高校生である私が請け負うには重過ぎる
第12話 真名
「あなたの名前? 山田光じゃないの?」
「この稼業はトップシークレット。常に付きまとうのは第一に名前だ。コードネームと言えば分かりやすいか。集団で行動する際、どうしても名前で呼ばねばならぬ。
その為にコードネームがあるわけだが、無論、本名もある。人物を特定するのにこの上ない個人情報だ。
アンタにあえて教えることで、秘密を遵守できるかどうかのテストというわけだ」
コードネーム……。そう言えば聞こえはいいかもしれないけれど、要は偽名ということだ。
偽名を使わなければならないほどの人生を彼は送っているのかと思うと、私は改めて、とんでもない人に目をつけられたものだと、今更ながら後悔する。
しかしこれはこれで難題。まだ彼とは長い付き合いになりそうなのに、今から本名を名乗られるとなると、一年間はその名前を知られぬよう過ごさなければならない。
ふとした拍子で口が滑って言ってしまいそうだ。乗りかかった船から降りれるのなら、海上だろうと飛び込みたい気分だ。
「大丈夫。口は堅い方だと自負しているから」
「どうだか。ま、それくらい出来てもらわねば、助手としての先が思いやられるからな」
「それで、あなたの本当の名前は?」
「ああ、そうだな。私の名前は——」
そう言うと彼は、胸元から一枚の紙切れを取り出し私に見せてきた。
『陰山奇鬼』
 明朝体の綺麗な文字でそれだけ書いてあった。
「かげやま……、あや、き?」
「ほう、よく一発で読めたな。ご名答だ」
軽く拍手をしながら彼はそう言った。拍手をされるようなレベルなのだろうか?
苗字は分かったけれど、名前はほぼ勘だったので、褒められても複雑な気分だ。
——陰山奇鬼
落ち着いた印象の彼に似合わずかなり攻撃的な名前だった。
陰山に関しては、名は体を表すじゃないけれど、彼らしい名前だと思ったが。
にしても、怪しい。いくらテストとはいえ、こんなに簡単に本名を教えてくれるものなのだろうか?
あれだけ名前に関することをとやかく言ってくるような人物が、今日初めて会った人に対して信用などないだろう。秘密の共有なんてできるはずがない。
彼の場合は尚更だ。簡単に他人を信用するようなタイプの人間ではない。この名前も偽名と考えておいても問題はないくらいだ。
けれどテストはもう始まっている。この名前を人前では決して口に出してはいけない。それが本名だろうが偽名だろうが、関係のないことだ。
「私のことは普段は山田と呼べ。それ以外では読んでも構わんが、なるべくなら呼ぶな。
イニシャルでKとならいくらでといいがな」
「そんな風には呼びたくない。ちゃんと名前で呼ぶよ。だから、陰山くん。私のことも「アンタ」じゃなくてきちんと名前で呼んで。それとも私の名前、知らない?」
「馬鹿を言うな。アンタの名は海野。海野蒼衣だろう? 誓約書にもそう書いてあるだろう」
「ふふ、やっと呼んでくれたね。至らぬところは多々あると思うけれど、これからよろしくお願いします」
「足を引っ張るのはタコのだけで十分よ。それだけは憶えておくがいい、委員長」
そう言いながら私たちは握手を交わした。差し出したのは私からだったけれど、素直に応じてくれた彼の手から伝わる力強さは、何よりも信用に足るものだった。
それだけははっきりと断言できる。彼は私に対して表し期待をしていた。
ただの思い過ごしかもしれないけれど、私は感じた。
思い過ごしたくないから、そう感じたのだった。
「この稼業はトップシークレット。常に付きまとうのは第一に名前だ。コードネームと言えば分かりやすいか。集団で行動する際、どうしても名前で呼ばねばならぬ。
その為にコードネームがあるわけだが、無論、本名もある。人物を特定するのにこの上ない個人情報だ。
アンタにあえて教えることで、秘密を遵守できるかどうかのテストというわけだ」
コードネーム……。そう言えば聞こえはいいかもしれないけれど、要は偽名ということだ。
偽名を使わなければならないほどの人生を彼は送っているのかと思うと、私は改めて、とんでもない人に目をつけられたものだと、今更ながら後悔する。
しかしこれはこれで難題。まだ彼とは長い付き合いになりそうなのに、今から本名を名乗られるとなると、一年間はその名前を知られぬよう過ごさなければならない。
ふとした拍子で口が滑って言ってしまいそうだ。乗りかかった船から降りれるのなら、海上だろうと飛び込みたい気分だ。
「大丈夫。口は堅い方だと自負しているから」
「どうだか。ま、それくらい出来てもらわねば、助手としての先が思いやられるからな」
「それで、あなたの本当の名前は?」
「ああ、そうだな。私の名前は——」
そう言うと彼は、胸元から一枚の紙切れを取り出し私に見せてきた。
『陰山奇鬼』
 明朝体の綺麗な文字でそれだけ書いてあった。
「かげやま……、あや、き?」
「ほう、よく一発で読めたな。ご名答だ」
軽く拍手をしながら彼はそう言った。拍手をされるようなレベルなのだろうか?
苗字は分かったけれど、名前はほぼ勘だったので、褒められても複雑な気分だ。
——陰山奇鬼
落ち着いた印象の彼に似合わずかなり攻撃的な名前だった。
陰山に関しては、名は体を表すじゃないけれど、彼らしい名前だと思ったが。
にしても、怪しい。いくらテストとはいえ、こんなに簡単に本名を教えてくれるものなのだろうか?
あれだけ名前に関することをとやかく言ってくるような人物が、今日初めて会った人に対して信用などないだろう。秘密の共有なんてできるはずがない。
彼の場合は尚更だ。簡単に他人を信用するようなタイプの人間ではない。この名前も偽名と考えておいても問題はないくらいだ。
けれどテストはもう始まっている。この名前を人前では決して口に出してはいけない。それが本名だろうが偽名だろうが、関係のないことだ。
「私のことは普段は山田と呼べ。それ以外では読んでも構わんが、なるべくなら呼ぶな。
イニシャルでKとならいくらでといいがな」
「そんな風には呼びたくない。ちゃんと名前で呼ぶよ。だから、陰山くん。私のことも「アンタ」じゃなくてきちんと名前で呼んで。それとも私の名前、知らない?」
「馬鹿を言うな。アンタの名は海野。海野蒼衣だろう? 誓約書にもそう書いてあるだろう」
「ふふ、やっと呼んでくれたね。至らぬところは多々あると思うけれど、これからよろしくお願いします」
「足を引っ張るのはタコのだけで十分よ。それだけは憶えておくがいい、委員長」
そう言いながら私たちは握手を交わした。差し出したのは私からだったけれど、素直に応じてくれた彼の手から伝わる力強さは、何よりも信用に足るものだった。
それだけははっきりと断言できる。彼は私に対して表し期待をしていた。
ただの思い過ごしかもしれないけれど、私は感じた。
思い過ごしたくないから、そう感じたのだった。
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