救世主になんてなりたくなかった……

臨鞘

第32主:プレゼント

 上から四人が降りてくる。その中にいるビルルがシュウを発見すると口を開いた。

「シュウくんがここにいるってことはどれにするか決めたの?」

 彼女の言葉に彼は素直に頷く。

「さーて。それじゃあ、どれを選んだか教えてくれる」

「大分と悩んだのですが、これにしました」

 そう言って差し出したのは白いシャツと黒のジャケット。そして、黒のジーパン。

「へぇー。アレかな? シンプルイズベストというものかな?」

「そ、そうです。か、考えてみたのですが俺には、やはりシンプルが合うと思いました」

「そう…………」
「あっ、で、ですが全て買うつもりですよ」

「えっ? そうなの。でも、確かにその方がいいわね。服は数あっても困らないし」

「そ、そうですね。それでは買って来ますね」

「うん。わかったよ」

 彼がレジに向かうと先程約束した通りに店主がレジに入ってくれた。そのことに少し安心する。

 シュウは慣れた手つきでレジでお金を払う。不透明の袋に上下の服三着ずつと、プレゼントを入れてくれる。その袋を受け取り振り返ると、ヒカミーヤとサルファの手に同じような袋が握られているのが目に入る。でも、今はあえて何も言わないでおく。

「さて、名残惜しいけど、そろそろこの店を出ないとね」

「そ、そうですね」

 反射的に言ってから、自分が名残惜しいという感情を店で抱いたことに驚いた。でも、実際に色々と教えてもらい至れり尽くせりだったので、そんな感情を抱いてもおかしくないと考える。

 この世界に来てからではなく生まれて初めて、こんな店に訪れた。至れり尽くせりなのはよくあることだ。でも、こんなにも親身になってくれる店を彼はここ以外知らない。

 一階に降りた。

「ホントに色々とありがとうございました」

 シュウは深々とお辞儀をする。ヒカミーヤとサルファもそれにならって同じことをしている。ビルルは軽くお辞儀をする。

「いやいや、気にしないで。また何か必要なものがあったら気軽においで。ここは何でも屋。何でも置いている店だからね」

「そう言ってくださると助かります」

「それではさようなら……。いや、ここはありがとうございます。またのお越しをお待ちしておりますと言った方が正しいね」

「はい。また来ます」

 シュウは自然と笑みがこぼれた。

 お辞儀をやめて、店の外に出る。シュウは扉を開けて、自然と三人を先に行かせる。最後にシュウがお辞儀をして、出ていこうとすると店主が小さくガッツポーズをしているのがわかる。それは恐らくプレゼントを渡すのを頑張れと伝えるためだろう。だからこそ、シュウはお辞儀をやめて、コクリと頷く。そうして、四人は店を出た。

 外に出ると白かった地面のタイルがオレンジ色に光っている。

「あれ? もう夕方。随分と長居していたようね」

 ビルルの言葉に空を見上げる。空には雲一つなく、とても綺麗だった。でも、幻覚だろうなと思うとスゴいという感想しか出てこない。それは自然の力的な意味ではなく、科学の力に対する賞賛だ。

 彼は周りを見てみる。自分たち以外には誰もいない。いつもなら世界に取り残されたというような寂しさを感じるだろうが、今は違う。そもそも、遠くで祭りをしているのだろう。賑やかな声が聞こえてくる。

「あの……!」

 シュウは三人を呼ぶ。三人は同時に振り返る。そして、同じように首を傾げている。

「たった二日でしたけど、今までありがとうございます!」

 突然、そう言われたのでどうして彼がそんなことを言っているのかわからない。わからないからこそ考えて、旅に出るという考えが浮かぶ。

「あの……その……そのお礼と言ったらなんですが、これはプレゼントです」

 シュウはそう言って三人に渡す。

 店主が気を使ってくれたのか、それぞれの髪色に合うように、包みを用意してくれていたのを見ていたので、間違えるということはない。

「開けてもいいのかな?」

「はい……。もちろん、二人も開けて構いませんよ」

 彼の言葉を聞くと慎重にリボンをほどいていく。解き終わると紙をこれまた破らないように慎重に取る。

「俺が超個人的に選んだので、気に入らないかもしれませんけど……。捨てていただいても結構です」

 すかさず彼は自分のことを下げて言う。

「わたし。虫、嫌いなんだ」

 ビルルは笑顔で言う。その手にあるのは藍色で蝶をかたどっている髪留め。

 とてつもない選択ミスをしたと彼は内心で自分を追い詰める。

「冗談よ」

 ビルルは微笑みながら言うと、髪を一つにまとめているヘアゴムを取る。バサッと髪が舞う。解き放たれた髪はホントに長くて、地面についてしまっている。そんな髪を先ほどまとめていたのと同じ位置を、手で一度掴み、そこを蝶を模った髪留めでまとめる。

 彼女はクルッと一回転して、彼の方を見て「どうかな?」と少し恥ずかしそうな笑みを浮かべながら聞く。

「とても似合ってます」

 素直な意見を言う。

「ん〜。他に言うことはないかなぁ」

「えっ? あっ、えっ……と〜」

「フフ。冗談よ、冗談。その感想だけで充分。ホントにシュウくんをいじるの楽しいなぁ」

 ビルルの言葉に恥ずかしく思い、そっぽを向きながら頬をかく。

 目の前でサルファが銀一色で星を模ったネックレスをつけている最中だった。そのため大きすぎる胸の谷間が目に入って、慌てて顔をそらす。

「えっ…………?」

 そらした先にはヒカミーヤがいた。それはいい。でも、ケースに入った状態のネックレスを見ながら泣いていた。だから、思わずそんな声が出てしまう。

「すみません。まさか泣くほど嫌だったとは……」

「いいえ! 違いますっ! その逆です! 嬉しすぎて涙が……」

「いや、そんな大したものでは……」

「妾のなかでは大したものなのですっ! こんなプレゼントをもらったのは初めてですから……」

「そう……ですか。喜んでもらえたのならこちらとしても嬉しいです」

 そう会話をしていて、彼はヒカミーヤについてあることを思い出した。彼女は吸血鬼ヴァンパイアであることを。

 吸血鬼は鉄は無理だということだ。ヒカミーヤに渡したのは鉄のネックレス。

 つけるとかはないだろうが、もし、つけた時にはかなりマズイことになる。そんな考え事をしていると泣きながらも彼女はケースの蓋を開けて、ネックレスを取り出した。

「まっ!」

 つけると判断した彼は止めようとした。でも、無理だった。彼は自分のせいで相手が死んでしまう光景を思い浮かべる。でも、目を閉じない。自分の罪から逃げないために。むしろ、目を見開いて相手を凝視する。自分の罪を脳に焼きつかせるために。

「えっ? あれ?」

 彼女がネックレスをつけたが何も起きない。そのことに困惑して、思わず声を出してしまう。

『妾は最上悪魔コイチルチー吸血鬼ヴァンパイアです。そこらの吸血鬼と一緒にしないでください。妾は普通の人間と同じように扱っても何の問題もないのです。ですから、あまりジッとこちらを見ないで欲しいです。恥ずかしいので』

 ヒカミーヤは念話でシュウに話しかけた。彼女の言葉に素直に最上悪魔はスゴいと彼は改めて実感した。

「ありがとうございます。このネックレス一生の宝物にしますね」

「右に同じく」

「当然、わたしもよ」

 シュウは三人の言葉を聞いて、安心したし、嬉しくも思った。

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