救世主になんてなりたくなかった……
第69主:ステージについて話す
「何があった?」
再度起き上がったサルファに先ほどの説明を求められる。シュウは素直にあったことを話した。
「なるほどな。大体事情を察した」
言いながらもジト目をやめないサルファに戸惑いをシュウは覚えている。
結局は何も起きないまま正常に戻った。しかし、サルファは除かれる。
「あ、あの……サルファさん。そのジト目やめませんか?」
「やめません」
「ど、どうしてですか?」
「だって、シュウはタラシ野郎だから」
「た、タラシ!?」
サルファの言葉にビルルもうんうんと頷く。それがどうしてかシュウはわかっていない。
「わかってなさそうだし、言うけど……。オレたちはずっと迫害……いや、それよりヒドい扱いを受けていた。そりゃあそうだよな。この世界を不老不死にした張本人だからな。オレたちのせいで多くの犠牲が出た。それは命の犠牲ではなく立場の犠牲が、でも、シュウ。お前はそんなヒカミーヤを守るため自己犠牲をした。まぁ、シュウは自己犠牲が好きなようだし、その辺りは気にしなくていい。だけどな」
サルファは一度そこで言葉を止める。すぐさま続きを言い始める。
「さっきのシュウが言ったことを簡単に言うと自分のことはどうでもいいから、ヒカミーヤのことを考えてやれと言ったんだ。さすがのオレでも、そんなセリフ言われたことがない。それに加えて、ヒカミーヤはオレよりもずっと、そういう言葉を言われ慣れていない。そりゃあ、動きが止まってしまうさ」
「まぁ、簡単にと言ってますけど、そ、そのつもりで言いましたから」
サルファの矢継ぎ早の言葉を冷静にシュウは返した。
「そんなことどうでもいいよ。まっ、とりあえずシュウくんは早く準備してね。朝食を食べたら、すぐに会場に行くから」
「えっ? も、もう、そんな時間なのですか?」
「早めに行っとくのが当然よ」
ビルルの言葉は別段おかしくなかったので、素直に頷き、彼女に従う。シュウの反応を見るとビルルは外に出る。
「あ、あの!」
「どうしたの?」
「どこ集合ですか?」
「シュウくんがこの世界に来て、初日に行った食堂」
言われて、納得できたので頷く。
今度こそ、ビルルは部屋の外に出る。
シュウは壁に埋まっているクローゼットへ向かう。しかし、そんなシュウよりも先にサルファが動き、制服とタオルを渡してくれる。
「あ、ありがとう」
当然とでも言うような彼女の動きに戸惑い、シュウは思わず敬語を使わずお礼を言ってしまう。そんなシュウの反応に微笑みを浮かべながら、サルファは「いえいえ」と返した。
戸惑いながらもシュウはシャワーを浴びる。
五分後、シュウはシャワールームから出てきた。今度は正常状態になったヒカミーヤが前に来ると、軽めにしていたネクタイをキュッと締められる。そして、すぐに下がる。その流れもまた自然。
「ど、どうしたのですか? 二人とも」
「と言いますと?」
「いや、昨日までこんなことしなかったのに……」
「さっき理解したんだ。オレたちはシュウに生かされるって。だから、ちょっとした機嫌取りさ」
「そ、そんな……。俺なんかの機嫌取りしても無意味ですよ」
シュウの言葉にサルファだけではなくヒカミーヤも大きなため息をする。それがわけわからなくて、シュウはただ焦るだけ。
「いいか? シュウ。先ほどの自分の言動と相手の反応を思い出してみろ」
言われた通り思い出してみると、察した。そもそもシャワーを浴びる前にサルファに言われていた。
 
「で、でしたら、機嫌取りされると恥ずかしいので、やめてください。お願いします」
「じきに慣れる」
「慣れたくないです」
キッパリとシュウは答えた。その反応に少し困った表情を浮かべて、サルファは機嫌取りをやめると口で言ってくれた。
軽く身だしなみを整えてから、食堂に向かう。着くと既にビルルが待っていた。待たせたら悪いと考え、小走りで近づく。
「お待たせしました」
言ってビルルに自分がいることを伝えると赤髪のロングポニーテールを揺らし、こちらに振り向いた。その瞬間、石鹸の香りがシュウの鼻孔をくすぶる。
「今日は朝食、あまり食べないでね。動きが鈍くなるし、横っ腹が痛くなるよ」
「わ、わかりました」
少しドギマギして、いつも以上に目線を逸らしてしまった。しかし、気づいていないのかビルルは何の反応も示さない。
