天空の妖界

水乃谷 アゲハ

影弥真のゲーム攻略(2)

「……最初の街までなんでこんなに遠いんだよ……」
 千宮司先輩についていく形で、とりあえず最初の街まで到着して思わずつぶやいた。
「なんじゃ疲れたのか? ……まだ妖怪も出てきておらんのじゃぞ?」
 若干心配そうな顔をして千宮司先輩は聞いてくれる。別に疲れたわけではない。ただ、花畑から街に着くまで歩いていたら、既に夜になっているのだ。
「最初の街ってゲームなんだったら近くてもいいだろ……」
「妾に言われてものぅ……まぁいい。とりあえずこの街で、お主にはやってもらうことがある」
「やってもらうこと?」
 千宮司先輩は俺の質問に頷くと、街の一番入り口に近い建物を指さす。
「この建物は武器屋のようなものじゃ。とは言ってもさすがは初めの街じゃ。殺傷能力はほとんどない武器しか売っておらん。しかし何もないよりはマシじゃろ。お主にはここでしばらく戦える能力を身に着けてもらう」
「え……」
「朝も言った通りじゃ。妾はお前の体で戦えんから、ある程度戦えるようになっててもらわなければ話にならん。行くぞ」
 俺の返答を聞かずに、千宮司先輩は店の中へと足を進める。とりあえず俺も続いて中に入る。
「いらっしゃいませ!」
 迎えてくれたのは、足のない白い狐だった。
「!?」
 思わず構えるが、千宮司先輩が片手を俺の前に出して制止する。そしてにっこりと笑って、狐へと声をかける。
「久しぶりじゃなハツレン。妾じゃ」
「あら、千宮司さんじゃないですか? また質問があって来たんですか?」
「いや、今回はこやつのために武器を探しに来た」
 ハツレンと呼ばれた狐は、千宮司先輩から俺へと視線を移して頭を下げる。
「初めまして。この町『ハジマリ』の武器屋をしていますハツレンと申します。言ってくださればどんな武器でも用意いたしますので言ってくださいな」
 なんて丁寧な妖怪なんだ……。ていうか、普通に妖怪が住人として生活してるのかよ……。
「驚いたじゃろ。妾も最初は驚いた。おそらくこのゲームは出てくる者すべてが妖怪の設定となっておるようじゃ。中にはこのように優しい妖怪もいるから妖怪すべてを倒さなきゃいけないわけじゃないと教えたくてな」
「そうだったんですね。俺は影弥 真と言います。千宮司先輩の後輩にあたるやつなのでよろしくお願いします」
「これはご丁寧にありがとうございます。ただ、敬語は不要ですよ。お客様ですから。……で、武器選びでしたね」
 ハツレンは、俺の自己紹介に笑って対応すると、店の奥へと消えていった。すぐに戻ってくると、その手には紙と筆が握られていた。……なんで紙と筆なんだ?
「……戦いに慣れていませんね」
「え……」
 いきなりハツレンが何を言ったのか分からず、思わず聞き返す。
「正確には、戦いに慣れている体はしていますが、精神面はバトル初心者という感じですね?」
 なんだこいつ……。見ただけで俺の事が分かったって事か……?
 思わず一瞬身構えるが、ハツレンが慌てたように手を振る。
「あ、怒らせてしまったなら申し訳ないです! あなたの武器は何がいいか判断するためにやっただけなんです。本当にごめんなさい」
 頭まで下げられてしまうと俺の方が申し訳なくなる。
「ハツレンは、人の言葉を話せる程度の妖怪だと言われておるが、立派な狐の妖怪じゃ。妾の様な神通力は持ち合わせておる」
「千宮司さんには劣りますよ。いくら狐族とは言っても底辺ですから。観察力に自信がるだけですよ」
「すごいな……」
 思わず感心してつぶやく。ハツレンは手に持っていた紙と筆を机に置くと、そこに何かを書き込み始める。
「千宮司さんが強いからという甘えが精神面に見えています。心の片隅で千宮司さんに甘えちゃってますね」
 ……言われてみれば、若干俺は戦えなくてもとか思ってしまっていたのかもしれない。
「ただ、正直にあなたのバトルセンスはかなりあります。その精神面が無くなれば、神通力、妖力がなくてもある程度戦えるようになると思いますよ」
「そうなのか……」
 バトルセンスは、多分雪撫と千宮司先輩が俺の体で戦ったからだろうけど……。
 かなり的確なアドバイスに感心しつつ、千宮司先輩に甘えてしまっていた自分を反省する。
「それでもやはり千宮司さんには敵わないので、足を引っ張らない程度に戦ってサポートしてもらう戦い方になってしまうのはしょうがないと思います。そんなあなたにおすすめの武器はボウガンですね」
「ボウガン……?」
 ボウガンは、弓矢の一種で銃のような形をした片手で矢が打てる武器だ。
「ふむ、妾が前線、お主が後ろでサポートする戦い方とそういうことじゃな」
「それではこちらを」
 ハツレンはそういうと筆を置き、何か書いていた紙を上へと投げる。すると、紙が風船のように膨らみ始めた。
「相変わらず面白い芸当じゃのう……」
 パンッっと風船が割れるような音と共に、膨れ上がった紙の中から銃に弓矢が付いたようなものが出てきた。初めて見たが、これがボウガンだろう。
 ……これも神通力なのか?
「材質は妖鉄フェル、弓は妖木ウルで作ってあります」
「妖鉄フェル? 妖木ウル?」
 聞きなれない言葉に思わず聞き返す。その言葉を予想していたのか、ハツレンは懐から本を取り出して俺に見せる。
 妖鉄と妖木の写真と説明が書いてあるが……読めない。
「妖鉄フェルは、鉄の硬さをそのままに軽量化をした鉄の一種です。妖木ウルは、相手の妖力を封じる力を持った特殊な木で、刺さっても傷がつかないのが特徴です」
「それはすごいな……」
 殺傷能力がなくてもそんな力がある武器なら、すごいんじゃないか?
「おいこらハツレン、妾の時はそんな大層なものじゃなかったじゃろうが! この差はなんじゃ!」
 説明を共に聞いていた千宮司先輩がハツレンへ詰め寄るが、彼女は涼しい顔でそれを受け流す。
「いきなり殺気を向けてきたあなたと、ちゃんと丁寧に挨拶をしてくれたお客様だと対応の仕方が変わってしまうのは仕方がない事では?」
「うっ……」
 あの千宮司先輩が言い負かされている……だと!?
 ハツレンは床に落ちたボウガンを手に取ると俺へと差し出してくれた。
「一応、大きさはあなたに合わせて作ってあります。矢が無くなる心配もしないで大丈夫です。構えたら弓が出るように作りました」
 どんだけ優しいんだこいつ……。弓が無くならないって凄い事なんじゃないか……?
「ちなみに、いくらになるんだ?」
 というか、このゲームのお金なんか俺は持っていないんだが……。
「……いくら? お代なんかいりませんよ?」
「はぁ!?」
 ハツレンが首をかしげてさも当たり前のように言う。善人にもほどがあるだろ……。
「武器屋のようなもの、と最初に言ったじゃろうが。この街では金などいらん。ただし……のぅ?」
「……え」
 嫌な笑みを浮かべてハツレンの顔を見る千宮司先輩に不信感を感じ、思わずハツレンを振り返る。
 ハツレンはにっこり笑ったまま紙と筆を取り出した。
「鬼ごっこをしませんか?」
「……は?」

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