《未来視》で一命を取り留めまくりました

不二宮ハヤト

第17話 やっぱり、諦められませんでした



 世界が反転する。


 俺の中で、ガラスが割れるような音が鳴った。


「なんでだよ…………イリス」


 イリスの瞳からは光は感じられない。ただ、無言でこちらを睨んでいる。


「なぜ?………フフッ、ハハハハッ!」


 笑ってる………。花のような満面な笑顔をよく咲かせていた少女が、狂気じみた三日月のような笑みを浮かべている。

「あなたに、私の何が分かってるんですか?…分かってたつもりでいたんですか?プフッ………反吐が出ます」

「はっ?ま、まてよ。…じゃあ、今まで……全部……」

「まだ分からないのですか?」

 イリスは右手を上げて、俺に見せつけた。

 ……血。それも、イリスの爪に俺の血が付着している…。

 う、うそだろ…………。裏切られた…のか?…は、なんだよそれ!

「なんでって聞いてんだよ!俺とお前の仲はそんなにも────」

「黙れ。ムーンライト」

 背筋を悪寒が撫でる。その一言で、身震いするには十分だ。

「あまり、時間はかけたくないんですよ。さっさとアジトの位置、その他諸々教えなさい。そしたら、苦しみ無き死を与えてあげますよ?」

 え、いや……さっきから…何のこと言ってんだよ。………ムーンライト?なぜ今、その単語が出てくる…。

「目的は大体分かっています。どうせ、今王国は大変な状況下にありますからね。候補者を殺そうと刺客を送ってきたんでしょう?」

 嫌な予感を察知した。脳が全力で逃げろと叫んでうるさい。
 ヤバい。このままここにいたら………………殺される!

「だんまりですか………でも、大丈夫です。死なない程度に殺してあげますよ。あとは、ゆっくり、じっくり、痛めつけて、吐かせて……………………苦しみながら殺してあげますからぁ!!!」

 イヤだ。イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「く、来るなぁあああああ!!!!ラスタぁ!!!!」

 俺の掌から、高圧な光が発生する。全力の。それから、康太は回れ右して森の方に全力疾走する。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 気付けば、森の中を走っていた。

「はぁ…はぁ……んっ…はぁ。早く…ここから逃げないと……」

 グルルルルルルルッ

 …え。

 森の茂みから、無数の赤い斑点がこちらを捉えている。そして、ゆっくり茂みから出てきたのは十頭程の魔獣の群れが姿を現した。

 ま、魔獣……。に、にに、逃げろ!!

「イヤだぁぁああああ!!!!あ……」

 無我夢中で走っていると、木の根に引っかかってダイナミックに転んでしまった。そこに、魔獣が飛び込もうとする…………

「うぁぁぁああああ!!!」

「邪魔です!!!」

 飛び込んできた魔獣の横っ腹をイリスが殴り飛ばした。殴り飛ばされた魔獣は、木に強く打ちつけられて、内臓を噴き出して絶命する。

「アハッ…私の”獲物”は誰にも渡しません」

 な、なんなんだよ、こいつ。少女の皮を被った猛獣だ。ライオンが可愛く見えるぐらい。

「ヴォウ!!」

 魔獣の頭突きがイリスに直撃して、魔獣とイリスが相対する。

「魔獣風情が!!私に楯突こうと言うのですか!!『半獣化』!」

 爪と牙が鋭くなり、瞳孔は細く、両腕が獣の豪腕に変化した。

「アハハハッ!死んで死んで死んで死んで…死んでくださーーい!!!」

 イリスが魔獣の群れを、蹂躙する。魔獣たちは、訳の分からない状況に混乱する。そこには、圧倒的な力の前に断末魔しかあげることしかできない可愛い子犬のようだった。

 あ……足が動かねえ。早くしないと……次は、俺の番に………………。


 ズドォオオオンッ


 ?……………なんだ?


 ズドォオオオンッ!


 地鳴り……?


 森の木々がなぎ倒されていく。
 おいおいおいおい、まだ何かでるってのか。………そ、それも、デカい!

 大きな地鳴りと共に現れたのは、三メートルは軽く超えているだろう、熊だった。二足歩行で、剥き出しだ牙は一本損失し、片目は刃の傷跡が残っており、歴戦の熊だという事は一目瞭然だった。

 な、なんだよあれ。

「図体だけはデカいですね。ですが、頭数が増えただけです!!」

 熊はイリスを視界に捉えると、ひとっ飛びでイリスとの距離を縮めた。

 はや!!巨体のくせになんて速さだよ!

「中々、速い。ですが、これくらいなら簡単に─────っ!?」

 回避行動をとろうとしたイリスは動けなかった。魔獣がイリスの脹ら脛をガブッと捕らえていたからだ。

「ちっ!お邪魔なわんこですね!!」

 イリスは魔獣の頭を粉砕する。それから、回避をしようとするが、遅かった。

 ドゴォッ!

 熊の勢いに乗った、イリスの腕の一回りも二回りも大きい豪腕が、小柄な少女の身体ををホームランボールのように、ぶっ飛ばす。

「カハッ!!」

 イリスは木に打ちつけられ、血を大量に吐き出す。

 屋敷の森にこんな化け物いたのかよ………。あ、イリスが魔獣の群れに囲まれてる。全く動きやしねえ、相当なダメージ食らったのか。とりあえず、早く助けないと…………

 ?………助ける?

 なんで?なぜ、そんな考えが出てくる。あそこで動けなくなっている少女は、俺を殺そうとしてたんだぞ。逆にこれはチャンスだろ。

 このままだと、イリスは死ぬ。俺を殺す奴はいなくなる。幸運なことに、熊も魔獣もイリスにベッタリだ。逃げるなら今しかない。

「フハッフハハハハハッ」

 なぜか、笑い声が口から出てきた。その理由は直ぐに解った。

 勝った。勝ったんだ、俺は。フハハハハハハハハッ!!!


 違う。


 俺の勝ちだぁ!!!


 違う。こんなの…………


 俺は生き延びた!未来を変えれた!!王手だ!!


 違う。こんなの俺は…………


 あれ……なんでおれ…………………














 ………………………………泣いてるんだ?

 なんでだろ。過程は予定とは違うとはいえ、結果的には勝った。勝ったんだ!…………だけど……………心の底から喜べない。

 ん、なんか落ちた?………………ペンダント………………。

 康太は落ちたペンダントをジッと見詰める。

 あぁ、そういえば。見つけてくれたのってイリスだっけか。落ちに落ちた俺に活を入れてくれて、優しい笑顔で微笑んでくれた。今思えば、あのやりとりも笑顔も、嘘だったのかもしれない。

 でも、確かにあのとき俺は救われた。背中に手の跡がつく位、叩いてくれた。背中を押してくれた。


 ──────なんだよ、俺。結局、諦めきれねぇじゃん。


 グルルルルルルルッ───ヴォウ!!

 魔獣はイリスに飛びかかった。イリスは身体を動かすことが出来ない。今にも意識が飛びそうだ。

「…ハァ、ハァ…………………………」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!コボウアターーーーーック!!!!」

 飛び込む魔獣にコボウを思いっきり叩き込む。

「!?………………ど……して」

「うるせえ!俺がお前を諦めきれねぇって事だよ!さっさと俺に守られてろ!!!」

 俺は魔獣の群れとイリス間に割って入り、イリスを庇う形で相対する。



























 ハハ、おうち帰りたい(泣)。

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