「お、オススメってありますか?」
「うーん。オススメねぇ」
シュウたちは食堂の自販機に近づきながらも話す。
「あっ、これなんかいいんじゃない? あまり残っていないけど、今日は残ってるみたいね」
自販機を見る。文字通り命がけでした文字の読み書きの勉強のおかげで、シュウは自販機に搭載されている自動翻訳機能がなくても、メニューを読むことができた。
「定食ですか? ですが、俺のイメージだと、て、定食には魚がついてますけど、この世界だとどうなのですか?」
「大丈夫。ついているよ。前に話した通りに特殊な麻酔を使う」
一昨日の祭りでのことを思い出して、シュウは納得した。すぐにシュウは券売機で定食を買う。そして、一番空いている列に並び半券を受付の女性に渡す。
「あっ」
一昨々日も対応してくれた人だったので、思わずシュウは声を上げてしまう。
「あ、あの後は何も異常ありませんでしたか?」
「はい。おかげさまで」
「よ、よかったです」
シュウは安堵の息を吐く。そんなシュウの反応に受付の人は首をかしげる。
「どうして、あなたを異世界人だからと言って、殺そうとしたわたしのことを心配してくれるのですか?」
「異世界人が何をしたのか知りましたから、あの反応は正しいと思ったからです」
「そうですか。ですが、あなたのおかげでわたしはレイプされずにすみませんた。これはほんのお礼です」
彼女はそう言うと定食におまけのサラダが置かれていた。それが本当におまけなのかはシュウもわからない。だが、おまけと言われたからにはおまけだと自分を納得させた。
膳ごと受け取ると席を探す。それだけの行動なのになぜか色んな生徒に睨まれる。その目線をシュウは全て一人で受け止めた。
ビルルを探すが、彼女はまだ列に並んでいた。困り果てて、辺りを見回していると手を振っているのが目に入る。自分を呼んでいるわけではないと考えるシュウだが、どうやらシュウを呼んでいたらしい。物好きは誰だと思いながら向かうと、そこには茶髪のツーブロックの男子生徒セインドがいた。
「やあ、シュウ」
「セインドさん。どうしました?」
駆け寄るとすぐさまセインドに話しかけられたので、シュウは真面目に対応する。
「たしか、闘技戦出るんだったな」
「はい、出ますけど……それが?」
「いや、ルールをキチンと知ってるのかなって思って」
「キチンとは知りませんけど、勝敗条件は知っています」
「ならば、ステージについて話す。試合ごとにステージがエ……学園長の力で変わる。学園長の力は幻術を具現化する。つまり、本当は何もないところに幻術で何かあるとすると、そこには何かがあるということになる。しかも、ステージには一切統一性がなく、完全に無作為で選ばれる」
「そうなのですか……。でしたら、相手に地の利や長年の知恵はないということですか。たしかに公平ですね」
「だろ? ちなみにオブジェクトもある。それを使うのも自由だ」
「なるほど。勝てる自信がないですけど、やるしかないです」
「始まる前から弱気でどうする」
そう言って笑いながら、シュウは背中をバシバシと叩かれる。少し痛いが、生前の母親からの暴力から比べれば、さほど痛くない。そもそも生前の場合は肉体的というよりは精神の方が辛かった。だからこそ、シュウにとっては肉体的なダメージは些細なこと。
ダメージを受けたくはないが、精神か肉体かを選ばされると間違いなく肉体の方を選ぶだろう。
肉体は我慢できる。精神は我慢できない。たったそれだけのこと。
「たしか、シュウは魔力を扱えないから、コウスターが代わりだったな」
「はい。キチンと来てくれるかわかりませんけど」
「大丈夫だ。来てくれる。勘違いされやすいが、コウスターはいい奴だ。仲良くしてやってくれ」
セインドの言葉を聞き、孤高の存在であるコウスターがどうして彼のことが好きなのか、シュウは理解した。
「シュウくん」
突然、背後から声をかけられたので、シュウはビクリと震わせた。
「なら、ボクはここから離れさせてもらう。月並みな言葉だけど、闘技戦を勝ち進んでくれ」
「わかりました」
セインドが軽く手を上げながら、離れていった。
「さて、シュウくん。食べよう! 食べないと元気でないよ」
「そ、そうですね」
二人は朝食を向き合って食べ始めた。
