RISING

鳳 鷹弥

風が吹く方へ

そう言い終えると、ブラッドは辺りを見渡し、目当ての人物がいないことを察すると、手を挙げ声を上げる。


「おーい、お嬢ちゃん。お勘定ー!」


すると、ピョコッと席の方にマオが顔を出す。


「お勘定をいりませんよ?そう言って付いてきてもらったので、それにこれはお礼でもありますし」


「いけねぇな。こんな美味い酒に、美味い料理。馳走になって金を払わないんじゃあ、思い出半分よ。…俺が金に困るような事があったら、その時また…飯食わしてくれや…」


半ば強引に札をマオの手のひらに包めると、目配せをし、そっとマオの手を丸めさせた。


「あ…ありがとうございます!是非いつでもいらしてください!」


マオは少し顔を赤らめ、ブラッドを見上げると、すぐ様腰を深く折りお辞儀をする。



大人だ…



その光景をまじまじと見ていたロードは、あのミスター適当野郎のブラッドとは違う人物を見てるような気がしていた。


「ご馳走になっちゃったね、ロードくん」


隣にいたサバネが、バツの悪そうな表情でこちらに向くと、ロードもつられて似せたような表情で頷く。


「したらまあ、俺はいくわ。まあお前らもぼちぼちやってけよ、生き急がねぇ程度にな」


後ろ手に手を振ると、ブラッドが扉を開けて出ていくのを2人は見届けると、先にロードが刀を持って立ち上がる。


「さて、じゃあ俺も…」


「どこに向かうのか決まったのかい?」


座ったままのサバネに問いかけられると、ロードは頭をポリポリ掻きながら口を開く。


「わかんねぇから、風の吹いてる方に逆らわずに歩いてみるよ。どうせ…今日までもそうだったわけだし…」


「そっか…じゃあまたどっかで会いそうだね。僕も職業柄、色んなとこを転々としてるわけだから。その時はまた一杯…」


サバネがくいっとお猪口を傾けるような仕草を取ると「ああ…」とロードはおもむろに返事をする。


呑めるようになりてぇな…早く…


改めて思い返すと、まだ酒の味のわからないロードには、難儀な誘いであった。


「マオ…つったか。ご馳走さん。またな」


「はい!…お侍様のおかげで助かりました。旅に出られるのならご武運を。そして、またこの街に来た時は是非立ち寄って下さいね」


にっこりと向けられたマオの笑顔に、顔を思い切り赤らめたロードは、それ以上何も言えず、2人に軽く手を挙げると店を出ていく。

暖簾を、手で押し上げ、日の沈んだ港町に背を向けるように、世闇の中をゆっくりと歩を進めていく。

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コメント

  • 湊

    読みやすい文章ですよね。すごく参考になります(^^)

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