救世主になんてなりたくなかった……
第71主:開幕式
水色の扉をくぐった、シュウとコウスター。
くぐった先は凄まじい歓声に包まれている。出たところは作品とかでよく見る円形の闘技場だ。
真ん中には石畳のフィールドがあり、周りを客席が囲む。しかし、大きさはよく見るような闘技場の比ではない。観客もこの国の全員が入るかと思うほど広い。それに観客数もそれくらいあるかもしれない。そのほぼ全員が歓声を上げているのだ。地響きがしている。しかし、その歓声の中でシュウに向いている歓声は一つもないだろう。
フィールドには所狭しと、人がいる。これが全員参加者と考えると緊張してしまう。
真上を見ると澄み渡る広大な空がある。自分たちがちっぽけに思えて、おかげで緊張が少しほぐれた。
『お待たせしました。参加者の皆様は今から映し出す球体に向けて魔力を放ってください』
どこからともなく無機質な声が聞こえてきた。その声が聞こえなくなると同時に水色の大きな球体が参加者の頭上に浮かぶ。みんなが指示された通りに腕を球体に伸ばす。しかし、シュウは魔力を持っていないので、できない。代わりに隣にいるコウスターが魔力を球体に向けて、放っている。そのせいかシュウは少し居心地悪く感じる。
『ありがとうございます』
無機質な声が再度聞こえると全員が魔力を放つのをやめた。
「すみません。ありがとうございます」
小声でコウスターに言う。普通の人間なら聞こえないほどだが、彼女には聞こえたようだ。
「これが私の仕事よ。お礼を言われる筋合いはないわ」
「そ、それでもありがとうございます」
「初戦敗退なんかしたら許さないわ」
「が、頑張ります」
コウスターのセリフにシュウは少し苦笑を浮かべた。
ーー俺だって負けるつもりはないさ。
口には出さないが、シュウはそう考えていた。
『それではクラウダー学園の学園長であるエルリアード・D・アストラーをメインに闘技戦の開幕式を行います』
無機質な声が聞こえたかと思うと、どこからともなく、薄い黄色の長い髪をたなびかせながら現れた。そんな彼女の手には拡声器らしきものがある。
『諸君、よくぞ集まってくれた。さすがにここまで集まるのは予想外だったがな』
そう言うと会場の皆が苦笑を浮かべたような気がする。
『えぇー……こほん。今回の闘技戦の出場者は最多の一千人だ』
「一千……ッ!?」
予想以上の人物に思わず大きめの声を漏らしてしまう。しかし、会場自体がうるさいので、誰も気に留めない。
『そのため今大会は五日間に渡り、開催する。いつも通り、準決勝と決勝は一日空ける』
(準々決勝までを三日でするということか……。無理じゃね?)
「今回はハードな日程になりそうだわ」
隣から聞こえたコウスターの呟きにやっぱりとシュウは思った。
『さて、諸君も知っていると思うが、恒例のルール説明を行う』
エルリアードはそこで一息いれる。今から、一気に何かを言おうとしているのがなんとなくわかる。
『本大会はトーナメント戦だ。一対一で、なんでもありだ。相手を三十秒間気絶させればいい。もちろん、殺しても構わん。ワタシからはそちらの方が楽だろうから推奨する。制限時間は設けないが、最大は一時間だ。シード枠は多めに用意した。運が良ければ、準々決勝からの試合になる。トーナメント表の抽選は完全なランダム。実力なんて考慮しない。学園で五本の指に入るであろうビギンス・R・ルセワルと初戦で当たる可能性もある』
エルリアードから突然出た名前にシュウは、誰だと思ったが、すぐにビルルのことだと思い出した。
『さて、そろそろ抽選が終わっただろう』
あまりの速さにシュウを目を見開く。まだ一分ほどしか経っていない。だというのに千人もいるのに抽選が終わったようだ。トーナメント表が参加者の頭上に表示される。
まだ名前は書いていない。ただ、表だけが出てきた。そこからもシード枠の多さがわかる。だが、千人もいるならばそれくらいが普通だろう。
