天空の妖界

水乃谷 アゲハ

影弥真のゲーム攻略(1)

「…………し、主! おい主! 目を覚まさぬか!」

 すごい力で肩を揺さぶられ、俺は目を覚ました。目を開けると、千宮司先輩の顔がすごい近い。思わず目を背ける。
「いや、目をそらす前にお主、妾にいつまで膝枕をさせるつもりじゃ?」
「え?」
 言われて首裏が柔らか良くて温かい事に気が付く。思わず頭をどかそうとすると、両手で顔を押さえられた。妙に手が温かい。
「い、いや、別にいいんじゃがの。とりあえず落ちてきたばかりじゃ。そのままで良いからそのまま聞け。ここのルールは聞いたな? 時間を止めることじゃ。この世界は二日で一か月。つまり、二十四日で一年が経過するのじゃ。ここまでは分かるか?」
 目を背けようにも顔を押さえられてる俺は、目を閉じて頷く。
「うむ。それで今は年初めつまり一日目じゃ。この世界はゲームというだけあり、現実ではありえないことが起こる。簡単に言えば即死トラップというものじゃな。また、ゲームと少し違うのはゲームオーバーがない。このゲームで死んだとみなされると、またこの花畑へと戻り、今までの頑張りは無駄になる。簡単に言えばセーブのできないゲームと思ってくれれば良い」
 なるほど、それは厄介だな……。最後のほうまで行って即死になるのはきつい。
「妖怪戦闘シュミレーションゲームというだけあり、出てくる敵はすべて妖怪じゃ。……そういえば、お主もう一人はどうした?」
 キョロキョロして雪撫を探すが、当然雪撫はいつかるはずがない。
「雪撫は、ゲームの制約でここに来ることはできませんでした」
「なんじゃと!?」
 少し焦った言い方で千宮司先輩はこっちを見る。
「お主、ここでは妾がお主の体で戦う事は出来んのじゃぞ!?」
「え?」
「お主の体を妾が借りる場合、本当の妾の体は人形のように動かなくなる。その妾の体を攻撃されるだけでゲームオーバーじゃ。だからこそお主を助けることはできん」
 考えていなかった……確かにそれはまずいな。俺は俺の力で何とかするしかないのか。
「まぁ、妾ができる限りサポートをするがの」
「申し訳ないです……」
 本当に自分の能力がいやになる。
「さて、どうするか……」
「あ、一つ聞きたいことがあります」
「お? なんじゃ?」
「未来予測ができないのになんで俺の事を助けてくれたんですか?」
 そう、未来予想ができないなら俺に関わる理由もないはずだ。
「ふむ、トリプレットだったか? あやつらは妾にも入学式に同じことをしてきたのじゃ。というか、毎年しておる。が、いつもは戦える能力を持っていたものが捕まっておったからの。無視していたのじゃ。お主は戦う能力じゃないから庇った。ただそれだけじゃ」
 なるほど、それは確かに助けることは分かるな。というかあいつら毎年やってるのかよ……。
「なら、文車妖妃の時は?」
 あの時は入学式の時みたいにタイミングも分からないはずだ。
「お主、自分の能力をもう少し把握しておいたほうが良いぞ? お主のトランスじゃが、どうやら頭をぶつけた者に自分の状況を把握できるようにする能力があるっぽいのじゃ」
「状況を把握?」
「そうじゃ。どこまで離れていてもお主の事が妾には分かるようになっておる。そこでこのゲームのヒントを暇していたら聞こうと思ったらあの様じゃ。そりゃ助けるじゃろ」
 なるほど、雪撫も戻ってきたら分かるって言ったのはそういう事か。
「……さて、そろそろゲームの攻略を始めるかの」
 そう言って手をどかしてくれたので頭を上げる。あたり一面は千宮司先輩が言った通り花畑が広がっていた。
「スイートピーだ」
「よく作られたゲームじゃのう。スイートピーの花言葉は門出じゃ。つまりスタートっていう事じゃな。ちなみに、あっちを見てみろ」
 千宮司先輩の指さした先には大きな建物があった。所々に高い塔が建っているのを見ると、城だろうか? ただちょっとおかしい。揺らいでいる?
「蜃気楼……?」
「そうじゃ。あの城へまっすぐ進もうとすると食われるから気を付けるが良い。はまぐりに食われるぞ」
「なるほど、それが即死トラップか」
「そうじゃ。とりあえず妾の記憶している限りで即死トラップは五個。その近くに来たらまた教える。とりあえず進もう」
 そして、俺はゲームに来て初めて一歩を踏み出した。

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