救世主になんてなりたくなかった……
第65主:貧血
「お、お待たせしました」
シュウはサルファとヒカミーヤがいるところに辿り着くと、すぐさま肉々しい棒を二人に渡す。二人は差し出された棒を受け取ると、なぜか頬を赤く染める。
「スゴイ太いな」
サルファが言った言葉にヒカミーヤはコクコクと頷く。
「さて、ここから離れましょうか」
できる限り屋台の人からサルファが見えないように庇う。変装しているとはいえバレる可能性だってある。だがら、背中を押して先を進ませる。
二人は恐る恐る肉々しい棒を食べている。次の瞬間に驚くぐらい頬が緩んでいた。二人の表情を見たシュウは自然と笑みをこぼす。
美味しいのかと疑問に思いながらも、シュウは自分の分の肉々しい棒を食べてみる。
噛んだ瞬間に溢れるほどの肉汁が出てきた。食感も固すぎ、柔らかすぎずでちょうどいい。香ばしい醤油の香りが、食欲を衰えさせないのだ。味は微かに醤油の味があるが基本は肉本来の旨味のみ。それだけなのに味はしっかりとしている。
シュウは二人ほどではないが、頬が緩んだ。
しばらく歩くと三人はシュウの自室に着いた。入った瞬間に二人は本来の姿に戻った。
「さて、オレたちは自分たちの部屋に戻るな」
「わかりました……」
「おいっ!」
シュウは立ちくらみして、よろめく。そんなシュウに駆け寄る二人。しかし、手でそれを制した。
「大丈夫……。ただ、血を流し過ぎただけだ」
「やはり死にすぎましたか」
「多分な」
「とりあえず横になろう。その方が楽になるはずだ」
「大丈夫」
ベッドに寝かせようとするサルファ。シュウは拒む。しかし「大丈夫じゃない」と言われて、力づくで寝かせられる。相手は元勇者だ。ホントに力が戻ってきていることを嫌でも教えられた。しかし、すぐに起き上ろうとする。そんなシュウをサルファは押さえつけた。
「大丈夫だから!」
疲れているせいか先程から敬語を使っていない。今回はそれどころか怒気を含んだ声で伝える。しかし、いつもなら怯えるヒカミーヤは平然としていた。
「ヒカミーヤ。悪いけどアレを頼む」
「わかりました」
答えるとすぐに近付いてくるヒカミーヤ。
「何する気だ!」
四肢を押さえつけられているシュウは同じように怒気を含んだ声で言う。
「大丈夫だ。シュウはジッとしていればいい」
「本気で何する気だ!?」
聞くがどちらも答えない。そんな時にどういうわけかヒカミーヤが自らの制服を脱ぎ始めた。
「な、何してんだよ!」
横から微かに見えたヒカミーヤの行動に思わず、声を荒げる。それでも彼女は止まらない。逃げるために暴れようとするシュウだが、サルファに力負ける。
「シュウ。ジッとしていてくれ」
「ジッとできるかよ!」
「大丈夫だ。お前に嫌な思いはさせない」
「既にしてるけどな! 俺の目の前で、まるで洗脳されたかのようにヒカミーヤが制服を脱いでいる。これで嫌がらないと思うか」
「そうか……。なら、悪い。言い換える。お前に動きを求めない。ただ、ジッとしていればいい。あとは全てオレたちがやる」
サルファが言った瞬間にシュウの両手首、両足首が小さな白い輪っかで押さえつけられていた。逃げようと動くがビクともしない。
「何をした!」
「安心しろ。ちょっとした拘束具だ。一応は魔法でできているから、オレの意思でしか動かない」
サルファの瞳からは力強さを感じる。その瞳で少し冷静にシュウはなった。しかし、シュウは察している。二人は自己犠牲しようとしていることを。シュウの中では自己犠牲は自分だけでいいと思っている。だが、二人はやめないだろう。それくらいシュウでもわかる。
「サルファさん」
ヒカミーヤがサルファの名を呼び、何かを投げる。部屋の照明でギラリと光った。サルファが受け取ったのはナイフ。
シュウが持っている短剣よりも刃渡りが小さいが、人を傷つけることくらい簡単そうだ。サルファは迷いなくそのナイフでヒカミーヤのことを切りつけた。
切りつけられた場所は胸と鎖骨の間。血が出てくる。その状態なのにヒカミーヤはシュウに近づいていく。目の前の光景を信じられないのでシュウは目を見開いな状態でジッとしている。そんなシュウに馬乗りになるヒカミーヤ。その状態でシュウの頭をそっと抱きしめる。ちょうど傷口がシュウの口の部分になった。