『今回、シード枠は二百用意した。五分の一ある。多いかもしれないが、闘技戦に参加してくれた諸君へワタシからのささやかなお礼だ。そもそも諸君の参加がなければ本大会は開催できなかった。嘘をつきたくないので、有難い。それでは今から頭上のトーナメント表に名前が記載される。自分がどこかじっくりと探すといいだろう』
エルリアードが言い終わった瞬間に一斉にトーナメント表に文字が記載される。ラグなどはない。機械ではないのだから。千も名前が並んでいるので、かなり疲れるだろう。
シュウは必死に目を動かし自分の名前を探す。しかし、シュウ以外は誰一人として上を見ていない。
「アサヤ・シュウ」
コウスターに名前を呼ばれて、シュウはそちらを向く。すると、目が偶然合ってしまう。すぐさまにそらす。そんなシュウを気にせずに、コウスター小さなディスプレイ的なものをシュウに見せる。
「こ、これは?」
明らかにゲーム的なものだ。しかし、そこに書かれているのはトーナメント表。
「こっちで探した方が楽だわ」
たしかにその通りなのでシュウは素直に従う。
「そ、それって、ど、どうやって出すのですか?」
「説明するのが面倒だわ。だから、私のを見て」
そう言うとコウスターはディスプレイに触れた。そして、シュウの方へ投げるように飛ばす。どういう仕組みかディスプレイはシュウの前に着くと止まった。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言ってから、シュウはトーナメント表を見始める。ディスプレイに軽く触れると次のページに行く。シュウは上に表示された数字を見た。どうやら十ページあるみたいだ。
シュウは次々ページをめくる。そして、最後のページで自分の名前を発見した。
「えっ?」
あまりにも予想外だったので、思わず声を漏らす。そんなシュウの反応が不思議に思ったのか、コウスターはトーナメント表を自分の前に戻した。シュウはすぐさま上を見た。
「へぇー、準々々決勝からのシード枠ね。ビルルは準々決勝からね。そして、二人が当たるのは決勝戦と」
「そ、そんな簡単に名前を見つけことできますね」
「えぇ。慣れているからね」
彼女の言葉を聞いて、コウスターも学園で五本の指に入る強さだということを思い出した。
「ちょっと待ってください!」
突然、誰かが声を上げる。声が聞こえた方へ目を向けると、シュウがこの世界で初めて殺した男がいた。
『どうした?』
「どうして俺様が一回戦からで、異世界人なんかがシード枠なんですか! しかも、かなり試合が免除される!」
『どうしてと言われてもランダムだからどうしようもない』
「それでもです! そもそも異世界人なんかが、この闘技戦に出ることが間違いです!」
会場全体がざわめく。そして、視線がシュウに向く。一気に刺さるように向いた視線に、シュウの体が震え出す。
「たしかに」
「そうだ。これは俺たちの世界の大会だ」
「そうだそうだ」
「帰れ帰れ!」
次々と声が聞こえてくる。最終的には帰れコールが始まる。
『待つ!』
「学園長は黙ってください!」
エルリアードが何か言おうとしたので、シュウは口を開く。
彼女は恐らくシュウをかばう言葉を言うだろう。しかし、それだと彼女が反感を買ってしまう。シュウはそれがわかっているようだ。
「よく考えろ! あの人の中では俺は弱い。実際どうかは言わない。だけど、弱いならボコボコにできるんじゃないか? よかったな。試合中は邪魔が入らない。誰も止める者はいない。ならば、俺はシード枠がいいんじゃないか? 俺をボコボコにする権利を勝ち進んだら、得られる。むしろ、シード枠で俺をボコボコにできる可能性がある奴は嬉しいんじゃないか? あなたも勝ち進めば、俺の初戦で当たる」
シュウは矢継ぎ早に言った。その言葉で反論はなくなった。
『そういうことだ。諸君の健闘を祈る』
エルリアードが言うと、姿が一瞬にして消えた。
『これにて開幕式は終了します。本日、戦う選手は準備をしてください』
無機質な声が告げると、ほぼ同時に選手のみんなが鍵を虚空に差し、扉をくぐっていった。
