このゲームのススメ方

ノベルバユーザー174145

リルゥ

 マウスを動かして、一つのアイコンに近付ける。
 大きな樹木を背景に、髪を靡かしている女性の横顔が描かれているアイコンだ。耳が異常に長くて、如何にもファンタジー的な絵だった。
 アイコンの下のタイトルには《ランド・オブ・ガーディアンズ》と書かれていた。

「……」

 指を動かす前に少し動きを止める。
 ポインタは既にアイコンの上に乗っていた。後は指を二度軽く押すだけ。
 でも中々手が進まない。
 取りあえず指を離してみたが、また直ぐクリックの上に乗せる。それを何度も繰り返した。

 目の周りが強張ってる気がした。
 きっと顰めっ面になっているだろ。
 その事実がまた眉間にシワを寄せる。

「……はぁ。何やっているんだ、俺」

 頭を振って邪念を払う。
 そして余計な考えを止めて、さっさと指を動かした。

 マウスをダブルクリックしてゲームを起動させる。
 すると、足元のパソコンからうるさい駆動音が聞こえた。
 モニターの画面が一瞬暗くなり、ゲーム会社のロゴらしき物が浮かぶ。
 でも、それもまた直ぐにフェイドアウトする。

 画面が変わって、今度は雄大な画像が画面を埋め尽くした。
 何処までも続くような緑豊かな大自然が目の前に広がっている。その中心にはアイコンに似た樹木が何倍の大きさで植えていた。空から降り注ぐを陽光と相まって、神秘的な雰囲気を漂わせていた。
 素直に綺麗な画像だと思って、ちょっと期待してしまう。

 でも、画面の下に有るローディングバーはとてもゆっくり動いていた。
 かなり遅いペースで動いていて、結構焦れったいと思わせる。

「ツイてねぇなぁ……」

 暇つぶしに、と、スマホを手にした。

 パソコンのファンが回る騒音をBGMに、この前、親友から送られたリンクをタップする。

 開いたのは《ランド・オブ・ガーディアンズ》のウェブサイトである。

 深緑と黄金、そして空色を基礎としたデザインだ。
 真上のタイトルと下のメニューが分かり易く、飽きない程度に羅列していて、プロの手際を感じさせる。

 そしてお知らせの上には宣伝文句が大きく書かれていた。

〘全世界のゲーム歴史上最大級の広さ!〙

 ネットゲームをするのは今回が初めてで、歴史上最大級の広さって言っても正直よく分からない。
 でも周りからはよく聞こえるゲームだし、親友からのおススメもあってこうして手に掛けてみた訳だが……。

 現在接続者数:342,081名

 サイトの横にある小さ目のフロートメニューにそう書いてあった。
 342,081。
 三十四万二千八十一。
 つまり、それだけの人たちが今正にこのゲームをプレイしているってことだよね。

 ……ちょっと多すぎかも。

 そんな事を考えている内にパソコンの画面が変わった事に気づく。

 今度は崖の上で少年少女が手を差し翳して遠い所を眺めている構図の絵だった。視線の先にはさっきの画像でも見た世界樹があって、更にその向こうからは朝日が登っていた。
 スクリーンの下にはIDとパスワードを入れる所があった。
 順次にユーザーアカウントを入れてログインする。
 頭の中は悩みで散々だったので、ほぼ無意識にやってしまった。

 直ぐ画面が変わって美形男性の3D姿が自然体で立っていた。
 多分これがキャラクターメイキングっと言うやつだろう。

 そしてキャラクターメイキングを始めようとした時、漸く頭と身体のシンクが合わさって手を止める事が出来た。

 ……また顰めっ面になっているのが分かる。

 一旦マウスから手を離した。
 これ以上考え事をする間に勝手に動いても堪ったものじゃないから。
 だから腕を組んで考えてみた。
 考え直してみた。

 最近色々あって、今の俺は誰かに会うのを極力避けていた。
 外出も控えて連絡は本当に必要な人たちだけに。
 実際この数日間は片手で数える程の人としか会っていない。
 その事で相談に乗ってれた親友は、じゃネット上でなら?とか言って、このゲームをおススメするよと、リンクを送ってくれた。

