異能力主義学園の判定不能(イレギュラー)

深谷シロ

Episode.20「強敵」

俺は細木の案に乗ることにした。そのため俺は細木とは再び別行動になることにする。


「呼び掛けが終わったら試合舞台で待っていてくれ。」


「分かった。」


俺の行き先は教室棟である。体育館内の『疾風』の組織員は俺が干渉する事の出来ない上浦のみだ。気にする必要は無いだろう。


俺は他の経路から侵入して、別の場所にいる組織員の気絶・捕縛をするつもりである。


だが、ここで一つ厄介なのが、俺は上浦の異能力スキルによって、俺自身の異能力スキルが使えない状態にされている。


その状態の解除が最善ではあるが、それが出来る可能性は非常に低い。無理だと仮定した方が早いだろう。


俺は走りつつそのような事を考えていると、前から銃声が聞こえた。


俺の周りには『疾風』の組織員しかいない。要するに撃った先にいるのは俺である。


サイレンサーで音を消す気もない組織員が撃った銃弾を躱した。異能力スキルの必要も無い。


俺は発砲した反動で相手が後ろに傾いているのと同時に押した。


これで相手は転んでしまう。そして鳩尾を狙って気絶させる。手加減はしない。


女だから、子供だから、老人だから。俺にとっては老若男女は只の他人である。誰であろうと敵は叩きのめす。


俺に比べて細木は社交的な性格をしている。細木には友人が多く、言うなれば俺には友人の友人が多いという事だ。俺に限って言えばそのような離れた人達とまで友好関係を結ぼうとは思わないが。


そう考えている内に教室棟の入口に辿り着く。どこかの窓からか侵入しようかと思ったが、見つかれば同じなので素直に入口から入ることにする。


勿論、そんな事をすれば誰かが気付く。銃を構えて撃とうとした瞬間に気絶している。銃を構えるより俺の方が速い。距離が近い時には銃を持つよりナイフを持った方が良い。


俺は教室棟に入ると一階の廊下を歩いた。敵がどこにいるかなど全く予想もつかないので、取り敢えずは散策することにした。




────それにしても静かだ。


一つの組織が大規模でなくとも侵入していればもう少し騒がしい筈だ。しかし、俺の近くでは物音一つたっていない。高校敷地外からの騒音も無い。


「まるで夢のようだ。」


俺は何故かこの何気ない一言によって沢山のピースを繋げた気がした。……夢?


俺はもう一回脳内を整理した。


俺は教室棟を訪れた。その前に……なんだ?記憶が曖昧になっている場所がある。という事はそこで何かが起こったか。それが今の夢のような状況を導いているのか。


「……要するに異能力スキルという訳か。」


「お見事♪」


世界は鏡のように砕け消え去っていく。正確には夢の世界が消え去る。


俺は体育館から教室棟までの通路の途中にいた。まさに体育館から教室棟へ向かう途中で倒した敵がいた場所だ。あの倒した組織員は異能師だったようだ。迂闊だった。


俺の手前には一人の少年が立っていた。俺が倒したはずの組織員は既にいない。気絶させるところまでは事実だったのだろう。


「お前は……」


「久しぶりですね♪」


俺は直接こいつとは会っていない。但し直接あっていないだけだ。この声は校内放送で聴いた声だ。こいつは美濃山みのやま光流みつる。2年Aクラスで元『十傑』である。俺の異能力スキルを校内中で流した事で、裏から手を回されて校内ランキングから除外されることになったのである。


────こいつが『疾風』に俺の異能力スキルを話したのか?


「あ、僕は君の事は言ってないからね。あいつらは前から知っていたみたいだよ。」


《あいつら》。要するに関係があるということだな。鎌掛けすらしていないが隠す気は無いようだ。一人でいる時点で何らかの自信があるのか。


「お前はどの立ち位置だ?」


「一応僕は『疾風』の一員……なのかな?」


疑問形という事は『疾風』に元からいた訳ではなく、何らかの出来事で関わっているだけなのだろう。もう少し問い詰めるか。


「何故、お前が関わっている?」


「うーん……。別に他言は禁止されていないからいいか。僕はとある組織の研究に参加してるんだ。それで僕は『疾風』に関わったんだ。」


「『国立異能研究所』か?」


「あれ?知ってるの?」


正解、か。だからこそ上浦も『疾風』の組織員に紛れていたのだろう。こいつは何をするつもりだ?