異論を唱えた男はシュウを睨むとすぐに周囲に倣って、扉をくぐった。そんな男の姿に苦笑を浮かべたシュウは、コウスターが開けた扉をくぐった。
くぐった先は凄まじい歓声に包まれている。出たところは作品とかでよく見る円形の闘技場だ。
真ん中には石畳のフィールドがあり、周りを客席が囲む。しかし、大きさはよく見るような闘技場の比ではない。観客もこの国の全員が入るかと思うほど広い。それに観客数もそれくらいあるかもしれない。そのほぼ全員が歓声を上げているのだ。地響きがしている。しかし、その歓声の中でシュウに向いている歓声は一つもないだろう。
フィールドには所狭しと、人がいる。これが全員参加者と考えると緊張してしまう。
真上を見ると澄み渡る広大な空がある。自分たちがちっぽけに思えて、おかげで緊張が少しほぐれた。
『お待たせしました。参加者の皆様は今から映し出す球体に向けて魔力を放ってください』
どこからともなく無機質な声が聞こえてきた。その声が聞こえなくなると同時に水色の大きな球体が参加者の頭上に浮かぶ。みんなが指示された通りに腕を球体に伸ばす。しかし、シュウは魔力を持っていないので、できない。代わりに隣にいるコウスターが魔力を球体に向けて、放っている。そのせいかシュウは少し居心地悪く感じる。
『ありがとうございます』
無機質な声が再度聞こえると全員が魔力を放つのをやめた。
「すみません。ありがとうございます」
小声でコウスターに言う。普通の人間なら聞こえないほどだが、彼女には聞こえたようだ。
「これが私の仕事よ。お礼を言われる筋合いはないわ」
「そ、それでもありがとうございます」
「初戦敗退なんかしたら許さないわ」
「が、頑張ります」
コウスターのセリフにシュウは少し苦笑を浮かべた。
ーー俺だって負けるつもりはないさ。
口には出さないが、シュウはそう考えていた。
『それではクラウダー学園の学園長であるエルリアード・D・アストラーをメインに闘技戦の開幕式を行います』
無機質な声が聞こえたかと思うと、どこからともなく、薄い黄色の長い髪をたなびかせながら現れた。そんな彼女の手には拡声器らしきものがある。
『諸君、よくぞ集まってくれた。さすがにここまで集まるのは予想外だったがな』
そう言うと会場の皆が苦笑を浮かべたような気がする。
『えぇー……こほん。今回の闘技戦の出場者は最多の一千人だ』
「一千……ッ!?」
予想以上の人物に思わず大きめの声を漏らしてしまう。しかし、会場自体がうるさいので、誰も気に留めない。
『そのため今大会は五日間に渡り、開催する。いつも通り、準決勝と決勝は一日空ける』
(準々決勝までを三日でするということか……。無理じゃね?)
「今回はハードな日程になりそうだわ」
隣から聞こえたコウスターの呟きにやっぱりとシュウは思った。
『さて、諸君も知っていると思うが、恒例のルール説明を行う』
エルリアードはそこで一息いれる。今から、一気に何かを言おうとしているのがなんとなくわかる。
『本大会はトーナメント戦だ。一対一で、なんでもありだ。相手を三十秒間気絶させればいい。もちろん、殺しても構わん。ワタシからはそちらの方が楽だろうから推奨する。制限時間は設けないが、最大は一時間だ。シード枠は多めに用意した。運が良ければ、準々決勝からの試合になる。トーナメント表の抽選は完全なランダム。実力なんて考慮しない。学園で五本の指に入るであろうビギンス・R・ルセワルと初戦で当たる可能性もある』
エルリアードから突然出た名前にシュウは、誰だと思ったが、すぐにビルルのことだと思い出した。
『さて、そろそろ抽選が終わっただろう』
あまりの速さにシュウを目を見開く。まだ一分ほどしか経っていない。だというのに千人もいるのに抽選が終わったようだ。トーナメント表が参加者の頭上に表示される。
まだ名前は書いていない。ただ、表だけが出てきた。そこからもシード枠の多さがわかる。だが、千人もいるならばそれくらいが普通だろう。
