救世主になんてなりたくなかった……

臨鞘

第35主:叫んでも無駄

 倒れたシュウを見て、カフェ・リオーネで彼らを案内したりなどした女性店員が近づいていく。

 彼の髪の毛を引っ張り、首を持ち上げさせる。

「可もなく不可なくね。でも、いいや。若い男の子だし、みんな喜ぶだろうね。それに」

 彼女は彼の服をめくる。

「筋肉質だしね。喜ぶだろうな。貴重な労働力だよ」

「どうやらそいつはお前らの仲間じゃないようね」

「っ!? いつからそこに!」

「ずっといたわ。気配は隠していたけどね」

「なるほど。ネコの獣人か。納得だ」

「そいつは嫌いだが、お前らは大嫌いだよ。だから、今ここで殺すわっ!」

「いいね。その意思の強さ。その意思をへし折るのは大好きさ。それにネコの獣人で女ときた。餌食がふえたなっ!」

 水色の髪の少女が一度くるりとその場で回ると、服装が改造着物になり、手には薙刀が握られている。

 カフェ・リオーネの制服を着ている女性は制服を脱ぎ捨てる。中からは全身タイツが出てきた。武器は全身に隠し持っているようだ。

 二人は同時に相手をひと睨みする。両者共、ピクリとも動かない。でも、二人同時に相手へ駆けた。

 少女はネコの獣人だから、その速度が出るのはわかる。しかし、女性はただの異世界人だ。普通なら追いつけるはずがない。なのに同じ速度、もしくはそれ以上の速度が出ている。どうやら加速装置らしきものを付けているらしい。

 薙刀を振り下ろしたが、受け止められた。慌てて薙刀ごと距離を取る。相手は距離を詰めてきた。ギリギリのところで避けるが、すぐにどこかに隠していたであろうクナイが飛んできた。慌てて横に飛び、なんとか避け切る。

 次の瞬間には眼前に迫っていた。それを紙一重で避ける。風切り音が耳の横で聞こえてくる。避けられることがわかっていたのか、女性は何かを隠し持っている手を少女めがけて、繰り出す。少女も来ることがわかっていたかのように避ける。

 薙刀も振るう。さすがにそう来るとは思ってなかったのか、軽く腹の部分の服と身を裂く。血が一筋垂れる。でも、大した量ではない。致死量を出させるまでは時間がかかる。

 薙刀の刃を飛ばした。

「ははっ! ヤケになったのかな?」

 女性は少女をあざ笑う。飛んできた刃を弾き落とした。でも、どうやらただの薙刀ではなかったようだ。鎖があとからついてきて、まるで生き物のようにうねると、女性へ巻きつこうとする。それからは逃げるしかない。うねるもの相手にかなうものを持っていないから。

 ここで鉄を溶かせるほどの熱を放つものがあれば話は変わっていた。しかし、それは叶わぬ願い。そもそも加速装置があるだけの全身タイツを着ただけで、勝てるはずがなかった。女性は今頃になって、そんなことを気づく。

 この世界には魔力といわれる自然エネルギーを扱えるものがいるということは知っていた。そんな相手に容易く見つかるとは思ってなかったのだ。恐らく薙刀の刃のあとについていた鎖は魔力により無限に伸びる。逃げるしかないが、鎖の移動する速度は普通の人間では出せないほどだ。だからこそ、少し時間が経つと鎖が追いついた。

 腕に一瞬だけ触れた。それだけなのにさらに速度が上がり、腕にグルグルと鎖が巻きつく。なんとか抵抗して女性は離れようとするが、尋常じゃない力のせいで、抵抗は無駄に終わる。さらに体ごと、少女の方へ引っ張られていく。暴れても全て無意味。

 少女の前まで引っ張られると、そのまま宙吊りになる。締め付けも凄まじい。ただでさえ、体のラインが強調される全身タイツなのに、鎖の締め付けにより凹凸がはっきりとわかる。刃は肩に添えられている。

 薙刀の柄の部分を少女は持ったままだ。中からは、真っ黒な色のした散弾銃ショットガンが出てきている。それを女性の顎の部分に押し当てる。

「さぁ、どんな風に殺されたいの?」

 少女の質問に女性は黙ったまま。一応押しつけているが、話せるほどの力しか加えていない。だから、話さないのは自分の意志だということだ。

「ねぇ、どこを撃ち抜かれたいの? 胸? 腹? 足? 頭? 手? もしかして、股間?」

 少女は言っている場所に言うたびに押しつける。

「答えないの? なら、私の独断で決めるけど文句はなしね」

 少女はそう言いながら、刃が添えられている方とは逆のわきに押し付ける。そして、引き金を引き、撃った。銃声が響いたのと同時に刃がもう片方の肩を切り落とした。

「ああああああああああああああああああっ!!」

「叫んでも無駄。ここは今、私の魔力で誰からも認知されなくなっているからね。助けなんて来ない。お前らの超精密に位置情報を取得できるGPSも機能しない」

 女性のなくなった両肩からは大量の血が流れている。このまま放置していても、いずれは死ぬ。少女からすると、そんなのはつまらなさすぎる。もっと痛めつけたい。希望があればその通りに痛めつけたが、希望がなかったので少女の好きなように痛めつける。

 次に少女が押し当てる場所は足の付け根。呼応するかのように刃はもう片方の足の付け根に添えられる。

 先ほどと同じように銃声が響いたのと同時に刃が振られて、足の付け根を切り落とした。

「ーーーっ!!」

「痛みのあまり声も出ないでしょ? どうして銃弾が貫通したのかと不思議そうね。簡単よ。銃弾に魔力を閉じ込めさせて、貫通力と切断力を上げたのよ」

 懇切丁寧に説明するが、もう相手は救いようがないとわかっているからだ。足からも血が凄まじいので、もう十分もしないうちに死に至る。そもそも、もう終わりだ。次の一発で完全に死ぬ。

「処女っぽそうね。なら、仕方ないから慈悲として喪失させてあげるわ。もちろん、普通は突っ込むものではないわ。でも、特別。安心して、汚らわしい体液を浴びないように私の愛銃の周囲にはシールドを展開させるわ」

 少女が言うと薄っすらとショットガンの周りに膜が生まれた。

「思いっきり、行くからすぐよ」

 言うと刃が女性の服の股間の部分を裂いた。そして、思いっきりブッ刺して、奥にすぐにたどり着いたので、引き金を引き、撃った。

 切断力が高い弾は女性の体を内からズタボロにしていく。しかし、途中で止まった。

「あら、残念」

 少女はネコのように軽やかに飛び、脳天からも撃った。普通なら血を浴びるが、全て避ける。血はある一点にだけ飛び散ったので、避けることは簡単だった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品