幼女闘拳伝『マッチ売りの武神』(冬童話2018・マッチ売りの少女IFストーリー)
マッチ売りの少女は結局修行する
ハジィはその後も試行錯誤を続けました。
あるときは、再びマッチを売ろうと街をさまよいました。
「マッチを買ってくれませんか……」
しかし、買ってくれる人どころか足を止めてくれる人さえ街にはいません。
彼女は何度も凍死しました。
またあるときは、寒さをしのぎつつ父親から身を隠しました。
馬小屋や墓地管理棟など、ハジィを一晩滞在させてくれる建物をいくつか見つけ、彼女は巧みに変装して隠れます。馬に擬態したり、墓石に擬態したりといった具合です。
「今回は管理人さんもスルーするくらい完璧な変装だから、きっと行けるはず……」
また、匿ってくれる場所を探すうち、徐々に相手に合わせた交渉の言い回しも分かってきます。ハジィはその知見を昇華させ、彼女流の交渉術にまで発展させていきました。
極幼女交渉術。
彼女はそれをフルに使い、彼女を匿っていることは誰にも話さないようお願いもしました。
しかし、どこにどう隠れようとも、毎回夜になると父親が現れて殴り殺されました。
一度など、もういいか、と投げやりになり、マフィアに身体を売ってマッチを買ってもらおうとしそうになりました。しかし、脂ぎった小太りの親分を目の前にするとどうにも嫌悪感が先立ちます。
「無理無理無理無理、あんなオヤジのポコニャン触るとか、背筋がゾワゾワするわ──」
ハジィはつい親分を殴ってしまいました。
大立ち回りになりましたが、最後は父親の手でマフィアもハジィも全滅させられてしまいました。
何十回と失敗を繰り返すうち、ハジィは悟りました。結局のところ、これはもう強くなるしかなさそうです。
「問題は、どうやって父ちゃんを殺るかよね」
真正面から殺る、は得策じゃありません。
しかし、父親は毒の効かない肉体を持ち、銃弾すら生身で避ける化物です。これまで数々の暗殺者を廃業に落とし込んできた実績があります。
「強くなろうにも、筋力なんかは死に戻れば元通りだしなぁ」
頭を抱えるハジィ。
しかし次の瞬間、彼女はハッと顔を上げ、その目に生気を蘇らせました。
「もしかして、あの人の闘い方なら……!」
彼女は名案を思いついたのです。
するとそこへ、父親がドアを蹴破って現れました。彼女は数秒後にこの世を去ります。どう見ても墓石にしか見えないハイクオリティなきぐるみも、父親の前では無意味だったようです。
気がつくと、ハジィは街に立っていました。
今日は大晦日。
彼女の手には大量のマッチ箱。
早朝の街を、人々は手を擦りながら駆け抜けます。
「たしかあの道場は、ウチと逆方向だったはず」
彼女はマッチをその場に投げ捨てると、足早に郊外へと向かっていきました。その目は闘志に燃えています。
枯れ果てた小枝のような老人。
アルームという名のおじいさんは、かつて父親をギリギリのところまで追い詰め、引き分けに持ち込んだことのある有名な武人でした。
全盛期であれば父親を殺していたかもしれません。
鍋でチーズをかき回すアルームじいさん。
ハジィはYJFを全開に広げて交渉にあたりました。
「ふぇぇぇ、合気柔剛拳の技を教えてよぉぉぉ」
「ふぉふぉふぉ、あの男のムスメに教えることなど、なーんにもないわい」
ハジィの極幼女交渉術も、老人には効果が薄いようです。
「教えてぇぇぇ、おじいさーん」
「うむ。口笛が遠くまで聞こえるのは、高音の口笛の約2kHzという周波数が人間が聞き取りやすい周波数域と一致しているからじゃろうな」
「ふぇぇぇぇ、なんの話かわからないよぉぉぉ」
飄々と笑うだけの老人。
しかし、どうにかして彼の技を伝授してもらわなければ、ハジィは永遠にこの無限ループに閉じ込められたままです。
YJFを解除。
彼女はやり方を変えることにしました。
「つまり、怖いのね。幼女に負けることが」
「ほぅ……?」
老人の目が、ギシリ、と険しくなります。
ハジィは父親そっくりの構えを取り、口角を上げました。
「はぁぁぁぁぁぁ──」
父親の動きを思い出しながら、ハジィは老人を襲います。
一方の老人は、冷めた目で彼女の攻撃を捌きました。
視点がグルリと回り──。
後頭部から床に叩きつけられました。
「じゃあの、身の程知らずのお嬢ちゃん」
空中で正座した老人。
その膝が、ハジィの顔に落ちてきました。
気がつくと、ハジィは街に立っていました。
今日は大晦日。
彼女の手には大量のマッチ箱。
早朝の街を、人々は手を擦りながら駆け抜けます。
「師匠、みーつけた」
筋力の衰えた老人にしてあの実力。
彼女はニヤリと笑うと、マッチを投げ捨てて走りだしました。
