天空の妖界

水乃谷 アゲハ

雪女とキリア

食堂へと着くと、俺達は学校にいる唯一の新聞部、持ったカメラと一本に結んだ金髪で有名な、小野晴子おのはるこに捕まった。あと有名なのは語尾。
「無能だったはずの影弥真君! 勝った感想と能力について教えてくださいデス! それと、一緒に戦っていた二人についてもデス!」
 答えれば答えるだけ聞いてくる事で有名な新聞部に、俺は一言、
「ちょっと待ち合わせてるんで」
 と、片手を挙げて答える意思が無いことを示した。
 新聞部はこうすると、
「それはお邪魔しましたデス!」
 と、下がってくれる。優しい奴で、意外に有名なので、彼女の作る新聞はすぐに売り切れる。
 キリアを探そうと中を見渡すと、俺の隣で怒っている雪撫に目がいく。
「どうした?」
 聞いてやると、雪撫は先程、新聞部が帰っていった方向を見て、
「無能ってひどくない!?」
 と、頬を膨らまして怒っている。ちなみにちょっとかわいい。
「まぁ、無能力って事だと分かるから何も感じなかったけど……確かに言い方は酷いな」
 と苦笑しながら答えつつ、食堂を見渡していると、雪撫が宙に浮いてキリアをすぐに見付けた。周りが制服の中、一人だけ鎧を着て座っている。
「すいません。急な呼び出しをかけてしまって。……別に戦う訳じゃないから鎧じゃなくても……」
 一応年上か分からないので敬語を使う。
「いや、私は制服のような薄い衣類を着るより、鎧の方が落ち着くんだ。ポイントで制服の自由を手に入れたのに、使わない訳にもいかないからね」
「はぁ……そうですか」
 絶対制服の方が動き安いと思うけどな。
「それに、呼び出しの件も問題無い。先程自由になった」
「自由になった?」
 違和感を感じて聞き返す。まさか人に買われている訳じゃないだろう。
「先程ペルと二人でいた時に、テプテプに呼ばれてユニオンを抜けさせられたよ。弱い奴は要らないと言われた」
 と、少し下を向いて言った。
「そんな! ひどい!」
 キリアの言葉に雪撫はショックを受けている。
「……前提主義か……」
 俺も初めて聞いた時には驚いたが、この学校では珍しくない。
「前提主義? 聞いたことがないな。それは何だ?」
 キリアは興味深そうにこっちを向いて聞いてきた。雪撫も頷いているから、聞きたいのだろう。
「前提主義っていうのは簡単に言うと、俺みたいに能力が戦闘に向いていない人とか、戦闘能力のランクがBとかの人が、ユニオンを強い人と組んで、自分を助けてもらう事を前提として作る考え方の事です」
「成る程……。しかしそれなら……私やペルでなく、もっと強く称号の大きな人と組めば良いのではないか?」
 その問いに答えようとする前に、
「あぁ、ユニオンに誘えるのは自分の称号の一つ上のが限界で、それ以上は誘えないんだったか」
 と、自分で答えを出した。そして席を立つと、
「注文を取ってくる。君は何がいい?」
 と、聞いてきた。さも当然のように人のまで取ってきてくれようとする辺り、やはりこの人はいい人の様だ。
 折角の好意を無駄にするわけにはいかないので、
「あ、じゃあ天ぷらうどんで」
 と、注文する。
「そうか。では少し待っていてくれ」
 そう言って、立ち去ったキリアが柱がちょうど壁となって見えなくなると、雪撫が怒った様に喋り出した。
「前提主義って何それ! 許せない! 弱いなら強くなるように特訓すればいいのに!」
「流石。妖界の中で上位の強さだっただけはある」
 雪撫は、昔の話を知っている人間がいると分かってから、確実に怒りやすくなっている。それだけ衝撃的だったんだろう。
「それも上に上がる術だって事だ。怒っても仕方ないと思うぞ?」
「……うー……」
 少し頬を膨らまして雪撫は唸る。ちなみに普通にかわいい。
「まぁ、真君が言うなら……。それはそうと、一つ質問いいかな?」
 すぐに機嫌を直して雪撫は俺の前に座った。……いや、見えてないけどそこはキリアが座っていた所だぞ?
「ここの食堂、誰もお金を払っていないけど、無料なの?」
「あぁ。食堂の料理は無料。ただ、持っている称号のランクが低いと食える種類も少ないけどな」
「ほぇぇ……」
 感心した様に雪撫は周りを見回し、突然厳しい表情になった。顔は俺の斜め後辺りを見ている。
「どうした?」
「斜め後ろのテーブルに、長くて赤い髪の女の人が座っているんだけど、向かいの席には誰も座ってないのに、真君を見て何か言ってる。何か嫌な予感がする……」
 と、俺の斜め後ろを見ながら言った。

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