夜蝶々

水乃谷 アゲハ

初夜

 夜蝶々というものを知っているだろうか。今ではカラスアゲハと呼ばれる蝶のことなのだが、今では一部の人間ぞ知る呪いの名前としても使われている。
 夜蝶々。その名のとおり夜行う呪いなのだが、人間の血が噴出したときの形が蝶の羽に似ていることからこの名前がついた。呪いの種類は5寸釘と同じ遠距離呪い。が、それより残酷なものがこれだ。

 夜蝶々が行われた最後の場所は、とある中学校だった。当時、その中学校は人数が少なく、次の年に廃校になるといわれている学校だった。全校生徒は10人。1年生2人、2年生3人、3年生5人という人数だった。
 なぜこんなに生徒が少ないのかといえば、近くにもうひとつ新しくできた中学校があったことともうひとつ、この中学校に奇妙なうわさが流れていたからだ。
「聞いた?あの中学、なんか幽霊が取り付いてるらしいよ?」
「まじで?」
「それだけじゃないんだよ!学校を外から見ると、何とも無いけど、中に入ると絶対いろんなところで血の匂いがするんだって」
「え~?うそ臭い~」
「だよね~」
「でもさ~、そんなところいきたくないね」
「そうだよね。あ、それとこんなうわさもあるんだよ!」
「ん?」
「巨大な、それこそ人間ぐらいの蝶が飛んでるってうわさだよ~羽根が赤いんだって!」
「え・・・・・・なにそれ不気味。なおさら行きたくないわ」

 人と同じ大きさの蝶。そのことに反応した生物学者が何人もその学校を調べたのだが、結局その核心をつかむものはいなかった。だが、うわさだけは着実に広まっていった。
 当然のことながら、中学校の生徒も怖がっていると思いきや、中学校の生徒はみな口々に怖くないといった。
「あんなのうわさだしね」
「それな」
 そんな風にして今日も始業のベルがなった。そして何事もなく終了のチャイムが鳴る。
「ヤマト~、これからあれやらない?」
 3年の教室でヤマトといわれた男の下に一人の女子が駆け寄る。
「おろ?あれってなんだよシィ」
 シィと呼ばれた少女は驚いた顔をして繰り返した。
「あれっていったらあれだよ!」
 そこに一人の男が近づく。
「あぁ、あれかな」
「シンジにはわかってるよ?え、ヤマト本気で分からないの?」
 シィはなにこいつ?と言うような顔でヤマトを見る。
「はぁ?分かるわけ・・・・・・」
「あれだよあれ!」
「えっと・・・・・・あぁ、あれね!」
「ダウト。絶対分かってないでしょ」
 シィの指摘にヤマトは両手を上に上げる。
「降参。さっぱりわからん」
 そこにまた新しく人が寄ってくる。
「ヤマトさん、本気で分からないのですか?私にもわかりましたが・・・・・・」
 その声にずっと遠くで作業していた男が顔を上げる。
「やめとけやめとけ。そいつは鈍感だからわかんねぇって」
 その一言に、ヤマトはむっとした顔で反論する。
「うるさい!そういうアキトはわかってんの?」
「あれだろ?昨日見つけたあれだろ?」
「それそれ!」
 シィが満足そうにうなずく。
「へ?・・・・・・あ!」
「鈍感だね・・・・・・」
「鈍感だな」
「さ、さすがに鈍感ですね・・・・・・」
「だからいったんだよ」
「うるさいぞ。で何?やるの?」
 その声に皆がうなずく。
 5人が見つけたのは、庭に埋められていた手紙だった。その手紙に書いてあることを実行しようと言うのだ。
「まじで言ってる?どんなことになってもしらんよ?」
「大丈夫だって!どうせ使うのはやまっちのやつだし?」
 やまっちというのは3年を担当する教員の名前で、皆が嫌っている人だった。
「・・・・・・」
「いいからいいから!今日の夜に鴻の山集合ね!」
「あぁ、何時だっけ?」
「11時ではありませんでしたか?」
「そうだったそうだった」
「アキトだってちゃんと覚えてないじゃん」
「うるせぇ」
 二人の間に割って入るようにしてシンジは口を開いた。
「まぁまぁ、そこらへんにして!んじゃ、僕は先に帰るよ」
「んじゃなシンジ」
「じゃあね~」
「それじゃあ私も帰るわ!んじゃね」
 そこに誰も声をかけるものはいなかった。
「ちょ、ちょっと!何で私のときは誰も反応しないの!?」
「シィって・・・・・・・そういうキャラじゃん?」
「はぁ!?なにそれ。」
「嘘だよ。じゃあな。」
「はぁ・・・・・・。じゃあね。」
「アキトさん、ちょっと私とヤマト君だけにさせてもらえますか?」
「お?何々?告白?よかったじゃんヤマト!」
「いや、違うでしょ。」
「知ってる。んじゃ、俺も帰るわ。んじゃな。」
「うい。」
「さようなら。」
 そうして教室は二人だけになった。
「スミレ、用っていうのは?」
 スミレといわれた少女と二人きりの状況が落ち着かないのか、ヤマトはすこし窓のほうに歩いていく。
「あ、あの・・・・・・ヤマト君。」
「ん?」
「わ、私、実は少し怖いです。」
「へぇ?」
「そ、それでですね、も、もしもですが、よかったら私が危険な目に遭いそうになったとき、守っていただけないでしょうか?」
「は?」
「いえ、もちろんただでとはいいません。わざわざ二人きりなんですから。・・・・・・ねぇ?」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!?」
 声が裏返るほどあせるヤマトにスミレは近づいていく。
「敬語になっちゃってますね・・・・・・。いいんですよ?誰もいないんですから。ただ、守ってくれればいいんですよ?」
 そういって制服のボタンをはずし始める。
「ちょっとまって!まってください!!いや、そのなんていうか、嬉しいよ?嬉しいけどちょっと待って!」
「ふふふ、そんなにあわててしまって。大丈夫ですってば。」
 そういってどんどんボタンをはずしていく。豊満な胸部と下着があらわになる。
 ヤマトは顔を真っ赤に手で隠していった。
「いや、ちがう!守るのはいいとして、いまここでそれは望まないよ!!」
「と、いいますと?」
「まだやってもないのにいらないよ!」
「と、言う事は、守ってくださるんですか?」
「守る!守るから服を着てください!」
「絶対、ですからね?」
「分かったから!!!」
 その答えに満足したのかスミレは制服の乱れを直す。
「それではヤマト君、一緒に帰りませんか?」
「い、いいけど。」
「ご安心ください。もうこちらを見ても大丈夫ですから。」
「あ、そ、そっか。」
「あぁ、あれでしたらヤマト君、今日はうちに来ませんか?確かヤマト君は一人暮らしでしたよね?」
「えぇ!?いや、そうだけど・・・・・・・」
「あ、いえ、そんな深い意味はありませんよ。ただ、うちなら鴻の山に近いため、車でお送りすることが可能なので、よければと。」
「あぁ、ん、ん~・・・・・・とりあえず、家に帰ってから考えようかな?」
「そうですか。それでは、うちに来ることがよろしいのであれば電話をください。私がお迎えに上がります。」
「うん。ありがとう。」
 そして二人は教室を後にした。