『今回、シード枠は二百用意した。五分の一ある。多いかもしれないが、闘技戦に参加してくれた諸君へワタシからのささやかなお礼だ。そもそも諸君の参加がなければ本大会は開催できなかった。嘘をつきたくないので、有難い。それでは今から頭上のトーナメント表に名前が記載される。自分がどこかじっくりと探すといいだろう』
エルリアードが言い終わった瞬間に一斉にトーナメント表に文字が記載される。ラグなどはない。機械ではないのだから。千も名前が並んでいるので、かなり疲れるだろう。
シュウは必死に目を動かし自分の名前を探す。しかし、シュウ以外は誰一人として上を見ていない。
「アサヤ・シュウ」
コウスターに名前を呼ばれて、シュウはそちらを向く。すると、目が偶然合ってしまう。すぐさまにそらす。そんなシュウを気にせずに、コウスター小さなディスプレイ的なものをシュウに見せる。
「こ、これは?」
明らかにゲーム的なものだ。しかし、そこに書かれているのはトーナメント表。
「こっちで探した方が楽だわ」
たしかにその通りなのでシュウは素直に従う。
「そ、それって、ど、どうやって出すのですか?」
「説明するのが面倒だわ。だから、私のを見て」
そう言うとコウスターはディスプレイに触れた。そして、シュウの方へ投げるように飛ばす。どういう仕組みかディスプレイはシュウの前に着くと止まった。
「あ、ありがとうございます」
お礼を言ってから、シュウはトーナメント表を見始める。ディスプレイに軽く触れると次のページに行く。シュウは上に表示された数字を見た。どうやら十ページあるみたいだ。
シュウは次々ページをめくる。そして、最後のページで自分の名前を発見した。
「えっ?」
あまりにも予想外だったので、思わず声を漏らす。そんなシュウの反応が不思議に思ったのか、コウスターはトーナメント表を自分の前に戻した。シュウはすぐさま上を見た。
「へぇー、準々々決勝からのシード枠ね。ビルルは準々決勝からね。そして、二人が当たるのは決勝戦と」
「そ、そんな簡単に名前を見つけことできますね」
「えぇ。慣れているからね」
彼女の言葉を聞いて、コウスターも学園で五本の指に入る強さだということを思い出した。
「ちょっと待ってください!」
突然、誰かが声を上げる。声が聞こえた方へ目を向けると、シュウがこの世界で初めて殺した男がいた。
『どうした?』
「どうして俺様が一回戦からで、異世界人なんかがシード枠なんですか! しかも、かなり試合が免除される!」
『どうしてと言われてもランダムだからどうしようもない』
「それでもです! そもそも異世界人なんかが、この闘技戦に出ることが間違いです!」
会場全体がざわめく。そして、視線がシュウに向く。一気に刺さるように向いた視線に、シュウの体が震え出す。
「たしかに」
「そうだ。これは俺たちの世界の大会だ」
「そうだそうだ」
「帰れ帰れ!」
次々と声が聞こえてくる。最終的には帰れコールが始まる。
『待つ!』
「学園長は黙ってください!」
エルリアードが何か言おうとしたので、シュウは口を開く。
彼女は恐らくシュウをかばう言葉を言うだろう。しかし、それだと彼女が反感を買ってしまう。シュウはそれがわかっているようだ。
「よく考えろ! あの人の中では俺は弱い。実際どうかは言わない。だけど、弱いならボコボコにできるんじゃないか? よかったな。試合中は邪魔が入らない。誰も止める者はいない。ならば、俺はシード枠がいいんじゃないか? 俺をボコボコにする権利を勝ち進んだら、得られる。むしろ、シード枠で俺をボコボコにできる可能性がある奴は嬉しいんじゃないか? あなたも勝ち進めば、俺の初戦で当たる」
シュウは矢継ぎ早に言った。その言葉で反論はなくなった。
『そういうことだ。諸君の健闘を祈る』
エルリアードが言うと、姿が一瞬にして消えた。
『これにて開幕式は終了します。本日、戦う選手は準備をしてください』
無機質な声が告げると、ほぼ同時に選手のみんなが鍵を虚空に差し、扉をくぐっていった。
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