自然と血が口の中に流れ込む。まるで吸血鬼のようにその血を求める。しかし、理性が残っているのか押し倒すまではいかなかった。ただ、その状態で血を貪る。それはやめられない。
少しすると血が足りなくなってくる。それを見たサルファは自らの手首に深く切り込みを入れ、血を出す。その血の行き先はシュウの口に直接ではない。一度、ヒカミーヤの傷を経由する。手首の血が多いのか、先ほどよりも血の勢いは増す。それでもシュウは溢れさせずに貪る。
「随分、キレイに飲むな。この量なら絶対に溢れるのに。いくら慣れていても」
「そもそも理性を保てていること自体がスゴイことです。妾はお、襲われる覚悟でいましたから」
「襲わせないための拘束だからな。でも、血を摂取すれば拘束なんて意味をなさないからな。そんな危険な目に合わせて、すまない」
「いえいえ、結果的に襲われていないのですから、特に問題ないですよ」
「そう言ってもらえるとありがたい」
二人の会話を聞きながらもシュウは血を貪り続ける。そうせずにはいられないのだ。血を一口啜るたび全身に血が行き交う感覚がする。
数分後にようやく落ち着いてくる。しかし、縛られているため彼女を押しのけることはできない。代わりに抵抗とばかりに絶対に口を開かないでいる。そのことに気づいたのか、ヒカミーヤは離れる。
「もう、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、貧血が治った」
「それならよかったです」
ヒカミーヤはホッと息を漏らす。同時にサルファがフラッと倒れそうになる。だから、四肢の拘束もなくなる。ヒカミーヤを押しのけて、慌てて駆け寄ったシュウがなんとか支えて、倒れずには済んだ。しかし、力が出ないのか全体重がシュウの両腕にのしかかっている。そのままシュウはサルファをベッドに寝かす。
「さて、どうすればいい?」
自分を救おうとしてくれたことがわかっているのか、シュウはヒカミーヤに聞く。
「何もしなくていいです。貧血は寝かせておけば治ります。ですが、シュウさんは明日から闘技戦です。貧血が治るのはいつになるかわかりません。ですから、あなたを貧血から助けました。妾の血は吸血鬼の血です。ですから、あなたが理性をなくすのは前提でした。しかし、その前提は崩れました。どうして理性を保てたのですか?」
ヒカミーヤの言葉に納得したが、疑問の回答は考える。少し考え込んでから、ようやく答えが出た。
「相手の同意なく襲えば、とあるトラウマが蘇るからだと思います」
「そうですか」
彼女はそうとしか言わなかった。とあるトラウマに突っ込みはしない。ただ、それだけでヒカミーヤには思い当たる節があるのだろう。実際にシュウも言いたくないので、正直助かった。
「ヒカミーヤも服を着ろ」
そう言って床に落ちている制服を投げた。それはヒカミーヤが着ていたものだ。
ヒカミーヤに当たると床にバサッと落ちる。しかし、拾おうとはしない。どういうことだと思ったが、傷口が目に入る。傷口からはまだ血が流れていた。
「あっ。すみません。よ、汚れるから着たくないのですね」
シュウの言葉にコクリと頷く。しかし、彼女はシュウに近づいていく。その足取りはふらふらだ。何をされるかわからない。しかし、シュウはその場を動かなかった。
彼女はシュウの目の前でたどり着く。
「ごめんなさい」
ヒカミーヤは涙を流していた。それで今からされるであろうことを察したシュウ。
ヒカミーヤは言葉を続ける。
「敬語を使わないでください。そういう約束ですよね」
「そうで……そうだったな」
「それと妾を恨んでください」
「恨まない。だから、気にしなくていい」
シュウ微笑みながら優しい口調で言う。それと同時にまるで迎え入れるかのように腕を広げる。そんなシュウの胸にヒカミーヤは飛び込んだ。飛び込まれた瞬間にシュウは優しく抱きしめる。彼女は涙を流しながら、シュウの首筋に噛み付いた。
