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禁断の愛情 怨念の神

魔法少女どま子

結末

「やめろ。おまえたちでは敵うまい」
 聞いたことのある男の声。顔を見なくてもわかる。その声の主は、馬をしたがえて私たちの前に立ちふさがった。
「さっきぶりだな、チヨコ、ショウイチ」
「カクゾウ……」
「いったいなんの真似だ。おまえたちも怨神に洗脳されたか」
「違うわ。怨神なんてまだ信用できるとは思ってない。でも――」

 人間側に戦いの理由があるように、怨神とミノルにも確固とした言い分がある。だからこそ迷っているのだ。どちらの味方をするべきか。双方無傷に切り抜ける方法はないものか。

 ふん、とカクゾウは鼻を鳴らした。
「やはりガキはガキか。ならばいい、邪魔するのならおまえたちとて容赦せん」
「ほう、面白い」
 返事をしたのはミノルだった。
「貴様ひとりが来て何になる? 忘れたか。貴様がかつて、私に完膚なきまでに叩きのめされたことをな」
 含み笑いを浮かべながら、片手を再度突き出すミノル。その手からまた光線が発せられてしまえば、いくらカクゾウでも命の保障はない。
 人間の力では、神には勝てない。私たちはそれを身をもって痛感した。カクゾウだって同じだろう。

 ところが賊の長は馬から降りるなり、周囲の人間の向かって声を張った。 
「おまえたちは散れ。この小僧は俺一人で相手する」
「な……!」
 人々の間でどよめきがひろがった。
「無茶ですよお頭! あいつは人間じゃねえ! 絶対勝てねえよ!!」
「ならば束になりさえすれば勝てるというのか?」
「そ、そりゃあ……一人で戦うよりは……」
「馬鹿者が。もはや人間にそれだけの数は残されていない。これ以上犠牲を出すわけにはいかん」
「お、お頭……死ぬ気かよ……」

 カクゾウは両手の骨を鳴らしながら、ミノルと対峙する。
「……ふん、なるほどな」
 ミノルは表情を崩さずに言った。
「あのとき感じた違和感がなんとなくわかったよ。貴様……幼少の頃に両親が殺されたな。それも賊集団に」
 カクゾウの眉がぴくりと動く。
「忘れたな。そんな昔のことは」
「……そうか。言っておくが、私は容赦はしないからな。怨神様の敵はすべて消すだけだ」

 束の間の静寂。
 周囲に響く戦闘音すら一瞬止まったように思えた。
 死神の光線を放つ体勢のミノルに対して、素手で待ち構えるカクゾウ。
 二人とも互いの出方をうかがっているようだった。
 そして。
 神の使いの手から、紅の光線が放出された。それは目にも止まらぬ速度でカクゾウの心臓へと向かい――次の瞬間、私は言葉を失った。

「ぬん!」
 気合いの声とともに、カクゾウが片腕を振り払った。光線は綺麗な反射を描くように弾かれ、空の彼方へと消えていった。
「な……んだと!?」
 大きく目を見開くミノル。
「馬鹿な……! 防いだというのか! 私の攻撃を!」
 カクゾウの表情は変わらなかった。ただ自身の腕を見つめながら、一人言のようにつぶやいた。
「ほう……俺の予想は当たっていたようだな」
「予想、だと……?」
「これだ」
 カクゾウが拳を開いたとき、私は思わず息を呑んだ。

 勾玉の石。
 かつて私が長老から譲り受けた石と、まったく同じものだった。あの石を見たとき、言いようのない神秘性を感じたのを覚えている。
「そうか、そういうことか……」
 ミノルが歯ぎしりしながら言った。
「その石は怨神様のお力の一部……。私の攻撃を弾くことなどいともたやすいはずだ……」
「そういうことだ。そしてこの隙を、俺は見逃しはせん」

 カクゾウは腰にかけてあった刀の柄を握ると、ミノルの懐めがけて疾駆した。さすがは賊の長というべきか、カクゾウは瞬く間にミノルとの距離を詰めた。
「くっ……、おのれ!!」
 焦ったように抜刀するミノル。
 間一髪で、カクゾウの斬撃を刀身で受け止めた。
「愚かな奴め! たとえ光線が通用せずとも、貴様ごときが私に勝てると思っているのか!」
「ふん。俺も……随分のなめられたものだな!」
 叫びながら、カクゾウの放った斬撃が。
 綺麗にミノルの右腕をとらえた。

 私は見た。
 血が。ミノルの腕が。私の目の前にあっけなく落ちるのを。
 ――そんな……こんな、ことが……
 いてもたってもいられなくなった。私は我を忘れて悲鳴をあげた。
 ミノルも激痛の大声をあげていた。
 そして。
「いまだ、野郎ども打て!」
 カクゾウの合図とともに。
 周囲の人々が、怨神へ向けて一斉射撃を開始した。
 もう、神を守る者はいなかった。

 人々の叫びが聞こえる。
 死ね。よくも妻を。おまえなんて消えてしまえ。
 蜘蛛の叫び声。紫の体液が周囲に飛び散る。
 人間の歴史とともに誕生し、ひそかに人間の繁栄を支えていた古来の神は。
 その人間の手によって。
 断末魔の悲鳴をあげながら、この世を去った。

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