異能力主義学園の判定不能(イレギュラー)

深谷シロ

Episode.5「拡散」

◇異能科高校・体育館◇


「はっ!」


掛け声と共に全方位からの攻撃は全て防がれた。
鷹野が異能力スキルである『格闘術マーショルアーツ』を発動させたのだ。


「これが鷹野先輩の異能力スキルですか。厄介ですね。」
「あまり厄介という声はしてないようだが。」
「バレましたか。」


こうは言ったが流石に異能力スキル相手に何も無しに挑むのは無謀だ。こちらも何かの異能力スキルを使いたいが……。
兎に角、『並列思考パラレルシンキング』は発動させる。既に『強奪エクストーション』によって『格闘術マーショルアーツ』は奪ったが、これを使っては嘘を付いたと気付かれてしまう。


作戦は決定したが。作戦はこうだ。
長期戦に持ち込み、『強奪エクストーション』によって相手のステータスを奪っていく。こちらのステータスは変化させない。変化していては違和感が残るだろう。
これも一気に使用してはいけない。少しずつ。疲労が溜まったと勘違いさせる必要がある。これには『偽装カモフラージュ』が使える。会場から近い席の人達も同様に偽装する。


この作戦が成功しなかった場合は再び『並列思考パラレルシンキング』を利用する。
ただしこの作戦にもデメリットがある。異能力スキルという力は膨大なものであり、一つ使用するだけにも相当な体力、集中力を必要とする。
多重能力マルチプルスキル』で異能力スキルを多数使用できるとしても、自らに対する負荷が大きい。
ここからは『並列思考パラレルシンキング』を停止させ、『多重能力マルチプルスキル』、『偽装カモフラージュ』、『強奪エクストーション』の三つで挑む。『偽装カモフラージュ』は最低限使わない方向で。


ハヤトは『並列思考パラレルシンキング』を停止させた。一つの思考で集中する。こちらの思考は先程から鷹野の攻撃を受け流す事に専念している。考えている間も鷹野は攻撃をしていたのだ。


「どうした?異能力スキルを利用しないのか?」
「していましたよ。そして苦戦すると判断しました。」
「それはお世辞か?」
「……少しは人の話も信じてくださいよ。」
「すまない、俺は脳筋なもんでな。」


鷹野からの連続攻撃が続く。左から右から右から中央から下から左から上から右から……。それを視覚に頼るのでは無く、空気の流れで感じ取るのだ。
この攻撃を視覚で対応しようと思ってはいけない。これに対応する程の感覚は『希少系』の『第六感シックスセンス』のみだろう。
生憎、ハヤトは保有していない。


* * * * *


暫くして鷹野の攻撃速度が段々と鈍くなって来た。これは好機チャンスだ。『強奪エクストーション』を利用する。相手が疲れていると認識させ、体力と攻撃力、速さを奪っていく。


「ふぅ……。」
「どうしましたか?」
「未だに余裕か。その余裕は何処から来ているんだ?黒霧の異能力スキルは『並列思考パラレルシンキング』じゃ無かったのか?」
「いえ、『並列思考パラレルシンキング』は持っていますよ。」


嘘は付いていない。俺は『並列思考パラレルシンキング』は持っている。他にも持っていないとは言っていない。二つ以上異能力スキルを持っているという選択肢は、通常の人間では用意されていない。普通は持っていないからだ。
しかし、敵は愚か者では無かった。伊達にAクラスで『十傑』では無いということだ。


「黒霧、『は』と言ったな。どういう事だ。他にも異能力スキルを持っているのか!?」
「さあ?」


ハヤトは首を傾げておく。あまり公表したくない事実である事は確かだからだ。複数の異能力スキル持ちと気付かれれば、後先の学校生活にも支障が出る。


「黒霧、持っている異能力スキルを全て言え。」


別に二人の声は観衆に聞かれている訳では無い。言ってもいいだろう。


「分かりました。……俺の持っている能力は『多重能力マルチプルスキル』と『偽装カモフラージュ』、『並列思考パラレルシンキング』です。」


全ての異能力スキルは明かさなかった。『希少系』である『強奪エクストーション』や『不滅インディストラクティブル』は知られたくない。


『あーあー。』


「「何だ?」」


二人の動きが止まった。


『マイクテスト、マイクテスト。よし、聞こえてるみたいだね。』
「上浦、どうした?」
「原因不明です。恐らく『伝達トランスミッション』だと思われますが。」
「……美濃山の仕業か。」
「すみません、鷹野先輩。美濃山、とは?」
美濃山みのやま光流みつる。学内異能師ランキング四位の二年生だ。保有能力が『伝達トランスミッション』という。この声からも美濃山で間違いないだろう。上浦、頼めるか?」
「分かりました。二人は試合を続けてもいいですよ?」
「試合は一度中止にしませんか?鷹野先輩。」
「俺もそれに賛成だ。」


