救世主になんてなりたくなかった……
第58主:エルリアードの力
あの場にいたメンバーが部屋の外を出る。手伝うつもりで出たが、学園の人たちが優秀だったのか、もうほとんど直っていた。素直にシュウは驚いた。
「驚いただろう。クラウダー学園の関係者は皆、優秀だ。こと戦闘以外においてはだがな。そんな者たちでも戦えるようにするのが、この学園の教育方針」
「か、回復が苦手な人もいるようですが」
「それは当然だ。誰にも得意不得意はあるからな。まあ、その回復が苦手な人は安易に想像できるからな。彼女だけだ。戦闘以外は苦手な生徒はな。なぁ、ビルル」
エルリアードに名前を呼ばれて、ビルルはビクッと跳ねる。そんな彼女を見て、エルリアードは苦笑を浮かべる。
「別に責めているわけではない。先ほども言った通り、誰でも得意不得意があるからな。こればかりは仕方のない」
「お、俺みたいに両方苦手……というかできない無能もいるのですから、気にすることではないですよ」
「それこそ仕方がないことだ」
「仕方なくありません。俺はこの世界に……クラウダー学園に助けてもらってばかりです。死ぬこともできない。戦うこともできない。ただの穀潰しですね」
「そ、それは」
「反論はさせませんよ。俺は事実を述べただけですから」
シュウの言葉に誰も反論できなくなる。
「この話はやめようか」
申し訳ないことをしたと少し反省する。だが、言わずにはいられなかったから仕方ないと思い直す。
「で、でしたら、一ついいですか?」
「なんだ?」
「明日から闘技戦ですよね?」
「あぁ、そうだね。それが?」
「この状態でできますか?」
「問題ない」
「でしたら、参加者の抽選は?」
「あぁ。当たる相手を決める抽選か。アレは当日に会場で行う」
「時間がかかるのでは?」
「魔法を使えば一瞬で終わるから気にするな」
「魔法でどうやって……?」
「魔力を込める」
「えっ?」
「魔力を練って放つ」
「そ、それでしたら俺は参加できませんね」
「いや、シュウくんの分の魔力はコウスターに練って貰う」
「聞いてませんわ! どうして私が異世界人なんかのために魔力を練らないといけないのですかっ! それに私は停学中の身。そのようなことをする資格は……」
突然、名前を呼ばれたコウスターは水色の髪を揺らしながら、エルリアードの方をキツイ目つきで睨む。その様を見て、苦笑で返す。
「いいから、彼の分の魔力を込めろ」
「わ、わかりましたわ」
「なら、よかった」
「学園長。何をしましたか?」
「何もしてないが」
「簡単に騙されると思わないでください。明らかに強制的に承諾させましたよね?」
「さすがにこんなあからさまにすると、バレるか。わかった。教えるよ」
言いながら、彼女は両手を上げる。
「魔力の代わりにワタシが持っている力だ。絶対服従。言霊の一種だな。命令したい時に相手に何度も命令をできる。使われた相手に抗う術はない。ただし、使う度にワタシの記憶が古い順から消えていく。そんな力だ」
「なるほど。俺には使わないのですね」
「使わないじゃなくて君には使えないのだ。異世界人というのが絡んでいる可能性はある」
「記憶が消えるのに恐怖はないのですか?」
「ない。どうせ消えたらそのことは思い出されない。消えたこともいずれ忘れる。恐怖なんてあるはずがない」
「そうですか。ですが、周りの人たちはどうなのですかね?」
「この力を恐れながらも、ワタシの記憶が消えることを嫌がっている。だから、あまり使わないのだ」
「そうなのですか? 俺が知っている限りだと、この短時間で二回も使ってますけど」
「今回は偶然、使わないといけないタイミングが合わさっただけだ。基本は年に一、二回しか使わない」
「そうですか。よかった。なあ、セインド」
「ど、どうして僕に振る!?」
「だってねぇ」
シュウはセインドの言葉にビルルの方を見ると、彼女は必死に笑いを隠そうとしていた。だが、背後を見ながら、肩を震わせているので丸わかりだ。
「シュウよ。ビルルの戯言に惑わされるな」
「戯言ではないことは既にわかっているので、惑わされていない。というか丸わかり」
「そんなにか」
「その反応は肯定したことになるぞ」
「わかったわかった。諦める。そして、認める」
「何を?」
「僕は学園長のことが」
「ワタシのことが?」
素直にエルリアードは興味を示してしまったようだ。しかし、セインドはさすがにこの場で言うわけにはいかないのか、咳払いをして紛れさせる。
「ずっと男の娘に見えていたんだ」
『…………』
彼の言葉にこの場の全員が何も言えなくなる。紛らわすのはいいが、この紛らわせ方は明らかに悪手だ。
「ほほう。ワタシの胸が小さいから、そんなことを思ってたんだ」
明らかに怒っていた。しかし、彼女解釈は少し特殊だった。胸が小さいから男だという考えはあまりにも子供すぎる。そうなれば世の中の女性の一定数は男ということになってしまう。彼女の反論もおかしすぎた。
そのため二人以外のその場にいた全員が声には出さないよう努力をして、クスクスと笑ってしまう。シュウも例外ではない。
「セインドくん。あとで学園長室に来てください」
「はい」
当然の対応だ。説教されることは明白だろう。
「君に男の娘というものはなんたるか、キッチリ教えてやる」
まさかの説教ではなかった。そのせいで周りの人の笑いを拍車をかけてしまう。
「ダメだ! 我慢できない」
ビルルが言うと、全員が声を出して笑った。抑えることはもう、困難となる。だからしばらく、その場に笑いが巻き起こることとなった。
