救世主になんてなりたくなかった……
第74主:アンティークショップ再び
シュウたちは、いつぞやのアンティークショップに入った。街に出ているからこそ、ヒカミーヤとサルファの二人は偽りの姿になっている。
「いらっしゃい。おや? あの時の生徒さんか。久しぶりだね」
「久しぶりと言っても、一昨日に来たばかりですけどね」
「あっ、たしかに。言われてみればそうだね。暇だから、長い時間を過ごした気分だよ」
「奇遇ですね。俺もそうです。あっ、でも。申し訳ないですが、俺の場合は濃密な時間を過ごしすぎてということです」
「まぁ、そうだろうね。異世界人がこの世界に来たら、色々と違いすぎて目が回るよね。妻もそうだったらしいし」
ーーやっぱりか。
自分だけではないと聞き、シュウは少し安心した。
「それで、今日はどのようなご用件で?」
「ここって、軽食売ってます?」
「売ってないけど。作ることはできるよ。今日は闘技戦。ただでさえ来ないお客さんが、さらに減るからね。無料で提供するよ」
「そ、それは申し訳ないです」
「いいよいいよ。気にしないで。異世界人がこの世界に来た当初は食事に困るって、よく聞くしね」
「で、ですが」
「なら、一つ条件をつけよう」
コクリと頷きながらも、シュウはどんな条件が来るのか内心ヒヤヒヤしている。
「闘技戦で勝って、宣伝して。優勝はしなくてもいいよ。ただ、一回でもいいから勝って。異世界人を侮蔑の目で見ているこの世界の人たちを驚かせたいんだ」
「わ、わかりました。やれるだけ、やってみます」
シュウの返答を聞くと、店主は微笑みながら頷いた。
「あっ、戦闘用の何かが売っていたりしませんか?」
「ここを雑貨屋か何かと勘違いしていないか? ここはアンティークショップだ」
「そ、そうですよね。すみません」
シュウの謝罪など見ずに店主はニコッと笑った。
「安心して。キチンとあるから」
「えっ?」
「まぁ、銃器や刀剣はないけど。ナイフくらいならある」
「つ、つまり?」
「君が求めているであろうものはあるということ。フラググレネード、スタングレネード、スモークグレネード。それ以外にも一瞬にして、特定を効果を表せる罠系も五種類ほどならあるよ。でも、少し割高になるよ」
「それでも構いません!」
食い気味にシュウは言った。そんなシュウに、店主は少し戸惑う。だが、すぐに平静になった。
「なら、妻に作らせるから、君はその間に僕と一緒に武器を見ましょう」
「わかりました」と言いながら、シュウは頷いた。そして、ヒカミーヤとサルファの方を見る。
「二人は店主の奥さんと待っていてください」
何か言いそうにサルファはなるが、ヒカミーヤに止められて、素直にシュウの指示に従った。
二人が完全にいなくなったのを見届けた店主はシュウの方を見る。
「どうして、二人を上に?」
「二人は関係ないですから」
「まぁ、たしかに。闘技戦で使うからね」
「それにその方があなたの奥さんも楽しいと思いますよ」
「気を使って、ありがとう。さて、色々と見繕うか」
「お願いします。正直どれがいいのかわかりませんから」
「はは。そう。なら、先ほどここにあると言った戦闘用の道具の効果はわかるかな?」
「そ、それくらいなら。フラググレネードは爆発で相手を巻き込むことができます。殺傷能力は高いと思います」
店主は頷く。ジッとシュウの方を見て、続きを促した。
「スタングレネードとスモークグレネードは同じ目くらまし用に使うことができます。簡単に言うと、スタンは一瞬にして眩しい光を、スモークは一瞬にして濃い煙を出すことができます」
店主は深く頷いた。先ほどと何か違うところがあったのだろうか。
「よろしい。全て正解だよ」
店主は微笑んだ。続けて言葉を発する。
「なら、どれがいいとはどういうこと?」
「あまり誰かを傷つけたくないのです」
シュウの言葉を聞いた瞬間に店主はスッと目を細めた。
「甘い。甘すぎるよ。この世界は死んでも死なない世界。そんな世界で殺すのを躊躇うのは、お門違いもいいところだよ」
彼が言ったことは真実だろう。それくらいシュウでもわかる。そもそも、殺しを躊躇うことが間違いだということも知っているだろう。
「そうですね。すみません。俺が間違っていました」
「気にしなくていいよ。異世界人なのだし、価値観が違い、当然。それにこの世界の価値観に馴染むのには、まだ時間が少ないよ」
店主はシュウは悪くないと遠回しに伝えようとしているのだろう。だが、シュウは自分を追い詰めてしまう。
(殺しを躊躇う必要なんてない。そんな権利を俺は持っていない。美佳を殺した時点で、自分を守る権利なんて消えた。躊躇なんてしていられないんだ)
手にあの時の感触が蘇る。