上浦が拡張機を使用して、体育館内の人達に呼び掛けた。


「生徒会です。現在、原因を調べております。原因が判明し次第、試合再開とします。それまで休憩となります。お騒がせしてしまい申し訳ございません。」


……だが美濃山は止まらない。


『ハハッ!こんにちは、諸君!期待の新星ルーキーが自らの異能力スキルを教えてくれたみたいだよ!黒霧隼斗の異能力スキルは『多重能力マルチプルスキル』、『偽装カモフラージュ』、『並列思考パラレルシンキング』、『強奪エクストーション』、『不滅インディストラクティブル』の五つだよー。後の二つは残念ながら証拠が無いけど、前三つは証拠があるからね!』


そう言って美濃山が流したのは、俺の先程の言葉だった。何処かに盗聴器が仕掛けられていたらしい。体育館内がざわめきで溢れ返る。当たり前だろう。能力五つ持ちなど前例が無いのだから。
流石にこれだけの人数が事実を知ってしまえば、偽装が間に合わない。


『ということで諸君!また、会おうね!』


校内放送アナウンスは切れた。恐らく生徒会役員は間に合わないだろう。正体を隠すつもりは無いようだ。別に人の異能力スキルの情報を漏らした所で罪に問われる事は無い。だが、不味い。


「どういう事だ、黒霧。」


当然、目の前の鷹野もこの放送は聞いた。俺が嘘をついていた事にも気付いた。信用が無くなっただろう。


「別に偽った事を悪いとは言わない。誰にでも隠したい事実はあるだろう。だが、どうして五つも異能力スキルを手に入れた?」
「すみませんが、まだ何処かに盗聴器が仕掛けられている可能性があるので、話はまた次の機会にさせて下さい。」
「それもそうだな……分かった。そして、すまないが俺も美濃山の件で行かなくてはならない。」
「ええ。お願いします。」
「ああ、任された。」


そう言って鷹野は走っていった。俺も退散するとしよう。美濃山は少なくとも無断で放送室を利用した件で罪を問うことは出来よう。後は生徒会に任せるとしよう。


「隼斗君、少し良いですか?」
「何でしょうか、生徒会長。俺は今日は帰りたいんですが。」
「ごめんなさい、校長がお呼びなんです。」
「……分かりました。」
「付いてきて下さい。」


ハヤトは上浦の後に付いて行った。道の途中では、生徒達に見られていた。一瞬で注目の的だ。有り難く無い意味でだ。


「校長先生、失礼します。」
「失礼します。」
「やあ、君が黒霧隼斗君だね。私がここの校長の鍋谷なべやだ。来てもらって何だけど、話があるのは私じゃないんだ。横の応接室に行ってもらえるかい?」
「……は、はい。分かりました。」


……誰だ?校長よりも上の役職?国の人間という事か……。迂闊な行動は出来ない。念には念を、だ。『偽装カモフラージュ』を使用して、表情を無表情にしておく。


「失礼します。」
「どうぞ。」
「あなたは……。」
「自己紹介からしようか。君は……そうか。はじめまして、私は樋口ひぐち宗斉そうさい。『国家指定異能師』で『組織』に所属している。」


……異能力スキルが発動出来ない。事前に発動しておいた『偽装カモフラージュ』が解除される事は無かった。相手は何の能力を持っている。


「すまないね。君の異能力スキルの発動を封じさせてもらった。私は立場的に脳内を探られると、国の安全にも関わるからね。今、発動させている『偽装カモフラージュ』は解除してないからね。」


────そうか。


「……あなたはNo.0ですね。」
「然り。」
「国家異能力特別任務組織、組織長No.0『透竜ドラゴン』。保有能力は『絶対支配コントロール』。」


目の前には絶対不変として頂点に君臨する異能師がいた。

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