ヨスガノ剣~妹と行く異世界英雄譚〜
第二話 純粋すぎる妹
「引けたようじゃな。どれ見せるのじゃ」
おじいさんはまず俺のを見ると、なるほどと言ってスマホを返す。
次にフユのを見るじいさんだったが、画面を見るなり硬直した。
何その反応。俺の時とは違う。
「あの、おじいさん」
フユが、スマホを見たまま固まるおじいさんに呼びかける。
「おっと、すまんすまん」
おじいさんが謝罪するが、何故かその口元にはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「それでどうだったんですか?」
聞くと、おじいさんが一つ頷き口を開く。
「まぁトウヤは名前の通り身体の基礎能力を恒常的に飛躍させる能力じゃ」
「ですよね」
おじいさんはつまらなさそうに説明してくれる。
分かってはいたけどなんか地味だな……。ガチャ引く前に基礎力上げてもらってるしあんまりありがたみが無い。
「じゃがフユミの【ヨスガノ剣】はなかなか面白い」
「どのような能力なんですか?」
フユもある程度状況は理解できたのだろう、自分の引いた能力に興味津々だ。かくいう俺もあのおじいさんの反応は少し気になる。
「簡単に言えば超強力な剣を召喚する事のできる力じゃ。ひとえに剣と言うても侮るでないぞ? この能力で召喚されるような剣は、例えば一般人の平均基礎能力を50とすれば、剣によっては何十倍にもその能力が跳ねあがる事もある」
50が何十倍にも跳ね上がるとすれば桁が二個変わるじゃないか。
「他にも毒の確定付与、即死能力等々、特殊な力がついていることがあると実に強力な能力じゃ」
なんかすごそうだな……ちょっと羨ましい。
素直に感心していると、おじいさんは「もっとも」と付け足す。
「あまりに強力な武器が出て来て、わしが底上げした基礎力では扱えない場合もあるかもしれんのう」
おじいさんの言葉に肩透かしを食らった気になる。
それはフユも同じだったようで、どこかがっかりした様子だった。
「まぁ安心せい。運が良い事にトウヤ、お主は【基礎力増強X】を引いたじゃろう? わしに能力を底上げされた上にさらに強化されたお主なら扱えん武器は無いはずじゃ」
「そうなんですね」
【基礎力増強X】、地味だと思ってたけど一番引いてよかった固有能力じゃないか。フユが武器を提供して俺が扱う。それは要するにフユは戦う必要が無くなるという事。妹には危ない目には遭ってほしくなかったから、兄としては願っても無い事だ。
「さて、それじゃあ最後に肝心な【ヨスガノ剣】の発動条件についても教えておこう。【基礎力増強X】は恒常的なものじゃがこちらは少し違うからのう」
おじいさんが心なしか居住まいをただし、コホンと一つ咳払いをする。能力の名前を叫んで発動するわけじゃ無いんだな。
「それはな、簡単に言えばトウヤとキスをする事じゃ」
「キ、キス!?」
おじいさんの言葉に、フユが今間にない驚きに満ちな声を上げると、顔を真っ赤にする。
まぁ驚くのも無理も無いか。キスはいざ知らず、その相手が俺だもんな。かくいう俺も実は内心かなり動揺している。
「えっと、一応確認しますけど、【ヨスガノ剣】は俺とキスをする事で発動できる、って事ですか?」
聞き間違いかも知れないので一応尋ねておく。
「そうじゃ。まぁ厳密にいえば同じ性質のDNA同士が結びつく事で発動できるという仕組みじゃがな。DNAが濃く結びつけば結びつくほど強力な武器が召喚される」
「なるほど……」
どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。同じ性質のDNAという事つまり内縁という事だろう。そして異世界には当然フユの血縁関係は兄である俺しかいない。
頭で整理していると、おじいさんは再び口を開く。
「だから要するに別にキスじゃなくても良いのじゃ。むしろキスでは最強の剣は手に入らぬ」
おじいさんはニヤリと笑うと、嬉々として言葉を続ける。
あっ。
「例えばトウヤのエクスカリバーでフユミの……」
「おいやめろクソじじいッ!?」
咄嗟に張り倒し言葉を封じる。
この野郎フユの前でなんて事をいいやがるんだ! さっきちょっとでも可愛いと思った俺が間違いだった!
「フユ、これは違うぞ。ゲームの話だからな!」
とにかくフユに邪念を植え付けるわけにはいかないのですぐに弁解する。
肝心のフユと言えば、何を思っているのか俯き加減で頬を朱に染めていた。
もしかして察してしまったのだろうか……。このクソじじいにフユの純潔が汚されたのだろうか……。だとしたら絶対許さん。
黙るフユの様子を窺っていると、軟らかな唇が微かに震える。
「……め」
フユが何かを言ったようだが、よく聞き取れない。
今度は聞き逃すまいと耳を僅かに近づけると、
「だめっっ!!!」
突如すさまじい声が鼓膜を揺るがした。
「絶対、絶対だめ! そんな、お、お、お兄ちゃんと……っ」
顔を真っ赤にして制服のスカートの裾を握るフユ。
「そうだよな、ごめんな! 今からお兄ちゃんこのじじいとっちめてやるからな! 今のは忘れてもいいからな!」
そうと決まればまず一発殴る!
