《未来視》で一命を取り留めまくりました

不二宮ハヤト

第15話 『俺』を考えました



 朝日はすでに上り、少し気温が上がり始めている。

 日光が差し込む部屋には、一人の少年が寝巻きを着ていた。起床して着替え始めるには、遅い時間帯だ。寝巻きを脱いだ少年の背中には、手のひらのような形が周りの肌と見間違えることがないほど、赤くなっていた。

「ひぃええ、いってぇ。おもっきりやれっつったけど、今でもピリピリする」

 康太は背中をさすりながら、この場にはいない金髪使用人の顔を思い浮かべる。

 イリスは今、康太との話の後に『では、仕事がありますので』と、言い残して、てこてこと早歩きで去っていった。

「……あぁああ!恥ずかしいぃ!!毎度毎度、後から思うとスゴい俺恥ずかしいんですけど!!好きな女の子に妄信押し付けては逆ギレして、挙げ句の果てに自分で納得するとか俺はバカなの!?アホなの!?お痛がすぎるよ!!」

 やっちまった感が半端なく、康太の差恥感が頭を抱えさせる。常に、言動には意識しようと心掛ける事を小さく誓う。

「未来みる能力こういうときにも使えたらいいのに、融通が利かねえな。…いや、意外と出来るのかもしれない。例えば……」

 康太は構える。

「我が眼に未来を灯せ!《アヴニールアイ》!!」

 右手は顔を覆い、左手は前に突き出して、見事な厨二病ポーズが仕上がった。もちろん、何も起こっていない。

「……俺、死にたい。……自業自得だけど!!」

 全くその通りだ。あぁ、恥ずか死い。つい、昔の血が騒いでしまった。

 中学生時代の頃は、好きなアニメやマンガのキャラクターになりきったりこんな感じに、痛々しい人間になっていたものだ。

「あぁ、痛々しい」

 実際、傍から見ると一人で盛り上がったり、騒いだりしている本人が一番痛々しいことには気付いたが気付いていないフリをする。

 み、認めたくない!

 俺はボッチでもオタクでも厨二病でもない!!あ、でも、アニメやマンガは好きだけど。

 さて、そんなことよりもこれからの俺の行動について考えよう。シャルティアが俺のことどう思ってるなんて今考えても埒があかない。今ある情報をフル活用して、ある程度のことは仮説を立てて予想していく。

 まず───

 襲撃場所と時間は、間違いないはずだ。昨日、特訓をした場所で村に向かう途中だ。犯人に関しては使用人二人のどちらかだろうけど、消去法から考えてシャルティアで間違いないはずだ。

 問題は───

 今回の襲撃場所での出来事だ。本当に襲撃があるのかという疑問は確かにある、それを踏まえて対策を考えたが、ここが問題だ。

 対策法は、ーー時間をずらす。

 本来、行く予定だった時間より早めに出て、襲撃時間を回避する。今日さえ乗り切れば、時間が生まれて余裕ができる。

 だが、引っかかる。

 《アヴニールアイ》が映したのは、俺が殺される”未来”。ということは、さっきの対策が上手くいくとすれば回避。逆に言えば、それを踏まえて死んだ”未来”。後者が本当だとすると、どう対策を練っても結果は変わらない。変わるとすれば、”決定的ななにか”で未来を変えられるしかないのか。

 後者はあまり考えたくはないが、万が一のため対処は考えておこう。

 いや、待てよ。

 《アヴニールアイ》で視たのは、日が昇っていた時間帯。いっそのこと遅くしてしまえば…………あ、だめだ。早く行けば、多少襲撃準備を急ぎ目になるが、予定時間を過ぎるということは”準備万端いつでもオーケーよ♪”状態ということだ。

 早いに越したことはないな。

 俺の切れる手札は………ラスタとコボウ。

 光属性魔法で初級魔法のラスタは二発までなら平然としていられるレベルと、世界一硬い棒だが、扱いは赤子並の実力で世界一宝の持ち腐れ状態になっていた。

 そんな俺になにができる、ハッハッハッ。

 合計ステータスポイントだけでいったら、スライムといい勝負するぜ。条件次第で負けるかもな!