再度起き上がったサルファに先ほどの説明を求められる。シュウは素直にあったことを話した。
「なるほどな。大体事情を察した」
言いながらもジト目をやめないサルファに戸惑いをシュウは覚えている。
結局は何も起きないまま正常に戻った。しかし、サルファは除かれる。
「あ、あの……サルファさん。そのジト目やめませんか?」
「やめません」
「ど、どうしてですか?」
「だって、シュウはタラシ野郎だから」
「た、タラシ!?」
サルファの言葉にビルルもうんうんと頷く。それがどうしてかシュウはわかっていない。
「わかってなさそうだし、言うけど……。オレたちはずっと迫害……いや、それよりヒドい扱いを受けていた。そりゃあそうだよな。この世界を不老不死にした張本人だからな。オレたちのせいで多くの犠牲が出た。それは命の犠牲ではなく立場の犠牲が、でも、シュウ。お前はそんなヒカミーヤを守るため自己犠牲をした。まぁ、シュウは自己犠牲が好きなようだし、その辺りは気にしなくていい。だけどな」
サルファは一度そこで言葉を止める。すぐさま続きを言い始める。
「さっきのシュウが言ったことを簡単に言うと自分のことはどうでもいいから、ヒカミーヤのことを考えてやれと言ったんだ。さすがのオレでも、そんなセリフ言われたことがない。それに加えて、ヒカミーヤはオレよりもずっと、そういう言葉を言われ慣れていない。そりゃあ、動きが止まってしまうさ」
「まぁ、簡単にと言ってますけど、そ、そのつもりで言いましたから」
サルファの矢継ぎ早の言葉を冷静にシュウは返した。
「そんなことどうでもいいよ。まっ、とりあえずシュウくんは早く準備してね。朝食を食べたら、すぐに会場に行くから」
「えっ? も、もう、そんな時間なのですか?」
「早めに行っとくのが当然よ」
ビルルの言葉は別段おかしくなかったので、素直に頷き、彼女に従う。シュウの反応を見るとビルルは外に出る。
「あ、あの!」
「どうしたの?」
「どこ集合ですか?」
「シュウくんがこの世界に来て、初日に行った食堂」
言われて、納得できたので頷く。
今度こそ、ビルルは部屋の外に出る。
シュウは壁に埋まっているクローゼットへ向かう。しかし、そんなシュウよりも先にサルファが動き、制服とタオルを渡してくれる。
「あ、ありがとう」
当然とでも言うような彼女の動きに戸惑い、シュウは思わず敬語を使わずお礼を言ってしまう。そんなシュウの反応に微笑みを浮かべながら、サルファは「いえいえ」と返した。
戸惑いながらもシュウはシャワーを浴びる。
五分後、シュウはシャワールームから出てきた。今度は正常状態になったヒカミーヤが前に来ると、軽めにしていたネクタイをキュッと締められる。そして、すぐに下がる。その流れもまた自然。
「ど、どうしたのですか? 二人とも」
「と言いますと?」
「いや、昨日までこんなことしなかったのに……」
「さっき理解したんだ。オレたちはシュウに生かされるって。だから、ちょっとした機嫌取りさ」
「そ、そんな……。俺なんかの機嫌取りしても無意味ですよ」
シュウの言葉にサルファだけではなくヒカミーヤも大きなため息をする。それがわけわからなくて、シュウはただ焦るだけ。
「いいか? シュウ。先ほどの自分の言動と相手の反応を思い出してみろ」
言われた通り思い出してみると、察した。そもそもシャワーを浴びる前にサルファに言われていた。
 
「で、でしたら、機嫌取りされると恥ずかしいので、やめてください。お願いします」
「じきに慣れる」
「慣れたくないです」
キッパリとシュウは答えた。その反応に少し困った表情を浮かべて、サルファは機嫌取りをやめると口で言ってくれた。
軽く身だしなみを整えてから、食堂に向かう。着くと既にビルルが待っていた。待たせたら悪いと考え、小走りで近づく。
「お待たせしました」
言ってビルルに自分がいることを伝えると赤髪のロングポニーテールを揺らし、こちらに振り向いた。その瞬間、石鹸の香りがシュウの鼻孔をくすぶる。
「今日は朝食、あまり食べないでね。動きが鈍くなるし、横っ腹が痛くなるよ」
「わ、わかりました」
少しドギマギして、いつも以上に目線を逸らしてしまった。しかし、気づいていないのかビルルは何の反応も示さない。
「お、オススメってありますか?」
「うーん。オススメねぇ」
