救世主になんてなりたくなかった……
第87主:ビルルの過去(4)
森を抜ければ、眼前にはビギンスにとっては見たことのない景色が広がっていた。
屋敷ほどではないが、コンクリートから石で造られた大きな家。全て同じように見えて、その一つ一つが全て違う。地面は全てカラフルな石でできている。様々な人が、その地面を歩いていく。まだ、朝だというのに沢山の人が行き交っている。
至るどころから聞こえる客引きの声。鉄同士がぶつかり合う音。子供同士の元気な声。少し聞こえる喧嘩する声と赤子の泣き声。
どこからともなく漂ってくる焼き立てのパンの香り。ほのかに漂う草花の香りもある。
「スゴい……」
初めて見る光景にビギンスは圧倒されているのか、そうとしか言えなかった。そんなビギンスの反応にアイシャは微笑む。
「まだ、お店は開いていませんので、少し歩きますか」
「うん」
ビギンスは頷く。そんなビギンスの手をアイシャは握った。
「えっ? アイシャ?」
「私にエスコートさせてください」
「で、でも……」
「ビギンス様はここは初めてでしょう? 私に任せてください」
そう言われると何も言えないので、ビギンスはコクリと頷き、アイシャに手を引いてもらうことにした。
「まずは食べ物でも見て回りましょうか」
「えっ? もってかえるの? せんどが落ちるんじゃないの」
「いえ、鮮度は落ちませんよ。持って帰りませんから」
「どういうこと?」
ビギンスは首を傾げる。そんなビギンスの反応に、アイシャは悪戯っ子ぽい笑みを浮かべ「内緒です」と口に人差し指を当てながら、左目を閉じ、言った。
そんな彼女の反応にビギンスは不服なのか「むー」と少しは頬を膨らませる。
アイシャに連れられて、ビギンスは森から抜けた時に出た街の一角よりも、人通りがさらに多い場所へやってきた。
見るもの全てがビギンスにとっては初めてだ。当然、キョロキョロと必死に眺める。そんなビギンスを見ても、街の人は微笑ましく見ていた。すると、見られていることに気づいたのか、顔を真っ赤にして、地面を見る。
「そういえば、ビギンス様は苦手な食べ物ってあるのでしょうか?」
「どうして、そんなこときくの? アイシャなら、わたしににがてなたべものがないのをしっているよね?」
アイシャは当然、気づいているが、敢えて何も触れずに他愛のない質問をした。しかし、ビギンスはどうやら気を使われていると感じたようだ。
少し素っ気なく反応してしまう。
「いえ、ビギンス様のことですから、もしかすると、旦那様と奥様にご迷惑をおかけしないように嘘ついているかもしれませんから」
「わたしって、そんなにもうそつきにみえる?」
「はい。ビギンス様は迷惑をかけないように、優しい嘘をよく吐いています。ですから、ビギンス様のことは信頼はしていますが、信頼はしていません」
「どういうこと?」
「言葉が足りませんでしたね。誰かのことを傷つけるようなことはしないと信頼していますが、嘘を言っていないとは思いませんということです」
「そうかな? わたし、わがままをよくいっているとおもうけど」
「全然足りませんよ。ビギンス様はもっと、わがままを言うべきです」
「で、でも……」
「でもじゃありません。ですので、苦手な食べ物をお教えください」
「…………こうちゃ」
「紅茶ですか。その理由は?」
「その……きらいではないの。ただ、にがてなだけ。ちょっと、にがいし、すこしあきてきたから、あまいのをのみたい」
「それ以外は?」
「うーん。多分、ない」
「本当ですか?」
アイシャの追求にコクリと頷こうとするが、途中で止めた。
「アメイスはきらい」
「アメイスって、葉っぱなのにグニャリとした食感で、噛めば噛むほど渋みが出てくる、あのアメイスですか?」
「うん。わたしはそれいがいのアメイスをしらない」
「まぁ、アレを好きな人は少ないと思いますよ。私も嫌いですし」
「なら、どうして、でてくるの?」
「赤いですから、色合い的にちょうどいいのですよ。アメイスは」
「うーん。それなら仕方ないかな」
納得いかないが、ビギンスは意地でも納得させた。
数分後、色々な店が並ぶ通りに二人はやってきた。そこで、身動きが取れなくなってしまっている。
「おっ! アイシャちゃん! 今日は早いね」
「アイシャじゃないか。いい果物が手に入ったから、ウチに買いにおいで!」
「何言ってんだい! ウチの方がいいの入ったよ!」
その他、大勢の人がアイシャに集まっている。
「あ、アイシャ?」
思わず声をかけてしまう。
「おや? 君は……?」
ビギンスの近くにいた小太りな男性が、ビギンスのことをマジマジと見る。それに気づいたアイシャは、男性とビギンスの間に立つ。
「この方は私の知り合いです」