喉を潰し、暴れないように抑え込む。声を出すたびに喉が震えて、手に伝わってきた。しかし、美佳はお礼を言い続ける。喉を震わせながら、シュウに何も悪くないと言い続ける。そして、骨が折れる感触が届いた。
「どうしたの?」
シュウの震える手を見て、店主は話しかけた。
「な、なんでもないです。ただ、少しでも操作を誤ったら、大惨事が起こる代物を買うのが怖くて……」
「まぁ、仕方ないか。死が隣り合わせの世界ではなかっただろうから」
「こ、この世界と比べたら死と隣り合わせじゃ、ないです。多分」
言い切れなかったシュウの言葉に店主は首を傾げる。
「ひ、ひとまずは選別するのを手伝ってください! 何かがあるかもしれませんから!」
「まぁ、いいよ。そもそも、僕は最初から手伝うつもりだったし」
店主の言葉にシュウは少し安堵した。
︎
「さて、まずはあなたたちに一つ聞きたいことがありす」
店主の妻の言葉にヒカミーヤとサルファは真剣な表情で頷く。
「料理はできますか?」
彼女の言葉にヒカミーヤは左右に首を振り、サルファは自信なさげに頷く。
「なら、簡単なものを作りましょうか」
二人は同時に力強く頷いた。店主の妻は「ねぇ」と二人に話しかける。
「喋ってくれないと困りますよ。どうして喋らないかわかりませんが、あの子とは普通に会話しますよね?」
彼女が言った『あの子』とは確実にシュウのことだろう。
「そ、そうですね」
サルファは小さな声だが、答えた。
二人は自分が、この世界を不死にした勇者と魔王だということがバレたくないようだ。だからこそ、姿を偽っている。しかし、声は変えることができないので、バレるかもしれないと危惧して、二人は話していなかったのだ。
自分たちのせいでシュウの立場が悪くなる。そう考えたからだろう。
「一応言っておきますけど、あの子に偏見は一切ありませんよ。わたしも異世界人ですから」
その言葉を聞くと二人は目を丸くする。
「さて、料理はできますか?」
店主の妻はもう一度、二人に聞いた。そんな言葉に少し警戒しながらも、二人は口を開く。
「オレは庶民的なものなら、なんでも」
「わ、妾は何も作れません」
「なるほど……」
二人の言葉を聞くと、店主の妻は顎に指を当て、何かを考え出す。
「でしたら、サンドウィッチでも作りましょうか。それなら、お二人もできますよね?」
サルファは自信満々に力強く、ヒカミーヤは自信なさげに小さく、頷いた。
「いらっしゃい。おや? あの時の生徒さんか。久しぶりだね」
「久しぶりと言っても、一昨日に来たばかりですけどね」
「あっ、たしかに。言われてみればそうだね。暇だから、長い時間を過ごした気分だよ」
「奇遇ですね。俺もそうです。あっ、でも。申し訳ないですが、俺の場合は濃密な時間を過ごしすぎてということです」
「まぁ、そうだろうね。異世界人がこの世界に来たら、色々と違いすぎて目が回るよね。妻もそうだったらしいし」
ーーやっぱりか。
自分だけではないと聞き、シュウは少し安心した。
「それで、今日はどのようなご用件で?」
「ここって、軽食売ってます?」
「売ってないけど。作ることはできるよ。今日は闘技戦。ただでさえ来ないお客さんが、さらに減るからね。無料で提供するよ」
「そ、それは申し訳ないです」
「いいよいいよ。気にしないで。異世界人がこの世界に来た当初は食事に困るって、よく聞くしね」
「で、ですが」
「なら、一つ条件をつけよう」
コクリと頷きながらも、シュウはどんな条件が来るのか内心ヒヤヒヤしている。
「闘技戦で勝って、宣伝して。優勝はしなくてもいいよ。ただ、一回でもいいから勝って。異世界人を侮蔑の目で見ているこの世界の人たちを驚かせたいんだ」
「わ、わかりました。やれるだけ、やってみます」
シュウの返答を聞くと、店主は微笑みながら頷いた。
「あっ、戦闘用の何かが売っていたりしませんか?」
「ここを雑貨屋か何かと勘違いしていないか? ここはアンティークショップだ」
「そ、そうですよね。すみません」
シュウの謝罪など見ずに店主はニコッと笑った。
「安心して。キチンとあるから」
「えっ?」
「まぁ、銃器や刀剣はないけど。ナイフくらいならある」
「つ、つまり?」
「君が求めているであろうものはあるということ。フラググレネード、スタングレネード、スモークグレネード。それ以外にも一瞬にして、特定を効果を表せる罠系も五種類ほどならあるよ。でも、少し割高になるよ」
「それでも構いません!」
食い気味にシュウは言った。そんなシュウに、店主は少し戸惑う。だが、すぐに平静になった。
「なら、妻に作らせるから、君はその間に僕と一緒に武器を見ましょう」
「わかりました」と言いながら、シュウは頷いた。そして、ヒカミーヤとサルファの方を見る。
