このゲームのススメ方

ノベルバユーザー174145

パーティ結成

『オラーッ!』
 ドカァァン!

 遠くからも見えるフキダシと破壊音が丘の上まで届く。物静かだった丘は騒音に包まれ、のんびりした雰囲気を一気に吹き飛ばされた。
 大勢のモンスター達に囲まれて暴れ回っているのは上半身ほぼ全裸で禿な筋肉隆々のオジサンであった。キリッとした眼つきと獰猛な笑みがとてつもなく怖い印象を醸し出す。でも、筋肉質な身体と合わせると一片の魅力を感じさせなくもないかもしれない。きっとそういう需要もある筈だ。

 と、スクリーン越しで広がる光景を眺めながら俺はどうでも良い考えで時間を潰していた。

 今日は久々の週末。
 社会人、学生共に休みを楽しめる日である。
 部屋に引きこもって滅多に外出もしない俺が言うのもなんだけど、本当、平凡で穏やかな昼の一時である。現実でも、ゲームの中でも。

『オラオラオラ、オラーッ!』

 あの暑苦しいオジサンさえ居なければ、だけど。

『平和ですね~』

 スクリーンに映るダークエルフがそんなフキダシを頭の上に浮かべる。
 俺の考えとは真逆の感想だ。
 風に靡く月色の短髪の間に覗けるその表情は言葉と同じく呑気で気怠げな感じであった。

 そのダークエルフアバターの服装は熱帯地方に住む原住民達が着るような露出度の高い物であった。
 白をベースとした緩いシャツに装飾にしか見えない胸当て甲。シャツは丈がやけに短くて、健康的な腰腹と臍を完全に晒している。骨盤周りに"掛けている"としか言い様がない短パンが更に拍車を掛けている。
 まだ年端もいかない子供とも言えるこの小柄のダークエルフはその歳相応の細い四肢を有している。しかしその姿は決して弱いとは言えない力を感じさせる魅力が確かに存在した。服装と合わせると何らかの色気を感じさせて、下手したら見る人を犯罪の道に導く危うさも有る。
 だが、こう見えてもコイツの性別は歴とした男である。システム上にも保証されるので余計に質が悪い。

 コイツの名前はレフィン。
 現実の俺の親友が操る、このゲーム、《ランド・オブ・ガーディアンズ》のアバターである。

『あれの何処が平和なんだ?』
『あぁ、あれはいつもの事ですから気にしなくてもいいですよ』

 呆れた気持ちでチャットを送ると、そんな返事が返ってきた。

『そこまでだ、バーサーカー!』

 そんな時、数名のプレイヤー達が禿に近づいた。

『ずっと見てたが、もう我慢できない!お前のその無差別な狩りが人に迷惑を掛けてるってのを知ってるのか?いい加減にしろ!お前のその悪質な行為!レアクラス、パニシャーであるこのオレ様が裁いてや―――』

『オラッ!』
 ドッカーン!

『うあぁァァァァ!』

 ヒューン!
 ドォォォン!

『ミツルギ―――!』
『ミツルギが殺られちまった!』
『クソォ!いいヤツだったのにぃ!』

 一番近かった重騎士タイプのプレイヤーがゴミのようにふっ飛ばされた。
 そしてそれを追う彼の仲間らしき人達。
 まるでコントでもやってるようだ。
 先に飛んで行った人は割りと本気だったようだが。

『……へぇ、いつもの事なんだ』
『はい、いつもの事ですよ』

 レフィンが怠い感じを示すように体から力を抜いて上半身を前に傾けた。それに応じて彼の懐にピッタリ収まっていた幼女に重さが掛かってしまい、幼女は眉を釣り上げてムッとする。
 レフィンも他のプレイヤーに比べると結構小さい方だか、その幼女は更にその上を行く。

 幼女は白いワンピースの上に藍色のファージャケットを着ていた。
 ワンピースは飾りのないシンプルな物だが、それがピュアな感じを醸し出している。
 ジャケットは袖と襟元がふわふわな毛に覆われていて、ワンピースと合わせるととてもスタイリッシュな感じに出来上がっている。
 オマケに彼女の足にはジャケットと同じ藍色のミュールが履かれていた。足の甲に在る飾りは兎の尻尾のようでジャケットとセットにも見える演出をしている。
 子供であるこの娘が着るような服装には見えないかも知れないが、その美しい金髪がまるで外国の有名な児童モデルみたいな雰囲気を出しているので、中々似合っていると思わせた。寧ろ背伸びしているような感覚もあるから、とても愛くるしくてしょうがない。

