救世主になんてなりたくなかった……
第79主:ビルル救出作戦(3)
「…………」
血まみれの青年がついに倒れた。一人の男性が、恐る恐る青年を足で触れる。だが、青年に反応はない。
「よし、侵入者は排除した」
男性は安心して、青年に突き刺さっていた剣を引き抜いた。その場にいる誰もが、安堵した表情を浮かべている。
「さぁ、それはどうでしょう?」
「っ!?」
一転、絶望に変わる。その男性たち──ルセワル家の警備員たちは、倒したと思った相手の姿を見て、息を飲む。
青年──シュウは彼らの表情に苦笑を浮かべる。どうやら、警備員たちに今のシュウは、ほぼ化け物に見えているのだろう。だが、そんな表情を浮かべてしまうのは痛いほどわかる。
この不死の世界でも、ここまで復活が早いのは希少だ。しかも、この世界に来て、数日の異世界人がだ。
シュウは警備員に向け、駆けた。不死とはいえ、殺された相手だ。誰もが昨日はするだろう。しかし、シュウからはその恐怖を微塵も感じない。
度肝を抜かれたであろう警備員たちは身動きが取れなかった。だから、素早いビルルを相手にしていたシュウにとっては、ただのマトだ。
シュウは手近の警備員に短剣を振り下ろした。普通ならこれで終わりだ。しかし、横から入ってきた腕がそれを防ぐ。
ガキンッ!
まるで鉄同士が削れあったかのような音だ。
「やっぱり、来ましたか」
シュウは防いだ相手を見て、冷や汗を浮かべる。
内側にカールがかかっている亜麻色の髪。タレ目気味の琥珀色の大きな瞳。
「えぇ。ボクはビギンス様のしもべですからね」
魔力人形のグウェイが穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「腕、大丈夫ですか?」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「それと一応、言わせてもらいます」
シュウはチラリと近くの角を見る。そこにはヒカミーヤがこちらを見ていた。つまり、作戦は成功したということだ。
「グウェイさんの主人はもうこの屋敷にいませんよ」
「えぇ。わかっています」
「でしたら」
「それでも、戦うしかないのです」
「もしかして」
「はい。ビギンス様よりも高位の立場の者には逆らえません」
この屋敷内でビルルよりも高位といえば、彼女の実父と義母しかいない。そのことを察したシュウは苦笑を浮かべた。
(ビルルに逃げられても、俺を殺すか。よほど異世界人が嫌いなんだな。でも、簡単に殺されるわけにはいかないんだよな。俺の復活速度は不安定だし)
シュウは短剣を構え直す。
「退いてくれませんか」
「グウェイさんが退かせてくれれば、退きますよ。ですが、退かせる気ありませんよね?」
「はは。そうですね。できれば、あなたにはビギンス様についていて欲しかった……」
グウェイは悲しそうな表情をする。
「それは俺の仕事じゃないですよ。その仕事はグウェイさんの仕事です」
「そうしたかったのですが」
「まぁ、でしたら力不足とわかっていますが、止めさせてもらいますよ」
「すみません。ボクは全力しか出せないです」
そう言って、二人は同時に互いへ駆け出す。
次の瞬間、鉄と鉄が擦れ合う音が響く。
シュウは短剣で、グウェイは手のひら。どちらが動かしたのかわからないが、火花が弾ける。しかし、二人とも気にせずに攻撃を続けた。
シュウは攻撃の最中、グウェイが少し笑っているのを見てしまう。慌てて飛び退いたが、もう遅い。
グウェイの手のひらにドロッとしたものが、生まれていた。
