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仮面家族

奈緒

奈緒捨て場

私の家には「奈緒捨て場」という
場所があります。

それは、街灯もなく
真っ暗で、夜になれば誰もこないような
田んぼのあぜ道の途中にあります。


洗濯物を言われてすぐにしまわなかったから
うがい薬を使わなかったから
麻里ちゃんに意地悪をしたから

いろんな理由で私は捨て場に
連れて行かれました。

「ままごめんなさい。ままごめんなさい。」
「奈緒が悪い子でごめんなさい。」

車の助手席で何度唱えたかわからない言葉。
母の返答は決まって
「馬鹿のひとつ覚えですか。」
でした。

子どもにしかわからないかもしれない。
大人になって
自分でどこにでもいけるようになったら
忘れてしまうのかもしれない。
でも、お母さんに
山道の暗闇の中で
車から無理やり降ろされる
怖さ、悲しさ、
想像してください。
計り知れない恐怖だった。

泣き叫んで、走って追いかけて
呼吸ができなくなる頃に
母の車は戻ってきて
私を乗せてくれました。

その頃には母も気が済んで
あの呪文を言えば許してくれました。

「ままごめんなさい。
   奈緒が悪い子でごめんなさい。
   もう絶対にしません。ごめんなさい。
   奈緒が馬鹿でごめんなさい。」


ぱぱが帰ってきたら、その話は
笑い話になりました。

「今日も奈緒捨て場まで行ってきたんだよ〜。
   ね、奈緒ちゃん。」




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