 でもこの人の多さだ。
 現実の街でこれだけの人集りが有ったら俺は絶対近づかないだろう。
 俺の顔は思った以上に知れ渡っているので、ほぼ間違いなく絡まれる。
 まぁ、ゲームの中は俺じゃなくアバターを動かすから流石に違うはず。
 でも、そうだとしても、自分が誰かと会うとか交流するとか考えると自然と喉から唸り声が出てしまう。 
 話す途中にボロが出てバレるかもしれないし。

 "分かった、もういい加減黙れ。ぶち殺すぞコノヤロー"

 あの時、ずっと黙って話を聞いていた我が親友はとてもいい笑顔でそう言い返した。
 笑ってはいるがあれは本気で言ってると、俺はすぐ解った。
 俺の愚痴を聞いている間にどんどん面倒臭くなったんだろう。

 "全く、女々しい奴だと以前から知っていたがこれ程だったとはね。どんだけメンタル弱いんだよ?良いからさっさとやれ"

 ぶち殺されたくなかった俺はただひたすら頭を上下に動かした。
 って、これ、考え直す必要あったのかよ。

 "あ、それと性別は必ず女にする事。分かった?"

 いや、何でそこまで言われなくちゃならないんだよ……。

 "……分かった?"

 ……はい。

 釈然としない気分だつたが、俺は再びマウスを動かした。
 【性別設定】の中で♀マークをクリックする。 
 すると画面の中心にあったキャラクターが女性に変わった。
 男性の時と同じく物凄い美形だ。

 男の時は気にしていなかったが、こうして見るとかなり凝ったデザインだ。
 外国の某有名人のような童顔で西洋人顔負けのスタイルである。
 その顔立ちは日本人より中国か韓国の美人さんに似ている。
 まるで実際の人間をモデルにしてそのまま3Dにしたように所々が細かい。

 【性別設定】の下には種族を選べられる項目が有った。
 ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ダークエルフ、ブラハン、アスラ、ケモミミ、ビストニアン。
 八つの種族から選べる。
 今はデフォルトのヒューマンになっている。
 後半のはよく分からないけど、前のはファンタジーで有名な素材なので流石の俺も知っている。

 ふとこのゲームのアイコンの絵が頭に浮かんで、そのままエルフ種族を選択した。

 また画面の中のアバターが変わる。
 金髪のストレートで全体的に細い体に成り代わった。頭の輪郭が鋭く顔の彫りも深くなって、より西洋人らしい印象が出ている。
 耳は先っちょが尖ってヒューマンの五倍ぐらい伸びていた。
 服装は白袖の茶色いチュニックと黒い皮のベルト、脛まである白いスキニージーンズ、そして紐で締める緩そうなブーツである。簡素な感じの服だ。
 エルフのデフォルトディザインなのか、頭にはオリーブ葉のかんむりを被っている。
 相変わらず美人姿。

 スクリーンの右側にはこのアバターの色んなパラメータが有った。
 これを操作する事で姿を変えられるらしい。

 背格好や髪型、肌色、顔とか変更出来る。でも、その横にある拡張ボタンを押すと詳細な部分まで操られる事が分かった。
 身体の各部位の大きさ、長さ、太さ等。顔は目、鼻、耳、眉毛の他に更に細かく顔面の表情筋も動かせる。
 少し弄ってみたが、これがまた骨が折れるような作業で、ちょっと間違っただけでさっきの美人さんがヒドイ事になってしまった。
 幸い種族変更で戻せたが。
 そして今度は身体のパラメータを変えてみようとして胸のスライダーを一番右まで動かした。