「それでお前は俺に何の用だ?」


「特に理由というものは無いんだけどね。警告だけしてあげようかなー?とか思ったり?」


何故、疑問形なんだ……。それよりも警告とはなんだ?


「『疾風』を甘く見ない方が良いよ。」


それだけだった。警告はたった一言。しかしその言葉には簡潔な言葉とは思えないほどの重みがあった。


「それは何らかの事実に基づいた判断なのか?」


「そうだよ。僕は数週間だけ『国立異能研究所』にいた。そこでは多くの実験がされていたんだ。勿論、そういう組織だから当たり前だけど。その中には違法なものも多く含まれていた。その一つが『人工異能力アーテフィシャルスキル』の研究だ。」


美濃山の言う『人工異能力アーテフィシャルスキル』とは俺が『強奪エクストーション』で奪った異能力スキルの『吸収アブゾープション』と『均等イコール』のことだろう。


「正解だよ?」


「お前も何らかの異能力スキルを手に入れたという訳か。」


「それも正解。僕は稀な個体のようなんだ。僕が手に入れた異能力スキルは『多重能力マルチプルスキル』というみたいなんだけどね。」


美濃山が言った言葉はそのまま強敵であると言っているようなものだった。


「あ、君も持ってたよね。何個でも異能力スキルを持てるあの便利なやつ。これのお陰で僕は『国立異能研究所』でも重宝されることになってね。僕も覚えてないぐらいの数の異能力スキルを持ってるんだー♪」


やはりこいつは元の強さを軽く超越している。同じく多くの異能力スキルを手に入れた俺でも勝てるかどうかは分からない。


さらに希少系の異能力スキルを多く手に入れている可能性が高い。俺は希少系の異能力スキルは数えるのは両手で事足りてしまう。


「じゃあね。」


最後にそう告げた美濃山は消えた。あれは同じく希少系の異能力スキルである『瞬間移動テレポート』だろう。いつかは戦うことになるのだろうか。


俺は暫く考え込んでいたようだ。教室棟から叫び声が聞こえてくる。そろそろ行った方が良いだろう。細木も人を読んでいる頃だしな。


俺の歩みは自然と速くなる。そして最後には走る。教室棟までは遠くない。直ぐに辿り着く。叫び声が聞こえたのは三階辺りだ。階段を昇るのも煩わしい。


俺は狭くなっている場所の両端の壁を蹴り、巧みに駆け上がる。一分も経たずに三階の叫び声が聞こえた教室の隣の教室に来ることが出来た。


俺は窓から教室に入る。中には誰もいないが、何らか隣で戦っているのか砂埃が巻き起こる。そして誰かの話し声。一人は男の声だ。もう一人は女の声のようだ。


俺は教室から出る。音は全く出ていない。気付かれていないだろう。耳を済まして隣の話を聞くことにする。


「……でしょ?」


なんだ?何かを確認している?


「俺は日本人だ。見てわかるだろ?」


どうやら外国人かと聞いたようだ。


「いえ、違うわ。あなたは外国人。正確には外国の国籍を持ってるわね。」


「何故、そう思う?」


「警察の事件資料の中にとある事件があったの。それは密入国者が港付近の従業員を大量殺人したという事件が。この事件で出された手配書の人相はなんとあなたとそっくりなの。」


その事件はこの国に住んでいれば誰もが知っているであろう事件の事だ。


皮肉な事にその事件は俺にとって馴染みの深いものでもあった。


それは七年前の事。長崎のとある港でおこったたった一人の密入国者が異能師のみを狙って起こした大量殺人事件。


「長崎異能師大量殺人事件。」


女は最後にそう付け加えた。

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