ。サリアよ。早く食べなければオレが全て平らげるぞ」

「っ!?ダ、ダメ!サリアが食べるのっ!」

サリアの前に置かれた料理をオレから守るかのように手で囲って、盗られまいと、急いで口に料理を運び始めた。

そんな事をしなくても本当に盗ったりはしないのだがな。

「そんなに急がなくても、お代わりは沢山ありますよ。それと、イクス。サリアちゃんを急かさないの」

「む。分かった」

「その喋り方…一体どこで覚えたのかしら…?」

母が小さく首を傾げて呟いてるが、気にせずにオレも食事を始める。

やはり、美味だ。
どうすれば、この味を出せるのか知りたい所だな。前世にも、こんな美味しい物はなかった。

ふむ。今度、機会があれば教えてもらうのも良いだろう。

そんな感じで食事をしていると、唐突に来訪者が現れた。
ドタドタドタッと足音を隠す素振りすらなく、無遠慮にも扉を勢いよく開けて食事の邪魔をしたのは、武装した男性だった。

だが、一目で敵ではない事を理解した。
その男に見覚えがあるからだ。

たまに家に来る程に父と仲の良い男だ。窓から仲良さげに話しているのを見掛ける事がある。

別段、オレ達に被害を与えるような人物ではないので問題ないだろう。

だが、現在、父は家に居ない。
どこかに出掛けているのだ。

なのに焦燥を露わにして男は話し始めた。

「災害級だ!災害級が出た!既に街の皆には伝えてる!ここが最後だ!今すぐに避難の準備をしてくれ!この街に向かってるんだ!!」

ふむ。災害級とは何の話だ?
オレには意味が理解できないが、母と兄が焦った様子で席を立って、どこかへ走り去って行った。

おそらく、避難の準備の為だろう。

さて、食事を再開しよう。

「さいがいきゅう?」

サリアがオレを見て尋ねてきた。
だが、オレは知らない事は教えられないぞ。

食事の手を止めて、オレはサリアの問いに答えてやる。

「ふむ。オレも何の事か分からぬので、すまないが、説明できない」

「そうなの…」

どうしてサリアが落ち込むのだ?
まぁ、良い。

取り敢えず、分からない事は聴くのが一番だ。

オレは、今にも床に座り込みそうなほど息を荒くした男に視線を向けて、何があったのかなどを尋ねる事にする。

まずは…そうだな…。

「災害級とは何だ?」

オレの疑問に答えるべきかどうかを暫し考慮した後、男は口を開く。

「凄く強くて、凄く怖い魔物だ。もし見かけたりしたら、すぐに隠れてコッソリ逃げるんだぞ」

ふむ。凄く強くて、凄く怖い、か。
……魔王しか思い付かんぞ?

もしや、魔王並みの魔物が居るのか?
それなら、すぐに逃げなければならないな。今のオレだと死にはしないだろうが、太刀打ちできないのでな。

「イっくん、どうする?」

なぜオレに聴くのだサリアよ。
と言うよりも、こんな事態だ。サリアの家族が心配しているのではないか?

「そうだな。取り敢えず、サリアを家族の元に送ってやるのが良いか。どうするかは、それから決めよう」

これには敵の視察も兼ねている。
オレの家族が何か言うかもしれないが、見つからなければ問題ない。

後でコッソリと戻れば、少し怒られる程度で済むだろうしな。

「して、そこの男。名は何と言う?」

「男って…俺はアルガンダだ。覚えておいてくれ…」

ふむ。アルガンダか。
随分と強そうな名前じゃないか。

「オレは今からサリアを家まで送って来る。付いて来るかはアルガンダの自由だ。だが、家族には黙っておいてくれ」

「はぁ…分かったよ」

ふむ。立ち上がると言う事は、オレ達に付いて来ると取っても良いんだな?