シュウたちは食堂の自販機に近づきながらも話す。
「あっ、これなんかいいんじゃない? あまり残っていないけど、今日は残ってるみたいね」
自販機を見る。文字通り命がけでした文字の読み書きの勉強のおかげで、シュウは自販機に搭載されている自動翻訳機能がなくても、メニューを読むことができた。
「定食ですか? ですが、俺のイメージだと、て、定食には魚がついてますけど、この世界だとどうなのですか?」
「大丈夫。ついているよ。前に話した通りに特殊な麻酔を使う」
一昨日の祭りでのことを思い出して、シュウは納得した。すぐにシュウは券売機で定食を買う。そして、一番空いている列に並び半券を受付の女性に渡す。
「あっ」
一昨々日も対応してくれた人だったので、思わずシュウは声を上げてしまう。
「あ、あの後は何も異常ありませんでしたか?」
「はい。おかげさまで」
「よ、よかったです」
シュウは安堵の息を吐く。そんなシュウの反応に受付の人は首をかしげる。
「どうして、あなたを異世界人だからと言って、殺そうとしたわたしのことを心配してくれるのですか?」
「異世界人が何をしたのか知りましたから、あの反応は正しいと思ったからです」
「そうですか。ですが、あなたのおかげでわたしはレイプされずにすみませんた。これはほんのお礼です」
彼女はそう言うと定食におまけのサラダが置かれていた。それが本当におまけなのかはシュウもわからない。だが、おまけと言われたからにはおまけだと自分を納得させた。
膳ごと受け取ると席を探す。それだけの行動なのになぜか色んな生徒に睨まれる。その目線をシュウは全て一人で受け止めた。
ビルルを探すが、彼女はまだ列に並んでいた。困り果てて、辺りを見回していると手を振っているのが目に入る。自分を呼んでいるわけではないと考えるシュウだが、どうやらシュウを呼んでいたらしい。物好きは誰だと思いながら向かうと、そこには茶髪のツーブロックの男子生徒セインドがいた。
「やあ、シュウ」
「セインドさん。どうしました?」
駆け寄るとすぐさまセインドに話しかけられたので、シュウは真面目に対応する。
「たしか、闘技戦出るんだったな」
「はい、出ますけど……それが?」
「いや、ルールをキチンと知ってるのかなって思って」
「キチンとは知りませんけど、勝敗条件は知っています」
「ならば、ステージについて話す。試合ごとにステージがエ……学園長の力で変わる。学園長の力は幻術を具現化する。つまり、本当は何もないところに幻術で何かあるとすると、そこには何かがあるということになる。しかも、ステージには一切統一性がなく、完全に無作為で選ばれる」
「そうなのですか……。でしたら、相手に地の利や長年の知恵はないということですか。たしかに公平ですね」
「だろ? ちなみにオブジェクトもある。それを使うのも自由だ」
「なるほど。勝てる自信がないですけど、やるしかないです」
「始まる前から弱気でどうする」
そう言って笑いながら、シュウは背中をバシバシと叩かれる。少し痛いが、生前の母親からの暴力から比べれば、さほど痛くない。そもそも生前の場合は肉体的というよりは精神の方が辛かった。だからこそ、シュウにとっては肉体的なダメージは些細なこと。
ダメージを受けたくはないが、精神か肉体かを選ばされると間違いなく肉体の方を選ぶだろう。
肉体は我慢できる。精神は我慢できない。たったそれだけのこと。
「たしか、シュウは魔力を扱えないから、コウスターが代わりだったな」
「はい。キチンと来てくれるかわかりませんけど」
「大丈夫だ。来てくれる。勘違いされやすいが、コウスターはいい奴だ。仲良くしてやってくれ」
セインドの言葉を聞き、孤高の存在であるコウスターがどうして彼のことが好きなのか、シュウは理解した。
「シュウくん」
突然、背後から声をかけられたので、シュウはビクリと震わせた。
「なら、ボクはここから離れさせてもらう。月並みな言葉だけど、闘技戦を勝ち進んでくれ」
「わかりました」
セインドが軽く手を上げながら、離れていった。
「さて、シュウくん。食べよう! 食べないと元気でないよ」
「そ、そうですね」
二人は朝食を向き合って食べ始めた。
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