救世主になんてなりたくなかった……
第72主:休憩
扉をくぐると、元いた待機所らしき場所に着いた。
すぐにコウスターはシュウを見る。
「異世界でよくあそこまでの啖呵を吐くことができたわね」
「あ、あれは啖呵なのですか? 当然のことを言ったまでですよ」
「まぁ、たしかに。異世界人をボコるチャンスね」
「もしかして、こ、コウスターさんも出たくなりました?」
「それはないわ」
「好きな人が出ないからですか?」
「なっ!」
コウスターはシュウの言葉に面白いくらい、顔を真っ赤にした。
「わわ私にす、好きな人なんていないわ!」
「そ、そういうことにしておきます」
「これが事実なの! いい!」
珍しく動揺しまくっているコウスターを見て、シュウは苦笑を浮かべた。
「それにしても、試合は明後日ですか」
「そうね。ビルルと当たるのは決勝戦ね」
「そ、そうなのですか?」
シュウの言葉に彼女はコクリと頷いた。
「それでは試合まで自由なので、私はここで失礼するわ。異世界人と同じ空気なんて長いこと吸いたくないからね」
「ご、ごめんなさい。ですのに協力ありがとうございます」
「当然のことをしたまでだわ」
コウスターは言うとシュウの待機室から出て行った。
「さて、どうしようか。まぁ、特訓の続きでもすればいいか」
シュウは己の記憶を頼りに闘技場から出る。
外に出ると太陽がそろそろ頭上に来そうだった。穏やかな日差しを心地よく思いながらも、シュウは剣を振り回さそうな場所を探す。
ーーこれも全て幻覚なんだな。
改めて感心する。聞いた話によると世界は全て雲に覆われているらしい。
実際に見たことないから、疑問は残っている。シュウが実際に見たのは奈落の底へと繋がっていた闇だけだ。
歩いているだけで暇なので、少し感慨にふけっていると忙しなく走っているのか大きな足音が二つ聞こえる。
音が聞こえた方を見るとヒカミーヤとサルファが青ざめた表情を浮かべている。そんな二人に声をかけようとすると、先に二人がシュウのことを発見した。同時に既に青ざめた表情がさらに青ざめたようにシュウには見えた。
二人はシュウの方へ向かってきた。
「「し、試合はっ!」」
一言一句違わずに青ざめながらも、必死の形相で二人は聞く。
二人の表情に少しイタズラしてみようと思ったが、すぐにかわいそうだと思い至り、事実を告げることにした。
「あ、明後日からです」
「「へっ?」」
目を丸くする。全く変わらない反応にシュウは少し吹き出した。
「く、くじ運がよかっただけですよ。多分、明後日には敗退していると思います」
二人同時に胸をなでおろした。そんな二人を見ていると長いこと一緒にいたことに実感が湧いてくる。
二人は千年も一緒に同じ環境で同じ扱いをされていたのだ。シュウにとっては果てしないので、想像もできていなかったが、今の二人の反応を見ていると納得した。
「そ、それにしても、二人とも大丈夫ですか?」
「大丈夫とは?」
サルファが応対してくれる。
「ふ、二人とも俺の貧血を治すためにかなり無理したと思いますから」
「あぁ、そのこと」
サルファは納得いったのか頷いている。
「それなら、大丈夫だ」
「本当ですか?」
サルファが強がっているだけだと考えたシュウは、ヒカミーヤに聞いてみる。
「本当ですよ。血を流しても、妾たちは吸血鬼はすぐに回復します」
「そうなのですか?」
「はい。昨日、眠ってしまったのは疲れのせいです」
「や、やっぱり、無理しているじゃないですか」
「あっ」
大丈夫だと伝えようとしていたが、ヒカミーヤは自分で墓穴を掘っていった。そんな彼女にシュウは苦笑を浮かべる。
「あっ、二人とも。昨日のお礼と言ってはなんですが、どこかに食べに行きませんか?」
「「えっ?」」
同時に目を丸くするという同じ反応を返された。
「そ、そんなに意外ですか?」
シュウの質問に二人はコクリと頷く。
「なら、そこにわたしも参加させてもらおうかな」
『っ!?』
突然、気配もなく背後から聞こえてきた声に三人は同時に息を飲んだ。
「び、ビルルさん。急に話しかけないでくださいよ!」
「ごめんね」