少しだけ、怒り気味にアイシャは男性に言い放つ。アイシャのこんな反応を見たことないのか、周りの人々はキョトンとする。しかし、男性はすぐに何かを思い出したのか「ああ!」と声を出す。
「ビギンス様か」
男性がそう言うと、人々は少し目を見開く。そして、興味がビギンスに向いたようだ。
「まだ、こんな小さいんだな」
「あぁ、しっかりしているから、てっきりもう少し大きいかと思っていた」
「好きなものはあるかい?」
「ウチの店に来てみて。美味しいものいっぱいあるからさ」
「えっ? えっ? えっ?」
ビギンスはワタワタしてしまう。生まれてから、ずっと、ここまで囲まれたことがないのだ。
ビギンスはアイシャに助けを求めるために、彼女の方を見る。すると、アイシャはほくそ笑む。
「皆さん。よしてください。ビギンス様はこのようなことは慣れていないので」
「そうかい。なら、仕方ないな」
一番最初に話しかけた男性が距離を取ると、他の人たちも距離を取った。ビギンスは少しホッとする。だが、すぐにある疑問が浮かんだ。
「アイシャはどうしてみんなにかんげいされているの?」
「それはもちろん、この街の人々が優しいからですよ」
「オレたちは皆、アイシャに色々と助けてもらっているからさ」
アイシャと男性が同時に違う答えを言う。
「私は助けてなど」
「嘘おっしゃい。ウチがどれくらい助けられたと思っているんだい?」
アイシャの言葉を女性が遮る。すると、その女性に続き、その場にいる全ての人が「ウチも」と口々に言い出した。
アイシャは恥ずかしがっているが、どこか嬉しそうな表情を浮かべている。
自分が褒められたわけではないが、ビギンスもそんなアイシャの表情を見て、自分のことのように嬉しく思う。
「皆さん、準備はしなくて大丈夫ですか?」
「あっ、いっけね。家内に怒られる」
アイシャに言われて、準備中だということを思い出したのか、自分たちの店へ皆、帰っていった。
「アイシャ。にんきものだね」
そんなビギンスの言葉にアイシャは困ったように笑む。
二人は様々な店が準備中なので、街の中をぶらぶらと散策している。それだけなのに、ビギンスはとても楽しそうにしていた。
「ビギンス様。武器屋に行ってみませんか?」
「ぶきや?」
「はい。と言っても、私が行きたいのは調理器具なども売っている武器屋ですけど」
「なにかこわれたの?」
「いえ、そういうわけではありませんが、予備で持っておきたいものがいくつかありまして」
「うん。わかった」
「ありがとうございます」
そうして、二人は武器屋に向かった。
屋敷ほどではないが、コンクリートから石で造られた大きな家。全て同じように見えて、その一つ一つが全て違う。地面は全てカラフルな石でできている。様々な人が、その地面を歩いていく。まだ、朝だというのに沢山の人が行き交っている。
至るどころから聞こえる客引きの声。鉄同士がぶつかり合う音。子供同士の元気な声。少し聞こえる喧嘩する声と赤子の泣き声。
どこからともなく漂ってくる焼き立てのパンの香り。ほのかに漂う草花の香りもある。
「スゴい……」
初めて見る光景にビギンスは圧倒されているのか、そうとしか言えなかった。そんなビギンスの反応にアイシャは微笑む。
「まだ、お店は開いていませんので、少し歩きますか」
「うん」
ビギンスは頷く。そんなビギンスの手をアイシャは握った。
「えっ? アイシャ?」
「私にエスコートさせてください」
「で、でも……」
「ビギンス様はここは初めてでしょう? 私に任せてください」
そう言われると何も言えないので、ビギンスはコクリと頷き、アイシャに手を引いてもらうことにした。
「まずは食べ物でも見て回りましょうか」
「えっ? もってかえるの? せんどが落ちるんじゃないの」
「いえ、鮮度は落ちませんよ。持って帰りませんから」
「どういうこと?」
ビギンスは首を傾げる。そんなビギンスの反応に、アイシャは悪戯っ子ぽい笑みを浮かべ「内緒です」と口に人差し指を当てながら、左目を閉じ、言った。
そんな彼女の反応にビギンスは不服なのか「むー」と少しは頬を膨らませる。
アイシャに連れられて、ビギンスは森から抜けた時に出た街の一角よりも、人通りがさらに多い場所へやってきた。
見るもの全てがビギンスにとっては初めてだ。当然、キョロキョロと必死に眺める。そんなビギンスを見ても、街の人は微笑ましく見ていた。すると、見られていることに気づいたのか、顔を真っ赤にして、地面を見る。
「そういえば、ビギンス様は苦手な食べ物ってあるのでしょうか?」
「どうして、そんなこときくの? アイシャなら、わたしににがてなたべものがないのをしっているよね?」
アイシャは当然、気づいているが、敢えて何も触れずに他愛のない質問をした。しかし、ビギンスはどうやら気を使われていると感じたようだ。
