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禁断の愛情 怨念の神

魔法少女どま子

初体験

 ――しかし結局、なにもなかった。

 ミノルは抱擁を解くと、「じゃあご飯ご飯」と言ってそそくさと離れてしまった。魚を獲りにいくらしかった。チヨコのぶんも獲ってくるからねーと爽やかな笑顔を向けてきたが、反応に困ったのは言うまでもない。

 たぶん、どうしたらいいかわからなかったか、勇気を出せなかったんだろう。そういう、少しドジなところも含めて彼に惹かれたのだ。

 ミノルはすぐ戻ってきた。大きな名も知れぬ魚を二匹、自信満々に掴んでいた。
 調理はもちろん私が担当した。小屋の外に木を集め、火をおこした。木でこしらえた串に魚を刺し、その火で焼く。いつも通りの簡単な料理だ。それでも異様に胸が高鳴っていたのは、隣に大好きな男性がいるからかもしれない。

 焼き魚はまさに至高の味だった。温かみと、優しさに溢れた味だった。一片たりとも魚肉を残せなかった。彼と一緒に焼いた魚を残すなんて考えられなかった。
 温かみが全身に広がってきた。

 私は彼の肩にもたれかかった。ミノルはすこし驚いたようだったが、そのまま私の肩に手をまわしてきた。

 ゆっくりと、目を閉じる。
 彼の心臓の動きが伝わってきた。
 大丈夫だよ――私はささやいた。
 わかった。彼もそうささやいた

 片方の頬に、たくましい手が添えられた。私は目を閉じたまま、ゆっくりと頷く。
 私たちの唇が重なった。初めての接吻だった。

 しばらく愛を確認しあっていると、彼が優しく私を押し倒してきた。
 大丈夫かと、彼が訊いてきた。
 私は小さく首を縦に振った。
 彼の手が、私の肌に触れた。

           ★

 目が覚めた。
 小屋の天井が視界に映る。私の左手が、ミノルの右手につながれている。
 頭がぼんやりする。午後の鍛錬もあるというのに、私たちはいったいなにをしていたのか。

 でも。
 すやすやと寝息を立てているミノルを見て、私は思わず微笑んだ。彼の頬を、すーと指先で撫でる。
 まるで夢のようだった。こんなにたくましくて優しいミノルと結ばれるなんて……

「お」
 ミノルがうっすら目を開けた。
「チヨコ……僕たち眠ってたのか」
「うん」
「……なんか、幸せだね」
「うん」
「ずっと幸せでいようね」
「うん」
「僕たちがこうなってるの知ったら、長老、きっと驚くよね」
「うん。でも喜んでくれると思うよ」

 村は現在、急激な過疎に悩まされている。その最たる原因が、断続的な賊の襲来である。村長いわく、私たちの村は狙われやすいらしいのだ。この辺りは森に囲まれている。人の気がほとんどない。飢えた旅人たちが、賊と化して襲ってくるには格好の的なのだ。

 賊の襲来など、昔は滅多になかったらしい。長老はいつも、「腐敗した人間が増えておる」と嘆いている。私もその通りだと思う。自分のことしか考えられないから村を襲う。

 賊に立ち向かうのは、当然、男たちだ。私やミノルの父も戦った。村の平和の祈りながら戦いつづけた。

 だが、彼らが帰ることはなかった。何度も何度も襲われてしまっては、地の利があるとはいえ体力が持たない。
 私の父も帰らぬ人となった。誰が放ったかもわからぬ矢に撃たれていた。遺留品はなかった。すべて持っていかれていた。

 やがて若い女も戦場に駆り出されるようになった。彼女らには、戦闘に関する知識も経験もない。ただ若いという理由だけで粗暴な賊たちと相対した。結果、村は存続こそできているが、いつ果てるともわからない状態である。

 だから長老は命じた。
 ――若者は、賊に備えて日々鍛錬せよ。それがお主らの仕事であり使命である。

 以前は、私たちを指導する「先生」もいた。先生に毎日、剣の使い方を教え込まれた。とても強く、正義感の溢れる男性だった。だからこそ、先生までもが賊に殺されたときは信じられなかった。以後、私たちは自分たちの力で剣の修行をしている。

 暗いことを思い出してしまった。それが顔に出ていたらしい。気分を変えるようにミノルが明るい声で言った。
「とりあえず、長老に僕たちのことを報告しにいこうよ。きっと喜んでくれる」
「……うん、そうだね」

 久々の吉報だ。これを機に村が活気づくといいが……

 私は立ち上がり、表着おもてぎに袖を通した。それから後ろ髪を布でまとめ、身だしなみを整える。ミノルも烏帽子をかぶり、直垂ひたたれに着替える。
 二人とも準備を終えたところで、私たちは小屋を出た。

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