 ヤマトはすぐさま着替えると、布団に倒れこんだ。
「スミレさん、美人だしスタイルいいよな・・・・・・。あんなことするとは・・・・・・」
 そんなことをつぶやいて制服を脱いだ。一度風呂に入り体をきれいにすると、電話を取った。
「あぁ、ヤマト君でしたか。それでは10分ほどでお迎えにあがります」
 そして本当に10分後、インターホンがなった。
「ヤマト君、お迎えに上がりました。スミレです」
「あ、ありがと」
 そういってスミレの車にヤマトは乗せてもらった。
「あ、あのさ、スミレ?」
「はい、どうしました?」
「な、なんで僕にしたの?シンジもアキトもいるじゃん・・・・・・?」
「それは・・・・・・私が一番頼りにしているからです」
 その一言にヤマトは照れたようにうつむいた。
「それではこちらからも、質問をひとつよろしいですか?」
「うん?あ、あぁいいよ?」
「もし私ではなくシィちゃんがお願いしていて、その後に私がお願いしたら、OKをしてくださいましたか?」
「するね。絶対」
「それでは、どちらかといわれたら?」
「ん・・・・・・。そ、それは・・・・・・答えずらいな・・・・・」
「どちらかです!」
 (ち、近い近い!?む、胸があたってる!)
 そこでヤマトの頭の中に先ほどの光景がフラッシュバックする。
「え、あ、ス、スミレです。」
「そうですか・・・・・・。それならヤマト君、私と付き合ってくださいませんか?」
「はぃ?」
「で、ですから・・・・・・私はヤマト君が好きなので付き合ってほしいといったのです!」
「え、えぇぇぇ!?」
「だめ・・・・・・ですか?」
 美人に見つめられ、上目遣いで頼まれると、ヤマトには断れなかった。
「あ、そ、その・・・・・・。アキトが言ったことが現実に起きて驚いてるけど・・・・・・僕でよければ・・・・・・その、お、お願いします」
 その言葉に、スミレは満面の笑みを浮かべる。
「本当ですか!?あ、ありがとうございます!!!」
 そういったスミレの目が怪しく光ったのをヤマトは気がつかなかった。

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