救世主になんてなりたくなかった……

臨鞘

第82主:ビルル救出作戦(6)

「超能力者……」

 シュウは女が放った言葉を繰り返す。しかし、その場にいるシュウ以外の者は驚いた表情で固まっていた。そんな反応に疑問に思い、シュウはある質問を投げかけた。

「ビルルさん。この世界に超能力者は?」

 近くにいるビルルに話しかけた。彼女はシュウの方を見る。

いた・・よ」

「いた?」

 彼女は確かにそう言った。それで、この世界の住人である全員が固まっているのが理解できた。

 いた・・ではなくて、今、目の前にはいる・・のだ。

「超能力者たちは、どうなったのですか?」

「みんな異世界人に連れ去られたのよ。希少種として」

 希少種。
 それだけで、元々この世界にも数えるほどしかいないことがわかる。異世界人からすれば死ななくて、さらに特殊な能力を持っているなんて、さぞかし魅力的な実験材料に見えただろう。

 それにこの世界の住人にも希少種と言われるくらいなら、魔力を宿している者よりも数少ないに違いない。

 それが今、目の前にいる。あり得なくはないが、かなり確率が低い。

 シュウはそこである可能性が浮かんだ。

「まさか、いせ」

 言い切る前に電撃がシュウの身体を焼く。すぐにシュウは死に二秒程度で、復活した。それを見た誰もが目を見開く。

「……早すぎる」

 ビルルの義母は冷や汗を垂らしながら呟いた。

 シュウは手を開いたり、閉じたりして正常に動くことを確認する。

「シュウくん。大丈夫?」

 ビルルは心配そうに聞くが、シュウは彼女の目をしっかり見て頷いた。それにより、安心したのかまた義母たちの方へ目を向ける。

「なぁ、シュウ。さっき言おうとしたことってなんだ?」

 背後からサルファが聞いてくる。だが、彼女もわかっているだろう。それでも、シュウに言わせようとする。恐らくそれはシュウが言わないと、ビルルを納得させられないからだろう。

 少しはマシになったとは言え、彼女はまだヒカミーヤとサルファのことを嫌っている。子供の頃に植え付けられた勇者と魔王が悪という考え。簡単に覆すことはできるはずがない。