 この娘の名前はリルゥ。
 このゲームの中で最高に可愛いエルフ娘で、俺が操っているアバターである。

 リルゥは今レフィンに後ろから抱きつかれたまま丘の上で一緒に座っている。
 俺は何の操作もしていないのに、またレフィンが変なモーションを実行すると、リルゥがアイツに付いて行って今に至った。
 リルゥは勿論だが、レフィンも男の癖にとても可愛いから、こうして二人が一緒に居ると、まるで絵で描かれたような感動を齎した。

『オラオラオラ!』
 ドカーン!

 またモンスターが飛んでいく。
 今度は結構近くまで飛んできたが、リルゥ達に当たる前に白い粒子となって消え去った。

 それに気を戻した俺は今日の目的を思い出した。

『なぁ、レフィン。お前が誘った人達はいつ来るんだ?』

 俺達の今日の目的。
 それは、フルパーティを組んでダンジョンに入るという事だ。

 元々俺の実力不足が原因で、レフィンに相談したところ、丁度いい特訓場所が在ると紹介したくれた。
 そして折角だから他の人達も誘って一緒に行くのはどうかと勧められた、が、これにもまた問題点はある。

 俺はこの前ちょっと失敗しちゃって、人前に出るのがイヤになった。だから、そういう人の集まりは俺にとって少しハードルの高い話だった。
 しかし、一人はこの前知り合いになったばかりのプレイヤーだから大丈夫ではないか、と説得されてしまった。一応フレンドリストに載ってはいるが、これを友達だとはとても言えないだろう。
 知り合ったばかりで、しかも相手はどうにもまだ幼い女の子な気がする。中学生か、小学校の高学年くらいの。
 だからなのか、その娘については別に忌避感らしき物は感じられない。流石に子供相手にまでビビっては対面が立たないから。
 それに、その娘は自分の友達も連れてくるって言ってた。友達だから、多分、その連れもまた小さい子だろう。

 これでパーティの中の半数以上が特に問題無い相手となった。
 残り二人が問題だが、その人達はレフィンが上手く立ち回ってくれるだろう。

『さぁ、どうでしょう。もうすぐ時間だからそろそろ来るかと思いますけどね。リルゥの方はどうですか?』
『俺も同じだと思う。ちょっと連絡してみるよ』
『じゃあ、僕も』

 俺はフレンドリストを開いて二人いるリストの中、二番目に登録されているメアリーの名前をを選択した。

『さっきトリスタンから出発しましたから、もうすぐ着きます!』

 メッセージを送るとすぐそんな返事が返ってきた。トリスタンが何処なのか分からないが、きっとこの近くだろう。
 同じく友達に連絡したレフィンももうすぐだと言ってくれた。

 そして約三分後。
 リルゥとレフィンが居た丘の上に他のプレイヤーが三人集まった。

『わぁ、その服、とてもいいですね!前のドレスも可愛くて良かったんですけど、今日のも素敵です!』

 そんな嬉しいことを言って近寄ってきたのは、まるでモデルのようなスタイルの長身のアバターであった。
 彼女は背中に巨大な盾を背負って、身体をフルプレート防具で纏っていた。でも、流石ゲームと言うべきか、胸腰尻のラインが丸見えるような作りである。鈍い鉄色の外見と裏腹に少しエロい感じの防具だ。
 頭にも中世騎士が被るような兜を被っている。バイザーを上げているから彼女の顔とオレンジ色の髪が垣間見える。

 この娘がこの前フレンドになったメアリーと言う名のプレイヤーである。

『ありがとう』

 俺は素直に礼を言った。
 この装備を仕立てるのはそれなりに大変だったから、正直結構嬉しい。
 あのドレイクマギトシュとか言う出鱈目なモンスターに襲われた後も粘り強く続けて集めたんだから、その時の苦労を鑑みると嬉しくない訳がない。

