RISING

鳳 鷹弥

情報屋との約束








一方、陽が落ち、夜へと変わった氷の街の市街地、フォスコール地区には漸く、赤髪の流浪人が辿り着いていた。

すると、入り口にあった町医者の小さい建物から出てきた男に目が行く。

その男は、医者と思われる男に頭を下げると、ハンチング帽を被り直す。

そして、扉が閉まると同時に走っていた流浪人は手を振って声を掛ける。


「サバネ...」


「ああ、ロード君か」


何処となく元気のないサバネの言葉にロードも表情を曇らす。

昼間の滝で起きた出来事を考えれば無理もないだろう。

二人は合流すると、市街地の中にある噴水を囲う煉瓦に腰かけると、多少の沈黙を破って、サバネが口を開く。


「僕はさ、5年前にソフィアが出て行ってから、情報屋になってその仕事を使って、情報を集めたり、国を動く中で妹の情報だけを集めてたんだ」


ロードは黙ってその話に耳を傾ける。


「それで、ついこないだ死蜘蛛狂天の幹部に、妹の名前がある事を、別件の流れで知ってね。この街に訪れたんだ」


そして、知ってしまった。

妹は妹で不可思議な亡くなり方をした母親の死因を調べるために、一人で行動し、死蜘蛛狂天の存在、そしてその組織への依頼という事を知り、組織に潜入。

その中で、確かな覚悟を持って戦闘の才覚に目覚め、近年、幹部に昇格。

大切な母親の死の真相を知りたい。

サバネの知る昔の優しいソフィアは残っていたのだ。


「でもさ....!あの組織の幹部だ....妹は人殺しになってしまったかと思うと....胸が痛い...生きていて元気なら....そう思って落ち着こうとしたんだけどさ....やっぱりなんか素直に喜べないよ.....!」


サバネは大粒の涙を流しながら、頭を抱える。

すると、口をつぐんでいたロードが、ゆっくりと口を開く。


「悪ィ..。俺は兄弟もいないから、俺なんかの言葉なんて安くなっちまうけど。ソフィアってヤツは、お前の事、優しい兄だって言ってた。それに、此処に運んだのも多分、ソフィアだ」


ロードの言葉を聞きながら、サバネは拭っても溢れ出る涙を更に拭う。

何度も何度も。


「アンタの知ってる優しい妹は変わりきっては無かったんだろ?なら信じてやるのが兄貴ってモンなんじゃねぇかな....」


サバネは、その言葉で少しの笑顔を取り戻す。


「....そうだね。生きてたんだ....ならまだゼロじゃない。僕は実家に戻る。だから、もし妹に会ったらさ...家は俺が守っておくから”疲れたら帰っておいで”って伝えてくれるかい?」


「ああ...」


サバネの言葉に優しくロードは頷いた。



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