あるときは、再びマッチを売ろうと街をさまよいました。
「マッチを買ってくれませんか……」
しかし、買ってくれる人どころか足を止めてくれる人さえ街にはいません。
彼女は何度も凍死しました。
またあるときは、寒さをしのぎつつ父親から身を隠しました。
馬小屋や墓地管理棟など、ハジィを一晩滞在させてくれる建物をいくつか見つけ、彼女は巧みに変装して隠れます。馬に擬態したり、墓石に擬態したりといった具合です。
「今回は管理人さんもスルーするくらい完璧な変装だから、きっと行けるはず……」
また、匿ってくれる場所を探すうち、徐々に相手に合わせた交渉の言い回しも分かってきます。ハジィはその知見を昇華させ、彼女流の交渉術にまで発展させていきました。
極幼女交渉術。
彼女はそれをフルに使い、彼女を匿っていることは誰にも話さないようお願いもしました。
しかし、どこにどう隠れようとも、毎回夜になると父親が現れて殴り殺されました。
一度など、もういいか、と投げやりになり、マフィアに身体を売ってマッチを買ってもらおうとしそうになりました。しかし、脂ぎった小太りの親分を目の前にするとどうにも嫌悪感が先立ちます。
「無理無理無理無理、あんなオヤジのポコニャン触るとか、背筋がゾワゾワするわ──」
ハジィはつい親分を殴ってしまいました。
大立ち回りになりましたが、最後は父親の手でマフィアもハジィも全滅させられてしまいました。
何十回と失敗を繰り返すうち、ハジィは悟りました。結局のところ、これはもう強くなるしかなさそうです。
「問題は、どうやって父ちゃんを殺るかよね」
真正面から殺る、は得策じゃありません。
しかし、父親は毒の効かない肉体を持ち、銃弾すら生身で避ける化物です。これまで数々の暗殺者を廃業に落とし込んできた実績があります。
「強くなろうにも、筋力なんかは死に戻れば元通りだしなぁ」
頭を抱えるハジィ。
しかし次の瞬間、彼女はハッと顔を上げ、その目に生気を蘇らせました。
「もしかして、あの人の闘い方なら……!」
彼女は名案を思いついたのです。
するとそこへ、父親がドアを蹴破って現れました。彼女は数秒後にこの世を去ります。どう見ても墓石にしか見えないハイクオリティなきぐるみも、父親の前では無意味だったようです。
気がつくと、ハジィは街に立っていました。
今日は大晦日。
彼女の手には大量のマッチ箱。
早朝の街を、人々は手を擦りながら駆け抜けます。
「たしかあの道場は、ウチと逆方向だったはず」
彼女はマッチをその場に投げ捨てると、足早に郊外へと向かっていきました。その目は闘志に燃えています。
枯れ果てた小枝のような老人。
アルームという名のおじいさんは、かつて父親をギリギリのところまで追い詰め、引き分けに持ち込んだことのある有名な武人でした。
全盛期であれば父親を殺していたかもしれません。
鍋でチーズをかき回すアルームじいさん。
ハジィはYJFを全開に広げて交渉にあたりました。
「ふぇぇぇ、合気柔剛拳の技を教えてよぉぉぉ」
「ふぉふぉふぉ、あの男のムスメに教えることなど、なーんにもないわい」
ハジィの極幼女交渉術も、老人には効果が薄いようです。
「教えてぇぇぇ、おじいさーん」
「うむ。口笛が遠くまで聞こえるのは、高音の口笛の約2kHzという周波数が人間が聞き取りやすい周波数域と一致しているからじゃろうな」
「ふぇぇぇぇ、なんの話かわからないよぉぉぉ」
飄々と笑うだけの老人。
しかし、どうにかして彼の技を伝授してもらわなければ、ハジィは永遠にこの無限ループに閉じ込められたままです。
YJFを解除。
彼女はやり方を変えることにしました。
「つまり、怖いのね。幼女に負けることが」
「ほぅ……?」
老人の目が、ギシリ、と険しくなります。
ハジィは父親そっくりの構えを取り、口角を上げました。
「はぁぁぁぁぁぁ──」
父親の動きを思い出しながら、ハジィは老人を襲います。
一方の老人は、冷めた目で彼女の攻撃を捌きました。
視点がグルリと回り──。
後頭部から床に叩きつけられました。
「じゃあの、身の程知らずのお嬢ちゃん」
空中で正座した老人。
その膝が、ハジィの顔に落ちてきました。
気がつくと、ハジィは街に立っていました。
今日は大晦日。
彼女の手には大量のマッチ箱。
早朝の街を、人々は手を擦りながら駆け抜けます。
「師匠、みーつけた」
筋力の衰えた老人にしてあの実力。
彼女はニヤリと笑うと、マッチを投げ捨てて走りだしました。
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