禁断の愛情 怨念の神
謎の巨大生物
「変……?」
ミノルが空を仰いだ。つられて私も天を見上げたが、なんの変哲もない青空である。雲もほとんどない。いい天気である。
「空だけではない。村も、森も……異様な雰囲気が漂っておる」
言われて視線を下ろした。見慣れた故郷を見回す。
あちこちに散在する家屋。馬小屋。生い茂る芝草に、暖かい風に揺れる木の葉。いたって普通だ。おかしなところはなにもない。なにも感じない。
「僕にはわかりませんが、長老がそうおっしゃるのなら、なにかあるのでしょう」
ミノルが村を見渡しながら言った。
私も同意見だった。長老は長年この村に住んでいる。生まれた頃から、この空、森と生をともにしてきたのだ。長老にしかわからないこともあるのだろう。
「うむ。森が泣いておるのだ。先程からただならぬ風が吹いておる」
「森が……泣いて……?」
ぼそりとつぶやく私。
まったくわからない。どういうことだろう。
「だから森の様子を見に行こうと思ったんだが、このありさまよ。息子や孫が生きていればのう」
ため息を漏らす長老。
と。
「――――ッ!」
背筋に悪寒が走った。
凍える気配。
ミノルも同様のものを感じ取ったらしい。強張った顔で訊いてきた。
「この気配。どこから感じた」
「あっちよ」
森の一点を指で示す。心なしか、その部分だけ黒い邪気のようなものが浮かんでいるような気がする。文字通り血で血を洗ったような悪臭が鼻をつんざく。
「な、なんじゃい、二人とも急に黙りおってからに」
こればかりは、長く鍛錬を積んだ者にしかわからない気配らしい。長老はわけがわからないといったようすで私たちを交に見た。
「賊かもしれない。長老、家に戻ったほうが……」
私が言いかけた瞬間。
「グオオオオオオ!」
人のものではない、まったく未知の咆哮が鳴り響いた。
同時に、森から何かが姿を現してくる。
あれは――?
「奴」を認識した途端、私は叫んだ。
「違う、賊じゃない! 長老、逃げて!」
蜘蛛――そう、奴はまさに蜘蛛だ。
しかしその実体は普段森で見かけるそれとは根本的に異なる。全長は長老の家屋ほどはあろうか。体節から八本の足が伸びており、それらの先端には獰猛な爪がある。あれに切り裂かれたが最期、生き延びられる自信はない。全身が暗色の毛に包まれている。その一本一本が鋭利な針のように鋭く、頑として身体を守っている。視線を頭頂部らしき箇所に向けると、大小さまざまな球体が毛の奥に埋め込まれていた。あれがおそらく眼であろう。おぞましいことに、球体によって色が違う。
「な……なんだあれは」
ミノルが呆然としたようすでつぶやく。
「グコアアァァァ!」
巨大蜘蛛が、全身を震わせながら凶悪な咆哮をあげた。
「うっ!」
すさまじい音量だった。必死で耳をふさぐ。ミノルも長老も同じく手で耳を覆っている。
倒すしかない。
奴は危険だ。危険すぎる。
私とミノルは顔を見合わせた。二人とも、同じ間で頷く。
「……行くよ、チヨコ」
「うん」
「勝てるさ、絶対」
「そうだね」
ミノルが空を仰いだ。つられて私も天を見上げたが、なんの変哲もない青空である。雲もほとんどない。いい天気である。
「空だけではない。村も、森も……異様な雰囲気が漂っておる」
言われて視線を下ろした。見慣れた故郷を見回す。
あちこちに散在する家屋。馬小屋。生い茂る芝草に、暖かい風に揺れる木の葉。いたって普通だ。おかしなところはなにもない。なにも感じない。
「僕にはわかりませんが、長老がそうおっしゃるのなら、なにかあるのでしょう」
ミノルが村を見渡しながら言った。
私も同意見だった。長老は長年この村に住んでいる。生まれた頃から、この空、森と生をともにしてきたのだ。長老にしかわからないこともあるのだろう。
「うむ。森が泣いておるのだ。先程からただならぬ風が吹いておる」
「森が……泣いて……?」
ぼそりとつぶやく私。
まったくわからない。どういうことだろう。
「だから森の様子を見に行こうと思ったんだが、このありさまよ。息子や孫が生きていればのう」
ため息を漏らす長老。
と。
「――――ッ!」
背筋に悪寒が走った。
凍える気配。
ミノルも同様のものを感じ取ったらしい。強張った顔で訊いてきた。
「この気配。どこから感じた」
「あっちよ」
森の一点を指で示す。心なしか、その部分だけ黒い邪気のようなものが浮かんでいるような気がする。文字通り血で血を洗ったような悪臭が鼻をつんざく。
「な、なんじゃい、二人とも急に黙りおってからに」
こればかりは、長く鍛錬を積んだ者にしかわからない気配らしい。長老はわけがわからないといったようすで私たちを交に見た。
「賊かもしれない。長老、家に戻ったほうが……」
私が言いかけた瞬間。
「グオオオオオオ!」
人のものではない、まったく未知の咆哮が鳴り響いた。
同時に、森から何かが姿を現してくる。
あれは――?
「奴」を認識した途端、私は叫んだ。
「違う、賊じゃない! 長老、逃げて!」
蜘蛛――そう、奴はまさに蜘蛛だ。
しかしその実体は普段森で見かけるそれとは根本的に異なる。全長は長老の家屋ほどはあろうか。体節から八本の足が伸びており、それらの先端には獰猛な爪がある。あれに切り裂かれたが最期、生き延びられる自信はない。全身が暗色の毛に包まれている。その一本一本が鋭利な針のように鋭く、頑として身体を守っている。視線を頭頂部らしき箇所に向けると、大小さまざまな球体が毛の奥に埋め込まれていた。あれがおそらく眼であろう。おぞましいことに、球体によって色が違う。
「な……なんだあれは」
ミノルが呆然としたようすでつぶやく。
「グコアアァァァ!」
巨大蜘蛛が、全身を震わせながら凶悪な咆哮をあげた。
「うっ!」
すさまじい音量だった。必死で耳をふさぐ。ミノルも長老も同じく手で耳を覆っている。
倒すしかない。
奴は危険だ。危険すぎる。
私とミノルは顔を見合わせた。二人とも、同じ間で頷く。
「……行くよ、チヨコ」
「うん」
「勝てるさ、絶対」
「そうだね」
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