 じぃぃぃ。

 ……何だろう。
 メアリーが連れてきたココノハと言うプレイヤーがリルゥに視線を固定したままジィと凝視し続けている。

 彼女はデカイ狐耳と尻尾が特徴的なアバターであった。そして重騎士のようなメアリーとは真逆の服装をしていた。
 その外見を一言で纏めると"アイドル"だった。ヒラヒラな蒼いワンピースは所々にフリルと赤黒い薔薇飾りが付けられていた。後腰には大きなリボンが付いていて、下手したら踏んでしまう程残りの紐が長くぶら下がっていた。
 ワンピースの丈はミニスカ並に短い。脚に履いてる灰色のニーソックスとの間の絶対領域から素肌の太腿が覗けた。
 足のキトンヒールの靴と指なし手袋は同じ黒い色であった。
 つり目とリボン付きのピンクのツインテールがまるでアニメの萌えキャラみたいだ。服装といい、その髪型といい、とんでもないわざとらしいアイドル系ファションだった。

 そして、今度はそんなココノハをジィと凝視しているレフィン。
 アバターなのに、現実の親友がニヤリと笑っているのが何故か頭に浮かんだ。

 知り合いなんだろうかな?

『……チッ』

 舌打ちをしたようなフキダシの後、そっぽを向くココノハ。
 勝手にリルゥを見続けてきてそんな態度とか、失礼なガキだな。

『ちょっと、コウちゃん!何よ、その態度!もう……ごめんなさい、リルゥさん』
『コウちゃん言うな、クソ……』

 ココノハは咎めるメアリーに不満気に答えた。
 どうやら二人は友達らしく、とても打ち解けた感じで互いと話している。メアリーはココノハのことを"コウちゃん"とちゃん付けで呼んでいるらしいけど、多分、現実では男の子なのかも知れない。

『そういえばルガさん、連れの人は一緒じゃないんですか?』

 レフィンがメアリー、ココノハとは別の三人目のプレイヤーに声をかけた。

 メアリー程ではないが、そのアバターもまた身体を全部覆う紺青色の革鎧を装備していた。分厚い胸部と肩部からその防御力が垣間見える。ブーツからは鋭い角が上を向けて尖っていた。重そうな感じの装備だが、関節部はむき出しになっていて、案外素早い動きも出来るような気がした。背には淡い紅色に輝く長槍がいて、彼の主装備だと主張していた。
 全体的見た目はごく一般的な高レベルプレイヤーのそれであった。しかし、その顔は人間とは一線を画する外見であった。
 黄色の厚そうな毛で覆われていて、額から後頭部、背中まで縞模様が続けているように見えた。長い髭と上に向かって尖った猫科の耳。数本の白髭に縁取られた口の両端には鋭利で丈夫そうな牙が備えている。昔テレビで見た剣歯虎けんしこにとても似ている。
 彼の上には"ベンガルガ"と言う名前が書かれていた。恐らくベンガル虎かベンガルキャットから由来したかも知れないけど、牙の印象が強すぎて剣歯虎にしか見えなかった。

『あぁ、そいつなら既に来ているぜ』

 ベンガルガがレフィンに返事をした後、後ろを向けて『おーい!』とデカイフキダシを飛ばした。
 その先には未だ『オラオラオラ!』を連呼しながらモンスターを吹き飛ばしている禿がいるだけだった。しかし、その禿はベンカルガが送ったフキダシを見た途端、動きを止めた。
 そしてずっと振り回していた二挺の戦斧を背中に収めて、こっちを向いて歩いてきた。

『げっ、バーサーカー……』

 近づく禿を見たココノハが突然面白くなさそうなフキダシを見せた。

『ふん、またお前か』

 禿もまたココノハ事を知っているような反応をした。

『何しに来たのよ、バーサーカー?』
『バーサーカーではない。クレストだ』
『んなもんどうでもいい!どうせ皆そう呼んでるから―――』
『ちょっとコウちゃん!また人に向けてそんな態度を!』
『だから、お前はコウちゃん言うのやめろっつってんだろうが!』
『騒がしい奴だな、貴様』
『う・る・さ・い!テメーこそ、なんだよ、そのキャラ作り?ボイスチャットの時は普通に喋ってたくせに!』
『オジサンAI翻訳だ』
『スゴイな、オジサンAI……って言うかよ、ボケ!』

 うわぁ……。
 何か言い合い合戦か始まってしまった。

 その時、ぱん!とした音が突然のごとく聞こえた。

 マウスを動かして周りをみたら、レフィンが両手を合わせていた。
 そしてベンカルガに向けて軽く頷くレフィン。
 ベンカルガも分かったように頷き返して、皆に視線を向いた。

