救世主になんてなりたくなかった……

臨鞘

第2主:この世界は【死】というものが存在しない

 朝焼けに染まっている、静かな早朝の静かな森で、ある異変が起きた。
 そこは土しかない無。そんなところだというのに、まるで自然のエネルギーを一点に集中しているかのように緑色の粒子が虚空に集う。

 すると、二秒ほどで光がある形を作る。その形は人だ。何の変哲もない人。そして、その人に色がついていく。

 髪は色素の薄い黒髪で目を隠すほどの長さがある。それに比例して後ろ髪も長い。目つきはつっているかわからないほどのつり目で、瞳が青みがかった黒色。身長は男性の平均身長くらい。服は上は胸のあたりに赤文字で英語が書かれているフード付きのパーカーで、下は黒一色のジャージだ。

 つまり先ほど無くなったはずの朝夜主宇だ。

「あれ? どうして俺は生きているんだ? それに怪我をした痕跡もない……。もしかして夢だったのか? そうだ。そうに違いない」

 誰も答えてくれるはずがないので、勝手に結論づける。

「Ηξτοωκα」

「っ!? 誰だ!」

 突然、背後から理解できない言葉が、キレイな声で、聞こえてきたので、慌てて振り返るとそこには一人の美女がいた。……いや、見た限りだと少しあどけなさが残っているので、恐らくは彼と同い年の十七歳くらいの美少女がいた。

 髪は暗めの赤色で前髪は目にかかる前に切られているが、後ろ髪はとても長い。かなり上の方で一つにまとめているのだが、それでも膝くらいの長さまである。
 瞳は主宇とは違い、純粋な黒目。目つきは鋭いが、なぜか優しさを感じる。
 そして、何よりも胸が大きい。普通に巨乳だ。服の下からでもその大きさはわかる。だけど、もしかしたらこれでも着痩せしているのかもしれない。
 身長は彼よりも低いが女性にしたら充分高い方なので、モデルのようにしか見えない。

 そんな彼女はどこかの学校の制服を着ている。その制服は緑色を基調にしている。でも、ブレザーなのに、どういうわけか肩の部分は露出している。そした、赤色が主な少し大きなリボンをつけている。スカートは灰色でミニスカートだ。それ以外は特徴となるものはない。

「Ηψηψιξχλ」

 また何かを言っているが、理解できない。そもそも、言語には聞こえるが恐らくは彼が元いた世界の言葉ではない。

 だから、言葉は通じないと思い、無言を徹することにした。でも、彼にしてはその方が助かる。

 なぜなら、天界で治してもらったはずなのに、相手が怖い。まともに話せる気がしない。そんな状態で言葉が通じたとしても、恥ずかしい思いをするだけだと、悟っているからだ。

 だから、彼は目をそらす。

「διφηιωξβ?」

「うわっ!?」

 突然、首を傾げながら心配そうに覗き込んできたので声をあげて、慌てて彼女から距離を取る。その反応に驚いたのか、さっきの状態のまま静止して、目が点になっている。

 ーーな、なんて格好してんだっ!? もしかして気づいていないのか? もし、そうだとしたらさりげなく伝える方法はあるか? ………うん。ないな。

 焦りながらも、彼は目だけではなく顔ごとそらす。もちろん、怖いということもあるが、今は別のことでそらしている。

 なぜなら、無防備かワザとかわからないが、絶対領域を超えて、クマさんの可愛らしい楽園が覗いているのだ。さすがに家族(妹)以外とはあんまり関わりがない、彼にすると、地獄でしかない。

「θκχρηξ!?」

 ようやく気づいて立ち上がったのかと思えば、違った。表情的には何かを思い出したかのような表情をしている。

 すると次の瞬間、彼女の姿が消えた。

「へっ?」

 あまりの予想外過ぎる展開のせいで、思わず変な声が出てしまう。

 ーーま、まさか放置プレイとは予想外過ぎる。まぁ、俺なんかよりも、よっぽど大事な用事があるんだろうな。さて。

 自虐的な笑みを浮かべながらも、立ち上がった瞬間に目の前に先ほどの美少女のとても整った顔があった。

「のわあああああああああああああああああ!!」

 驚きすぎて、慌てて離れようとすると逃がさないとでも言うかのように、優しく抱きしめられたため、背後の退路を両手で遮られた。そして、何を思ったのか額にキスをされた。その一瞬で彼の思考はショートして、軽く気を失った。

             ︎

 目を開けると、空が広がっていた。時間はそれほど経っていないのか、まだ朝焼けに染まったままだった。

「大丈夫?」

「えっ? あぁ……まぁ……はい……」

 色々と疑問が湧いてきたが、とりあえずはきちんと答えれたので一安心。

「何か不思議そうな顔をしているね」

「…………」

 無言のまま目をそらしてコクリと頷く。そんな彼を見て、困ったように苦笑を浮かべていたが、とやかく言うつもりはないようだ。

「なんとなくその質問はわかるよ。だから、答えてあげるね。まぁ、本当にその質問が合ってるかわからないから、いくつか上がるけど、いい?」

 また無言でコクリと頷く。そして、彼女は話し始める。

「この世界は君からしたら異世界よ。まずはこれが前提ね。この世界の特徴は何個かあるけど、大事なことだけ伝えるね」

 そこで彼女は一息つき、続きを話す。

「この世界は【死】というものが存在しないの。千年も前からね」

「えっ?」

 あまりにも予想外過ぎたので、声を出しながら彼女の方を見る。その反応を見て、嬉しそうに微笑んでいる。

「それどころではないよ。この世界ではその千年よりも前から年老いていた人を除くと、全員記憶などを残して、肉体年齢が十七歳で止まるの」

「なっ!?」

 さらに予想外過ぎることを伝えられて、完全に彼の思考が止まってしまう。そんな彼を見て、楽しそうに話し続ける。

「まだまだあるよ。この世界の人たちは君たち異世界人が大嫌いよ。理由は簡単。君が住んでいた国とは違うかもしれないけど、この世界の住人を密かに誘拐しているからよ。何度か戦ったことがあるから、これは事実よ。
 そして、その誘拐されている人たちがどういう扱いをされているかわかるよね?」

 主宇は思考が止まるっていたが、すぐに動かす。でも、そんなことをしなくても答えは決まっている。

「奴隷……ですか?」

「正解。どうしたかもわかるよね?」

「言い方は悪いですけど【死】がない奴隷は一生使える。どれだけ過酷な労働をさせても死ぬことはない。ゆえにお金を渡さなくても問題ない」

「うん。そう。役割的には簡単だよ。基本、男は肉体労働の奴隷。女は性奴隷」

「それは恨まれてもおかしくないですね」

「だから、気をつけて欲しいのよ」

「っ!? ……?」

 普通に話していたことに気づき、離れて彼女の言葉に無言で首を傾げる。

「えっ? 言ってなかった? 君にはわたしと一緒に近くの国に来てもらうよ。そこで学生をしてもらう」

 ーーえっ? 聞いてないんだけど?

 声には出さないが、彼女に軽く怒りの視線を向けるが、気にしていないかのように彼女は先に進む。付いていかないと、大変なことをされそうなので、渋々付いていく。

 結局は彼が聞きたかった質問とは違ったが、異世界だからなんとなく察しがつくため、特に問題はない。

 空は朝焼けがなくなり、驚くほどの快晴の青空が広がっていた。

「救世主になんてなりたくなかった……」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く