「自慢じゃないが、素手の村人なら勝てるぜ!」

 ここに誰かがいたら、悲しい顔してんだろうな…

 そんな軽口を吐いているのには理由があった。

「俺の考えられる最高の作戦だ!それは───!」

 康太は確信なのか自信なのか、右手をグッと握ってガッツポーズをする。

「”逃げるが勝ち”だ!つまり──」

 襲撃の場所とタイミング、攻撃をするところは覚えているんだ。だから、初撃は多少のダメージ覚悟で全力で受け止める!そこさえできれば………あとは、逃げるだけだ!!!

 そこで、逃げる方向だがこれが重要なんだ。一気に村まで突っ切るのもいいが、距離的にも相手の実力的にも無理そうだ。なら、一つしかないだろ?

 ここだよ、ここ。

 バルニアス邸に逃げ込んで身内に保護してもらい、時間を稼いで相手の”殺すハート”を鎮める。

 ずばり!

「”友情という名の盾”作戦だ!!ハッハッハッ、我ながらゲスいな!」

 友情を盾に使うのには流石の俺でも迷ったが、状況が状況だ。使える物は何でも使わせてもらう。

 バルニアス邸にさえ逃げ切ればゲームクリア。これが、俺が考えた最後の希望だ。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ジャージの着こなしを確認し、太ももにコボウを取りやすい位置に装備する。

 最後に首からペンダントをぶらさげる。

 シミュレーションは何十回もやった。活を入れるために、両手で頬をバチッと叩いてから、ドアノブに手をかける。


 
 歩き出した康太は考える。



 事が終わったら、目の下に隈が出来るまで質問攻めしてやる。どうして、殺そうとしたか。そうしようとするほどの理由が何かあるのか。等々、聞きたいことは山ほどある。

 今はそんなことどうでもいいな、目の前のことに集中しよう。

「なんせこの俺は、『無知無能』と書いて『康太』と呼ぶからな」

 今回俺は、予定時間より二時間ほど早く出ている。襲撃を回避するという意味でもあるが、俺はもっと違う考え方をした。

 それは

 俺がたてた仮説の二つの検証という意味でもある。俺だけの能力である未来視アヴニールアイはこれから重要になること間違いない。だから、使うからには発動条件や効果など、把握しておく必要があるからだ。

 一つ目にたてた仮説では、『時勢の変化による未来の変化』は可能かということ。

二つ目にたてた仮説では、『対象者を予め殺すなどよ決定打を打たない限り変えられない未来』かということ。

(俺的には、一つ目の仮説が立証されて欲しいんだけどな)


 一つ目の仮説が正しければ、未来を変える手段を変えたり、多種多様な手段をとることが出来る。例えば、今回は時間だが周囲からの干渉、または時間をずらしたりすることによって変えられるということだ。だが、未来が変わるということは、その後に起こることは未知。何が起こるかわからない。


 二つ目の仮説が正しければ、未来で起こることが確実なため、対策がまだたてやすいという、アドバンテージがある。だが、結局は完全にその場しのぎになるため、ほぼ詰みゲーといったところだろうか。


 俺は変わる必要がある。何が何でも叶えるという傲慢さと強欲さを兼ね備え、鋼の精神力になる。


 出入り口に行く前に、寄るところがある。

「あ、いたいた。イリス」

 俺を奈落のどん底から支えてくれたイリスには、伝えておきたい。見ていて欲しい。助けてもらってばかりで、まだ助けてあげたことは一度もないが、せめて俺の勇姿を見せてあげたい。

「ちょっと、早いけど。俺行ってくるわ」

「そうですか。いってらっしゃいです。あ、あと、食料品の買い溜めお願いしますよ、覚えてますよね?」

「ん………あ!あぁ!覚えてる覚えてる!オーケー、任せとけ。…いってきます」

 イリスはクスクスと笑って、見送ってくれた。
 いつぶりだろう、いってらっしゃいと言われた言葉にいってきますと応えたのは。

 それから少し歩いて、玄関につく。


 スゥ~~~、ハァ~~~


 目をつむり、深い、深い、深呼吸をしてからドアノブに手を掛ける。

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