救世主になんてなりたくなかった……
第39主:屋台巡り⑵
正直言って、セインドが加わってくれてシュウは助かってる。こんなにも女性、しかも美少女ばかりだと彼にとっては、とてつもなくいづらいのだ。わかっていても、セインドがいなければどうしようもなかった。そのため無理してタメ口で話し、できる限りバレないように目線をそらしている。
全員がセインドの方に行ってくれると思ったが、そう上手くはいかない。ビルルしか彼に話していないのだ。シュウはわざと二人から距離を取る。そして、さりげなくヒカミーヤとサルファに話しかけやすいように気配を限りなく薄くする。
彼は現実世界でも軽度のコミュ障だった。でも、コミュ障なりに努力していたから、気配を薄くすることができるようになった。精度はダメダメのため、たまに成功する。そのたまにが今回に運良く訪れた。突然、彼の気配が消えたせいか四人全員がハッとする。
気配を極限に薄くしているだけなので、意図的に視界に入れさえすれば簡単に見つかる。だから、すでに見つかった。目が合ったのでバレたと確信した。
ーーこの世界の人たちは気配を察知できるんだな。
少しナメていたことに後悔した。無駄だとわかったので、すぐさま気配を元に戻す。
「ビビらせんなよ。急に消えたから何があったかと思ったぞ」
「ははは。すみません」
「これからはこんなことしないよう。いい?」
「い、嫌です」
「はぁっ!? どうしてよ!」
「未来は何があるかわかりませんから、約束はできかねます」
「あぁー。そう。なら、いいわ」
「ホントにいいのかよ!?」
「いいのよ。さぁ! 屋台巡りを続けよう!」
「わかった。よし! ちょうどいいエリアに来たし、ちょっと買ってくるから待ってろよ!」
セインドの言葉に四人は頷く。しかし、すぐにシュウはある屋台が目に入った。
「アレは?」
「あぁ、アレね。アレはランダム焼きよ。何かの植物からできた生地に色んなものを入れるの。ランダムだから、当たりとハズレがあるの。何が入っているかわからないから怖いもの見たさで人気なのよ。ちなみに鎧翼虫は硬くて合わないからって、捨てられたよ。他にも大勢の虫たちが」
「ありがとうございます」
彼は説明してくれたビルルにお礼を言い、すぐさま買いに行くことにする。屋台に書いていることは読めないが、焼かれたものがたこ焼きと瓜二つ。懐かしく思い、惹かれてしまったのだ。
昔、まだ妹である美佳がレイプされる前に、二人は祭りによく出かけていた。その時に美佳は必ず、たこ焼きを食べていた。彼女はとても嬉しそうに、幸せそうに食べていた。恐らくは、たこ焼きが好きだったのだろう。
そういう何気ないが幸せな日常はずっと過ごせると思っていたが、呆気なく終わりを告げてから、一切たこ焼きを口にしなかった。美佳も幼児退行してしまったせいか、たこ焼きとは言わずに綿あめやリンゴ飴やお面などを求めたのだ。レイプされた後もずっと一年に一度は祭りに行っていたので、よくわかっている。
だからこそ、たこ焼きは彼にしては思い出の食べ物。まさか異世界でお目見えできるとは思っていなかった。
「おじさん。たこ焼……ランダム焼き一つください」
「個数はどうする? 五個、十二個、三十四個の中から選んでくれ。おすすめは三十四個だ。大勢の人間でわいわい楽しめるし、全ての味を食べることができる」
「でしたら、三十四個で」
「あいよ! 800になる」
「あっ、はい。電子マネーで」
「そこに端末を置いてくれ」
「は、はい」
彼は屋台の店主の指示通りにアンティークショップにもあったタッチするだけで会計ができる端末に画面を伏せて置く。
チャリン! という音が鳴った。会計完了だ。
「お待ちどう! これはオマケのフルーツミックスジュースだ」
「五人分ですか……?」
「あぁ、君と付き添いの人たち全員分だ」
「お心遣い感謝します! ありがたく頂戴致します」
よく見ているなと思いながらも素直にお礼を言う。
「ちなみにジュースのフルーツミックスと使われているフルーツもランダムだから好きなものを飲めよ。一応袋に入れておいたからな」
「何から何までありがとうございます」
「いいってことよ! お客様に尽くすのがワシ達、商売人の務めだからな!」
シュウは何度もお辞儀をしながら、四人の元へ向かう。ちょうどセインドが帰ってきたようだ。ビルルとセインドが話している。