「驚いただろう。クラウダー学園の関係者は皆、優秀だ。こと戦闘以外においてはだがな。そんな者たちでも戦えるようにするのが、この学園の教育方針」
「か、回復が苦手な人もいるようですが」
「それは当然だ。誰にも得意不得意はあるからな。まあ、その回復が苦手な人は安易に想像できるからな。彼女だけだ。戦闘以外は苦手な生徒はな。なぁ、ビルル」
エルリアードに名前を呼ばれて、ビルルはビクッと跳ねる。そんな彼女を見て、エルリアードは苦笑を浮かべる。
「別に責めているわけではない。先ほども言った通り、誰でも得意不得意があるからな。こればかりは仕方のない」
「お、俺みたいに両方苦手……というかできない無能もいるのですから、気にすることではないですよ」
「それこそ仕方がないことだ」
「仕方なくありません。俺はこの世界に……クラウダー学園に助けてもらってばかりです。死ぬこともできない。戦うこともできない。ただの穀潰しですね」
「そ、それは」
「反論はさせませんよ。俺は事実を述べただけですから」
シュウの言葉に誰も反論できなくなる。
「この話はやめようか」
申し訳ないことをしたと少し反省する。だが、言わずにはいられなかったから仕方ないと思い直す。
「で、でしたら、一ついいですか?」
「なんだ?」
「明日から闘技戦ですよね?」
「あぁ、そうだね。それが?」
「この状態でできますか?」
「問題ない」
「でしたら、参加者の抽選は?」
「あぁ。当たる相手を決める抽選か。アレは当日に会場で行う」
「時間がかかるのでは?」
「魔法を使えば一瞬で終わるから気にするな」
「魔法でどうやって……?」
「魔力を込める」
「えっ?」
「魔力を練って放つ」
「そ、それでしたら俺は参加できませんね」
「いや、シュウくんの分の魔力はコウスターに練って貰う」
「聞いてませんわ! どうして私が異世界人なんかのために魔力を練らないといけないのですかっ! それに私は停学中の身。そのようなことをする資格は……」
突然、名前を呼ばれたコウスターは水色の髪を揺らしながら、エルリアードの方をキツイ目つきで睨む。その様を見て、苦笑で返す。
「いいから、彼の分の魔力を込めろ」
「わ、わかりましたわ」
「なら、よかった」
「学園長。何をしましたか?」
「何もしてないが」
「簡単に騙されると思わないでください。明らかに強制的に承諾させましたよね?」
「さすがにこんなあからさまにすると、バレるか。わかった。教えるよ」
言いながら、彼女は両手を上げる。
「魔力の代わりにワタシが持っている力だ。絶対服従。言霊の一種だな。命令したい時に相手に何度も命令をできる。使われた相手に抗う術はない。ただし、使う度にワタシの記憶が古い順から消えていく。そんな力だ」
「なるほど。俺には使わないのですね」
「使わないじゃなくて君には使えないのだ。異世界人というのが絡んでいる可能性はある」
「記憶が消えるのに恐怖はないのですか?」
「ない。どうせ消えたらそのことは思い出されない。消えたこともいずれ忘れる。恐怖なんてあるはずがない」
「そうですか。ですが、周りの人たちはどうなのですかね?」
「この力を恐れながらも、ワタシの記憶が消えることを嫌がっている。だから、あまり使わないのだ」
「そうなのですか? 俺が知っている限りだと、この短時間で二回も使ってますけど」
「今回は偶然、使わないといけないタイミングが合わさっただけだ。基本は年に一、二回しか使わない」
「そうですか。よかった。なあ、セインド」
「ど、どうして僕に振る!?」
「だってねぇ」
シュウはセインドの言葉にビルルの方を見ると、彼女は必死に笑いを隠そうとしていた。だが、背後を見ながら、肩を震わせているので丸わかりだ。
「シュウよ。ビルルの戯言に惑わされるな」
「戯言ではないことは既にわかっているので、惑わされていない。というか丸わかり」
「そんなにか」
「その反応は肯定したことになるぞ」
「わかったわかった。諦める。そして、認める」
「何を?」
「僕は学園長のことが」
「ワタシのことが?」
素直にエルリアードは興味を示してしまったようだ。しかし、セインドはさすがにこの場で言うわけにはいかないのか、咳払いをして紛れさせる。
「ずっと男の娘に見えていたんだ」
『…………』
彼の言葉にこの場の全員が何も言えなくなる。紛らわすのはいいが、この紛らわせ方は明らかに悪手だ。
「ほほう。ワタシの胸が小さいから、そんなことを思ってたんだ」
明らかに怒っていた。しかし、彼女解釈は少し特殊だった。胸が小さいから男だという考えはあまりにも子供すぎる。そうなれば世の中の女性の一定数は男ということになってしまう。彼女の反論もおかしすぎた。
そのため二人以外のその場にいた全員が声には出さないよう努力をして、クスクスと笑ってしまう。シュウも例外ではない。
「セインドくん。あとで学園長室に来てください」
「はい」
当然の対応だ。説教されることは明白だろう。
「君に男の娘というものはなんたるか、キッチリ教えてやる」
まさかの説教ではなかった。そのせいで周りの人の笑いを拍車をかけてしまう。
「ダメだ! 我慢できない」
ビルルが言うと、全員が声を出して笑った。抑えることはもう、困難となる。だからしばらく、その場に笑いが巻き起こることとなった。
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