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禁断の愛情 怨念の神

魔法少女どま子

因縁の仇敵

 私の嫌な予感は当たった。
 数歩進んだ先にひろがっている光景を、私もショウイチも黙って見ることしかできなかった。

 苦痛に顔を歪めたまま固くなってしまった者。死の寸前に激しく絶叫したであろう表情で固まった者。死んだことにすら気づかなかったか、目を閉じて息絶えている者。
 のべ二十人の遺体がそこにあった。
 この惨状を見れば明らかだ。全員、何者かに殺された。

「ひでえな……」
 さすがにショウイチも言葉をなくしてしまったようだ。死体のひとつに歩み寄ると、優しく額を撫でる。
「まだ温かい。ついさっき亡くなったらしいな」
 ――ついさっき。
「ってことは、殺した奴がまだ近くにいるかもしれないのね」
「そうだな。……殺ったのは熊じゃねえ。別のヤツだ」

 同感だった。あの三匹の熊は、偶然ここを通りがかり、人の死体を見かけただけである。それは遺体の状態が証明している。二十の帰らぬ人々は、全員が、業火に焼き尽くされたがごとく焦げているのだ。顔の形がわからない者もいる。

 この芸当は熊にはできない。おそらく――
「奴の仕業よ」
「は? なんだって?」
「怨神。ショウイチは見てないからわからないか。奴は不思議な力を持っててね。光線みたいなものを出して、あっという間にたくさんの家屋を燃やしたの」
「マジかよ……」

 怨神。奴は私の故郷だけでは飽きたらず、他の地域に住む人々すらも殺したのか。許せない。絶対に。
 みんな苦しんで死んでいったのだろう。周囲を見てみると、なぜか一部分だけ藪の焼けた跡がある。
 と。
 ふいに、私のなかである種のひらめきが浮かび上がった。はやる気持ちで藪を掻き分け、前へと進む。ほどなくして、予感通りのものを見つけた。

「ショウイチ、村があるわ」
「なんだと?」
 後ろのショウイチもすぐに私に続いた。しかしその村の有り様を見るやいなや、目を大きく見開いて立ち止まる。
「これも……怨神の仕業か?」
「たぶんそう」

 同じだ。一週間前の私の村とほとんど同じ。ほぼすべての家屋が死の業火によって焼き尽くされ、まったく原型を留めていない。周辺の緑もそうだ。すべての木々は倒れ、田や畑は再起不能はほどに荒らされている。そして――村のあちこちに転がっている、いくつもの死体。血液。

「たぶんだけど……森のなかにいた人たちはみんな、逃げているところを怨神にやられたのね」
「怨神か……。神にしちゃ乱暴で小せえ奴だな」
 まったくだ。しかも奴は、私の大事なミノルまで……
 込み上げてくる怒りをなんとか抑え、私は言った  。
「とりあえず、村を一通り見ましょう。生き残ってる人がいるかもしれないし」
「ああ、そうだな」

 しかし私たちの希望も虚しく、生存者はひとりもいなかった。家屋に隠れていた人々すら、可視放射によって家ごと殺害されている。ミノルがいなければ、私の村もこうなっていたかもしれなかった。
 私とショウイチは村の中央に立って、改めて周辺を見渡す。しかしどう探しても、結果は同じだった。

「駄目だ。みんな殺されてる」
 ショウイチがそう言った、その瞬間。
「避けろ、チヨコ!」
 突如すさまじい剣幕で、ショウイチは私を突き飛ばした。いきなりのことで反応できず、私は尻餅をついてしまった。顔を上げると、ショウイチは何かを片手に掴んでいた。
 矢だった。
 思わず鳥肌が立った。飛んでくる矢をショウイチが手で掴んだのもそうだが、まったく気づかなかったのだ。私たちを狙う者の気配に。

「相手もかなりの手練れのようだな。気配を消すのがうめえ」
「あ、相手……?」
「黙ってそこに座ってろ。俺のそばから離れるな」

 ショウイチはいつになく真剣な表情で、とある一点を凝視していた。数秒後、大きく矢を振りかぶる。
「そんなんで隠れられてると思うなよオラ!」
 突如ショウイチは、視線とまったく同じ線上に矢を投げつけた。弓にも劣らぬ速度で飛んでいった矢が、森のなかに消えていくやいなや――
「うぐっ」
 鈍い悲鳴が聞こえた。