「夢が広がるな」

 そんなアホな事を考えながらも色々試してみた。

 エルフなのに背を最大限に低くしてドワーフみたいにしたり。
 大きく筋骨隆々できつい目つきの、如何にも戦士みたいなヤバイ感じのアネさんにしたり。
 そのまま小さくして幼児体型で良い笑顔のちょっとガキ大将みたいな活発的子供にしたり。
 背を高く、足も最大限に長く、モデルの如く全体的に細身だが胸とお尻を大きくして、垂れ目の妖艶なお姉さんにしたり。

 半分は遊び感覚に、半分は真面目に、只々真剣に手を動かした。
 まるで何かに取り憑かれたように、自分でも驚く程の勢いでアバターを創り上げた。
 何度も何度も、これじゃない、こうだと顔が大きい、髪型が似合わない、足が長い、おっぱいデカ過ぎるだろう、とか。
 散々悩み、どんどん完璧さを固執するようになる。

 そして、遂に完璧なアバターを完成した。

 スクリーンに映ったのは、それはそれは美しい少女だった。
 白魚しらうおのような手足は華奢で、陶磁器みたいな白い肌は可憐さを醸し出していた。
 膨らみかけの胸と尻はとても可愛い形をしていて、でも、確かに女性特有の柔らかさを保っていた。
 腰と腹は幼さゆえか少し丸まっているが、そこがむしろとてつもなく愛らしいと感じさせる。
 青みを浴びた金色の髪は、毛先にカールが掛かっていて、ツインサイドアップの髪型と合わせると、かなりボリューミーだった。綿菓子のようにふわふわで、とても柔らかいと思わせる。
 頭に被っていたオリーブの冠は葉がデフォルトよりちょっと大きくなっていた。
 エルフの特徴である耳はヒューマンの三倍くらいにしておいて、髪からちょこっと突き出ている程度である。
 高い鼻も小さい口もお人形の様でとても可愛いらしく、長いまつ毛に縁取られた双眸はサファイアの如くキラキラしていた。

 無垢で、触れると壊れそうな儚いエルフの美少女である。
 いや、この位だと幼女と呼ぶべきか。

 最後に名前は……。

 littleでリル、それをちょっと捻ってリルゥ、と。
 ん、可愛くて、如何にも幼女らしい名前だ。

「よし、これで行こう。いやぁ、案外ハマっちゃったなぁ……って、もうこんな時間!?」

 スマホを見ると、もう五時間も経っていた事に気づいた。
 いくら何でもハマり過ぎだろう。
 自分に引いてしまう。

 もう寝る時間なので、俺はゲームを閉じようとする。
 画面の右下にある終了ボタンを押すだけ。
 それだけなのに……。

 俺の視線は未だに画面の中のアバター、リルゥに向いたままだった。

 リルゥは画面越しに、天使のように優しく微笑んでいた。

 この表情を作るのにどれだけ試行錯誤をしたのか。
 そう考えると感慨無量な気持ちになってしまう。

 頑張ったなぁ、俺。
 本当に。

 でも、これでお終いとだと考えると、何だか嫌だな。
 折角完成したのに、このまま閉じるなんて。

 アバターはもう完成したし。
 これ以上弄ると、完全に変わってしまって、今のリルゥじゃなくなってしまう。
 それだけは絶対嫌だ。

 だからアバタ・・・ーはもう触らない。

「……ゲーム、ちょっとだけやってみるか」

 正直今も人と会うのは怖い。
 現実だろうがネットだろうがそれは同じだ。

 でも、今の気持ちを言わせば、俺はそれ以上にこのアバターを、リルゥを動かしてみたい。
 この子で……いや、この子と一緒にゲームがしたい。
 そして自慢したい。
 俺が創ったこの子は最高だと。

 もしかしたら、あいつ親友は俺がこうなる事を知っていたかもしれない。
 伊達に親友呼ばわりしている訳じゃないからな。

 今はそんな親友に感謝の気持ちしかない。

 じゃぁやってみようか。
 俺達の冒険はここから始まるんだ!

〔誠に申し訳ありません。只今緊急メンテナンス中であり、ゲームへの接続が出来ません。23:00〜02:00〕

「……本当、ツイてねぇなぁ」

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