無色のダイアリ

朝樹葉色

急須男爵

 朝の自宅にて。

 ドアのインターホンが鳴ったので、
二階の自室で読書をしていた僕は、
パッタパッタと階段を下りると、
ガチャリとドアを開けた。
ドアの先には、急須男爵が
籠いっぱいのレモンを持って、
玄関に立っていた。

 急須男爵は顔が藍色の急須で、
オリーブ色のスーツを着た、
僕の近所に住んでいる五十ばかりの男である。
急須男爵は頭に乗っている蓋をカチャンととって、
蓋を胸の前に押し付けるようにして持つと、
「こんにちは。」
と言って、軽く会釈をした。
蓋をとったからか、急須男爵から、
甘酸っぱいレモンティーの香りがした。
そのあと急須男爵は蓋をカチャンと頭に戻し、
レモンを五個片手にとって
僕の前に差し出したので、
「ありがとうございます。」
と一言言い、僕は両手でレモンを受け取った。
「今年も沢山レモンが取れたもので、
 近所の皆さんにおすそわけして
 まわっているんですよ。」
と言って、急須男爵はカチャカチャ笑った。
僕の両手から、みずみずしいレモンの香りがする。
「あ、そうそう、これも。」
そう言うと急須男爵はポケットから
四つ折りになったメモを渡した。
僕は指先でメモを開いた。
そこには、レモンの蜂蜜漬けのレシピが
分かりやすく書いてあった。
「良かったら作ってみてください。
 私のオススメのレシピです。
 トーストにつけると美味しいですよ。」
そう言って、急須男爵は籠を持ち直すと、
また蓋をカチャンととって胸に当て、
「では、また。」
と言うと軽く会釈をし、
蓋をカチャンと戻して僕の家のドアを閉めた。
僕はレモンを一個だけ皮を剥いて食べたあと、
残りのレモンを冷蔵庫に入れた。

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