異能力主義学園の判定不能(イレギュラー)

深谷シロ

Episode.14「本気」

◆新入生テスト本選・Fブロック◆


「新入生テスト八日目。本日は新入生テスト本選Fブロックです。」


今日はFブロックで俺が出る事になっている。Fブロックの最後で第50試合である。


現在は第40試合が終わったところである。あと一時間もしない内に出番が来るだろう。


第40試合は思いの外、白熱していた。


一人は【弾丸バレット】という様々な弾丸をあつかえる異能力スキル持ちの倉木くらきたけるという男子生徒。
もう一人は【吸収ドレイン】という相手の異能力スキル攻撃を吸収一回につき、一度使えるという便利なのかどうか分からない異能力スキルを持つ木村きむら隆太郎りゅうたろうという男子生徒だ。


二十分経っても未だ決着が付いていない。倉木の弾丸のバリエーションは素晴らしいのだが、命中率が良くないのだ。
かたや木村は、近接技を持っていない為に攻撃を仕掛けれていない。結局、異能力スキルを使い続けた倉木が倒れてしまった。


その後、第49試合までは一方的な決着だった。新入生テストは本来このような感じで進んでいくのが通常なのだ。第40試合のようなパターンは極めて稀なケースである。組み合わせを間違えたような気もするが既に後の祭り。


さて、次は俺の試合だ。


「続いては第50試合です。選手は舞台へ。」


ハヤトは舞台へ上がった。今日の生徒会の仕事は休みのために生徒会席から出てきた。


ハヤトの相手の選手は強者である。出場すると歓声が上がっている。彼女は、この学年で一、二を争う実力者と言われている。スキルレベルは既に40を超えている。俺が入学時の祝福ギフトで貰った『並列思考パラレルシンキング』のレベルは現在35だ。


スキルレベルは異能力スキルを使えば使う程に上昇する。戦闘時には常時発動にしているが、普段の生活で並列思考をするのは疲労が激しいため止めている。それに対して彼女の異能力スキルである『剣術ソードスキル』は、剣道の上級者で毎日道場に通っている彼女には相応しい。使う頻度もハヤトより断然多い。


樋口ひぐち菜優なゆ。対戦相手の名前だ。『組織』の長である透竜ドラゴンの樋口宗斉、その孫だ。祖父から分かるように相当の実力者である。だが、その事実はあまり知られていない。樋口宗斉自体が作り話のような存在だからだろう。


「私は樋口菜優。あなたが黒霧隼斗……祖父が言っていたルーキー君ね。異能師ランキング五位……。」
「紹介してくれなくて大丈夫だ。さっさと試合を始めよう。勝つのはどちらか一人だ。」
「いいわ。始めましょう。」
「……それでは、Fブロック1回戦第50試合、試合開始!」


瞬間、二人は消えた。舞台では『剣術ソードスキル』で能力を向上させた剣と『格闘術マーショルアーツ』で能力を向上させた拳とが交わる音が響き渡るのみだ。姿は全く見えない。残念な事にこの映像は残っていない事だろう。原因は俺であるのだが。


────『特化系』と『上昇系』の『格闘術マーショルアーツ』の違いは何か。


よく疑問とされるが、これは人外の動きが出来るかどうかの違いである。『特化系』は特定の一つの能力のみを人外のレベルまで上昇させる。それに対して『上昇系』の『格闘術マーショルアーツ』は、全能力を上げるが人外のレベルまでは到達できない。


樋口菜優が持つ『剣術ソードスキル』は、攻撃に超特化している。防御なども剣の技としては、出来るが人並みにしか出来ない。しかしながら、その人並みが樋口菜優では、十分に人並み以上であるのだが。


であれば、何故ハヤトは人外とも言える高速移動が出来るのか。簡単な話だ。『強奪エクストーション』で奪った異能力スキルの中にその類の能力があったのだ。それだけの話である。


閑話休題。


二人はスロー映像でも追い付けない程の速さを誇っていた。観客の声援は全く聞こえない。静かに試合の様子を聞いている。唯一、観客に聞いて分かることが剣と拳が交える音だ。必死にそれを聞いて、試合を理解しようとする。ただ、理解が及んでいない人等は、目が点になっている事だろう。