「お待たせしました」
「お帰り……って、なかなか一杯買ったね」
「三十四個ありますからね」
「で、その飲み物は?」
「フルーツミックスです。ミックスされている果物がランダムらしいです。ちなみにオマケで貰いました」
「へぇー。あのおじさんがオマケか……」
「珍しいのか?」
「あぁ、あのおじさんは毎回祭りの時に屋台を出しているんだ。しかも、ランダム焼きをただひたすらに。だから、有名なんだ。そのおじさんがオマケで何かを渡したのは初めてだ。ずっと、銭ゲバだとか言われてたからな」
「へぇー。でも、どうして俺にはくれたんだろうか?」
「さぁな。まぁ、いいじゃん。くれたんだしさ」
「まぁ、そうだな。それじゃあ、みんなどれか好きなものを取って」
「じゃあ、僕はこれ」
「なら、わたしはこれ」
「妾はこれを」「オレはこれを」
思い思いに取り、全員に行き渡った。
「なら、一斉に飲もうぜ」
セインドの案に全員がストローに口をつけた。
シュウは驚いた。酸味と甘味が見事にマッチしていた。雑味もない。彼が知っている果物で言うとマンゴーとレモン。オレンジにメロンもある。それら四つの果物がどこにも偏りもなく見事に混ざり合い、新たな味わいを生んでいる。
「美味しい……」
予想外過ぎたので、思わず口に出してしまう。
「あぁ。これは確かになかなか」
セインドも同じ思いらしい。他三人の顔を見ても、やはり同じ思いのようだ。
「いただきっ!」
「あっ! ならばこっちもっ!」
セインドとビルルはお互いに手に持っているストローに口をつけて飲み合っている。その様はまるでカップルのようで微笑ましく思う。
「あ、あの……」
「ど、どうしましたか?」
「妾もあなたのを飲みたいです」
「えっ? …………ど、どうぞ」
「わ、妾のもお、お飲みください……」
「あ、ありがとうございます……」
シュウとヒカミーヤはお互いに渡し、同時にストローに口をつけた。
口の中に広がったのは甘味と苦味。相反する味のはずなのにお互いがお互いを調和して高め合っている。こちらもやはり美味しい。
あちらはワイワイしているが、こちらはその逆。完全に対照的だ。こちらの二人を少し盛り上がらせるためにサンファはシュウが持っているものから、ヒカミーヤが持っているものへと流れるようにして口をつける。
「「あっ……」」
二人が同時に声を出した時にはすでに遅い。
「ふむふむ。スゴイな。これ。フルーツミックスジュースをさらにミックスしても美味い。一体どうなっているんだ? 仕組みがわからん」
「は、はあ……。まぁ、お、俺に言われてもわからないですけどね」
「それはオレも同じだ。それにしても……間接キスしちゃったなあ」
「っ!? 〜〜!!」
突然の言葉に、言葉にならない声を発してしまう。言われてみればそうだったのだ。シュウは全く気づいていなかった。だけど、気づかされた。もう、彼は忘れることができない。それに間接キスという時に唇に指を当てながら、妙に妖艶な笑みを浮かべられた。相手は男だとわかっていながらも、今は女。それに元勇者だ。恐らくこんな笑みを浮かべられて、頻繁に誘惑されていたのだろう。それを実行に移したまで。
しかし、人付き合いが苦手で女といえば母親と妹くらいしかまともに話していなかったシュウにとっては効果バツグンだ。顔を真っ赤に染めて、硬直しそうになってしまっている。
ヒカミーヤも同じように顔を真っ赤に染めながら、ジッと見ている。
「これ、お返しします」
「こ、こちらもお返しします」
間接キスということを意識したのか、お互いに自分が返す。返してもらったジュースを妙に喉が渇いていたので、シュウは口をつけて飲む。
「あっ、そうだ! みんなで飲み合いしようよ。すると、多くの味が味わえるよ」
「確かにそうだな。そうしよう」
突然のビルルの提案をセインドは承諾してしまったので、他の三人は断るなんてことはしなかった。そうして五人で飲み回しをすることになる。
飲み終えて素直に驚いた。全てが美味しかったからだ。しかも、何一つ同じ組み合わせはなかった。
セインドが選んだのは渋味と酸味。
ビルルが選んだのは甘味と渋味。
サルファが選んだのは苦味と渋味。
シュウが選んだのは酸味と甘味。
ヒカミーヤが選んだのは甘味と苦味。
それら全てが見事に調和し高め合っていた。
サルファとセインドが選んだもの以外は甘味が混ざっていたので、子供でも飲める。二人のは少し大人向けだ。
