異能力主義学園の判定不能(イレギュラー)

深谷シロ

Episode.19「無効」

「何故、生徒会長が組織員の格好をしているんですか?」


極めて落ち着いて俺は聞いた。


「私は仕方無くこんな格好をしているんですよ。可愛くないし……。」


邪魔だから消えろ、と言えないのが悔しい。


「俺は生徒会長を告発した方が良いですか?」


「結構です。逆に私はあなたの存在を黙っていてあげますよ?」


嫌味が充分に込められているが黙っていてくれるのは有り難いため、素直に受け取るとしよう。


「分かった。出来るだけ告発しないようにします。」


生徒会長は頷いた。これでいいようだな。


「ではまた。」


俺はすぐさまその場から動いた。組織員の一人が話しているのも違和感がある。『不可視インビジブル』に気付かれる場合もある為、同じ場所に留まり続けるのは避けるようにした。


俺が再び組織員を気絶させていこうとすると……遠くから爆発音が聞こえた。


「……何の音だ?」


この距離は校舎程だろう。恐らくそちらにも手が回っている、か。前方で戦闘を続けていた樋口菜優も校舎の方を見た。当然、それは隙となる。


銃声が体育館に響く。女子の悲鳴が重なる。これは樋口菜優のものではない。……という事は。


女子生徒の悲鳴と共に体育館内は一気に俺に不利な状況へと変化した。パニックが起こったのだ。これでは誰が撃たれてもおかしくない。芳しくない状況だ。これだけの人数を守る手段は流石に無い。


宮倉が使う『空間支配エリアコントロール』でさえ、発動できる結界は一つだ。繋がっていればどこまでも範囲は広げれるのだが、それを調整出来るほどの時間もない。


生徒がパニック状態になり動き回り始める。生徒達の安全確保は後だ。まずは主賓の政府関連の大物達の安全確保をしなければ、状況がさらに悪化してしまう。


俺は『空間支配エリアコントロール』を踏み台として空を駆けた。数秒の内に主賓席へ到着する。近くにいた『疾風』組織員を全て気絶させる。


「何者だっ!」


主賓の一人が大声を上げる。だが、声は掻き消される。俺には聞こえたが、わざわざ名乗り出る必要は無い。名乗り出るのに姿を現しては元も子も無い。


俺は万が一を考慮して、主賓達を全員『空間支配エリアコントロール』で囲んだ。これで狙撃されることは無いはずだ。


上浦のように異能力スキル無効化の銃弾を持っていれば危ないだろうが、結界は『偽装カモフラージュ』で隠しているため、透明になっている。


次に解決すべき問題は……樋口菜優だ。隙を見せた時点で剣士失格だとは思うが焦っていたのだろう、現状況を見るとかなり銃弾が体に掠っている。


未だに重傷には至っていないようだ。だが、この後どうなるかは俺も予想がつかない。


俺は再び『空間支配エリアコントロール』を利用して跳躍。樋口菜優の近くまで行く。


「くっ……。」


まさに銃弾を俺を掠ろうとした瞬間だった。俺は咄嗟に身を捻り躱す。お陰で存在に気づかれる事は無かった。


そのまま銃弾を撃ちはなった『疾風』組織員の鳩尾に蹴りを入れ気絶させる。


「何だっ!!誰かいるぞ!」


存在は知られたようだ。『不可視インビジブル』にはまだ気づかれていない。俺はさらに一人二人と気絶させていく。


体育館内の組織員が上浦を除いて十人ほどになった時。俺は樋口菜優に腕を掴まれた。


「あなた、誰?」


当然の質問だ。だが俺には答える義理がない。みすみす俺だと伝えれば試合舞台で『偽装カモフラージュ』している状況が嘘だと気付かれてしまう。迂闊な事は出来ない。


俺は罪悪感を多少感じはしたが、樋口菜優の首元に手刀を浴びせ気絶させた。そのまま近くの座席に座らせる。これで大体は片付いた。


ここにいる全員を片付けたいが、上浦がどう動くかが俺には分からない。気絶させたい所だが異能力スキル無効化が厄介だ。後回しにする。一人だけであれば、誰かが対処してくれる可能性が高い。