『まぁ、なんだ。俺はレフィン以外は誰も知らなぇからよ。とりあえずお互い自己紹介でもしたらどうだ?』

 腕を組んだベンカルガが諭すように話を始めた。
 ずっと言い合っていたココノハとクレストは、ふん!と、そっぽを向いて、とりあえず落ち着いた、みたいな空気になった。

『よし。じゃ、言い出しっぺから。俺はベンカルガ。ウォーリアからのランサーで、アタッカーをしている』
『見りゃ分かる』
『ちょっとコ……ココノハちゃん!』

 まだ不満が残っているようなココノハが突っ込んできた。それを咎めるメアリーはまた"コウちゃん"と呼ぼうとして、言い直したのが見え見えだった。

 やはりあのココノハと言うプレイヤーはかなり失礼なガキみたいだ。
 そんな態度の相手なのに、ベンカルガは何の問題もないみたいに『その通りだな』と返しただけだった。

『しかし、こういうのはきっちりと言うのに意味がある。これから一緒にゲームする仲になるんだ。少しでも相手のことを知った方が役に立つんじゃねぇか?』

 まるで学校の先生が学生を宥めるような言い草だった。高校時代を思わせる。
 実際に学生であるココノハにとっては相性の悪い相手なのかも知れない。
 主に無礼なガキを言い諭すところが。

『そ、そうだよ!今はちゃんと自己紹介しようよ、ココノハちゃん』
『……分かったから、お前はちゃん付けはやめろ』

 側でおどおどしていたメアリーもベンカルガの言葉に乗ってきた。
 ココノハはやっぱり先生みたいなベンカルガが苦手なのか、ちゃんと引いてくれた。

『はいは〜い。次は僕ですね』

 レフィンが手を挙げた。

『僕はレフィン。アーチャーからの吟遊詩人です。遠距離とバフ系のサポートを担当します。見ての通りとても可愛くてキュートなダークエルフですよ。ちなみに、付いていますw』

『『『ぶっ!』』』

『え?付いている?何が?』
『お前は知らなくてもいい!』

 理解できなかったメアリー以外は皆吹いてしまったらしい。

 そして、俺は『可愛いとキュートは同じだろう』とレフィンにツッコミを入れていた。

『そこにツッコむのですか。意味もないし、面白くもないことにわざわざ無駄な時間を使うなんて。さすがリルゥ。社交性ゼロのボッチ称号は伊達じゃないんですね』

「……くっ」

 今すぐ言い返したかったけど、そうなるとまた話が進まなくなってしまう気がして、必死に我慢した。
 そんな俺の反応が丸見えだったのか、レフィンは厭らしく嘲笑した。

 ……我慢だ、我慢するのだ、俺!

『あっ、次、私がします!』

 次はメアリーの番のようだ。

『私はメアリーと言います。ウォーリアからのシールダーですから、盾役として頑張ります!あ、でも、ウォーリアもノビスもカンストしてないまま転職したから、ステータスはあんまり高くありません』

 最後に『よろしくお願いします』と言ってぺこりと頭を下げた。
 友達のココノハに比べてとてもいい感じだ。さすが、俺の数少ないフレンドの一人である。拍手でも送りたい。
 ……いや、ゲームの話で、別に本当のボッチとかじゃないぞ!

『……ココノハだ。アコライトでヒーラーをしてる』

 ココノハは短く自己紹介を終えて、ぷいっとそっぽを向いた。

 そして、クレストも『名はクレスト。ウォーリアからのバーサーカーだ。アタッカーをさせて貰う』と同じ感じで短い自己紹介で終わった。

『『『『『……』』』』』

 何だか視線を感じてると思ったら、皆が俺を見つめていた。
 正確にはゲームの中のリルゥを見ているだけど。

 やっぱりリルゥが可愛いから自然と視線を集めるのか。

『バカな考えはやめてそろそろ自己紹介して下さい。リルゥの番ですよ』

 ゲームの中なのに、何で俺の考えが分かるんだよ、お前は……。

 俺は気を引き締めてモニターに視線を固定した。
 深呼吸もして、指の関節をポキポキと鳴らして、椅子の位置を調整して、念のため首も施して、あ、キーボードが近すぎるかも、足を組んで楽な姿勢をになって、水を一口飲んで、指の汗を拭いて、また深呼吸して―――。

 レフィンの額に浮かんだ血管に気づいた俺は直ちにキーボードに手を乗せた。
 緊張で軋む指を何とか動かして、俺は自己紹介をした。

『この娘の名前はリルゥ。魔法で後衛からの攻撃を担当する。よろしく』

 ぶぅぅぅぅん。
 パソコンのファンが回る音が部屋の中で心細く響いた。

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