シュウはサルファとヒカミーヤがいるところに辿り着くと、すぐさま肉々しい棒を二人に渡す。二人は差し出された棒を受け取ると、なぜか頬を赤く染める。
「スゴイ太いな」
サルファが言った言葉にヒカミーヤはコクコクと頷く。
「さて、ここから離れましょうか」
できる限り屋台の人からサルファが見えないように庇う。変装しているとはいえバレる可能性だってある。だがら、背中を押して先を進ませる。
二人は恐る恐る肉々しい棒を食べている。次の瞬間に驚くぐらい頬が緩んでいた。二人の表情を見たシュウは自然と笑みをこぼす。
美味しいのかと疑問に思いながらも、シュウは自分の分の肉々しい棒を食べてみる。
噛んだ瞬間に溢れるほどの肉汁が出てきた。食感も固すぎ、柔らかすぎずでちょうどいい。香ばしい醤油の香りが、食欲を衰えさせないのだ。味は微かに醤油の味があるが基本は肉本来の旨味のみ。それだけなのに味はしっかりとしている。
シュウは二人ほどではないが、頬が緩んだ。
しばらく歩くと三人はシュウの自室に着いた。入った瞬間に二人は本来の姿に戻った。
「さて、オレたちは自分たちの部屋に戻るな」
「わかりました……」
「おいっ!」
シュウは立ちくらみして、よろめく。そんなシュウに駆け寄る二人。しかし、手でそれを制した。
「大丈夫……。ただ、血を流し過ぎただけだ」
「やはり死にすぎましたか」
「多分な」
「とりあえず横になろう。その方が楽になるはずだ」
「大丈夫」
ベッドに寝かせようとするサルファ。シュウは拒む。しかし「大丈夫じゃない」と言われて、力づくで寝かせられる。相手は元勇者だ。ホントに力が戻ってきていることを嫌でも教えられた。しかし、すぐに起き上ろうとする。そんなシュウをサルファは押さえつけた。
「大丈夫だから!」
疲れているせいか先程から敬語を使っていない。今回はそれどころか怒気を含んだ声で伝える。しかし、いつもなら怯えるヒカミーヤは平然としていた。
「ヒカミーヤ。悪いけどアレを頼む」
「わかりました」
答えるとすぐに近付いてくるヒカミーヤ。
「何する気だ!」
四肢を押さえつけられているシュウは同じように怒気を含んだ声で言う。
「大丈夫だ。シュウはジッとしていればいい」
「本気で何する気だ!?」
聞くがどちらも答えない。そんな時にどういうわけかヒカミーヤが自らの制服を脱ぎ始めた。
「な、何してんだよ!」
横から微かに見えたヒカミーヤの行動に思わず、声を荒げる。それでも彼女は止まらない。逃げるために暴れようとするシュウだが、サルファに力負ける。
「シュウ。ジッとしていてくれ」
「ジッとできるかよ!」
「大丈夫だ。お前に嫌な思いはさせない」
「既にしてるけどな! 俺の目の前で、まるで洗脳されたかのようにヒカミーヤが制服を脱いでいる。これで嫌がらないと思うか」
「そうか……。なら、悪い。言い換える。お前に動きを求めない。ただ、ジッとしていればいい。あとは全てオレたちがやる」
サルファが言った瞬間にシュウの両手首、両足首が小さな白い輪っかで押さえつけられていた。逃げようと動くがビクともしない。
「何をした!」
「安心しろ。ちょっとした拘束具だ。一応は魔法でできているから、オレの意思でしか動かない」
サルファの瞳からは力強さを感じる。その瞳で少し冷静にシュウはなった。しかし、シュウは察している。二人は自己犠牲しようとしていることを。シュウの中では自己犠牲は自分だけでいいと思っている。だが、二人はやめないだろう。それくらいシュウでもわかる。
「サルファさん」
ヒカミーヤがサルファの名を呼び、何かを投げる。部屋の照明でギラリと光った。サルファが受け取ったのはナイフ。
シュウが持っている短剣よりも刃渡りが小さいが、人を傷つけることくらい簡単そうだ。サルファは迷いなくそのナイフでヒカミーヤのことを切りつけた。
切りつけられた場所は胸と鎖骨の間。血が出てくる。その状態なのにヒカミーヤはシュウに近づいていく。目の前の光景を信じられないのでシュウは目を見開いな状態でジッとしている。そんなシュウに馬乗りになるヒカミーヤ。その状態でシュウの頭をそっと抱きしめる。ちょうど傷口がシュウの口の部分になった。
