花に願いを

水乃谷 アゲハ

その喋り方は……何?

 コロノは扉の前に立つと、深呼吸をした。そして扉に手をかけそびれた。扉が内側から開いたのだ。
「あ……」
 仕方なく、コロノはひとつ前に足を出す。部屋の中は、柔らかそうな椅子と大きな机が一つのシンプルな作りとなっていた。椅子の後ろには大きな窓があり、椅子に座っている女を後ろから照らす。女は金髪の長い髪だったため、光はすべて反射され、より部屋を明るく見せた。
「コロノです」
 部屋の入り口で足を止めたまま自己紹介をする。
「始めまして。うちはこのギルドの長であるヒィオーレ。前々からの勧誘にようやく乗ってくれて嬉しいわ。そなとこボサッと立っとらんでもうちょい前に来てくれへん?」
 言われてコロノはゆっくりと部屋の中へ足を進める。机の前まで来ると、フィオーレと言った少女が手を前に出した。コロノは握手かと思い、手を差し出す。
「ん? ……あははは! 君、面白いなぁ。握手ちゃう握手ちゃう。表でバンタタっちゅう人から紙をもらわんかった?」
 コロノははっとした顔をしてから、顔を赤くして紙を差し出す。
「おおきに。緊張してるんか?」
 フィオーレは、コロノがうなずくのを確認して机からビンを取り出した。中には紫の液体が入っている。ふたを開けると、部屋には花の香りが広がった。コロノにはその香りが不思議だとおもい、それと同時に心が落ち着くことに気がついた。
「さて、コロノ=マクフェイル君。君はこれからギルドの一員となるわけなんやけど、なんか質問とかある?」
 コロノは少し考えて、今一番の疑問を口に出した。
「その喋り方は……なに?」
「あぁ、うちは地球の京都弁っちゅうのが独特で好きでな? それを少し真似してたらこんな風な変なしゃべり方になっちゃったんよ。まぁうちの人たちは誰も何も言わへんからこれがなれてしまったんよ。向こうではエセ言葉いうらしいね。だからコロノ君も慣れてな?」
 コロノは小さく頷いて、他の質問が無いことを伝えた。
「分かった。それじゃ、コロノ君には、腕試しもかねてここから北へ五分程のところにある洞窟、ジュエル洞窟っちゅうとこへ行って貰える? そんで着いたらそこにいるギルド衛士に話聞いて、言われたミッションクリアしてきてもう一度うちの所へ帰ってくる。そこまでが今回初となるミッションやね」
「ジュエル洞窟……。北……。衛士……」
 コロノは言われた事を頭に入れて部屋を立ち去ろうと、扉に手をかける。
「コロノ君」
 その背にフィオーレは静かに言った。
「別に君の声は変ちゃうから、普通にしゃべっていいと思う」
 コロノは少し驚き、それから静かに、
「考えておく」
 と答えた。
「それからもうひとつ。というより、こっちが本題。分かってるとは思うけどな、難しくても羽を伸ばしちゃあかんよ?」
 その言葉にコロノは少し笑った顔をフィオーレに向けて、
「大丈夫。分かってる」
 そう言って扉を後ろ手に閉めた。
「……アルカリアに本来生息する種族、人蝶……か。面白そうやな」

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