 だが目を凝らしてもまったく人の姿が見えない。ショウイチは気配だけで敵の正確な位置を把握し、しかも的確に矢を投げつけたのか。信じられない芸当だ。

「立て、チヨコ」
「あ……うん」
「気をつけろよ。いつのまに囲まれてたぜ」
「囲まれてた……?」
 言われて初めて気づいた。周囲に目を向けると、かなり遠い位置にだが、三十数名の男たちがいる。全員が弓か刀、なんらかの武器を持っている。

 体温が急激に冷えるのを感じた。
「そんな。なんでいままで気づけなかったの……」
「言ったろ。奴らも手練れだ。おそらくだが――賊だな」

 賊。こんな最悪なときに最悪な連中が現れた。近くには怨神がいるかもしれないのに。
 反して、ショウイチの表情は余裕だった。大きな声で叫びだす。
「おら、さっさとかかってこいよおっさんども! 三十人まとめて返り討ちにしてやるぜ!」

 だが賊が動き出す様子はない。たぶん警戒しているのだろう。ショウイチが先ほど見せた芸当は、常人の域をはるかに超えている。三十人まとめて返り討ちにするという発言も、まんざらはったりではなさそうである。
 素手で熊を撃退したことといい……ほんとに、信じられない男だ。

 しばらく膠着状態が続いた。この状況には不釣り合いな、輝かしい朝陽が周囲を照らす。耳を澄ましても、攻撃の準備をしている気配はない。耳に入ってくるのは、鳥の穏やかなさえずりと、優しげな葉擦れの音のみ。

 突如。
 またしてもこの状況に不釣り合いな、パチパチパチという軽快な音が聞こえた。
 ――これは、拍手?
 音のする方向に目を向ける。
「素晴らしい。まったく隙がない。恐れ入った」
 でかい……。それが、その男に対する第一印象だった。ショウイチに負けずとも劣らない盛り上がった筋肉と、見上げんばかりの長身。年齢は私たちよりだいぶ上だ。ほぼ四角の厳めしい顔つきに縁取られた、白髪混じりの逆立った髪、白ひげ。

 ただ者ではない。直感的にそう思った。なにより目の力が格段に強い。あらゆる修羅場をくぐり抜けたような、それでいて汚れた目をしている。
 ショウイチもそれを感じ取ったようだ。警戒した顔つきで訊ねる。
「何者だ……あんた」
「カクゾウ。こいつらの長だ」

 賊の長……!?

「一応聞くが、村を壊滅させたのはおまえたち二人の仕業か?」
「ち、違うに決まってるでしょ!」
「そうか……やはりな」
 賊の長は表情を崩さぬまま、話を続ける。
「知っていると思うが、我々は奪うのが本業でな。村を定期的に襲うことでメシを食っている。だが最近はどうもおかしい。我々が奪う前から、すでに何者かに村が殲滅されている」

 言うなり、賊の長はとある一点を指差した。私たちの歩いてきた方向だ。
「あの方角にも村があってな。あそこは良い村だった。抵抗も激しかったが、そのぶん多くの食料や女を得られた。しかしその村も現在ひどいありさまでな。襲うのは諦めた」

 私のなかでなにかが弾けた。
 こいつが先生や父を……!
 刀を抜こうとしたその瞬間、ぽんと肩を優しく叩かれた。ショウイチだった。
「それで、おめえらの目的はなんだ? ここで俺たちをぶっ殺して、すこしでも金目のもんを奪おうってか?」
 賊の長は小さく笑った。
「まさか。おまえたちは相当強いが、殺したところで良いブツは持ってなさそうだ。そんな見返りのないことはせんよ」
 だが、と賊の長は続ける。
「先ほどの会話をすこし聞かせてもらった。おまえたち、良い情報を持ってそうだな」

 しまった……聞かれていたか。
 私が歯ぎしりしていると、賊の長はにやっと笑って言った。
「やはりな。情報交換だ。おまえたちにも損はない」

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