「ちょ、ちょっと待つのじゃトウヤ!」
「問答無用!」
右ストレートをお見舞いしようと拳を振り上げると、フユがもう一言付け加える。
「キスなんて!!」
振り上げていた腕が停止した。
キスなんて……そうか、キスなんてか。そうかそうか、この様子だとエクスカリバーのくだりは聞いて無さそうだな! それは良かった!まぁそりゃ実の兄とキスなんて年頃の女の子がしたいわけないよな!
ただ何故だろう、こうもはっきり拒否られてもなんか傷つく自分がいる……。
しかしそう思ったのも束の間、またしてもフユの口は言葉を紡ぐ。
「赤ちゃんできちゃうもん!」
ただただ唖然とした。
爆弾発言とはこの事を言うのだろう。
「赤ちゃん……?」
「ふえ……っ」
ついつい聞き返すと、フユは涙目を手で隠ししゃがみ込んだ。
……マジですか。いやまぁこの反応マジですよね。
純粋な俺の妹がその手の知識を入れているなんて事はこれっぽっちも思っていなかったが、それにしたってここまで純粋な子だっだとは……。
「フユミ。何か誤解しておるようじゃが赤ちゃんは男の……」
「待てエロじじい! 口を開くなッ!」
全て言い終わる前に即座にじじいの口をふさぐ。
この野郎またしれっとフユに邪念を植え付けようとしやがったな!
しかしそれでもなおじじいは口をもごもごさせ何か言いそうだったので、ありったけの憎悪を込めて睨み付けると、ようやく大人しくなる。
いつでも制止できるように細心の注意を払いつつ、じじいを解放する。
「ゴホン、まぁ別に固有能力を使わずとも生きてはいけるようになっておる。そこは安心するのじゃ」
一応俺も強力な能力は得たようだし、フユもああなっている以上、【ヨスガノ剣】は封印すべきだろう。
「どうやら時間のようじゃ。あとは識字能力とか細かい能力を付加してやるぞ」
じじいが俺達に手をかざすと、一瞬光に包まれた。
「完了じゃ」
じじいが言うと、足元に幾何学模様が浮かび上がる。
転移するだけでなんかも色々あった感じがするけど、ここからは気を引き締めていった方がいいだろう。
決意新たに前を向くと、じじいが弾んだ声音と共にウィンクする。
「エクスタシィっ☆」
殴りつける。
そう決意したころには視界は純白に染まりじじいの姿も見えなくなっていた。
次会ったら容赦しねーあの野郎。
おじいさんはまず俺のを見ると、なるほどと言ってスマホを返す。
次にフユのを見るじいさんだったが、画面を見るなり硬直した。
何その反応。俺の時とは違う。
「あの、おじいさん」
フユが、スマホを見たまま固まるおじいさんに呼びかける。
「おっと、すまんすまん」
おじいさんが謝罪するが、何故かその口元にはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「それでどうだったんですか?」
聞くと、おじいさんが一つ頷き口を開く。
「まぁトウヤは名前の通り身体の基礎能力を恒常的に飛躍させる能力じゃ」
「ですよね」
おじいさんはつまらなさそうに説明してくれる。
分かってはいたけどなんか地味だな……。ガチャ引く前に基礎力上げてもらってるしあんまりありがたみが無い。
「じゃがフユミの【ヨスガノ剣】はなかなか面白い」
「どのような能力なんですか?」
フユもある程度状況は理解できたのだろう、自分の引いた能力に興味津々だ。かくいう俺もあのおじいさんの反応は少し気になる。
「簡単に言えば超強力な剣を召喚する事のできる力じゃ。ひとえに剣と言うても侮るでないぞ? この能力で召喚されるような剣は、例えば一般人の平均基礎能力を50とすれば、剣によっては何十倍にもその能力が跳ねあがる事もある」
50が何十倍にも跳ね上がるとすれば桁が二個変わるじゃないか。
「他にも毒の確定付与、即死能力等々、特殊な力がついていることがあると実に強力な能力じゃ」
なんかすごそうだな……ちょっと羨ましい。
素直に感心していると、おじいさんは「もっとも」と付け足す。
「あまりに強力な武器が出て来て、わしが底上げした基礎力では扱えない場合もあるかもしれんのう」
おじいさんの言葉に肩透かしを食らった気になる。
それはフユも同じだったようで、どこかがっかりした様子だった。
「まぁ安心せい。運が良い事にトウヤ、お主は【基礎力増強X】を引いたじゃろう? わしに能力を底上げされた上にさらに強化されたお主なら扱えん武器は無いはずじゃ」
「そうなんですね」
【基礎力増強X】、地味だと思ってたけど一番引いてよかった固有能力じゃないか。フユが武器を提供して俺が扱う。それは要するにフユは戦う必要が無くなるという事。妹には危ない目には遭ってほしくなかったから、兄としては願っても無い事だ。
「さて、それじゃあ最後に肝心な【ヨスガノ剣】の発動条件についても教えておこう。【基礎力増強X】は恒常的なものじゃがこちらは少し違うからのう」