自然と血が口の中に流れ込む。まるで吸血鬼のようにその血を求める。しかし、理性が残っているのか押し倒すまではいかなかった。ただ、その状態で血を貪る。それはやめられない。
少しすると血が足りなくなってくる。それを見たサルファは自らの手首に深く切り込みを入れ、血を出す。その血の行き先はシュウの口に直接ではない。一度、ヒカミーヤの傷を経由する。手首の血が多いのか、先ほどよりも血の勢いは増す。それでもシュウは溢れさせずに貪る。
「随分、キレイに飲むな。この量なら絶対に溢れるのに。いくら慣れていても」
「そもそも理性を保てていること自体がスゴイことです。妾はお、襲われる覚悟でいましたから」
「襲わせないための拘束だからな。でも、血を摂取すれば拘束なんて意味をなさないからな。そんな危険な目に合わせて、すまない」
「いえいえ、結果的に襲われていないのですから、特に問題ないですよ」
「そう言ってもらえるとありがたい」
二人の会話を聞きながらもシュウは血を貪り続ける。そうせずにはいられないのだ。血を一口啜るたび全身に血が行き交う感覚がする。
数分後にようやく落ち着いてくる。しかし、縛られているため彼女を押しのけることはできない。代わりに抵抗とばかりに絶対に口を開かないでいる。そのことに気づいたのか、ヒカミーヤは離れる。
「もう、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ、貧血が治った」
「それならよかったです」
ヒカミーヤはホッと息を漏らす。同時にサルファがフラッと倒れそうになる。だから、四肢の拘束もなくなる。ヒカミーヤを押しのけて、慌てて駆け寄ったシュウがなんとか支えて、倒れずには済んだ。しかし、力が出ないのか全体重がシュウの両腕にのしかかっている。そのままシュウはサルファをベッドに寝かす。
「さて、どうすればいい?」
自分を救おうとしてくれたことがわかっているのか、シュウはヒカミーヤに聞く。
「何もしなくていいです。貧血は寝かせておけば治ります。ですが、シュウさんは明日から闘技戦です。貧血が治るのはいつになるかわかりません。ですから、あなたを貧血から助けました。妾の血は吸血鬼の血です。ですから、あなたが理性をなくすのは前提でした。しかし、その前提は崩れました。どうして理性を保てたのですか?」
ヒカミーヤの言葉に納得したが、疑問の回答は考える。少し考え込んでから、ようやく答えが出た。
「相手の同意なく襲えば、とあるトラウマが蘇るからだと思います」
「そうですか」
彼女はそうとしか言わなかった。とあるトラウマに突っ込みはしない。ただ、それだけでヒカミーヤには思い当たる節があるのだろう。実際にシュウも言いたくないので、正直助かった。
「ヒカミーヤも服を着ろ」
そう言って床に落ちている制服を投げた。それはヒカミーヤが着ていたものだ。
ヒカミーヤに当たると床にバサッと落ちる。しかし、拾おうとはしない。どういうことだと思ったが、傷口が目に入る。傷口からはまだ血が流れていた。
「あっ。すみません。よ、汚れるから着たくないのですね」
シュウの言葉にコクリと頷く。しかし、彼女はシュウに近づいていく。その足取りはふらふらだ。何をされるかわからない。しかし、シュウはその場を動かなかった。
彼女はシュウの目の前でたどり着く。
「ごめんなさい」
ヒカミーヤは涙を流していた。それで今からされるであろうことを察したシュウ。
ヒカミーヤは言葉を続ける。
「敬語を使わないでください。そういう約束ですよね」
「そうで……そうだったな」
「それと妾を恨んでください」
「恨まない。だから、気にしなくていい」
シュウ微笑みながら優しい口調で言う。それと同時にまるで迎え入れるかのように腕を広げる。そんなシュウの胸にヒカミーヤは飛び込んだ。飛び込まれた瞬間にシュウは優しく抱きしめる。彼女は涙を流しながら、シュウの首筋に噛み付いた。
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