仮面家族

奈緒

世間の目

そんなに嫌なら
逃げればいいじゃない。

今の私でもそう思います。

でも逃げられなかった。

それは、幸せな時間もあったからです。
父が優しかったからです。
祖母が優しかったからです。

いつか誰かが助けてくれると
思っていました。

でもいろんな記憶はすりかえられて
自分が全て悪いことにされている。
そう気づいたのは最近です。
全て躾だったと
すりかえられてしまっている
と気づいたのも最近です。

だって、子どもへの
暴力もきつい言葉も、
躾だったと言ってしまえば、
どんなに子供が傷ついていても、
それはなかったことになるから。

世間的には、私の家族は
素敵な家族でした。

毎年の家族写真の年賀状
春夏秋冬の家族旅行
私立の幼稚園に通う娘
成績優秀な娘

外に出ているときは
幸せで理想な家族そのものでした。

裏がどんなに汚れていても
外側が塗り固められていれば
素敵に見える。

いいかぞくだね

そう言われるたびに
私の助けての声は出せなくなりました。
もみ消されました。

私は贅沢なんだと思いこむようにしました。

いろんな環境と
いろんな言葉と
いろんな経験で

私は逃げることができなかったんです。

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