禁断の愛情 怨念の神
再。怨神様
「チヨコ、ミノル!」
声が聞こえる。
だが返事をする体力はなかった。欲の化身との《戦い》の果てに、限界まで力を使ってしまったらしい。隣のミノルもそれは同じのようで、全身を大の字にひろげてゼエゼエ言っている。私も同じ格好だった。
「見つけたぞ、ここだ!」
男の声とともに、大勢の足音が聞こえる。ほどなくして、カクゾウの四角い顔が私の視界に映った。心なしか、ほっとしたような顔をしている。
「やはりか……おまえたちが、奴を止めたのだな」
奴とは欲の化身のことだろう。私は弱々しく頷いた。
「急に蜘蛛どもが人の姿に戻ってな。もしやと思ったが案の定だったな」
そうか。欲の化身がいなくなったことで、その怨念の力も消え去ったのだろう。
「チヨコ……。ミノル」
聞き覚えのある声が聞こえた。
反応する間もなく、長老が動けない私に抱きついてきた。
「よくやった、よくやった……。おぬしたちは英雄じゃ!」
「ち、長老……」
「おい爺さん。疲れているようだ。あまり揺すってやるな」
「お、おおすまんの……」
頭をかいて私から離れる長老。彼はミノルにも激励の言葉を贈ると、カクゾウへ目を向けた。
「しかしな。わしはおまえを見直したぞ」
「……なんのことだ」
「素晴らしい優しさと洞察力よ。おまえのような奴が賊の長とは、少々驚いたわ」
「なにが言いたい?」
「今回、わしたちはおまえにずいぶんと助けられた」
と言うと、長老はにやりと笑った。
「どうじゃ。おまえたち一同、わしの村で住んでみないか?」
「な……」
カクゾウが仰天の表情を浮かべた。
これには私もびっくりだった。親の仇と共同生活だなんて、考えたこともない。
「もちろん賊のこれまでの行いをすべて水に流すとは言えん。じゃが、それと同じくらい今回は助けられた」
「馬鹿を言うな。我々は賊だ。誰の力も借りん」
「ほほう? 知っておるぞ。わしらを匿ったがために、蓄えた食糧も尽きてもうたんじゃろ? それでもやっていけるのか」
「貴様らには関係ない」
と言ってぷいと背を向けるカクゾウだが。
「えーお頭、そりゃないっすよー」
「メシないんじゃどうやって生きてくんすかぁー」
賊の戦闘員たちが次々と不満の声をあげる。今回の戦いで彼らも体力を使いきったのだろう。その対価に食事にすらありつけないとなると、さすがに同情する。
「ほれどうじゃ。おまえの部下もああ言うとる」
「ぐ……」
歯ぎしりをするカクゾウ。
がっはっは、と別の村の長が笑い声をあげた。
「よいではないか。もともとわしらが憎み合いさえしなければ、こんなことにもならんかった。どこかの村に落ち着いたほうが人類のためだと思うがな」
ふん、とカクゾウが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「すこしの間だけだ。食糧を蓄え次第、即刻出ていかせてもらう」
「はっは、まあそこらへんは好きにするがよいさ」
瞬間。
私は見た気がした。
上空から、私たち人間を優しく見守っている怨神を。
そう。
かつて敵だった相手とも、私たちはこうしてわかりあえる。完璧に憎しみをなくすのは無理だとしても、人間も、動物も、ともに生きる道はあるはずだ。
ありがとう、怨神様。私たちを、ここまで見守ってくれて。
ふいに、隣に横たわるミノルが手を握ってきた。優しく握り返すと、ほのかな人の温かみが伝わってきた。
~FIN~
声が聞こえる。
だが返事をする体力はなかった。欲の化身との《戦い》の果てに、限界まで力を使ってしまったらしい。隣のミノルもそれは同じのようで、全身を大の字にひろげてゼエゼエ言っている。私も同じ格好だった。
「見つけたぞ、ここだ!」
男の声とともに、大勢の足音が聞こえる。ほどなくして、カクゾウの四角い顔が私の視界に映った。心なしか、ほっとしたような顔をしている。
「やはりか……おまえたちが、奴を止めたのだな」
奴とは欲の化身のことだろう。私は弱々しく頷いた。
「急に蜘蛛どもが人の姿に戻ってな。もしやと思ったが案の定だったな」
そうか。欲の化身がいなくなったことで、その怨念の力も消え去ったのだろう。
「チヨコ……。ミノル」
聞き覚えのある声が聞こえた。
反応する間もなく、長老が動けない私に抱きついてきた。
「よくやった、よくやった……。おぬしたちは英雄じゃ!」
「ち、長老……」
「おい爺さん。疲れているようだ。あまり揺すってやるな」
「お、おおすまんの……」
頭をかいて私から離れる長老。彼はミノルにも激励の言葉を贈ると、カクゾウへ目を向けた。
「しかしな。わしはおまえを見直したぞ」
「……なんのことだ」
「素晴らしい優しさと洞察力よ。おまえのような奴が賊の長とは、少々驚いたわ」
「なにが言いたい?」
「今回、わしたちはおまえにずいぶんと助けられた」
と言うと、長老はにやりと笑った。
「どうじゃ。おまえたち一同、わしの村で住んでみないか?」
「な……」
カクゾウが仰天の表情を浮かべた。
これには私もびっくりだった。親の仇と共同生活だなんて、考えたこともない。
「もちろん賊のこれまでの行いをすべて水に流すとは言えん。じゃが、それと同じくらい今回は助けられた」
「馬鹿を言うな。我々は賊だ。誰の力も借りん」
「ほほう? 知っておるぞ。わしらを匿ったがために、蓄えた食糧も尽きてもうたんじゃろ? それでもやっていけるのか」
「貴様らには関係ない」
と言ってぷいと背を向けるカクゾウだが。
「えーお頭、そりゃないっすよー」
「メシないんじゃどうやって生きてくんすかぁー」
賊の戦闘員たちが次々と不満の声をあげる。今回の戦いで彼らも体力を使いきったのだろう。その対価に食事にすらありつけないとなると、さすがに同情する。
「ほれどうじゃ。おまえの部下もああ言うとる」
「ぐ……」
歯ぎしりをするカクゾウ。
がっはっは、と別の村の長が笑い声をあげた。
「よいではないか。もともとわしらが憎み合いさえしなければ、こんなことにもならんかった。どこかの村に落ち着いたほうが人類のためだと思うがな」
ふん、とカクゾウが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「すこしの間だけだ。食糧を蓄え次第、即刻出ていかせてもらう」
「はっは、まあそこらへんは好きにするがよいさ」
瞬間。
私は見た気がした。
上空から、私たち人間を優しく見守っている怨神を。
そう。
かつて敵だった相手とも、私たちはこうしてわかりあえる。完璧に憎しみをなくすのは無理だとしても、人間も、動物も、ともに生きる道はあるはずだ。
ありがとう、怨神様。私たちを、ここまで見守ってくれて。
ふいに、隣に横たわるミノルが手を握ってきた。優しく握り返すと、ほのかな人の温かみが伝わってきた。
~FIN~
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