「というか、馴れ合わないのじゃないですか?」
「あの施設内だけはね。敷地内だけど施設外のここは関係ないよ」
「そうですか……」
「それにしても、シュウくんも、わたしと同じ日から試合って、運がいいね」
「その言い方だと、ビルルさんは運がいいというわけではないということになりますよ」
「実際にその通りだからね」
「どういうことですか?」
「学園長は平等って謳っていたけど、学園内で三本の指に入るメンバーは強制的に準々決勝からよ。あっ、もしかして、その三本の指に入るコウスターが魔力を注いだから、こうなったのかもね」
「その可能性が高いですね」
二人は普通に会話を繰り広げている。そこにサルファとヒカミーヤは入り込まない。入り込んではいけないのだ。
サルファとヒカミーヤの二人は空気でいないといけない。それは外で出てから変わらない。ましてや、食事に行こうなんて誘われることすら悪いことになってしまう。
「あっ、ビルルさん。さ、先ほども言ってましたけど、どこかに食べに行くのについてくるって正気ですか?」
「正気だけど、問題がある? 多分、そこのふた……りとシュウくんだけで、食べに行こうとしたら、問題が色々と起こると思うな」
そう言われると、ぐうの音も出ない。
異世界人と元勇者と元魔王。この世界での忌むべき相手しかいないことになる。店に入れないし、入れたとしても、何か起きるのは少し考えたらわかる。それをシュウは失念してしまっていたのだ。
「わ、わかりました。ですが、二人に許可を得ることが出来たらですよ」
話を無理矢理二人に振った。まさか振られると思っていなかったのか、反応が遅れてしまう。
「オレは大丈夫」
「妾も大丈夫です」
「ということで、シュウくん許可も出たし、ついていくよ」
こうなるとなんとなくわかっていたので、シュウはコクリと頷く。
「さっ、早く行こ! 開いている店も少ないから、早くしないと入れる場所なくなっちゃうよ」
笑顔で言いながら、ビルルはシュウの腕を引く。彼女はあまり急かすということはしない。だが、今はした。その行為の違和感を覚えながらも、シュウはされるがままにした。
すぐにコウスターはシュウを見る。
「異世界でよくあそこまでの啖呵を吐くことができたわね」
「あ、あれは啖呵なのですか? 当然のことを言ったまでですよ」
「まぁ、たしかに。異世界人をボコるチャンスね」
「もしかして、こ、コウスターさんも出たくなりました?」
「それはないわ」
「好きな人が出ないからですか?」
「なっ!」
コウスターはシュウの言葉に面白いくらい、顔を真っ赤にした。
「わわ私にす、好きな人なんていないわ!」
「そ、そういうことにしておきます」
「これが事実なの! いい!」
珍しく動揺しまくっているコウスターを見て、シュウは苦笑を浮かべた。
「それにしても、試合は明後日ですか」
「そうね。ビルルと当たるのは決勝戦ね」
「そ、そうなのですか?」
シュウの言葉に彼女はコクリと頷いた。
「それでは試合まで自由なので、私はここで失礼するわ。異世界人と同じ空気なんて長いこと吸いたくないからね」
「ご、ごめんなさい。ですのに協力ありがとうございます」
「当然のことをしたまでだわ」
コウスターは言うとシュウの待機室から出て行った。
「さて、どうしようか。まぁ、特訓の続きでもすればいいか」
シュウは己の記憶を頼りに闘技場から出る。
外に出ると太陽がそろそろ頭上に来そうだった。穏やかな日差しを心地よく思いながらも、シュウは剣を振り回さそうな場所を探す。
ーーこれも全て幻覚なんだな。
改めて感心する。聞いた話によると世界は全て雲に覆われているらしい。
実際に見たことないから、疑問は残っている。シュウが実際に見たのは奈落の底へと繋がっていた闇だけだ。
歩いているだけで暇なので、少し感慨にふけっていると忙しなく走っているのか大きな足音が二つ聞こえる。
音が聞こえた方を見るとヒカミーヤとサルファが青ざめた表情を浮かべている。そんな二人に声をかけようとすると、先に二人がシュウのことを発見した。同時に既に青ざめた表情がさらに青ざめたようにシュウには見えた。