おじいさんが心なしか居住まいをただし、コホンと一つ咳払いをする。能力の名前を叫んで発動するわけじゃ無いんだな。
「それはな、簡単に言えばトウヤとキスをする事じゃ」
「キ、キス!?」
おじいさんの言葉に、フユが今間にない驚きに満ちな声を上げると、顔を真っ赤にする。
まぁ驚くのも無理も無いか。キスはいざ知らず、その相手が俺だもんな。かくいう俺も実は内心かなり動揺している。
「えっと、一応確認しますけど、【ヨスガノ剣】は俺とキスをする事で発動できる、って事ですか?」
聞き間違いかも知れないので一応尋ねておく。
「そうじゃ。まぁ厳密にいえば同じ性質のDNA同士が結びつく事で発動できるという仕組みじゃがな。DNAが濃く結びつけば結びつくほど強力な武器が召喚される」
「なるほど……」
どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。同じ性質のDNAという事つまり内縁という事だろう。そして異世界には当然フユの血縁関係は兄である俺しかいない。
頭で整理していると、おじいさんは再び口を開く。
「だから要するに別にキスじゃなくても良いのじゃ。むしろキスでは最強の剣は手に入らぬ」
おじいさんはニヤリと笑うと、嬉々として言葉を続ける。
あっ。
「例えばトウヤのエクスカリバーでフユミの……」
「おいやめろクソじじいッ!?」
咄嗟に張り倒し言葉を封じる。
この野郎フユの前でなんて事をいいやがるんだ! さっきちょっとでも可愛いと思った俺が間違いだった!
「フユ、これは違うぞ。ゲームの話だからな!」
とにかくフユに邪念を植え付けるわけにはいかないのですぐに弁解する。
肝心のフユと言えば、何を思っているのか俯き加減で頬を朱に染めていた。
もしかして察してしまったのだろうか……。このクソじじいにフユの純潔が汚されたのだろうか……。だとしたら絶対許さん。
黙るフユの様子を窺っていると、軟らかな唇が微かに震える。
「……め」
フユが何かを言ったようだが、よく聞き取れない。
今度は聞き逃すまいと耳を僅かに近づけると、
「だめっっ!!!」
突如すさまじい声が鼓膜を揺るがした。
「絶対、絶対だめ! そんな、お、お、お兄ちゃんと……っ」
顔を真っ赤にして制服のスカートの裾を握るフユ。
「そうだよな、ごめんな! 今からお兄ちゃんこのじじいとっちめてやるからな! 今のは忘れてもいいからな!」
そうと決まればまず一発殴る!
「ちょ、ちょっと待つのじゃトウヤ!」
「問答無用!」
右ストレートをお見舞いしようと拳を振り上げると、フユがもう一言付け加える。
「キスなんて!!」
振り上げていた腕が停止した。
キスなんて……そうか、キスなんてか。そうかそうか、この様子だとエクスカリバーのくだりは聞いて無さそうだな! それは良かった!まぁそりゃ実の兄とキスなんて年頃の女の子がしたいわけないよな!
ただ何故だろう、こうもはっきり拒否られてもなんか傷つく自分がいる……。
しかしそう思ったのも束の間、またしてもフユの口は言葉を紡ぐ。
「赤ちゃんできちゃうもん!」
ただただ唖然とした。
爆弾発言とはこの事を言うのだろう。
「赤ちゃん……?」
「ふえ……っ」
ついつい聞き返すと、フユは涙目を手で隠ししゃがみ込んだ。
……マジですか。いやまぁこの反応マジですよね。
純粋な俺の妹がその手の知識を入れているなんて事はこれっぽっちも思っていなかったが、それにしたってここまで純粋な子だっだとは……。
「フユミ。何か誤解しておるようじゃが赤ちゃんは男の……」
「待てエロじじい! 口を開くなッ!」
全て言い終わる前に即座にじじいの口をふさぐ。
この野郎またしれっとフユに邪念を植え付けようとしやがったな!
しかしそれでもなおじじいは口をもごもごさせ何か言いそうだったので、ありったけの憎悪を込めて睨み付けると、ようやく大人しくなる。
いつでも制止できるように細心の注意を払いつつ、じじいを解放する。
「ゴホン、まぁ別に固有能力を使わずとも生きてはいけるようになっておる。そこは安心するのじゃ」
一応俺も強力な能力は得たようだし、フユもああなっている以上、【ヨスガノ剣】は封印すべきだろう。
「どうやら時間のようじゃ。あとは識字能力とか細かい能力を付加してやるぞ」
じじいが俺達に手をかざすと、一瞬光に包まれた。
「完了じゃ」
じじいが言うと、足元に幾何学模様が浮かび上がる。
転移するだけでなんかも色々あった感じがするけど、ここからは気を引き締めていった方がいいだろう。
決意新たに前を向くと、じじいが弾んだ声音と共にウィンクする。
「エクスタシィっ☆」
殴りつける。
そう決意したころには視界は純白に染まりじじいの姿も見えなくなっていた。
次会ったら容赦しねーあの野郎。
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