救世主になんてなりたくなかった……

臨鞘

第47主:特訓の特訓

 鉄扉を抜けた先。それはただの荒野。何もない。見渡す限りの平面で、空もどんよりとしている。

「ここは……?」

「ここはどの国にも属さないただの森よ」

「も……り……?」

「そう。森。でも、千年の時を過ごして風化していったの。ここは万年曇り空。雨も降らなくなってる。そんなところに森が残るわけないよね。まぁ、そうなった原因は全て、ある異世界だけどね。その異世界の科学兵器でこうなったの。それがあったのが十二年前」

「十二年でこんなになるものですか?」

「使われた兵器の力がそれほど強かったということね。ちなみにここには人は訪れない。だから、暴れまわれるということ」

「なるほど。それは安全ですね。それで今からする特訓はなんですか?」

「その前にどこまでできるか見せさせて」

「はい。わかりました。ですが、一体どのようなことをすればよろしいのですか?」

「そうね……今から、わたしが攻撃するから、避けるか受け流すかして」

「反撃はしたらダメですか」

「してもいいけど、できるかな?」

「ははっ。できなさそうです」

「素直でよろしい。これができなければ何もできないよ」

「わかりました」

 返事をしたが、あることを思い出した。

「あっ……俺、武器持ってない」

「あぁーそっか。模擬戦で使っていたのはあそこで借りた短剣だったね。なら、わたしの予備の武器の短剣を貸してあげる」

 彼女は虚空に手を差し込むと中から短剣を取り出した。素直に彼は驚く。まるで近くに空間のひずみがあるかのようだった。
 武器はあんな感じで仕舞っているのだろうと推測される。それが特異すぎることもコウスターの話から知っている。

 ビルルは取り出した短剣をシュウに投げる。彼は慌てて受け取る。もちろん、両手でだ。

「その短剣はサブの武器のさらに予備だから何も特性が付与されていない、ただの短剣よ」

「わかりました。俺としてはその方が助かります」

「ちょっと待っててね。戦装束に着替えるから」

「はい。……ん? 今……ですか?」

「うん。今」

「えっ!? ちょっ!」

「あー。安心して。シュウくんが想像しているようなことは起きないから」

 彼女は言ったかと思うと自分の額に人差し指を押し当てる。

「…………よし」

 何が「よし」だかわからないが、頷くと右手を左から右へと振るう。たったそれだけのことしかしていないのにビルルの格好が変わる。

 先ほどまでは学園の制服だった。しかし今はチャイナ服に変わっている。彼女の髪色よりは明るい赤の無地。彼女の胸が大きいせいか丈が極限までに短くなっている。少しでも動くとパンツが見えそうだ。髪型は何も変わらない。

「よし! 問題ない」

 ビルルは自分の格好を見てそんなことを言っているが、シュウからすると問題しかない気がする。

「あとは武器を用意して」

 短剣を取り出した時と同じように取り出す。出てきたのは扇。恐らく鉄扇てっせんだ。それが二つ。片方は赤一色で、もう片方は青一色。

「安心して。何も特性は付与されてないから」

 ビルルはそう言ってきたが、何も安心できない。武器は鉄なのだ。しかも、二つ。

「それじゃあ攻撃するよ」

 身構える。でも、意味がなかった。一瞬にしてシュウの体は胴体から真っ二つ。何も見えなかったが、彼の後ろにはビルルがいる。背後を見ると凄まじい量の血を吹き出しているシュウがいる。しかし、彼女は見ても心配すらしない。

「あちゃー。ダメなやつね。まぁでも、仕方ないか。恐らくシュウくんがいた世界では戦いは非日常なんだから。まぁ、命の危険はあっただろうけど」

 彼女はしゃがみ込みシュウの二つに分かれた体の上半身側を指で突く。しゃがみ込んでも、どういうわけかパンツは見えない。

「シュウくーん。早く戻ってきてよ」

 まるで言葉に反応するかのように彼の体はくっつく。それを見ると、立ち上がり少し距離を取る。

 緑色の光がなくなると彼は起き上がった。

「シュウくん。おはよう。残念ながら特訓のための特訓をしないといけないよ」

「ははっ。頑張ります」

 もう一度、彼は構える。今度は油断はしない。

 しかし、次の瞬間には彼の首と胴体が分かれた。

 また緑色の光が彼を包むとくっついた。そして、起き上がった。

「お願いします!」

 一瞬にして今度は縦に真っ二つなる。


 構え、死、復活。構え、死、復活。構え、死、復活。

 彼はその三工程を繰り返す。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も──繰り返す。

 何度も死の痛みを味わっているのだ。普通は精神がおかしくなる。しかし、彼は何度も立ち上がり、繰り返す。

 ビルルは最初の方は声をかけていたが、徐々にかけなくなる。彼が構えた瞬間に死を訪れさせる。

 している方もマトモな精神状態では、そのうち壊れる。だから彼女は何も考えなくなる。考えていてはいけない。感情を持ってはいけない。ただ、同じ人を殺し続ける兵器と化す。

 何度目かわからないほどの復活をすると、何も言わずにシュウは構える。同じように何も見えないまま死ぬ。彼はそう思っていた。

「っ!?」

 何度目かの復活を遂げて、ようやく彼女の姿を視界に捉えた。しかし、身体は簡単にいうことを聞いてくれるはずがない。捉えることはできたが、また何もできなくて死んだ。しかし、確実に成長できていることは実感できる。

「もう一度!」

 大きな声を出してから構える。そして、また彼女は駆けてきた。

 動け!

 身体を動かすことに意識を向ける。すると、運がいいことに今度は言うことを聞いてくれた。でも、ピクリとするくらいだ。ビルルはそんな彼に容赦なく心臓を貫く。

 心臓を貫かれても簡単には死ねない。ジワジワと死んでいくのだ。今まで真っ二つとかだったので、痛みをあまり感じなかった。でも、今回は違う。苦しみ死ぬ。

 彼女はまるでゴミを見るかのような目でシュウを見ている。どういう心境の変化かわからない。少ししてからシュウは死んだ。しかし、心臓を貫かれただけなので、すぐに回復し、復活する。

「もう一度!」

 シュウがそう言った瞬間にビルルは駆けてきた。まだ構えてすらいないのにだ。今までとは違う行動に慌てる。その慌てが功を奏してか、自分が思っていた以上の反応速度が出て、ビルルの攻撃を弾く。だが、あくまでも片方のみ。もう片方がシュウに襲いかかる。けど、シュウは短剣で受け流す。そのまま思いっきり、ビルルに蹴りを入れる。だけど、彼女の体に当たる前に弾いたはずの鉄扇が彼の足を切り取る。痛みに悶える前に彼の体は四つに分けられた。

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