少し素っ気なく反応してしまう。
「いえ、ビギンス様のことですから、もしかすると、旦那様と奥様にご迷惑をおかけしないように嘘ついているかもしれませんから」
「わたしって、そんなにもうそつきにみえる?」
「はい。ビギンス様は迷惑をかけないように、優しい嘘をよく吐いています。ですから、ビギンス様のことは信頼はしていますが、信頼はしていません」
「どういうこと?」
「言葉が足りませんでしたね。誰かのことを傷つけるようなことはしないと信頼していますが、嘘を言っていないとは思いませんということです」
「そうかな? わたし、わがままをよくいっているとおもうけど」
「全然足りませんよ。ビギンス様はもっと、わがままを言うべきです」
「で、でも……」
「でもじゃありません。ですので、苦手な食べ物をお教えください」
「…………こうちゃ」
「紅茶ですか。その理由は?」
「その……きらいではないの。ただ、にがてなだけ。ちょっと、にがいし、すこしあきてきたから、あまいのをのみたい」
「それ以外は?」
「うーん。多分、ない」
「本当ですか?」
アイシャの追求にコクリと頷こうとするが、途中で止めた。
「アメイスはきらい」
「アメイスって、葉っぱなのにグニャリとした食感で、噛めば噛むほど渋みが出てくる、あのアメイスですか?」
「うん。わたしはそれいがいのアメイスをしらない」
「まぁ、アレを好きな人は少ないと思いますよ。私も嫌いですし」
「なら、どうして、でてくるの?」
「赤いですから、色合い的にちょうどいいのですよ。アメイスは」
「うーん。それなら仕方ないかな」
納得いかないが、ビギンスは意地でも納得させた。
数分後、色々な店が並ぶ通りに二人はやってきた。そこで、身動きが取れなくなってしまっている。
「おっ! アイシャちゃん! 今日は早いね」
「アイシャじゃないか。いい果物が手に入ったから、ウチに買いにおいで!」
「何言ってんだい! ウチの方がいいの入ったよ!」
その他、大勢の人がアイシャに集まっている。
「あ、アイシャ?」
思わず声をかけてしまう。
「おや? 君は……?」
ビギンスの近くにいた小太りな男性が、ビギンスのことをマジマジと見る。それに気づいたアイシャは、男性とビギンスの間に立つ。
「この方は私の知り合いです」
少しだけ、怒り気味にアイシャは男性に言い放つ。アイシャのこんな反応を見たことないのか、周りの人々はキョトンとする。しかし、男性はすぐに何かを思い出したのか「ああ!」と声を出す。
「ビギンス様か」
男性がそう言うと、人々は少し目を見開く。そして、興味がビギンスに向いたようだ。
「まだ、こんな小さいんだな」
「あぁ、しっかりしているから、てっきりもう少し大きいかと思っていた」
「好きなものはあるかい?」
「ウチの店に来てみて。美味しいものいっぱいあるからさ」
「えっ? えっ? えっ?」
ビギンスはワタワタしてしまう。生まれてから、ずっと、ここまで囲まれたことがないのだ。
ビギンスはアイシャに助けを求めるために、彼女の方を見る。すると、アイシャはほくそ笑む。
「皆さん。よしてください。ビギンス様はこのようなことは慣れていないので」
「そうかい。なら、仕方ないな」
一番最初に話しかけた男性が距離を取ると、他の人たちも距離を取った。ビギンスは少しホッとする。だが、すぐにある疑問が浮かんだ。
「アイシャはどうしてみんなにかんげいされているの?」
「それはもちろん、この街の人々が優しいからですよ」
「オレたちは皆、アイシャに色々と助けてもらっているからさ」
アイシャと男性が同時に違う答えを言う。
「私は助けてなど」
「嘘おっしゃい。ウチがどれくらい助けられたと思っているんだい?」
アイシャの言葉を女性が遮る。すると、その女性に続き、その場にいる全ての人が「ウチも」と口々に言い出した。
アイシャは恥ずかしがっているが、どこか嬉しそうな表情を浮かべている。
自分が褒められたわけではないが、ビギンスもそんなアイシャの表情を見て、自分のことのように嬉しく思う。
「皆さん、準備はしなくて大丈夫ですか?」
「あっ、いっけね。家内に怒られる」
アイシャに言われて、準備中だということを思い出したのか、自分たちの店へ皆、帰っていった。
「アイシャ。にんきものだね」
そんなビギンスの言葉にアイシャは困ったように笑む。
二人は様々な店が準備中なので、街の中をぶらぶらと散策している。それだけなのに、ビギンスはとても楽しそうにしていた。
「ビギンス様。武器屋に行ってみませんか?」
「ぶきや?」
「はい。と言っても、私が行きたいのは調理器具なども売っている武器屋ですけど」
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