 そのせいで、きっとサルファが言っても信じようとしないだろう。

「シュウ。安心しろ。オレがお前を守る。肉壁としての役目を果たさせてくれ」

「妾も壁になります」

 ヒカミーヤとサルファはシュウに向けて、安心させようと言う。恐らくは先ほどの電撃に対して、恐怖を抱いていると考えているのだろう。

「安心してください。女の子を壁にするほど、俺は落ちぶれていませんよ」

「オレは男だ!」

「はいはい。ですが、今は女の子です」

 サルファのツッコミに苦笑を浮かべる。すぐにシュウは一歩前に出た。

「やっぱり、いせ」

 また電撃が飛んでくる。しかし、ビルルほど早くはないので、一度見たからこそ、軽く避けた。

「異世界人なんですね」
「黙れ!」

 義母が電撃を放つが、全て避ける。

「えっ? シュウくん。今のどう言うこと?」

「そのままの意味ですよ。ビルルさん」

「違う! 違う違う違う!!」

 電撃を荒れ狂うような放たれる。

「やめろ! 屋敷が壊れる!」

 ビルルの父親は義母を止めようとする。しかし、すぐに弾かれた。

「なっ!?」

 得体の知れないものを見るかのような目で、ビルルの父親は義母をジッと見ていた。

「実はビルルさんもわかっていましたよね? 信じたくないだけで」

「…………」

 ビルルは何も言わない。

「沈黙は肯定と同じ意味ですよ」

 シュウの言葉にビルルはため息を吐く。

「やっぱり、そうだったのね」

「さすがにあそこまでわかっていて、この考えに至らない方がおかしいですよ」

「違う! ワタクシはそんな忌々しい者じゃ!」

「なら、暴れるのやめましょうか?」

「アナタが変なことを言うのが悪いのでしょう」

 義母は冷静さを取り戻したのか、平然とそんなことを言う。

「そこまで言うのなら、この世界の住人である証拠を見せてください」

「証拠? どうやって? やっぱり、異世界人って馬鹿なのね。この世界には魔力も宿しているものは少数、それにこの世界で長いこと暮らしていると不死にもなる」

「そうですね。なら、死んでみてください」

「へっ? な、何を言っているのかしら?」

「そのままの意味ですよ。死んでください。なんなら、協力しましょうか?」

 そう告げて、シュウは一歩近づく。

「こ、来ないで!」

 明らかに声が震えていた。だが、それでもシュウは近づく。一歩、また一歩と。

「イヤ!」

 義母がそんなことを言いながら、電撃を放つ。しかし、シュウは避けた。

「ひっ!」

 シュウが触れられる距離に近づくと、義母はそんな情けない声を出しながら、腰を抜かせた。

 シュウは腰から短剣を取り出して、向ける。

「やめて! 助けて! アナタッ!」

 ビルルの父親に助けを求める。しかし、ビルルの父親はビルルが床に押さえつけていた。そんなことをしているとは思っていなかったので、シュウは思わず苦笑を浮かべる。

「イヤ……やめて……殺さないで!」

 泣きながら助けを乞う。だが、関係ないとばかりにシュウはビルルの義母の首に向けて、短剣を振り下ろした。

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 そんな叫びを最後にビルルの義母は気絶した。シュウの短剣は首に触れる直前で止まっている。

 短剣を腰の鞘に仕舞う。シュウはすぐにビルルに視線を向けた。

「この世界の住人はここまで死を恐れていますか?」

 シュウの問いにビルルは首を横に振る。床に押さえつけられている彼女の父親は、額を床につけて、落ち込んでいた。

 シュウはそんな父親の前にしゃがみ込む。

「なんだ、異世界人。あんなに恨んでいたのに、新たに好いた人が異世界人だったことを笑いに来たのか?」

「俺はそこまで性根は腐っていません」

「さっきのを見たばかりだから、そんなの信用できるか」

「ハハッ。確かにそうですね」

 シュウは自虐的な笑みを浮かべる。ビルルやヒカミーヤ、サルファはそんなシュウを心配そうに見る。だが、シュウは気にしない。

「一つ頼み事があります」

「娘はやらんぞ」

「ある意味、それに近いことですが」

「何?」

「えっ? しゅ、シュウくん?」

 ビルルの父親は鬼の形相を浮かべて、ビルルはなぜか頬を赤らめてシュウの方を見る。だが、そんな二人の反応を気にせずにシュウは話を進めた。

「ビルルさんを変に束縛などせず、自由にしてあげてください」

「「…………」」

 ビルルの父親もビルルも何も言わない。

「わかった。だが、ビギンスを縛った覚えなんてないぞ」

「えっ?」

 あまりの予想外の返答にシュウは思わず固まってしまう。

「だが、戒めとして強く当たっていた気はする。これからは気をつけよう。価値観を変に押し付けないように約束しよう」

 その言葉を聞き、ビルルの父親は自分を客観視できるのだと知った。だから、シュウはこれ以上は何も言わないようにする。

「異世界人。ワタシが止めといてなんだが、これからもビギンスと仲良くしてやってくれ」

「彼女がそれで周りに嫌われてもいいのですか?」

「あぁ、本人がそれで満足しているのなら、何も言うまい」

「わかりました。それと今回はあなたは被害者ですから、自分のせいだと気負わなくていいですよ」

「そう言ってくれると助かる」

 ビルルの父親は彼女と一緒で、根はいい人なのだとシュウは痛感した。

「さて、ビルルさん。帰りましょう。寮に」

「で、でも、この屋敷の修繕をしないと」

「それについては気にしなくていいですよ。そうですよね。ヒカミーヤさん。サルファさん」

 そう二人に声をかけると、ボロボロだった屋敷が何もなかったかのようになっていた。

「ど、どういうこと?」

「シュウが思う存分、好きなことをできるようにオレたちが援護しただけだ」

「なぁ、ヒカミーヤ」

「はい」

 二人はコクリと頷いた。

「ありがとう。わたし、二人のことを勘違いしていたみたい」

 そう言うとビルルは二人に手を伸ばす。二人はその手を訝しげに眺める。

「握手よ。握手。感謝と謝罪とこれからよろしくの意味の」

「い、いいのか? オレたちはこの世界の住人を不死にした張本人だぞ? そんな奴と仲良くしていいことなんて」

「あなたたちが不死にしてくれたおかげで、お父様をあの人から救うことができたから、いいのよ」

 二人は恥ずかしそうに手を伸ばし、ビルルと握手を交わした。

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