「ふむ。行くぞ」

「はーい!」

「あぁ…」

サリアは状況を理解してないからか元気な返事だが、アルガンダは疲れ気味だな。
そんなに疲れているのなら、もう少し休んでいればいいのだがな。


〜〜〜



「ふむ。サリアの家はどこにあるんだ?」

母と兄の視線を掻い潜って屋敷を後にしたオレ達は、大通りを悠々と歩きながら会話している。

周囲の人達が慌ただしくしているが、それは仕方のない事なのだろうな。
なにせ、魔王みたいに強い魔物が来ているのだからな。

それはさておき、オレはサリアの返答を待つ。

サリアは「うーん」と唸りながら道を思い出そうとしているようだ。
しかし、見知った風景が路上に置かれた荷物や馬車などによって分からなくなっているようだな。

街の雰囲気が焦燥や緊迫感に包まれているのもあるかもしれない。

「分からなければ、分からないと言えばいい」

「分からない!」

む。即答だな。だが、清々しい程にいさぎよい。
それの方が、オレもスッキリすると言うものだ。

「ふむ。ならばオレが探そう」

「サリアのおウチ分かるの?」

「分からない事もない」

行った事はないが、探す方法な幾らでもある。
しかし…前回の事もので、魔力の消費が少ない物を使うとしよう。

「手を出してくれ」

「うんっ!」

サリアが突き出した手を握る。

「自分の家を想像するのだ。どんな場所にある?どんな形をしている?何でもいい。思い出せるだけ思い出せ」

「うーーんっ!」

ふむ。力(りき)んでも意味がないと思うぞ。

とは言え、頑張って思い出している最中だ。
邪魔して変な物でも想像されたら、後で面倒だ。
黙って魔法が発動するのを待つとするか。

それから暫く経ち、オレの視界に薄っすらと光る一本の線が見えた。
ようやく魔法が発動したようだ。

「ふむ。もう良いぞ、サリア」

「分かった!」

サリアがオレの手を離すと、少し手が寒く感じた。
これが温かみというやつか…。
いや、少し違うのか?

まぁ、良い。
今は目的を果たそう。

「こっちだ」

オレは光の線が続く方向へと歩いて行く。
光の線は一直線だ。建物などの障害物を避けて光の線を辿らなければならない。
だから、行き止まりなどに当たった場合は面倒だ。

ちなみにだが、この魔法には名前がない。
オレが物探しの際に作り出した魔法だからな。

一度、誰かに教えた覚えがある。そいつが今世まで伝えているのならば、何か名前が付いてる筈だろう。今度、機会があれば知りたいものだ。

そんな事を考えながら、光の指し示す方向へと向かい続けると、住宅街らしき所に辿り着いた。

その中の一つを光の線が指し示している。

「ふむ。アレがサリアの家か?」

光が差す方向と全く同じ方向を指差してサリアに尋ねる。

「あっ!ホントだ!イっくん、すごーい!」

ふむ。この程度の事など出来て当然だと思うが、褒められて悪い気はしないので何も言うまい。

「坊っちゃん」

誰だ、それは。

「嬢ちゃんの家も見つかった事だし、屋敷に戻らねぇか?ナタリリアさんも心配してると思うぞ」

ナタリリア?
あぁ、母の事か。

と言う事は、『坊っちゃん』とはオレの事か。
何とも判りづらい。

「イクスでいい。それと、まだ家には帰らない」

「どうしてだ?嬢ちゃんを送るだけだった筈だろ?」

「予定変更だ。災害級とやらを一目見ておきたい」

魔王に近い存在が跋扈するなど、気にならない筈がない。
今世でも力を求めなければならないかもしれないのでな。

「っ!?そ、それはダメだ!そんな事して坊っちゃ…イクス坊ちゃんに何かあれば、領主様に殺されちまう!」

ふむ。随分と臆病なのだな。
男なら、付き合ってやるの一言ぐらい言って欲しかったのだがな。

「ふむ。そうか。ならばオレ一人で行こう」

「サリアも!サリアもいく!」

「む?ならば、サリアと二人で行こう」

「それは、もっとダメだ!いいから帰るぞ!嬢ちゃんも帰るんだ!家族が心配してるだろ!」

アルガンダがオレの手を掴もうとしてくる。
オレはまだ5歳だ。もう少しで誕生日だが、幼いのは変わらない。
だから、もし捕まってしまえば、力負けしてしまうだろう。そして、このまま力付くで屋敷に帰されるかもしれない。

