《未来視》で一命を取り留めまくりました

不二宮ハヤト

第25話 初めての我儘でした

 俺の学校生活では、告白どころか女子と話すことすらもあまり慣れていない。そのため、モテたためしがないし、興味を持たれることもない。それに加え、普段学校のみんなから○○と呼ばれている!とは言い張っているものの、言われたことなど一度もないし、そこまでクラスメイトと仲がいいわけではない。
 かといって、クラスで浮いているわけでもなく、クラスでの立ち位置を例で例えると「えぇと……あ、そんな子いたな(笑)」と、この程度である。女子は論外だが、男子だってあまり喋る機会は少ないし、知り合い程度ならいるっちゃいるが、友人や親友かと聞かれたら首が45度くらい傾く。

 せいぜい、画面の中の女の子しか話せない。コミュ障の俺には二次元の世界は楽園そのものだった。ゲームの世界なら自分の思い通りに動かせる。そう、2次元の可能性は無限大だった。それに気づかされた俺はその日からアニメや漫画、ラノベに明け暮れる日々だった。学校ではこのことは隠していたのだが、どこからの情報か俺が隠れオタクだと学校中にバレてしまった日からは「オタク!」「陰キャ!」など地獄そのものだったが、ここでは割愛させてもらおう。

 いつも思う。クラスのリア充や街行くリア充たちに制裁を与えて、中指を立ててやりたいと。そして異世界に転生してきたが、美少女に囲まれても会話が普通にできるのは、みんながみんなアニメっぽすぎて二次元と三次元の区別が分からなくなてしまったからだろう。他にも言い始めると止まらなくなる俺こと、梶馬康太なのだが。


「私は、コータさんの事が好き」


 俺、超絶金髪美少女から告白されました。

 真っ白いがほのかに赤い肌。アイドルと見間違うほどのサラッとした黄金の髪、こんな目をした捨て犬がいたら殺し屋でも拾ってしまうだろうこのつぶらな瞳。大胸筋があるべき部位には、脂肪で出来た2つの双丘が小さな体にはこれでもかという位目立っている。

 こんな超絶美少女が平凡な俺に、告白をしている。夢ならば襲い掛かっていただろう、だがここは現実だ!!……ん、現実で俺が告白されることってあるのか………?うん、無いな。

 待て!真剣に対応するんだ。いくら告白なんてないと思っていたり、夢か現実世界か疑問になったとしても。女の子の告白には真剣に応えるんだ。世の中のリア充みたいなきざなセリフが言えるわけがない。

「…ど、どうして俺なんか……」

「そんなの分かりませんよ!」

 俺も分かんなくなっちゃった。

「でも、好きなんです!!」

「…………」

「コータさんと一緒に居たい、同じことをしたい、コータさんのために何かしてあげたい、触れたい、知りたい。言い出したらキリがありません!これが私の初恋なんです!!」

「……………」

「どういうことをすればいいか、何をすればいいのか、何もわかりません。でも好き、大好きなんです」

 イリスの叫びに似た告白を、コータは真剣な表情で正面から受け止める。そうだ、別にアニメとかリア充みたいな言葉じゃなく、自分の言葉で表すべきなんだ。

「でも、俺は…………」

「分かっています!コータさんの好きな人は私ではないこと。それを知っていて、コータさんに触れようとするのが、私なんです!!だけど……」

 ポタポタと透明な涙が落ちる。

「これだけは諦めたくない!私は勝手で我儘です!だから二番でもいい、私を好きになってください。愛してください!」

 俺には女心が分からない。
 だから、イリスが今どう思っていとか。どう返事をしたら一番適切なのか、どんなことを言ったら喜ぶのか哀しむのか。喜ぶほうは大体わかる、この告白にOKすること。それが一番手っ取り早く、イリスも喜んでハッピーエンドする。

 だけど、それじゃダメなんだ。俺には好きな人がいる。だから、だから――――――――。

 ああ、もう!!!なに相手のこと考えて悩んでんだ俺。相手が喜ぶ哀しむなんてはっきり言って結果論だ。俺の思いを俺の言葉で素直にイリスに伝える。

「イリス……」

「はい………」

「俺はサーラが好きだ」

「はい…………」

「そして、イリスの事も好きだ」

「……………」

「俺は今人としても男としても、最低なことを言ってるって自分でも解ってる」

「……………」

「けど、二人の事好きになっちまった。どっちも俺のものにしたいって思ってる」

「………………」

「俺は優柔不断で目の前の事に臆病で、何かを切り捨てる勇気も無い。だから、切り捨てるんじゃなくて、拾えばいい」

「!……でも、いつかは零れ落ちてしまいます」

「イリスが支えてくれる」

 その言葉を聞いた瞬間イリスは、大きく目を見開いて驚く。きっと、私が何をしたの?という疑問詞が頭の中に飛び回っていることだろう。

「知らないのか?魔獣に受けた傷を治してくれたのも、特訓中の怪我も、森の中で抉られた傷も全部イリスが治してくれたんだぜ?」

 俺はイリスの手を握る。彼女の小さく柔らかい手は、小さく震えていた。
 顔も白肌が真っ赤になり、口は涙を堪えるために引き攣っているが、止まるどころかどんどん涙が溢れ出てきている。

「俺が意味も分からず馬鹿みたいに落ち込んでいる時、手を引っ張ってくれたのは、背中を押してくれたのはイリスだ。…まぁ、背中を押すにしちゃぁ、結構強い押しだったけどよ……まあ、とにかく!俺が下を向いている時、手の中のものが零れ落ちそうなとき、イリスが支えてくれる。俺は周りに頼ることしかできないからな。そん時は頼むわ」

「フフっ。もしかしたらその時から私はコータさんに惚れていたかもしてませんね」

「馬鹿言え、俺に惚れさせるようなスキルは万に一つない!あっても、勇気無くて使えねぇよ」

 イリスはベットから降りた。
 仕様人服の裾を軽く掴んで、右足を左足にクロスさせて。上品な作法姿勢を作ると。

「愛するあなたの頼み、このイリスが承りました。…フフっ」

 それから、桜のような満開の笑顔を魅せた。




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 40人ほど居て、全員同じ服を着ている空間の中。一人大きなため息をして、どこか遠い目をしている少女が一人。寂しげな顔に輝きのない瞳、そして落ち込んだ口調で。

「梶馬くん…どこなの…………」

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