「二人は店主の奥さんと待っていてください」
何か言いそうにサルファはなるが、ヒカミーヤに止められて、素直にシュウの指示に従った。
二人が完全にいなくなったのを見届けた店主はシュウの方を見る。
「どうして、二人を上に?」
「二人は関係ないですから」
「まぁ、たしかに。闘技戦で使うからね」
「それにその方があなたの奥さんも楽しいと思いますよ」
「気を使って、ありがとう。さて、色々と見繕うか」
「お願いします。正直どれがいいのかわかりませんから」
「はは。そう。なら、先ほどここにあると言った戦闘用の道具の効果はわかるかな?」
「そ、それくらいなら。フラググレネードは爆発で相手を巻き込むことができます。殺傷能力は高いと思います」
店主は頷く。ジッとシュウの方を見て、続きを促した。
「スタングレネードとスモークグレネードは同じ目くらまし用に使うことができます。簡単に言うと、スタンは一瞬にして眩しい光を、スモークは一瞬にして濃い煙を出すことができます」
店主は深く頷いた。先ほどと何か違うところがあったのだろうか。
「よろしい。全て正解だよ」
店主は微笑んだ。続けて言葉を発する。
「なら、どれがいいとはどういうこと?」
「あまり誰かを傷つけたくないのです」
シュウの言葉を聞いた瞬間に店主はスッと目を細めた。
「甘い。甘すぎるよ。この世界は死んでも死なない世界。そんな世界で殺すのを躊躇うのは、お門違いもいいところだよ」
彼が言ったことは真実だろう。それくらいシュウでもわかる。そもそも、殺しを躊躇うことが間違いだということも知っているだろう。
「そうですね。すみません。俺が間違っていました」
「気にしなくていいよ。異世界人なのだし、価値観が違い、当然。それにこの世界の価値観に馴染むのには、まだ時間が少ないよ」
店主はシュウは悪くないと遠回しに伝えようとしているのだろう。だが、シュウは自分を追い詰めてしまう。
(殺しを躊躇う必要なんてない。そんな権利を俺は持っていない。美佳を殺した時点で、自分を守る権利なんて消えた。躊躇なんてしていられないんだ)
手にあの時の感触が蘇る。
喉を潰し、暴れないように抑え込む。声を出すたびに喉が震えて、手に伝わってきた。しかし、美佳はお礼を言い続ける。喉を震わせながら、シュウに何も悪くないと言い続ける。そして、骨が折れる感触が届いた。
「どうしたの?」
シュウの震える手を見て、店主は話しかけた。
「な、なんでもないです。ただ、少しでも操作を誤ったら、大惨事が起こる代物を買うのが怖くて……」
「まぁ、仕方ないか。死が隣り合わせの世界ではなかっただろうから」
「こ、この世界と比べたら死と隣り合わせじゃ、ないです。多分」
言い切れなかったシュウの言葉に店主は首を傾げる。
「ひ、ひとまずは選別するのを手伝ってください! 何かがあるかもしれませんから!」
「まぁ、いいよ。そもそも、僕は最初から手伝うつもりだったし」
店主の言葉にシュウは少し安堵した。
︎
「さて、まずはあなたたちに一つ聞きたいことがありす」
店主の妻の言葉にヒカミーヤとサルファは真剣な表情で頷く。
「料理はできますか?」
彼女の言葉にヒカミーヤは左右に首を振り、サルファは自信なさげに頷く。
「なら、簡単なものを作りましょうか」
二人は同時に力強く頷いた。店主の妻は「ねぇ」と二人に話しかける。
「喋ってくれないと困りますよ。どうして喋らないかわかりませんが、あの子とは普通に会話しますよね?」
彼女が言った『あの子』とは確実にシュウのことだろう。
「そ、そうですね」
サルファは小さな声だが、答えた。
二人は自分が、この世界を不死にした勇者と魔王だということがバレたくないようだ。だからこそ、姿を偽っている。しかし、声は変えることができないので、バレるかもしれないと危惧して、二人は話していなかったのだ。
自分たちのせいでシュウの立場が悪くなる。そう考えたからだろう。
「一応言っておきますけど、あの子に偏見は一切ありませんよ。わたしも異世界人ですから」
その言葉を聞くと二人は目を丸くする。
「さて、料理はできますか?」
店主の妻はもう一度、二人に聞いた。そんな言葉に少し警戒しながらも、二人は口を開く。
「オレは庶民的なものなら、なんでも」
「わ、妾は何も作れません」
「なるほど……」
二人の言葉を聞くと、店主の妻は顎に指を当て、何かを考え出す。
「でしたら、サンドウィッチでも作りましょうか。それなら、お二人もできますよね?」
サルファは自信満々に力強く、ヒカミーヤは自信なさげに小さく、頷いた。
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