フルーツミックスジュースが美味しかったので、同じ店のランダム焼きにも期待ができる。
五人は屋台巡りを続けながらもランダム焼きを食べることにした。
全員がセインドの方に行ってくれると思ったが、そう上手くはいかない。ビルルしか彼に話していないのだ。シュウはわざと二人から距離を取る。そして、さりげなくヒカミーヤとサルファに話しかけやすいように気配を限りなく薄くする。
彼は現実世界でも軽度のコミュ障だった。でも、コミュ障なりに努力していたから、気配を薄くすることができるようになった。精度はダメダメのため、たまに成功する。そのたまにが今回に運良く訪れた。突然、彼の気配が消えたせいか四人全員がハッとする。
気配を極限に薄くしているだけなので、意図的に視界に入れさえすれば簡単に見つかる。だから、すでに見つかった。目が合ったのでバレたと確信した。
ーーこの世界の人たちは気配を察知できるんだな。
少しナメていたことに後悔した。無駄だとわかったので、すぐさま気配を元に戻す。
「ビビらせんなよ。急に消えたから何があったかと思ったぞ」
「ははは。すみません」
「これからはこんなことしないよう。いい?」
「い、嫌です」
「はぁっ!? どうしてよ!」
「未来は何があるかわかりませんから、約束はできかねます」
「あぁー。そう。なら、いいわ」
「ホントにいいのかよ!?」
「いいのよ。さぁ! 屋台巡りを続けよう!」
「わかった。よし! ちょうどいいエリアに来たし、ちょっと買ってくるから待ってろよ!」
セインドの言葉に四人は頷く。しかし、すぐにシュウはある屋台が目に入った。
「アレは?」
「あぁ、アレね。アレはランダム焼きよ。何かの植物からできた生地に色んなものを入れるの。ランダムだから、当たりとハズレがあるの。何が入っているかわからないから怖いもの見たさで人気なのよ。ちなみに鎧翼虫は硬くて合わないからって、捨てられたよ。他にも大勢の虫たちが」
「ありがとうございます」
彼は説明してくれたビルルにお礼を言い、すぐさま買いに行くことにする。屋台に書いていることは読めないが、焼かれたものがたこ焼きと瓜二つ。懐かしく思い、惹かれてしまったのだ。
昔、まだ妹である美佳がレイプされる前に、二人は祭りによく出かけていた。その時に美佳は必ず、たこ焼きを食べていた。彼女はとても嬉しそうに、幸せそうに食べていた。恐らくは、たこ焼きが好きだったのだろう。
そういう何気ないが幸せな日常はずっと過ごせると思っていたが、呆気なく終わりを告げてから、一切たこ焼きを口にしなかった。美佳も幼児退行してしまったせいか、たこ焼きとは言わずに綿あめやリンゴ飴やお面などを求めたのだ。レイプされた後もずっと一年に一度は祭りに行っていたので、よくわかっている。
だからこそ、たこ焼きは彼にしては思い出の食べ物。まさか異世界でお目見えできるとは思っていなかった。
「おじさん。たこ焼……ランダム焼き一つください」
「個数はどうする? 五個、十二個、三十四個の中から選んでくれ。おすすめは三十四個だ。大勢の人間でわいわい楽しめるし、全ての味を食べることができる」
「でしたら、三十四個で」
「あいよ! 800になる」
「あっ、はい。電子マネーで」
「そこに端末を置いてくれ」
「は、はい」
彼は屋台の店主の指示通りにアンティークショップにもあったタッチするだけで会計ができる端末に画面を伏せて置く。
チャリン! という音が鳴った。会計完了だ。
「お待ちどう! これはオマケのフルーツミックスジュースだ」
「五人分ですか……?」
「あぁ、君と付き添いの人たち全員分だ」
「お心遣い感謝します! ありがたく頂戴致します」
よく見ているなと思いながらも素直にお礼を言う。
「ちなみにジュースのフルーツミックスと使われているフルーツもランダムだから好きなものを飲めよ。一応袋に入れておいたからな」
「何から何までありがとうございます」
「いいってことよ! お客様に尽くすのがワシ達、商売人の務めだからな!」
シュウは何度もお辞儀をしながら、四人の元へ向かう。ちょうどセインドが帰ってきたようだ。ビルルとセインドが話している。
「お待たせしました」
「お帰り……って、なかなか一杯買ったね」
「三十四個ありますからね」
「で、その飲み物は?」