俺はすぐさま他の組織員を気絶させる。最後まで俺は無傷だった。残りは上浦一人だが無視する。


このまま外にいる組織員を倒していっても良いが、一人では面倒だ。あいつに手伝ってもらおう。


俺はその前に上浦の元にもう一度行く。邪魔をするな、と伝えに。


「隼人君、何か用ですか?」


「くれぐれも邪魔だけはしないで下さい。」


「……おっと手が滑りました。」


「なっ……!」


流石に驚愕せざるを得なかった。上浦は俺の『不可視インビジブル』を解除したのだ。


「……それが生徒会長のもう一つの異能力スキルですか。」


「気付いたんですか?そうですよ。私のもう一つの異能力スキル。『異能力無効スキルブロック』。」


「……『強奪エクストーション』も無理ですか。」


俺は『異能力無効スキルブロック』を奪おうとしたが、無理だった。勿論、『吸収アブゾープション』も無理だった。


「……そうか。」


「恐らくその予想は当たっていると思いますよ?」


俺が考えたのは突拍子も無い事だ。だがそれが当たっていると言う。俺の予想は樋口宗斉のみが持つ『固有能力ユニークスキル』ではないのか、という事だった。


これは普通の異能力スキルとは違う。通常の能力アビリティとは異なる能力。それが異能力スキル。さらにその異能力スキルの中でも他とは異なる存在。それが『固有能力ユニークスキル』だ。『万能系』と呼ばれる。


だからこそ『希少系』の『強奪エクストーション』ですら通じない異能力スキル


────果たして上浦柴乃は何者なのか。


その問いには未だ辿り着けそうにもない。


俺が現時点で発動している全ての異能力スキルを消された。


試合舞台上の『偽装カモフラージュ』、主賓を囲んだ『空間支配エリアコントロール』とそれを隠した『偽装カモフラージュ』。


俺の姿を隠していた『不可視インビジブル』に軽く発動しておいた『確率操作プロパビリティオペレーション』。


さらに戦闘時に使っていた『格闘術マーショルアーツ』。そして『多重能力マルチプルスキル』。


幸いにも『強奪エクストーション』にて奪ってきた異能力スキルが奪われることは無かった。


しかし、俺は振り出しに戻されたのだった。


「見苦しいですよ。まだ大丈夫だと思っているのならば。」


上浦はさらに言う。図星だった。俺はこの状況からも上浦さえいなければ何とでも覆すことが出来ると考えていた。


だが、上浦が退く気は無いらしい。ならば、俺は提案する。


「生徒会長に構う暇はありません。この事案が終わってから再び相見えるとしましょう。」


上浦は渋々といった様子ではあるが納得した。


「但しこれからこの事案が終わるまであなたは一度たりとも異能力スキルを使う事は出来ませんよ?」


とも言ったが。予想外だった。俺の基本的な作戦プランは、自身の異能力スキルを最大限に活用したものだ。これを封じられては一から作戦プランを立て直す必要がある。


上浦と共にいると俺の調子が崩れてばかりだ。マイペースと片付けることが出来れば良いのだが、それが出来そうにもない。だからこそ俺は敵対する事に決めたのかもしれない。


仕方無く俺は異能力スキル無しで走り出す。


「あ、言い忘れてました。お友達の異能力スキルは封じていませんよ?」


……どこまで見抜いているのだろうか、この生徒会長は。


俺は割り切って上浦の掌で踊らされる事にした。




パニックに陥った生徒達と幾度もぶつかりつつも俺はどうにか選手控え室へ辿り着いた。


「はぁ。何なんだ、あの生徒会長は。」


「ん?隼人じゃないか。」


そこで話し掛けてきたのは俺が用があった人物だった。


「あぁ、細木か。用事があるんだ。少し話を聞いてくれないか?」


「良いよ。」


俺は状況を説明した。最初の方は校内放送だったのもあり細木も知っていた情報だった。


俺は体育館の組織員を倒した事を告げると、上浦の話は秘密にしておいた。他言するのはさらに面倒になる。


「分かった、俺は隼人に加勢すればいいということだろう?」


「正解だ。俺は今、異能力スキルが使えない状況に陥っている。理由は不明だが、それはいずれ調べるつもりだ。今は細木の加勢が必要なんだ。」


「了解。じゃあ行こうか。」


俺と細木は体育館の外へ向かった。国の主賓達は無防備な状況だが、誰かが守るだろう。


それに上浦は手を出さない気がしている。そしてその予想は外れていないのだろう。


体育館外には多くの組織員……数千人以上だった。さらにパニックになった生徒達は入口で銃を向けられていた。


人質となった生徒は全部で……二十人だ。多い。通り抜けるのにも姿を隠していないから無理だ。


「銃口をこちらに向けさせるには……。」


「隼人、俺に提案がある。」


細木は俺に告げた。そして提案を聞いた俺は承諾した。


「……隼人。俺は生徒に応援を呼び掛ける」と。

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