だが、オレはそれを良しとしない。

アルガンダの手を掻い潜ると同時にサリアの手を掴んで駆け出す。

付いてきたいと言うのならば、付いて来ればいい。
サリアは子供だから手を貸すが、アルガンダは大人だ。一人で何とかするだろう。

「『スキル解放、【加速】【豪脚】』」

つい今しがた思い付きで編み出したオレ専用の魔法ーー『スキル解放』。
魂に起因されたスキルを魔力によって無理矢理引き出す魔法だ。

だが、いかんせん無理矢理に引き出す事になる。そうなると、オレの未成熟な身体が耐える事が出来ないだろう。

身体が壊れる覚悟でするならば問題ないだろうが、それはさすがに困る。だから、限界までの数分の内に済まさなければならない。
しかし、今の状況ならば何ら問題はない。

突然、体が軽くなった感覚がしてバランスを崩しそうになるが、即座に体制を立て直して加速する。
加速と同時に、サリアを引っ張りあげて担ぐように抱えるのも忘れない。

途中で逸れたら面倒なのでな。

「なっ!はやっ!?」

アルガンダが後方で何か言ってるが、オレは無視して魔物が居ると言っていた方向へと駆ける。
時間も限られてるので、少し急ぎ気味だ。

「きゃーー!はやーい!イっくーん!」

「はしゃぐのは良いが、暴れないでくれ。落としてしまう」

「はーい!」

ふむ。聞き分けが良くて助かる。

路地を駆け抜け、建物を飛び越え、壁を駆け上がる。そうして、魔物が向かっていると言っていた方向へと一直線で向かい、遂に街の外が一望できる所に辿り着いた。

それと同時に、スキルを解除する。
まだ余裕はあるが、使用には痛みを伴う。それに、早い方が身体に掛かる負荷も少ないのでな。

サリアを降ろしてから、オレは街を囲う壁の上から周囲を見渡す。
街の周辺は草原で、遠くに森が見える。
その近くに、全長5m程の狼型の魔物が居て、魔物の周りに街の人達が群がっている。

…ふむ。もしかして、アレか?
いや、違うだろうな。

あの魔物の特徴と言えば、口から大砲のような魔弾を撃つだけの、強くもないし、怖くもない、弱い部類に含まれる魔物だ。
なので、災害級とやらは森に入った所にでも居るのだろう。

「ねーねー、イっくん」

「なんだ?サリア」

「あの大きいのが、マモノ?」

サリアが魔物を指差して尋ねてきた。
オレも視線を指差す方向へと向けて魔物を…ふむ。先頭で戦ってるのはオレの父だな。

「ああ、アレは”ガンズ・ウルフ”と言う弱い魔物だ」

「お父さんたち、たたかってるよ?」

どうやら、サリアの父も居るみたいだな。
直接話した訳ではないが、顔だけは知っている。

「戦ってるな」

あれぐらいならば食事の片手間でも討伐できるだろう。
放っておいても大丈夫なはずだ。

「お父さんたち、負けそう…」

どうして、そんなにウルウルと潤ませた瞳をオレに向ける。
あれぐらい平気だろうに……ウソだろ…。

視線を戻せば、父が”ガンズ・ウルフ”の攻撃を受けて吹き飛ばされた所だった。

なんとか攻撃を剣で防いだようだが、傷は浅くないようで、待機中の街人達に街まで運ばれている。

父が空けた穴を埋めるかのように、街人達がなんとかしようとしているが防戦一方で、今にも負けそうだ。

「ふむ…仕方ない」

助けてやるか…。

とは言え、オレの姿を見られたら後で面倒だろうし…ふむ。あの魔法を使うか。

この魔法を使うのは随分と久し振りだ。

作ったのは良いが、使い所がなくて御蔵入りしていた魔法なのだ。
だが、今の状況にはピッタリと言うものだ。

「《セレクトサンダー》」

魔法を発動させると、空に黒い雨雲が不自然に立ち込め始めた。

街人達は、唐突な雨雲の発生に動揺を隠しきれてないようだが、オレは魔法を止めるつもりはない。

街を覆う程の薄暗い陰りを作られた刹那。一本の落雷が”ガンズ・ウルフ”に直撃した。
それが始まりの合図となって、雨雲から落雷が連続で降り注ぐ。

全て”ガンズ・ウルフ”目掛けて。

「ふむ。この程度で良いか」

魔法を止めると、雨雲は四散した。
そして、快晴の空の下に残ったのは、呆然と目の前の光景を見つめる街人達と、黒焦げになった”ガンズ・ウルフ”だった。

ふむ。少々やりすぎたな。

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