「フルーツミックスです。ミックスされている果物がランダムらしいです。ちなみにオマケで貰いました」
「へぇー。あのおじさんがオマケか……」
「珍しいのか?」
「あぁ、あのおじさんは毎回祭りの時に屋台を出しているんだ。しかも、ランダム焼きをただひたすらに。だから、有名なんだ。そのおじさんがオマケで何かを渡したのは初めてだ。ずっと、銭ゲバだとか言われてたからな」
「へぇー。でも、どうして俺にはくれたんだろうか?」
「さぁな。まぁ、いいじゃん。くれたんだしさ」
「まぁ、そうだな。それじゃあ、みんなどれか好きなものを取って」
「じゃあ、僕はこれ」
「なら、わたしはこれ」
「妾はこれを」「オレはこれを」
思い思いに取り、全員に行き渡った。
「なら、一斉に飲もうぜ」
セインドの案に全員がストローに口をつけた。
シュウは驚いた。酸味と甘味が見事にマッチしていた。雑味もない。彼が知っている果物で言うとマンゴーとレモン。オレンジにメロンもある。それら四つの果物がどこにも偏りもなく見事に混ざり合い、新たな味わいを生んでいる。
「美味しい……」
予想外過ぎたので、思わず口に出してしまう。
「あぁ。これは確かになかなか」
セインドも同じ思いらしい。他三人の顔を見ても、やはり同じ思いのようだ。
「いただきっ!」
「あっ! ならばこっちもっ!」
セインドとビルルはお互いに手に持っているストローに口をつけて飲み合っている。その様はまるでカップルのようで微笑ましく思う。
「あ、あの……」
「ど、どうしましたか?」
「妾もあなたのを飲みたいです」
「えっ? …………ど、どうぞ」
「わ、妾のもお、お飲みください……」
「あ、ありがとうございます……」
シュウとヒカミーヤはお互いに渡し、同時にストローに口をつけた。
口の中に広がったのは甘味と苦味。相反する味のはずなのにお互いがお互いを調和して高め合っている。こちらもやはり美味しい。
あちらはワイワイしているが、こちらはその逆。完全に対照的だ。こちらの二人を少し盛り上がらせるためにサンファはシュウが持っているものから、ヒカミーヤが持っているものへと流れるようにして口をつける。
「「あっ……」」
二人が同時に声を出した時にはすでに遅い。
「ふむふむ。スゴイな。これ。フルーツミックスジュースをさらにミックスしても美味い。一体どうなっているんだ? 仕組みがわからん」
「は、はあ……。まぁ、お、俺に言われてもわからないですけどね」
「それはオレも同じだ。それにしても……間接キスしちゃったなあ」
「っ!? 〜〜!!」
突然の言葉に、言葉にならない声を発してしまう。言われてみればそうだったのだ。シュウは全く気づいていなかった。だけど、気づかされた。もう、彼は忘れることができない。それに間接キスという時に唇に指を当てながら、妙に妖艶な笑みを浮かべられた。相手は男だとわかっていながらも、今は女。それに元勇者だ。恐らくこんな笑みを浮かべられて、頻繁に誘惑されていたのだろう。それを実行に移したまで。
しかし、人付き合いが苦手で女といえば母親と妹くらいしかまともに話していなかったシュウにとっては効果バツグンだ。顔を真っ赤に染めて、硬直しそうになってしまっている。
ヒカミーヤも同じように顔を真っ赤に染めながら、ジッと見ている。
「これ、お返しします」
「こ、こちらもお返しします」
間接キスということを意識したのか、お互いに自分が返す。返してもらったジュースを妙に喉が渇いていたので、シュウは口をつけて飲む。
「あっ、そうだ! みんなで飲み合いしようよ。すると、多くの味が味わえるよ」
「確かにそうだな。そうしよう」
突然のビルルの提案をセインドは承諾してしまったので、他の三人は断るなんてことはしなかった。そうして五人で飲み回しをすることになる。
飲み終えて素直に驚いた。全てが美味しかったからだ。しかも、何一つ同じ組み合わせはなかった。
セインドが選んだのは渋味と酸味。
ビルルが選んだのは甘味と渋味。
サルファが選んだのは苦味と渋味。
シュウが選んだのは酸味と甘味。
ヒカミーヤが選んだのは甘味と苦味。
それら全てが見事に調和し高め合っていた。
サルファとセインドが選んだもの以外は甘味が混ざっていたので、子供でも飲める。二人のは少し大人向けだ。
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