キーン……玄人が聞けば二人のどちらも相当の達人であると理解ができる、そんな美しい音だ。その音が出せる達人の域に二人は到達している。この試合は集中力を切らした方が負け。相手に隙を見せず、ひたすらぶつかつり合う。勝つ方法はそれのみだ。隙を見せようものなら、次の瞬間に試合は終わっていることだろう。隙を見せなかった方の勝ちで。


暫く打ち合った後。二人は止まった。勢いを殺せず、舞台外へ出そうとする体を必死に抑える。二人は未だ息が上がっていない。余裕の範疇だ。


「あなたやるわね。」
「そちらこそ。流石、樋口宗斉の孫と言ったところか。」
「私の祖父は尊敬に値する人物ね。私には追いつけないわ。」
「あの域に辿り着ける者がいる気がしないが。」
「……そうね。それより、このまま打ち合ってても終わる気がしないのだけど。」
「同感だ。そこで俺に提案がある。」
「何?」
「……次の一手で決着を付けよう。」
「賛成。じゃあ、いくわよ。」


二人は完全に動きを止めた。樋口菜優は精神統一。ハヤトは『並列思考パラレルシンキング』に加えて、『多重能力マルチプルスキル』を発動。さらに『強奪エクストーション』で奪った異能力スキルを幾つか発動待機状態にした。そして、万が一の為に『不滅インディストラクティブル』を発動。既に五つ以上の異能力スキルを使おうとしている為、体への負荷が意外と大きい。長期戦をするつもりもないが。


「俺は良いぞ?」
「……いいわ。」
「じゃあ、最強を決めさせてもらおう。」


樋口菜優がするのは抜刀術。恐らく人間には出せない類の技だ。避けるのは容易ではない。アクロバティックな攻撃をされては、互角状態も保ち続ける自信もない。相手の攻撃は未知数だ。咄嗟の判断が決着をつける。さて、勝負だ。


「…………ッ!」


瞬間、勝負は決した。勝者はハヤトだ。


「完全に私の負けよ。」


何が起こったのか。まず樋口は、抜刀術にて飛ぶ斬撃を放った。その後自らが跳び、ハヤトに全力で斬りかかった。全方位からの飛ぶ斬撃付きで。逃げ場は無かった。
ハヤトは『並列思考パラレルシンキング』を駆使して、まず宮倉より奪った『空間支配エリアコントロール』を待機状態より発動。しかし、スキルレベルが1であった為、すぐに破られた。


その後に発動させたのは、『強奪エクストーション』。飛ぶ斬撃の威力を全てゼロにした。これで飛ぶ斬撃の無効化を完了した。


そして、樋口本人の攻撃だ。決着を付ける必要があった為、こちらの攻撃は『念動力サイコキネシス』で威力を殺す。そして『電撃エレクトリック』で刀より手に電気を流し、刀を手から離させる。これで相手の攻撃は完全無効化された。


最後に『幻影イリュージョン』で樋口の裏に回り込み、樋口の背中に『衝撃インパクト』を放った。衝撃を浴び、樋口は場外となった。


これが一瞬で起こったのだ。ハヤトはこれを成功させる為に『確率操作プロパビリティオペレーション』をスキルレベル50まで上げた。確率が50%上昇した為に100%となった。完全にハヤトの勝利だったのである。せめてハヤトの死角から斬撃を放てる事ができれば、勝利の可能性もあったが、ハヤトに対して死角は関係無い。寧ろ、死角からの攻撃を最も警戒している為、一番に無効化したのは死角から放たれた飛ぶ斬撃だった。


「……し、勝者、1年Tクラス黒霧隼斗!」


観客から歓声が上がった。残念な事に沢山の異能力スキルを使用した為、映像は破棄した。記録は全く残らないだろう。


休憩を挟み、2回戦であるバトルロイヤルがあるが、これはあまり心配していない。『不可視インビジブル』を『偽装カモフラージュ』を用いながら、使用して最後の一人まで姿を隠しておく。漁夫の利を狙う。狡い戦法だが、こちらには体力が殆ど残っていない為、致し方ない。


2回戦と3回戦のバトルロイヤルは、苦労せずに優勝した。Fブロック代表は俺だ。

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