花に願いを

水乃谷 アゲハ

「レディーファーストってな」

 軽猫の疑問をそのままに三人が足を進めると、大きな空間へと辿り着いた。
「なに……ここ」
 軽猫は部屋の真ん中へと足を進める。
 壁にはたいまつが燃えていて、明るくこの部屋を照らしている。下には丸い岩がきれいに置かれており、誰かが作ってここに置いたことは明白だった。
 コロノ、陽朝は警戒をしないでどんどん進む軽猫の後ろについていく。そして不意にコロノが走り出した。
「伏せて」
 コロノは言うと、軽猫の頭上に腕を振るう。ガキンッと、軽猫を庇ってコロノが何かをはじく。
「な、なに!?」
 完全に油断していた軽猫は、突然の出来事に驚き周りを見るが、誰もいない。コロノが弾いた床に落ちたものを陽朝が手に取った。
「手裏剣……ですねこれ」
「はっはー! 意外に警戒心がある奴等じゃねぇか! 手裏剣を素手で弾くなんてのも大したもんだぜ」
 そんな声は、奥の通路から聞こえた。後ろから数人の足音もする。
「誰?」
 コロノが警戒をしたまま通路に問う。すると先ほどの声が応じる。
「薄々気が付いてるだろ? 抜け者だよ。お前らが捕らえるべき人間だ」
 声と共に通路の陰から現れたのは、犬の骨言った通り三人だった。
 一人は男、先ほどの武器に合っている忍び装束、よく喋ってはいるが顔にあるつり目は油断なくコロノ達三人を見つめている。
 二人目は女の小学生程の子供。可愛らしいピンクの帽子を被り、別に寒くもないこの洞窟で毛糸の服を着ている。
 三人目はまた女性。こちらは背も高く、むしろ大人程の身長がある。片手に持っている大きな皿と瓶、少し赤い顔を見ると、お酒でも飲んでいたのだろうか。
 三人の姿が確認できたと分かると、忍者の見た目をした男は続ける。
「さて、見て分かる通りにここは大きな部屋に作られた足場。戦うにはもってこいな場所なわけだ」
「……何が言いたい?」
「聞かずとも薄々分かっているはずだ。お前らも三人、俺らも三人。だったらやることは一つ……デスマッチだ」
 コロノ達三人がその言葉を聞いた瞬間、足場から後ろへと飛び跳ねる。
「すごいすごい! あの人たちすごい身のこなしだよ!」
 男の後ろで見ていた小さい女がひとりはしゃぐ。
「そこのちっこいのがミララ、デカいほうがシュウ、そして俺がシック。お前らの名前はなんだ? 俺の出てきた星では古い時代、名前を言ってから戦いを初めていたそうだ。その戦い方が好きなんだよ。名乗るまでは手を出さねぇし交渉にも乗らねぇ。まずは名乗れ」
「……それは、あたし達に交渉できるチャンスがあるって事?」
 少し期待を込めた軽猫の言葉に、シュウという女が鼻で笑った。
「それは無理ね。交渉したいなら私たちと戦うことよ。もしも私たちが負けたらお縄にでもなんでもつくわ。ただし、そっちが負けたら何をされても……文句なしよ?」
 軽猫がその言い方と敵意しかない目に身震いをしたとき、コロノは一歩前に出る。
「テクスタのコロノ=マクフェイル」
「どうした一人だけか? 一人で三人を相手にするつもりか?」
 挑発的な発言に、陽朝も少し前に出る。
「ヨ、ヨナヨナの陽朝……です……」
「二人か。その後ろの女は? 名乗らねぇと参加できないぜ?」
「彼女は参加しない」
 軽猫が何か言おうとする前にコロノが言葉を奪う。
 それだけ聞くと、シックが石で作られた舞台のような丸い足場へと立つ。
「いいだろう、どちらから来る? どっちでもいいが、死ぬ覚悟があるほうが上がってこい」
 未だ挑発する様な言い方の彼に向かって歩みを向けたのは、意外にも陽朝だった。
「先に、やります」
 聞こえるか聞こえないかの小さな声だったが、戦う決意や覚悟が十分なのはコロノにも軽猫にも伝わっていた。
「なんだ、てっきり男には男で来ると思ったんだがな。言っておくが、女だから手を抜くなんてことはしねぇから覚悟しろ」
「大丈夫です。もう覚悟ができました」
「へぇ、女にしてはいい目をしてるじゃねぇか。初めの一撃はくれてやるよ。レディーファーストってな」
 シックの言葉に、後ろのシュウとミララはあきれたように笑う。
「シック~、その戦い方いい加減変えたほうがいいよ~?」
「本当に。まぁ、確かにあんたは強いけどさ、いつか痛い目見るよ?」
「いいんだっていいんだって。どうせ俺に勝てる奴なんていねぇよ」
「……それじゃあ……お言葉に甘えて」
 口ではそう言ったものの、陽朝はその場から動かずに、地面に手を突っ込んだ。
「……ん?」
 最初にその違和感を口にしたのは軽猫だった。岩で作られた足場のさらに下にまで手が入っているのだ。

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