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禁断の愛情 怨念の神

魔法少女どま子

人類と神の戦争

 嵐の前の静けさか、戦いはまだ始まっていない。

 私は足の腱の悲鳴すらいとわず、全力で疾走する。森の出入り口へ向けて。隣のショウイチも同じように、いつになく真剣に森を駆け抜けている。
 ――死なせはしない。誰一人として。
 森に生息する動物たちも、なんらかの気配を感じ取っているようだ。熊や猪などが、ところどころで警戒したように唸り声をあげている。たがその総数は、都で見たときと比べて格段に少なかった。あの戦いで甚大な被害をこうむったのは人間側だけではないということか。
 ――みんなも、どうか死なないで……
 獣たちに祈りの目を向けたあと、私は言った。
「まずカクゾウさんに会いましょう! この戦いをやめさせないと!」
「おう!」
 おそらく彼こそが人間側の頭だ。いまどこにいるのかはわからないが、なんとか会うことさえできれば……

 と。
 走っていくうち、小さな人影が見えてきた。私は目を細めた。この危機的状況に不釣り合いな可愛らしい姿は……
「コウイチロウくん!」
「えっ……?」
 小さな人影はぎょっとしたように振り向いた。どうやら木々に隠れて何事かをしていたようだが、いったいどうして彼のような子どもまでここに。

 コウイチロウは声の主が私であったことを確認すると、ほっとしたように胸を撫で下ろした。
「なんだ、お姉ちゃんか……」
「なんでこんなところにいるの! 危ないから、もう逃げな!」
「……僕も、お頭の役に立てることがあればって……無理に頼んできたんだ」
 頭がくらくらしてきた。たいした度胸だとは思うが、いらぬ戦いで命を落としでもしたらカクゾウはどう責任を取るつもりか。

「……そんなことより、お姉ちゃんもどうしてここにいるの?」
「神様に会いにきたの。こんな戦争意味ない。あなたもすぐに逃げ――」
 言いかけた、そのとき。
 私は全身に言いようのない怖ぞ気を感じた。
 なかば本能的に刀を抜く。相手の刀とぶつかり合い、鋭い金属音が鳴り響く。
 思わず目を見開いた。飛び上がったコウイチロウが、私の首筋めがけて刃を振るってきたからだ。

 小さき子どもの瞳に、さっきまでの可愛らしさがない。かつて私が相対してきた、ひとりの賊の目をしている。
「コウイチロウ、あなた……!」
「言ったはずだよ。お頭が嫌いな人は僕も嫌い。お姉ちゃんはまたお頭の邪魔をするつもりなんだ」
「なにを――」

 その瞬間だった。
 すさまじい爆発音が響き渡り、私はまたしても驚愕した。
 コウイチロウがさっきまで何事かをしていた箇所。小型の火薬でも仕込んでいたか、木々がもうもうと燃えあがっていた。
 その意味するところを察したらしい。ショウイチが小さく呟いた。
「狼煙か……!」
 突如、けたたましい人間の声が、どこからともなくいっせいに轟いた。いまの狼煙を合図に、ついにあってはならない戦争が幕を開けたようだ。

 私はすべてを理解した。 コウイチロウなら警戒されることなく森に侵入し、戦争の準備を整えることができる。現に私も殺されるところだった。見れば、ところどころに火薬のようなものも設置してある。あとはこれを着火させるだけで、巨大獣の数はさらに減る。

「覚悟してねお姉ちゃん……僕、強いよ」
 無表情で言うコウイチロウ。カクゾウはかつて「ガキにしては強い」と言っていたが、それどころではない。さっきの一撃を見るに、かなりの達人だ。
「ショウイチ! あなたはカクゾウさんを探してきて! この子は私が止める!」
「おう! 大丈夫だよな?」
 私とて村では選りすぐりの達人のつもりだ。子どもに負けていては世話がない。それを視線で伝えると、ショウイチは頷いて走り去っていった。「絶対にまた会うぞ」という言葉を残して。


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