どうやら鉄が溶けたことによって生まれたものだ。しかし、シュウの短剣もグウェイの腕も、鉄が溶けるほど高熱じゃない。
何かあると感じたシュウは警戒心を高める。次の瞬間、グウェイが消えた。
「っ!?」
突然の出来事に驚きのあまり息を飲むが、目を閉じ、五感を研ぎ澄ませる。すると、上からごく小さな機械の稼働音が聞こえてきた。
シュウは慌てて、前に転がる。すると、先ほどまでシュウがいた場所に、凄まじい熱さの溶けた鉄が落ちていた。床がジュウと音を立てて、溶け始める。
「そんなことして、いいのですか? ここはあなたの主人の家ですよ」
「許可は得ています」
家に被害が出ても、異世界人を殺すという力強い意思を感じ取り、思わず苦笑が漏れてしまう。
グウェイはまるでヤモリのように天井を歩き、シュウの真上を取ろうとする。しかし、その場でジッとするわけがなく、シュウは逃げる。
「無駄な抵抗はやめてください」
「それはこちらのセリフですよ。グウェイさん」
「それはどうでしょう?」
グウェイのよくわからない言葉に首を傾げる。
「シュウ、逃げて!」
突然のヒカミーヤの叫び声。それと同時に彼女の身体だったものが、落ちてきた。その身体は細切れだ。
人間よりも圧倒的に白い肌で、なんとかヒカミーヤだということがわかる。
「っ!?」
細切れのものが、ヒカミーヤだと認識した瞬間、背後から今まで感じたことがないほどの強烈な殺気を感じ取った。
無意識にその殺気を避ける。殺気の塊は先ほどまでシュウがいた場所を風となり、駆け抜けた。同時に視界を奪うほどの砂埃が舞い上がった。
動かずにあそこにいたままだった自分を想像して、シュウは冷や汗を流す。
死なない世界とはいえ、痛いのは変わらない。むしろ、死なない世界だからこそ、痛みは続くし、何度もその痛みを受ける。この世界で大火傷などすると、ただの地獄。
先ほどの風は人を一瞬で細切れにできるようだ。それに連発もできる。
そんなことができる人をシュウは一人知っている。だが、そんなことするはずがないと心が否定する。しかし、頭はずっと事実だと導き出す。
そんなシュウの心と頭の争いは全て砂埃が晴れれば決着する。
砂埃の中から風が吹き、砂埃が払われる。
中からは風で踊らされてる暗めの赤髪が現れた。その瞬間、シュウの中の心が負けた。頭も心も理解した。
髪を下ろしているとはいえ、彼女は間違いなくビルルだということに。
血まみれの青年がついに倒れた。一人の男性が、恐る恐る青年を足で触れる。だが、青年に反応はない。
「よし、侵入者は排除した」
男性は安心して、青年に突き刺さっていた剣を引き抜いた。その場にいる誰もが、安堵した表情を浮かべている。
「さぁ、それはどうでしょう?」
「っ!?」
一転、絶望に変わる。その男性たち──ルセワル家の警備員たちは、倒したと思った相手の姿を見て、息を飲む。
青年──シュウは彼らの表情に苦笑を浮かべる。どうやら、警備員たちに今のシュウは、ほぼ化け物に見えているのだろう。だが、そんな表情を浮かべてしまうのは痛いほどわかる。
この不死の世界でも、ここまで復活が早いのは希少だ。しかも、この世界に来て、数日の異世界人がだ。
シュウは警備員に向け、駆けた。不死とはいえ、殺された相手だ。誰もが昨日はするだろう。しかし、シュウからはその恐怖を微塵も感じない。
度肝を抜かれたであろう警備員たちは身動きが取れなかった。だから、素早いビルルを相手にしていたシュウにとっては、ただのマトだ。
シュウは手近の警備員に短剣を振り下ろした。普通ならこれで終わりだ。しかし、横から入ってきた腕がそれを防ぐ。
ガキンッ!