二人はシュウの方へ向かってきた。
「「し、試合はっ!」」
一言一句違わずに青ざめながらも、必死の形相で二人は聞く。
二人の表情に少しイタズラしてみようと思ったが、すぐにかわいそうだと思い至り、事実を告げることにした。
「あ、明後日からです」
「「へっ?」」
目を丸くする。全く変わらない反応にシュウは少し吹き出した。
「く、くじ運がよかっただけですよ。多分、明後日には敗退していると思います」
二人同時に胸をなでおろした。そんな二人を見ていると長いこと一緒にいたことに実感が湧いてくる。
二人は千年も一緒に同じ環境で同じ扱いをされていたのだ。シュウにとっては果てしないので、想像もできていなかったが、今の二人の反応を見ていると納得した。
「そ、それにしても、二人とも大丈夫ですか?」
「大丈夫とは?」
サルファが応対してくれる。
「ふ、二人とも俺の貧血を治すためにかなり無理したと思いますから」
「あぁ、そのこと」
サルファは納得いったのか頷いている。
「それなら、大丈夫だ」
「本当ですか?」
サルファが強がっているだけだと考えたシュウは、ヒカミーヤに聞いてみる。
「本当ですよ。血を流しても、妾たちは吸血鬼はすぐに回復します」
「そうなのですか?」
「はい。昨日、眠ってしまったのは疲れのせいです」
「や、やっぱり、無理しているじゃないですか」
「あっ」
大丈夫だと伝えようとしていたが、ヒカミーヤは自分で墓穴を掘っていった。そんな彼女にシュウは苦笑を浮かべる。
「あっ、二人とも。昨日のお礼と言ってはなんですが、どこかに食べに行きませんか?」
「「えっ?」」
同時に目を丸くするという同じ反応を返された。
「そ、そんなに意外ですか?」
シュウの質問に二人はコクリと頷く。
「なら、そこにわたしも参加させてもらおうかな」
『っ!?』
突然、気配もなく背後から聞こえてきた声に三人は同時に息を飲んだ。
「び、ビルルさん。急に話しかけないでくださいよ!」
「ごめんね」
「というか、馴れ合わないのじゃないですか?」
「あの施設内だけはね。敷地内だけど施設外のここは関係ないよ」
「そうですか……」
「それにしても、シュウくんも、わたしと同じ日から試合って、運がいいね」
「その言い方だと、ビルルさんは運がいいというわけではないということになりますよ」
「実際にその通りだからね」
「どういうことですか?」
「学園長は平等って謳っていたけど、学園内で三本の指に入るメンバーは強制的に準々決勝からよ。あっ、もしかして、その三本の指に入るコウスターが魔力を注いだから、こうなったのかもね」
「その可能性が高いですね」
二人は普通に会話を繰り広げている。そこにサルファとヒカミーヤは入り込まない。入り込んではいけないのだ。
サルファとヒカミーヤの二人は空気でいないといけない。それは外で出てから変わらない。ましてや、食事に行こうなんて誘われることすら悪いことになってしまう。
「あっ、ビルルさん。さ、先ほども言ってましたけど、どこかに食べに行くのについてくるって正気ですか?」
「正気だけど、問題がある? 多分、そこのふた……りとシュウくんだけで、食べに行こうとしたら、問題が色々と起こると思うな」
そう言われると、ぐうの音も出ない。
異世界人と元勇者と元魔王。この世界での忌むべき相手しかいないことになる。店に入れないし、入れたとしても、何か起きるのは少し考えたらわかる。それをシュウは失念してしまっていたのだ。
「わ、わかりました。ですが、二人に許可を得ることが出来たらですよ」
話を無理矢理二人に振った。まさか振られると思っていなかったのか、反応が遅れてしまう。
「オレは大丈夫」
「妾も大丈夫です」
「ということで、シュウくん許可も出たし、ついていくよ」
こうなるとなんとなくわかっていたので、シュウはコクリと頷く。
「さっ、早く行こ! 開いている店も少ないから、早くしないと入れる場所なくなっちゃうよ」
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