RISING

鳳 鷹弥

桃色の光の奇跡

只、ゆるりとシェリーに向けて歩を進めるライアから放たれる殺気に、膝を折りその場に沈むシェリーには、声を上げる程の余裕など残されてはいなかった。

ライアの、背後でうつ伏せで倒れ込むロードを一瞥するのが精一杯な状態で、祈りを捧げるように思考する。


ロード様は…私を護って…


躱せた筈の竜巻を受けて…


あんな姿に…。


私が弱いから…


誓ったのに…もう、逃げないって…


お願い…。


私はどうなっても構わない…


せめて…せめて…ロード様を…


『…助けて…!』



その少女の祈り、願いは届いたかのように頬を伝った一粒の涙が、シェリーの頬を離れると共に小さな桃色の光を纏って空中をゆるりと舞う。

その異質な光を見たライアは、目を丸くし歩を止め、その光を目で追う。


「なんでおじゃる…。あの小さな光は?」


その光を追って、振り返ったライアの視線の先で光が球体として原型を留め、倒れ込むロードの背の上で動きを止める。

静寂の中、その光の球体を見つめるライアとシェリーの視線を受けながら、ゆるりとその球体がロードの背中から体内へと溶けていく。


そして、一瞬の静寂を越え、全てを掻き消すような桃色の光が弾け、ライアは鉄扇で顔を覆う。


「何が起きているのでおじゃる!?」


鉄扇を振り切り、視界を改めたライアはその視界からロードを見失っていた。


「…こっちだ」


背後から聞こえた男の声に、素早く振り返るライアの、視線の先には先ほどまで血まみれで倒れていた筈のロードが、膝を折るシェリーの前に立ちはだかっていた。


「流浪人…聞きたいことがいくつかあるでおじゃるよ…?」


ロードを睨みつけるライアにはいくつかの疑問が脳裏を支配していた。


「悪いな。この光の事とかこの身体の事とか、傷が消え失せてる事は俺にも…わからねぇぜ?」


そう、ロードの全身に刻まれた竜巻による裂傷は全て無に帰り、桃色の光をオーラの様に纏う流浪人の姿は先ほどとは別人の様な状態であった。


「まあ、多分。シェリーの力だ。有難うな、もう一度、お前を護る機会をくれたって訳だ…」


「ロード様…!」


目線こそ合わせない物の、ロードには笑みをこぼしたシェリーの表情を感じ取っている様に見える。


「さあ、リスタートだ。さっきみたいには行かないぜ?」


ロードは、地面を強く踏み鳴らすと、刀を前方に構え、ライアを挑発した。

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