まるで鉄同士が削れあったかのような音だ。
「やっぱり、来ましたか」
シュウは防いだ相手を見て、冷や汗を浮かべる。
内側にカールがかかっている亜麻色の髪。タレ目気味の琥珀色の大きな瞳。
「えぇ。ボクはビギンス様のしもべですからね」
魔力人形のグウェイが穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「腕、大丈夫ですか?」
「はい。お気遣いありがとうございます」
「それと一応、言わせてもらいます」
シュウはチラリと近くの角を見る。そこにはヒカミーヤがこちらを見ていた。つまり、作戦は成功したということだ。
「グウェイさんの主人はもうこの屋敷にいませんよ」
「えぇ。わかっています」
「でしたら」
「それでも、戦うしかないのです」
「もしかして」
「はい。ビギンス様よりも高位の立場の者には逆らえません」
この屋敷内でビルルよりも高位といえば、彼女の実父と義母しかいない。そのことを察したシュウは苦笑を浮かべた。
(ビルルに逃げられても、俺を殺すか。よほど異世界人が嫌いなんだな。でも、簡単に殺されるわけにはいかないんだよな。俺の復活速度は不安定だし)
シュウは短剣を構え直す。
「退いてくれませんか」
「グウェイさんが退かせてくれれば、退きますよ。ですが、退かせる気ありませんよね?」
「はは。そうですね。できれば、あなたにはビギンス様についていて欲しかった……」
グウェイは悲しそうな表情をする。
「それは俺の仕事じゃないですよ。その仕事はグウェイさんの仕事です」
「そうしたかったのですが」
「まぁ、でしたら力不足とわかっていますが、止めさせてもらいますよ」
「すみません。ボクは全力しか出せないです」
そう言って、二人は同時に互いへ駆け出す。
次の瞬間、鉄と鉄が擦れ合う音が響く。
シュウは短剣で、グウェイは手のひら。どちらが動かしたのかわからないが、火花が弾ける。しかし、二人とも気にせずに攻撃を続けた。
シュウは攻撃の最中、グウェイが少し笑っているのを見てしまう。慌てて飛び退いたが、もう遅い。
グウェイの手のひらにドロッとしたものが、生まれていた。
どうやら鉄が溶けたことによって生まれたものだ。しかし、シュウの短剣もグウェイの腕も、鉄が溶けるほど高熱じゃない。
何かあると感じたシュウは警戒心を高める。次の瞬間、グウェイが消えた。
「っ!?」
突然の出来事に驚きのあまり息を飲むが、目を閉じ、五感を研ぎ澄ませる。すると、上からごく小さな機械の稼働音が聞こえてきた。
シュウは慌てて、前に転がる。すると、先ほどまでシュウがいた場所に、凄まじい熱さの溶けた鉄が落ちていた。床がジュウと音を立てて、溶け始める。
「そんなことして、いいのですか? ここはあなたの主人の家ですよ」
「許可は得ています」
家に被害が出ても、異世界人を殺すという力強い意思を感じ取り、思わず苦笑が漏れてしまう。
グウェイはまるでヤモリのように天井を歩き、シュウの真上を取ろうとする。しかし、その場でジッとするわけがなく、シュウは逃げる。
「無駄な抵抗はやめてください」
「それはこちらのセリフですよ。グウェイさん」
「それはどうでしょう?」
グウェイのよくわからない言葉に首を傾げる。
「シュウ、逃げて!」
突然のヒカミーヤの叫び声。それと同時に彼女の身体だったものが、落ちてきた。その身体は細切れだ。
人間よりも圧倒的に白い肌で、なんとかヒカミーヤだということがわかる。
「っ!?」
細切れのものが、ヒカミーヤだと認識した瞬間、背後から今まで感じたことがないほどの強烈な殺気を感じ取った。
無意識にその殺気を避ける。殺気の塊は先ほどまでシュウがいた場所を風となり、駆け抜けた。同時に視界を奪うほどの砂埃が舞い上がった。
動かずにあそこにいたままだった自分を想像して、シュウは冷や汗を流す。
死なない世界とはいえ、痛いのは変わらない。むしろ、死なない世界だからこそ、痛みは続くし、何度もその痛みを受ける。この世界で大火傷などすると、ただの地獄。
先ほどの風は人を一瞬で細切れにできるようだ。それに連発もできる。
そんなことができる人をシュウは一人知っている。だが、そんなことするはずがないと心が否定する。しかし、頭はずっと事実だと導き出す。
そんなシュウの心と頭の争いは全て砂埃が晴れれば決着する。
砂埃の中から風が吹き、砂埃が払われる。
中からは風で踊らされてる暗めの赤髪が現れた。その瞬間、シュウの中の心が負けた。頭も心も理解した。
髪を下ろしているとはいえ、彼女は間違いなくビルルだということに。
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