RISING
甘さが引き起こす決着
「私の親兄弟は無事ですよ。..失ったと言えば尊敬する先輩と..生きてはいるけど道を違えた同僚とかですかね..」
マリアの曇った表情を見て、エルヴィスは口を開く。
「俺は唯一の家族だった姉を失って、今じゃ親友だった男と刃を向け合ってる」
「私は、貴方程、失っていないですよ」
「比べるもんか?」
「え..?」
唐突な更なる質問に、マリアは聞き返すように声を出す。
「大切な人や物ってのは、ソイツにしか判断できねェ。何人とか幾つとかって数を競って不幸自慢しても始まらねェ」
エルヴィスが話す言葉に、ウィルフィンが後ろで笑みを浮かべる。
「俺ァ、俺の信念に従って戦ってる。だから、殺気の無ェ奴の命は奪わねェし、戦いたくも無ェ..
帰りを待ってる大切な人間がいるかもしれねェじゃねェかよ」
「..戦いよ、甘いんですね。貴方は..」
覚醒を解いたマリアが、刀を仕舞うと、エルヴィスらはまた、踵を返す。
「ああ、そうかもな。でも、こうやって人と人は話せば解り合える事もある..俺も改めて最近、教えられたばっかだ」
エルヴィスは後ろ手に手を挙げると、歩き出す。
すると、ウィルフィンは一度、飛ぶようにマリアの元へ動き、懐からある物を渡す。
「これは?」
「アンタは大丈夫だと思うが。アイツに使ってやってくれ」
ウィルフィンが手渡したのは、血止め薬。
背後に倒れているドーマンへの物だ。
「目が覚めたら伝言を頼む..”いい剣筋と覚悟だった。またやろう”..頼んだぞ」
伝言を伝えると、少し恥ずかしさを覚えて直ぐに背後を向くと、エルヴィスの元へと駆け寄って行く。
「..ええ。伝えて置くけど、何か印象変わりますね。二人とも、ここまで甘いなんて、ね」
マリアは何だか落ち着いてしまい、血止め薬を持ってドーマンへと駆け寄って行った。
そして、先へ向かったエルヴィスにウィルフィンが追いつくと、エルヴィスが口を開く。
「ウィルフィン..変わったな..アンタ..」
「ふん。お前も甘いと言いたいのか?」
「..いや。つーか一番甘いのはあの中将さんだよ」
「..ふ..違いない」
エルヴィスとウィルフィンは、一足先にこの時の街を後にして向かう。
刃を突き付け合った親友との決着の場所へと。
だが、その二人を追って来ていたロード達がこの事実を知るのは、もう少し先の事である。
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