救世主になんてなりたくなかった……

臨鞘

第27主:今日一日の停学処分

 ドシドシと足音が鳴っていると思うくらい、威圧感がある。

「アサヤ・シュウくん。まさか入学早々に、こんな密室に女を連れ込むなんてね」

「い、いえ、これにはふ、深いわけが」

 エルリアードの怒気を含んだ言葉にシュウは恐れながらも、キチンと口答えする。そんな彼を見たからか、エルリアードはニコッと微笑む。安心させるつもりだったのだろうけど、恐怖が増大した。

「まぁ、事情は大まかだけど察しているから。今回は見逃してあげる」

「えっ? あっ……は、はぁ……。ありがとうございます?」

「けど、できれば今後なきよう、お願いする」

「か、かしこまりました」

「ん?」

「どうかしましたか? ……って、はっ?」

「ちょっ!? 何をしているのですか!?」

 エルリアードが違和感を覚えたので、シュウの首筋に触れて顔を近づける。そんなわけのわからないエルリアードの行動にビルルは咎めようとしているのだ。

 エルリアードが彼の首に背伸び気味に触れる。そこは先ほどヒカミーヤに噛まれたところ。それを見て納得したのか彼女が「ふむ」と言う。それだけのことなのに首の噛み跡がなくなった。

「あっ。見逃してあげると言ったけど、今日一日の停学処分だから。普通は一クラス全員を殺したら、退学処分だから」

「それは見逃すではなく、軽くしているだけでは……」

「何か言った?」

「いいえ。何も」

「そう。なら、かい」
「待ってください」

「……どうしたんだ? ビギンス・R・ ルセワル」

「わたしも停学処分にしてください。わたしのせいでこうなったのですから」

「えっ? び、ビルルさん。さすがにそれは……」

「わかった。ビギンズ・R・ルセワルも停学だ」

「なっ!?」

「かしこまりました。その処分、つつしんでお受けいたします」

「うむ。街を彼に案内してやれ。まだ学園内しか案内していないだろうからな」

「元からそのつもりです」

 ビルルの返事を聞いて、少し微笑みながら、エルリアードは去っていった。

「さて、それじゃあすぐに停学しようね」

 ーーすぐに停学しようとか、スゴいパワーワードだな。

 シュウが苦笑いを浮かべる。
 彼が部屋から出ようとすると、他の三人も付いてきた。

「そ、そういえば。ビルルさん」

「どうしたの?」

「俺は私服といえばパーカーとかしかないのですけど」

「別にいいよ」

「いえいえ、外に出るのがパーカーとは恥ずかしいです」

「そんなの気にしたら負けよ。男が腹出しの制服で街にいる方がおかしいよ。しかも、学校があるのに」

「うぅぅ……。そ、そうですね」

「まぁ、今日デートで買えばいいのよ」

「で! ででででデートッ!?」

「だって、そうでしょ? 男女が二人っきりで出かけていたら、それはもうデートよ」

「い、いつ。俺だけと言いましたか?」

「えっ? だって……!」

「ヒカミーヤさんとサルファさんも連れていきますよ。二人も恐らく今の街はどうなっているか知らないでしょうから」

「チッ! 邪魔しやがって」

「怖いですよ! ビルルさん!」

「おほほほ。何のことでしょうか?」

「バレバレですよっ!」

「あの……妾たちのいけ」

 サルファが何かを言おうとしたヒカミーヤの背中を叩く。

「いいじゃねぇか。オレらも実際にわからないんだしさ」

「いえ、ですが……」

「もしかしたら、シュウを殺そうとしているかもしれないぞ。なのに二人っきりにできるか?」

「っ!? 妾たちも付いていかせてもらいます! 意地でもです!」

 ヒカミーヤがサルファに耳打ちをされると、真剣な表情で言った。

「おおう」

 さすがのシュウもそこまでは予想できていなかったようで、少し戸惑っている様子だ。ビルルはなぜか二人を睨んでいる。

 先ほどの仲良さげな雰囲気はどこかへ行った。また敵を見る目になっている。

「そ、それじゃあ一旦解散しましょう。そうしないと何も始まらないですよ」

「そうね。わかったよ。シュウくんは一人で部屋に帰れる」

「子供じゃありませんし、それくらいできますよ」

「そう。なら、いいよ。それじゃあ一時間後に集合しよう」

「えっ? どこにですか?」

「うーん。どこにしようか? シュウくんが知っていて、集合場所にできそうなところある?」

「そうですねー……。いや、少し待ってください」

「どうしたの?」

「ビルルさんの部屋って俺の部屋から三つ隣なだけですよね?」

「そうだけど。それが?」

「普通にあなたの部屋に行けばいいのでは、ないでしょうか?」

「えっ? わたしの部屋に来るの? エッチ」

「えっ? いやっ! そ、そそそんなつもりないですよっ!!」

「あはは。冗談よ。冗談!」

「そんな冗談やめてくださいよ」

「ごめんごめん。ネグリジェ姿を見られているからエッチも何もないよね」

「そっ! そそそそれは不可抗力ですっ!」

「大丈夫大丈夫。まだ裸を見られていないからね。でも、見たいと言うのなら通報するよ?」

「すみません! それでは集合場所をどこにします?」

「シュウくんの部屋でいいよ」

「毎度毎度向かいに来てもらいすみません」

「いいのいいの。まだこの世界に来て二日目でしょ?」

「それはそうですけど関係ありますか?」

「あると思っておいて」

「は、はぁ。わかりました。それじゃあ部屋に戻ろか」

「そうですね」

 二人が会話を交わすと部屋に向かい歩き始める。その後ろに二人は歩く。ヒカミーヤはビルルが不審な行動をしないか観察しながら。サルファは何かを考えながら。

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